女神様から同情された結果こうなった

回復師

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学園ロワイヤル編 3日目

1-3-1 夜這い?勇者面談?

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 俺は今晩から1人になって、寂しさと同時に悶々としていた。
 確かに性欲は上がっているようだ。

 疲れていたのですぐに寝ようとしたのだが、1人になった事で沙織ちゃんや美加ちゃんの裸やマッサージした時の2人の肌の柔らかさを思い出し、悶々としてなかなか寝付けないでいるのだ。

 ひょっとしたら個人香の判別の時に、沙織ちゃんの匂いを少しだが嗅いじゃったせいもあるのかもしれない。
 このムラムラした欲情は、確かに性欲3倍くらいはあるのかもしれないな……。

 こうなるとパソコン内の俺の大事なコレクションを消してしまったことが悔やまれる。かといってナビーにお願いするのは恥ずかし過ぎて頼めない。パソコン内には唯一井口さんの例の動画はあるのだが、それをおかずにする気はない。あんなもの見たら落ち込んで泣きそうだ……いや、間違いなく泣くだろう。自殺を考えたほどだ。あれは俺のトラウマになっている。



 俺はごめんなさいと思いつつも美加ちゃんと沙織ちゃんを思い出し、おかずにして処理してしまった。明日彼女たちの顔を見るのが恥ずかしいが、俺の今持ってる記憶では2人が1番の御馳走なのだ。うん、これは仕方ないのだ。


 スッキリした俺は疲れもあって熟睡していたのだが、深夜2時ごろに誰かやってきて目が覚めた。
 MAPで確認したらフィリアのようだ……俺は寝たふりをして様子を見ることにした。

 フィリアは何も言わず俺の側にやって来て俺を見つめている。10秒ほど見つめていたのだが、そのまま静かに俺の布団に入ってきた。起こさないように気を付けて、ソーッと忍び込むように入ってきたのだ。

 フィリアは一体何を考えているのだろう? うーん、解らん。夜這いに来たわけじゃないだろうし、目的は何だ? 30秒ほどでなんとなく理由が分かった。フィリアがシクシク声を殺して泣き始めたのだ。昼間は気丈に振るまっていたが、精神的にかなり参っているのだろう。

 俺は小さなフィリアを引き寄せて腕の中に収めて頭を優しく撫でてあげた。
 一瞬ビクッと緊張したフィリアだが、そっと俺の胸に顔をうずめ抱き付いてきた。

「起きておったのか?」
「人が来たら起きるようにしてあったからね。フィリア、辛くて寝れないんだろ? 泣きたい時は泣かないと駄目だぞ。あの時、俺はフィリアに胸を借りて散々泣いて救われたからな。今度は俺が胸を貸してやる。今更お互いに恥ずかしがる仲じゃないしね」

「すまぬな、ありがとう」

 フィリアはそう言って30分ほど抑さえていた自分の感情を俺にぶつけてきた。俺が思っていた以上にフィリアの心はズタズタだった。皆に対しての自責の念で、小さなフィリアは今にも押し潰されそうだ。

 死んでいった者たちへ、酷い目に遭った者たちへ、今も尚囚われて、コロニーで甚振られている者たちへ、引き離されてしまった地球の家族たちへ、後悔と謝罪の気持ちは尽きる事がないようだ。

 ずっと頭を撫でてあげていたら、泣き疲れて眠ったようだ。


『……マスター、どうやらマスターにも強いリラックス効果と睡眠導入効果があるようですね。暫く夜間はフィリア様とご一緒に寝てあげてください』

『そうだな、そうするよ。やはりフィリアにも睡眠導入効果があるようだ。俺も眠くなってきた……』

『……はい、おやすみなさいマスター』
『ああ、おやすみナビー』




 バタバタバタッ! ガラガラッ―――

 早朝5時にけたたましい足音で目覚めた。音の主は菜奈である。
 菜奈は俺の布団を一気に捲って、射殺すようなとても冷たい眼差しを俺に向けてボソッとつぶやいた。

「フィリアがどうしてここにいるのかなぁ……」

 他の女子たちもやって来たが、まだフィリアは熟睡中だ。布団を剥がれ寒くなったのか、さらに俺に抱き付いて密着度が上がっている。やって来た桜も俺に問いかける。

「なんで龍馬君にフィリアちゃんが抱き付いて寝ているのかな? 『男女七歳にして席を同じゅうせず』ってことわざ知っている? 知っているはずだよね? 席って椅子じゃないからね。先に言っておくね、とぼけてもダメだからね?」

 次々やって来た女子から冷たい視線を浴びる。だが、ここで怯むと負けだ……なにせ今晩もフィリアと一緒に寝ないといけないのだ。俺の天然湯たんぽの為にここが踏ん張りどころだ。

「ことわざ自体は知っているが、そんな中国の人が言った言葉、俺には知った事じゃない。それに俺はまだこっちの世界でも未成年だし、逆にフィリアは実年齢1847歳のばーちゃんだ。何の問題もない」

「ん! 1847歳……のじゃロリババー!」
「フィリア恐るべし! のじゃ属性+ロリババーとは……兄様の貞操の危機です!」

 流石に周りの喧騒でフィリアも目覚めたようだ。

「ふぁーっ、よく寝た。皆、おはようなのじゃ!」

 大きなあくびと、めっちゃ元気な挨拶だった……よく眠れたようで良かった。

「フィリア! なぜ兄様と寝ているのですか!」
「ん? 昨晩は傷心の妾を龍馬がずっと頭を優しく撫でてくれて、寝付くまであやしてくれたのじゃ」

 うわーどこまでも正直なフィリア様でした……恥ずかしげも邪念もなく言われたら、流石の菜奈も責めようがないみたいだ。

「うーっ、ずるいです! フィリアだけそんな羨ましいイベントを2日続けてなんて! 菜奈も頭ナデナデして一緒に寝てほしいです!」

 我が駄妹の本心は可愛いながらも下らない理由でした。

「はぁ~、1つ皆に聞きたい。ちゃんと眠れたか? いろいろ先行きの不安や恐怖で眠れない娘とかいないか? 我慢してると後で病気になるぞ? 未来や雅や菜奈には強い睡眠導入効果があるから、寝れない子は誘って一緒に寝てもらうといい。20分もしないうちに朝までぐっすり寝られるからね。後で全員に個人香の効能をまとめてメールを送るから利用するといい」

 すぐに沙希ちゃんが手をあげてフィリアに聞いてきた。

「私、昨日は怖くてほとんど寝ていません。目をつむったら皆の悲鳴が聞こえる気がするの……今晩フィリア、私と一緒に寝てくれる?」 

 沙希ちゃんはフィリアを引っ叩いた子だ……どういう意図があるんだ? 解らん……。

『ナビー! 沙希ちゃんが何を考えているか解るか?』

『……おはようございますマスター。彼女は傷心と言ったフィリア様に申し訳なさを感じているようです。少しでも仲直りをしてフィリア様の心労を無くしたいと考えているようですね』

『悪意どころか、とても優しい良い子じゃないか!』
『……はい、オークを殺すのも躊躇うほどの優しい子です』

「沙希よ……妾と一緒に寝てくれるのか? 妾の事が嫌いではないのか?」
「嫌ってないよ! あの時は自分でも分からないうちに引っ叩いちゃってたの、本当にごめんなさい」

「沙希が謝る事は無いのじゃ、すべて妾の責任じゃからの」
「じゃあ、私と今晩は寝てくれる?」

「ふむ、妾で良ければこちらからお願いする」

 どうやら今晩は、俺の天然湯たんぽを沙希ちゃんに取られてしまったみたいだ。
 沙希ちゃんの個人香も癒し系で、睡眠導入効果があるようなのでフィリアの事を今晩は任せようと思う。

「兄様! 菜奈も昨晩は怖くて眠れなかったので今晩は兄様と――」
「嘘吐きな妹は却下だ!」


 朝っぱらから一騒動あったが、美味しい朝食も頂き、今日の予定を話し合った。


「じゃあ、今日の午後からの遺体の片付けは、美弥ちゃん・桜・茜・綾ちゃん・菜奈でよろしく頼むね」
「先生頑張ってくるね」

 この中じゃ1番心配なのが先生なんだけどな……中庭で死体を食べてるオークを見た時、先生だけ我慢できずに吐いていたから凄く心配だ。

「龍馬君は今日は何する予定なの?」

「俺はちょっと周辺で雑魚を狩ってレベル上げをしようと思う。そろそろオークもなにかアクションを起こしそうな気もするし、何かあったらすぐ桜たちを援護できるように周辺で警戒しているよ」

「ありがとう。龍馬君が近くにいると思うと随分気が楽だわ。男子の勧誘がしつこかったらちょっと暴れるかもしれないけど、極力龍馬君は来なくていいからね。私たちだけで何とかするので、気にかけていてくれるだけでいいから」

 俺は皆に災害用倉庫にあった介護用のマスクと、手袋と軍手を箱ごと渡した。

「介護用手袋は2枚重ねで使うように。血液や体液が付いたら、上の1枚をすぐに脱ぎ捨てるようにすれば感染症も防げるので必ず装着して作業するように。マスクとゴム手袋は絶対だが、軍手は各自の判断でするといい。軍手に血液が付着したまま作業するのは絶対禁止だぞ。2日経ってどんな感染症があるか分からないので細心の注意を払うように。ケチケチして汚れたままの手袋で作業するんじゃないぞ。多めに渡しておくから女子寮組にも渡してあげてくれ」


 昼食後、13時より中庭集合になったようで、俺はこっそり上から覗いたのだが、各拠点から5人ちゃんと出してきた。現代人はやはり遺体の放置の危険性は十分知っているから、どこも配慮したようだ。

 男子寮組に佐竹たちの姿は見えなかった。鑑識では派遣された5人は皆Lv1~Lv3までしかない。
 帯剣はしてるが、もしオークが今攻めてきたら中庭にいるメンバーが彼らを守る必要がある。
 こんな戦力外の者を寄こして……つくづく頭に来るやつらだ。


 俺がイライラしながら中庭を見ているとフィリアがやってきた。

「龍馬よ、妾に勇者に会う許可をくれぬか?」
「柳生さんに会いたいのか? 会ってどうする気だ?」

「彼女もその気になればキングのコロニーを落とせるはずじゃ。じゃが彼女もなにも行動を起こしておらぬ。食堂も龍馬の方が先に動いて助けたくらいじゃ。ちと気になってのう……一度会っておきたいのじゃ」

「もし彼女にパーティーに誘われたらどうする?」
「龍馬はどうしたらいいと思う?」

「俺は元々勇者じゃないからな。フィリアが正当な勇者の方と同行したいと言うなら仕方ないと思っている」
「ふむ、そうじゃな……」

 少し寂しげな顔をして俯いたフィリアを見て、自分が腹立たしかった。

「いや……やっぱフィリアは俺と居ろ! 柳生先輩に連絡はしてやるし、会うのも構わないが、フィリアは俺と居るのが1番良い筈だ」

「創主様の御意志を尊重するのじゃな?」
「そんな他人の意思はどうでもいい。俺がフィリアと居たいんだ」

 フィリアは俺の素直な言葉に顔を赤らめ、嬉し恥ずかしげに俯いた。

 正当な勇者とか言って自分の気持ちをごまかすところだった。俺はこっちの世界ではもう自分をごまかさないと決めたのに、変に意地を張るとこだった。俺の本心はフィリアと居たいというのが本音だ。守るなら俺が守りたい。俺の心を救ってくれた優しい女神に少しでも恩返しがしたい……これが本心だ。


 中庭に柳生先輩の姿はない。格技場での最大戦力はおそらく勇者である彼女だろう。フィリアは柳生先輩の情報を俺にはくれない。同じように柳生先輩に俺の情報を漏らす事もないだろう。その辺は流石女神と言うべきか、信用度は半端ない。

 俺は柳生先輩に【クリスタルプレート】を使ってコールする。

『柳生美咲さんですか? 小鳥遊龍馬という者ですが、少し話したい事があります。お時間貰えませんか?』

『たかなしりょうま? 聞いたことのない名前ですが、どういったご用件ですか?』

『あ、旧姓白石龍馬といいます。人の居ないとこで話したい事があります。女神フィリアについてと言えばあなたになら通じると思いますが……』

『なぜ君がフィリア様の名を知っているの!』
『ちょっと声が大きいですよ! あなたの周りの人たち驚いてませんか?』

『どういう事です? 白石君と言えばちょっと前に……その全裸で廊下を……うー……』
『言い難い事を言わなくて結構です! その白石龍馬で合っていますが、本名は小鳥遊龍馬です。以後そう呼んでください』

『……その小鳥遊君が、どうしてフィリア様の事を知っているのです?』
『皆の前で話せる事ではないので、1人で来てもらえませんか? フィリアがあなたに会いたいそうなのです。どこかでこれから待ち合わせしたいのですが、良いでしょうか?』

『龍馬よ、割り込んですまぬが、妾に話させてくれぬか? 美咲、すまぬが妾に少し話す時間をくれぬかのう?』

『そのしゃべり方は本人ですか? 地上世界に来られているのでしょうか?』
『ふむ、詳しくは会って話したいのじゃが、これから少し時間をもらえぬか?』

『ハイ! どこに行けば宜しいですか?』
『妾はここに詳しくない故、龍馬に任せる事にするが構わぬかの?』

『フィリア様の御意志に従います』
『じゃあ、柳生先輩、これから裏山を少し登った辺りにきてもらえますか? それと女神の存在は内密に願います』

『解りました。彼女の事を言えない理由は私も理解しているつもりです。これから直ぐに向かうと伝えてください』



 フィリアを連れて、今から勇者である柳生美咲さんに会う事になった。
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