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王都街道編 1~3日目

2-1-2 露天風呂?桃源郷?

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 大影先輩に呼び出されて、優ちゃんがログハウスから出てきたのだが、優ちゃんの方からはこっちの情報は漏らしてないようだ。ここは庇ってあげないといけないな。

「優、これどういう事? あなた、こんな凄いモノがあるとか昨日言ってなかったじゃない……」
「これを俺がお披露目したの昨晩ですしね。完成したのが一昨日です。それまでは皆と同じようにテントのつもりでしたので、テントの準備もしています。それに高校生が中学生を呼び出して詰問とか、虐めですか?」

「違うわよ! 優とは元々近所の幼馴染なの。ここに私が進学したから優も後を追ってきたくらい仲が良いのよ」

 優ちゃんを見たら、うんと頷いているので本当の事なのだろう。

「そうですか。でもだからといって何でも聞いていいとは限らないでしょう?」
「だって、なんかこんなの自分たちだけズルいじゃない……」


 ログハウスを指さしてズルいと言っているが、大影先輩も言いがかりだと分かっているのか、言葉が尻すぼみになっている。

「ズルいと言われても素人の俺が1人で作ったものなので、大工のようにそうポンポンと皆の分までできませんよ。木材は山に腐るほどあったのですから、文句を言う前にあなたも造れば良かっただけでしょ? あなたが、体育館でのんびりくつろいでる間に俺は木を伐採して建築したのですから、文句言われる筋合いはないです」

 本当はポンポン量産できるけどね。
 むしろ材料さえあれば1度完成させたものは魔力は使うが数秒で建造できる。
 でも、そう何でもかんでも与えてはあげない。これには秘密が詰まっている。それに材料の金属部品や魔石は貴重なので、赤の他人に提供する気はない。

「そうだろうけど……釈然としないのよ」
「折角自分たちのために休みなしで苦労して作ったのに、皆と同じようにテントにしろとか言わないですよね?」

「そうは言わないけど……なんかズルい!」

 癇癪を起こした子供のように、今にも『キーッ!』とか言って叫びだしそうだ。

「もういいわよ……でもこの中見せてよ!」
「それはできません……いろいろ商業権とかの秘密が沢山詰まっていますので」

「商業権? 何よそれ?」
「この道中で使ったトイレもですが、この世界には無い俺のオリジナル商品です。売り出すと莫大な資金源になるのです。アイデアを盗まれる可能性があるのに、そうそう部外者を入れるような愚かな事はしませんよ。企業秘密というヤツです」

「…………もういいわ! 本音を言うわね! お風呂あるんでしょ!? 言いなさいよ! 前に女子寮に作ったようなやつがあるのでしょ!? 体育館の皆の髪と、あなたたち料理部の娘の髪が全然違うのよ! バサッとしていないのはおかしいわ! 【クリーン】だけじゃ、絶対バサバサになるもの!」

 ヤバいな……かなりの数の女子が集まってきた。
 ど真ん中にこんな建物がいきなり現れたら気になるのは当然だけど……お風呂は言わないでほしかったな。

 お風呂!? とかの声がちらほら上がってきている。
 元女子寮の人たちは何度かB棟に作ったお風呂に招待してあげていたので、この中には間違いなく風呂があると思っているだろうな。

 桜と美弥ちゃん先生も中から出てきて、この惨状を見てため息をついている。

「龍馬君どうするの? これ暴動が起きるレベルでヤバいわよ? 女子のお風呂事情は切実なの。【クリーン】だけじゃ髪がバサついちゃうからね」

 桜の発言で更にマズイ事になった……桜、なぜそっちの味方をする!

 皆、桜と美弥ちゃん先生のしっとり艶々の髪を見てしまったのだ。
 そして自分たちのやや傷んでしまった、バサバサにごわついた感の髪を触ってこう言うのだ。

「「「小鳥遊君! お風呂入りたい!」」」

 既に俺の周りには40人ほどが集まってきていて、更に増えそうだ。

 う~困った……困ったときのナビー様だ!

『ナビー、すまない。何とかならないか?』
『……マスターは甘々ですね。う~ん、明日お花摘みをするのを条件にして、この際仮設風呂を造りますか? 必要なのはマスターの魔力ですけど……』

『お花摘み? トイレの事?』
『……何ヘンタイ的な事を言ってるのですか! 本当の花摘みです! コースを少し外れますが、近くに山から流れてきてる支流の小川があるのです。その周辺にこの寒い時期にだけ咲く花が数種類群生している場所があるので、そこでその花を摘んでほしいのです』

『その花は何かの役に立つんだろうけど、何に使うんだ?』
『……花と茎の部分に石鹸の成分を含んでいます。その花だけじゃ足りないのですが、春と夏にまたどこかで採取すれば、マスターが使っているシャンプーやリンスと同等以上のモノができます。今あるものはいずれは無くなるので、早めに現地にある物から成分を抽出して、作っておいた方が良いと思います』

『俺の使ってるものは結構いい品だがそれと同程度か……うんいいね。じゃあ、そこに明日案内してくれ』
『……了解です。それと今回皆にはナビーが作ったシャンプーを使うように指示を出してください。皆の所持してるやつは匂いがきつ過ぎます。魔獣ホイホイじゃないのですから、無臭に近いものを使ってもらってください。無臭ですが以前マスターの指示で回復剤を少し混ぜてあるので、傷んだ髪が回復すると伝えれば、「このお気に入りじゃないとイヤ」とかいう我が儘な娘も居なくなるでしょう』

『俺もそうだけど、シャンプーって、皆、拘りがあるからね』



 仕方ない、風呂を作ってやりますかね。

「風呂を……仮設風呂を造りますので、そんなに睨まないでください」

「「「やったー!」」」

 お姉様たち……そんなにお風呂に入りたかったの?

「でも条件があります。明日、途中で花を摘んでもらいます。その花は石鹸成分が少し含まれているようで、それだけではダメなのですが、春と夏に咲く花とかを更に数種類集めれば、シャンプーとかリンスができるそうです。それと今日は全員俺のオリジナルシャンプーを使ってもらいます。回復剤を少量混ぜていますので、傷んだ髪も桜のように艶々になるやつです。草原に出れば鼻が利くオオカミやハイエナ等の危険な魔獣も多いので、匂いの無いものを必ず使ってください。もし違う匂いがする物を使っている人を発見したら置いていきますからね。ハティを巡回に出しますのでごまかしは利きませんよ!」

「「「回復シャンプーを使います!」」」

 回復シャンプーとは言ってない……回復剤が少し入ってるシャンプーだ!


 テント設営場所から30mほど離れた場所に、縦5m・横10m・深さ65cmの穴を空間指定で土をごっそりくりぬいてインベントリ内に消し去る。そのままお湯を張っても泥水にしかならないので、くりぬいた後の土の表面を大理石のようにツルツルに錬成する。これで水が土に浸透する事もなくなるし、大理石のような表面なので水が濁る事もない。

『……マスター、それだとツルツルすぎて必ず転倒者が出て怪我人がでます』
『あ、そうか……少し溝を入れてギザギザさせておけばいいかな?』

『……それで良いかと思います。少し強化魔法の付与を付けた方が良いかも知れないですね』

 ムッ! 土をインベントリに放り込むだけなら魔力はそれほど要らなかったのに、錬成と強化の付与でごっそり魔力を持っていかれた。

「魔力が……皆さん水系の魔法持ちは手伝ってください。魔力が足らなくなりそうです……」

 声をかけると10人ほどであっという間に水を溜めてくれた。
 範囲魔法の【ファイアウォール】を中心に放ち、風魔法で中の水を掻き混ぜ手を入れて温度を見る。
 冬なので、少し熱めにして火を消す。大体40~43℃ぐらいだと思う。広くした分冷めるのは早いだろうから、どんどん入ってもらおうか。

「かなりの人数で入れると思いますが、30人ほどに分散してください。お湯は都度入れ替えますので、先が良いとか下らない事で喧嘩しなくても綺麗な状態の湯を提供します。高畑先生の指示に従って順次入ってください。温度が熱すぎたり温くなったら呼んでもらえれば都度調整します」

 魔力回復剤を飲みながら声をかけてあげると、雅が素っ裸になって真っ先に飛び込んだ。

「こら雅! お前はなんで入ってるんだ! ログハウスの中で入れるだろう!」
「ん! 一番風呂! 広くて星が見れて凄く良い! 露天風呂最高!」

 まぁ、お子ちゃまなところも可愛いからいいか。

「じゃあ、俺は離れた所で控えているから、何かあったら呼んでください。シャンプーは青、リンスは赤、ボディーソープは緑の容器です。ここに置いておきますので必ずこれを使ってください。約束ですよ」


 俺が離れた瞬間、ワイワイやり始めた。どうやら学年が若い順に入るように決まったみたいだ。
 自分たちも早く入りたいだろうに、後輩に先に入るのを譲ってあげたのは好感が持てる。



「小鳥遊君、中等部と高等部1年の娘たちは出たわ。お湯、本当に張り替えてもらえるの?」
「ええ、さっき見たように時間的にはそれほどかからないです。使うのは俺の魔力だけですし、皆も綺麗なお湯で入りたいでしょう?」

「それはそうよ。ありがとう。じゃあ、入れ替えお願い」


 水を空間指定で消し去って、一度【クリーン】を掛ける。
 後は同じようにお湯を張るだけだ。



 第二陣の高等部2年の人たちが入ってる時に事件が起こった。

 急に大勢の『キャッー!!』という声が聞こえてきたのだ。
 俺は慌てて駆けつけたのだが……桃源郷がそこにはあった!

 お姉様方、素敵なものをお持ちです! 素晴らしいです! 眼福です!
 だが、幸せなのはここまでだった。

「あなた、何でここにいるの?」

 大影先輩だ……腰に手を当て俺を睨んでいる。
 見るのは2度目だが、やはり良いモノをお持ちだ! 喋らなければかなり良い!

「えーと、沢山の悲鳴が聞こえたのですが? それと、俺が居るのに隠さないのですね?」
「あなたには一度見られてるし、隠すとなんか負けた気がするから嫌! てか、ちょっとはそっちが遠慮して目を逸らしなさいよ!」

「そんな勿体ない事、俺からできるわけがない!」

 大影先輩はすーっと指を湯船の方に差した。

「あ、ハティ……まさか、さっきのは悲鳴じゃなくてこいつのせい?」

 ハティが広い湯船で犬掻きしながら泳いでいた……超可愛い!
 さっきのは悲鳴じゃなく、ハティの可愛さに上がった歓声だったようだ。

 2年生に俺好みの人も居るのだ……追い出されるまでしっかり見ておこう!
 だがそれがまずかった……。

「何があった!」

 俺と同じように悲鳴と勘違いした格技場の野郎どもが、剣を抜いて全員駆けつけて来てしまったのだ。

「「「キャッー!!」」」

 明らかにハティの時とは違うマジモノの悲鳴だ。



 速攻で他の女子たちにお風呂場から強制連行されて、今、ログハウス前で男子全員正座をさせられている。
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