女神様から同情された結果こうなった

回復師

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王都街道編 4・5日目

2-5-4 擬態化?おねだり?

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 皆の待機場所まで戻り、結果報告を行う。
 茜に現物を出して見せてやると、桜たちと何やら話していたようだが、明日の晩にソテーで調理することになったようだ。最初はシンプルに塩ソテーにして、素材本来の肉の旨味だけで味わいたいらしい。


 さて、途中だったハティのステータス確認だ。
 う~む、明らかに変なスキルがある……なんだこれ? スキル名からして怪しいではないか!

 【成長擬態】【睡眠学習】【おねだり】この3つはおかしい。
 特に擬態? おねだり? 怪しすぎだろ?


 【成長擬態】
  ・現在成長している範囲内であれば、成長を擬態化できる
  ・擬態中はその成長度合に適した能力に調整される(身体保護のため)


『ナビー、なんだ? 擬態化とはどういう事だ?』
『……う~~ん、そうですね……例えば、5年後の話をしますね。5年後そのスキルを発動すれば、生後0歳~5歳までの間なら、ハティの任意な成長度合いに擬態できるのです。可愛いヨチヨチ赤ちゃんから、でっかく馬のように育った姿にまで成れます。成長の見せかけを誤魔化すという意味で【成長擬態】とナビーが名付けました』

 意味が分からん!

『でもおかしいだろ? 馬以上のサイズの体がどうやって子犬サイズになれるんだよ? 1t近い質量はどこに消えるんだ? 物理的な話ではなく、幻術で見せているだけで、実際は馬並みに大きいって事か?』

『……異世界的じゃない日本的な物理的思考ですね。マスターらしくありません』
『俺らしくないと言われても……理解できないことは普通受け入れられないだろ?』

『……う~~ん。あ! こう考えてはどうでしょうか? この世界には魔族の中に吸血鬼が居ます。吸血鬼は例のごとく種族特性としてユニークスキルに【蝙蝠変化】と【煙変化】が有ります。ハティのスキルと同じですよね? 10cmぐらいに小さくなった蝙蝠だと消えた体積どこいった? なのですが、そういうものだと誰もこの世界では疑問に思いません』

『吸血鬼居るんだ……確かに、妖怪や吸血鬼などのモンスター系は不思議要素満載だよな。つまり、下手に考えるだけ無駄だと言いたいのか? この世界では普通なのか? 変でも常識なのか?』

『……普通ではないので、ユニークスキルなのです。ハティのそれも勿論ユニークスキルで、ハティのオリジナルです』

『お前が仕込んだんだろ? 【睡眠学習】とかいうスキルで……』
『……そうですが、ハティが望んだことです。ナビーはアドバイスしてあげただけです』

『ハティが望んだ?』
『……マスターたちがいけないのですよ? 『小っちゃいから可愛い』とか、『このままだったら良いのにね』とか、『このまま成長してほしくない』とか毎日沢山の人に言われて、皆の期待を裏切りたくない、成長したくないと思い悩んでナビーに相談してきたのです。成長はどうやってもしちゃうので、ならば擬態化しちゃえと、イメージトレーニングを毎日やらせていたのです。王種に成っても成功するとは限りませんでしたが、ハティの強いイメージがあったので見事にオリジナルスキルを獲得できました』

『あたた、俺たちが言ってた何気ない言葉でハティが悩んでたのか……可哀想な事をしたな』
『……後、大事なことですので気を付けてあげてほしいのが、見た目は幼くなってもそう見せかけているだけですので、基本能力はそのままです。なので、身体保護のために、制限が掛かるものがあります。将来手に入れても【噛み付き】【牙突】【体当たり】等は幼体化した時には発動しません』

『成程……牙が乳歯に変わってしまい発動できなくなるのか。体当たりは小さくてもできるんじゃないか?』
『……できますが、3kgほどしかないのに体当たりをしても効果があまり見込めないでしょ? 当たり負けするのが落ちなので、最初からやらせません。ハティの体を守るためです』

『その【成長擬態】のスキル、俺に使ったら、俺も0~16歳に成れるのか?』
『……ハティ専用スキルなので、できないですね。気になるなら自分で創ってはどうですか?』

『いや、止めておこう……犯罪臭しかしない。5歳になって女風呂とかも良いかもしれないが、そんなエロガキ的なことぐらいしか思いつかない……桜たちにバレたら何言われるか……』

『……子供の姿で潜入捜査とか面白そうですけどね』
『潜入捜査ってなんだよ? 必要性ができたら考えるよ。【睡眠学習】は良いとして、【おねだり】ってなんだ?』

『………………………………お、おねだりです……』
『何を隠している? 【睡眠学習】で俺のハティちゃんに何を仕込んだんだ!?』

 問い質すと、ナビーの奴はハティにいろいろな可愛い仕草のワンコたちの動画を、寝ている間にしつこくリピート再生して学習させていたのだ。

 ナビーのせいで、ハティはこれまで意図せずして自然と可愛い仕草になってしまってたようだ。ハティのあの可愛さが、ナビーに作為的に仕込まれたものだと思うとがっかりだ!

『……それは誤解です! ハティの可愛い仕草は天然です! ナビーはそれをちょっと強力にするのに手を貸したまでです!』

『強力にするね……』

「ハティ! ちょっとおいで。この牛レバーをあげるから、ちょっと【おねだり】スキルを使ってみてくれ」

 ハティは首をキョトンと傾げて斜め下から俺を見上げる。うっ! これだけで既に可愛い!

『ごしゅじんさまに、おねだりするの? うんいいよ』

 何をするのかと思ったら、ハティは【インベントリ】から自分の食事用の皿を取り出して、お座りの姿勢になったかと思った瞬間……一言鳴いた。

「くぅ~~ん」
『ごしゅじんさま~おなかすいた~』 

「はぅっ!」
『ごしゅじんさま?』

 ハティが心配そうにしているのには理由がある。

 俺はその場にへたりこんでいるのだ……ヤバい! 死ぬかと思った! キュン死するかと思った! 何だと! これでレベル1だと! ナビー! これは禁呪だ! 死人が出るぞ! これはイカン! 皿を先に出すところとか、なんてあざといんだ! しかも可愛く上目使いをして、耳まで項垂れた感を演出した後に可愛く鳴いて、お腹すいただと! もし、これでご飯を出してやらない奴がいるならそいつは鬼だ! 動物愛護団体に通報してやる!

『……そんな訳ないでしょ! ぶつぶつと何を言ってるのですか!?』

 俺は鬼じゃないから、ハティに牛レバーと、さっき狩った鳥のレバーを出してあげた。むちゃくちゃ美味しそうに尻尾を振りながら食べている。

「どっちが美味しいんだ?」
『牛さんのほうが美味しいけど、ちょっとコリコリして鳥さんも美味しい』

 歯応えがいいのなら、ハツとか砂肝も良いかもな……今度あげよう。

『ナビー、結局今のハティはどれくらいの大きさなんだ?』
『……今のままです。未だ変わらない大きさです。ハティの兄たちよりかなり小さいですね。でも成長してそのうち馬並みになるでしょう』

『大きくなったら騎乗できるかな?』
『……人間2、3人乗せても、乗ってないのと大差ないでしょう』


 口の周りは血染めだが、可愛くレバーをアムアムさせているハティに声をかける。

「ハティ、大きくなったら俺を乗せて走ってくれるか?」

「ミャン!」
『うん! ごしゅじんさまのせて走る~!』

 えへへ、いい子だ。可愛すぎて、俺はもうメロメロだ。



 ハティと戯れていたら、高畑先生がやってきた。

「小鳥遊君、お疲れ様でした。三田村君に聞いたけど大変だったそうね? 彼、10mほど何回か蹴り飛ばされたって言ってたわ……」

「ええ、ちょっと厄介なやつでしたね。さすが危険な高級食材って感じですね。明日の夕飯が楽しみです」

「それで、今からどうするの? 今日はここまでにする?」
「日暮れまであと3時間ほどあるので、少しでも移動しませんか? 移動しておけば、明日の午前中には街道に出られますよ?」

「そうね、じゃあ皆に出発の準備をさせるわね。15分で支度させるので、それまでくつろいでて」

 どうやらハティと戯れていたのを見られていたようだ。邪魔したとか思ったのかな?


 3時間の移動後、野営の拠点を設置し、お風呂を出して先に男子に提供する。
 昨晩、戦闘班は入禁だったし、今日は蹴り転がされて砂まみれだった為もあって、皆ワイワイと楽しそうだ。


 俺はその間に優ちゃんを呼んで、学園に同行するか尋ねる。

「連れて行ってくれるなら行きたいです! 1度友人の顔も見ておきたいですし」
「そか、言い出しっぺの優ちゃん1人だけで悪いのだけど、じゃあ準備してくれるかな? カレーはもう出来ているのだよね?」

「はい。龍馬先輩がダチョウを狩りに行ったときに料理部全員で夕飯分も仕込んでいます」

 さすが茜が仕切っているだけあって、もう夕飯分も出来ているのか。
 でも、あれはダチョウじゃないけどね……。

 優を誘ったのには理由がある……これから学園に戻って会話しないといけないかと思うと憂鬱なのだ。俺は基本コミュニケーションが好きじゃない……というより苦手なのだ。なにせずっと皆に避けられていたせいもあって、これまで会話なんかあまりしたことがないのだ。成り行きで仕方なしにリーダー的扱いをされているが、本来ガラじゃない。

 コミュニケーションが得意な優ちゃんを連れて行って、会話は任せる気でいる。

 最初連れて行くのは美弥ちゃんにしようかと思ったが、未だに校長風を吹かしている狸に何か言われる可能性があるので、トラブル回避のため優ちゃんを選んだのだ。


 少し私用もあるので、ハティを上着の中に入れて、胸元から顔を出させて一緒に連れて行く。王種に成ったという報告もかねて、一度ハティを白狼の仲間に会わせてやろうと思ったのだ。王都まで行ったら、そうそうあの場所に行くことはなくなる。ハティにとっては故郷の地だ。

 仲間に会わせて、ハティの身の振り方も一度聞いておこうと思う。雅を連れて行くのは安全が確認されてからだ。同種のハティが居ても、襲ってこないとは限らないからね。
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