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学園ロワイヤル編 1日目
1-1-4 現状把握?説明回?
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オークを先に見せたのが効いたのか、全員時間までに戻ってきてくれた。
「兄様、皆、帰ってきましたよ」
菜奈を確保できて少し落ち着いた俺は気になってた事を聞くことにした。
「なんで、高等部の城崎さんがここに居るんだ? 横のその娘も高等部の1年だよね?」
そう、高等部のジャージを着た者が2名混じっているのだ。
この学園は中高一貫の私立の進学校なのだが、ジャージの色で学年が分かるようになっている。
「城崎先輩は去年まで料理部の部長だったのですよ、菜奈のお兄さん。今日は私がお願いして中等部に竹崎先輩と指導に来てくれたのです。竹崎先輩は副部長だった人です」
答えてくれたのは現料理部部長の長谷川綾ちゃん。菜奈を料理部に誘ってくれた菜奈のクラスメートだ。菜奈を通して何度か会った事があるし、菜奈と一緒に遊んでいるMMOにも時々やってきて俺とも遊んだりもしている。ハキハキとした元気な可愛い女の子だ。
いつもは『龍馬先輩』と言っているのに、今日は皆の警戒を減らそうと『菜奈のお兄さん』と呼んでくれたようだ。
実は高等部の者が居ることが気になったというより、城崎さんの事が気になったという方が俺の本音だ。
「兄様、城崎先輩の事、知っていたのですね?」
「クラスが違うので名前しか知らない。話した事もないし、殆ど面識もない。ただ学年1番というより、学園1番の美少女って言われている人だからね。男子で彼女の名前を知らない奴は居ないんじゃないか?」
「白石君、そんな事よりさっきのオークみたいなの何? 時間が無いってのも言ってたよね。手品のように物を消していたのも説明してほしいわ」
城崎さんは俺の学園1の美少女発言を『そんな事』で片付けてしまった。
そこから話を繋げたかったのだが、あっさりスルーされた形だ。
時間も無い事だし、本題から入るか……。
「そうだね、時間もあまりない。何から説明したものか……」
「兄様、さっきのはオークで間違いないんだよね? 先にそこだけ確認させてください」
「そうだよ、あれはオークで間違いない。俺たちはこっちの世界の女神様のミスで学園ごと異世界に召喚されてしまったんだ」
殆どの者がポカーンとした顔をしている。菜奈と城崎さんは思案中って感じだ。
「よし、順序立てて説明するね。その前に2つの組に分かれてもらう。MMOやRPG、異世界もののラノベが好きな人は俺の方に来てくれるかな。勿論菜奈はこっちだ」
「綾もこっちでしょ!」
菜奈に呼ばれて綾ちゃんもこっちに来た。他にも3名がこっち側に自主的に移動してきた。
「城崎さんもこっち側じゃないのかな?」
「え? し、白石君……なんでそう思うの?」
不自然にキョドッている。オタク系と思われるのが嫌なのかな?
「今後の計画や話を進めていく上で大事な事なんだ。命が掛かっている。隠れオタクとか思われたくないとかそんな程度の低い自尊心なら捨ててほしい。アレを見ただけでオークって判断できるだけの知識はあるんだろ?」
「そうね……ごめんなさい。ちょっと後輩たちの前だったので、恥ずかしかったてのもあるわ」
「他にも居ないか? 戦闘時の班分けなんかに関わる事だ。後で私もって言ってきても対応しないよ?」
小さな女の子が顔を赤らめこっちに来た。この子、小学生みたいだな……中1でも小さくないか。
「じゃあ、順序立てて話すね。まずここまでの間、威圧的にしゃべってごめん。中学生の女の子からすれば高校生の男子が命令口調で喋ったら怖かったかもしれない。いろいろ気遣いができてないだろうけど、安全確保ができるまで俺も余裕がないんだ。はっきり言ってまだ安全じゃない。どういう事かそれを今から説明するね。質問は最後にまとめて受け付けるから、先ずはこっちの話を聞いてほしい」
状況を理解している者がいないため、皆、すんなり俺の話を大人しく聞いてくれる。
混乱して、騒がれてもおかしくない状況なので、非常に有り難い。
「20分ほど前にあった地震なんだけど、あれは普通の地震じゃなく、この世界に学園ごと召喚転移された時の余波なんだ。この停電も送電線から断線されたのでもう回復しない。今、点いている災害時用の非常灯のバッテリーが無くなったら夜は闇夜になるはずだ。それから、転移の事は証明もできる。気付いた人もいるだろうけど、本当なら夕刻でもう日が落ちて暗くなってるはずだけど、外はまだお昼のように明るい。裏の山も本来だと山頂まで直ぐなはずだけど、今は樹海のような森林が見える。海が見えてた方は広大な草原が地平線まで広がっている」
皆、真剣に聞いてくれている。急に昼のように明るくなったのだ。バカじゃなければ何かおかしいという事ぐらいは感じるはずだ。
「それで、なんでこの世界に召喚されたかなんだけど、はっきりいうとこの世界の主神の女神様のミスらしい。本当はある1人の勇者になる人物を召喚する予定だったんだって―――
「ひょっとして、その勇者は2年の柳生美咲先輩?」
話の途中で城崎さんが割って話しかけてきた。
「城崎さん、正解ですが、質問は最後にね。それと余談ですが、勇者候補の柳生さんが生き残れるかどうかは女神様のミスのせいで現在不明だそうです」
「あ、ごめんなさい。続けてください」
城崎さんか……あれだけの話で柳生先輩が勇者と判断できるとは、やっぱ頭の回転が良いんだろうな。
「女神のミスで学園ごと異世界に来ちゃったわけだけど、最悪な事に転移された場所が大規模なオークやゴブリンのコロニーのすぐ側だそうだ……この意味が解りますか? 菜奈、恥ずかしがらずに答えてみろ」
「兄様が態々MMOを知っている組と知らない組で分けたのはそういう事ですか。大体のゲームやラノベの小説的設定では、オークやゴブリンは人を襲います。しかも食肉として人を食べるのですよね? 最悪なのは女の人を犯して子供を産ませようとする習性ですか?」
「そうだ。今からそいつらが500体ぐらいの規模で襲ってくる。総数で言えば5000体ほどがこの近辺にいるそうだ。しかも向こうは武器を持っている」
「兄様、オークって強いのですか? ゲームじゃ初期に出てくる弱い魔獣ですよね?」
「さっき見たオークって弱そうに見えたか? オークの強さは一般の成人男性が武器を持って3人で何とか勝てるかどうからしい。ゴブリンは成人男性なら武器持ちでタイマンでなら普通は勝てるそうだ。だが学園の者は皆、素手だ。とても勝てるはずがない。今から皆にこの事を忠告に行っても間に合わないし、すぐ信じる奴もいないだろう。女神様の予想ではこの学園の人間は最終的に1割残れれば良い方だと予想している」
「白石君の言い方だと、そのミスした女神に聞いてきたみたいなように聞こえるのだけど?」
「うん。実際に会って聞いてきたんだ。タイミング的に丁度いいね。じゃあ、次になぜ俺がいろいろ知っているかについて説明するね」
「待って兄様! 未来ちゃんが殺されちゃう!」
未来ちゃんは寮で菜奈と同室の娘の名前だ。
この学園は中高共に全寮制で、1室2名となっている。
「菜奈すまない。未来ちゃんには俺も何回か会ってるし、菜奈ととても仲が良いのは知っているけど……諦めてくれ。女子寮まで走って行って知らせる時間はもう無いんだ……そんな事をしていたら途中で俺も襲われて死んでしまう……」
「そんな……あ! 夕方お茶会するって言ってた! まだ茶道室にいるかもしれません!」
MAPを見てみると確かに3Fの茶道室に3名人が居る。
「菜奈、茶道部員って何名居るんだ?」
「未来ちゃんが7名って言ってた」
「今、3名茶道室に人が居るようだけど、それが未来ちゃんかどうかは分からない。確率で言えば半分以下だ。でも居るのを分かっていてほっとくのも可哀想なので、ちょっと行って3人を連れてくる。同じこの棟の中だし、それくらいの時間はあるだろう。でも未来ちゃんがその中に居なかった場合は諦めてくれ」
菜奈は泣きそうな顔をしているが、その条件で了承してくれた。
「他の皆も助けたい人はいるだろうけど、悪いが諦めてほしい。どうしても諦めきれず、助けに向かうと言うなら、気持ちは解るので俺は止めない。けど、ここの事は誰にも言わないでほしい。理由を説明する時間もないので、できれば皆ここに残って待っていてほしい。どうしても出て行くならそれなりの覚悟をして、もうここには戻ってこないでくれ。匂いでオークを引き連れて帰ってきて全滅とか、真っ平御免だからね。菜奈、俺はついでに匂い対策もしてくるから戻るのはぎりぎりになるかも知れない。俺の帰りが遅くてもここから絶対出るんじゃないぞ」
「白石君、匂い対策って何するの?」
「あいつらは豚並みに鼻が利くそうなんだ。効果があるかどうか分からないけど、ここの場所が匂いで追尾できないように窓はある程度開けて、刺激臭の強いハイターやコショウとかタバスコなんかを1階部分に振り撒いてこようかと考えている。この階だけでも皆で静かに窓を開けておいてくれるかな? もうすぐ側まで来ているので、姿を見られたら絶対やってくると思う。なのでやれる事はほんの少しだけど、とりあえず行ってできるだけの事をしてくるよ。まだ大事な説明の途中なので待っていてほしい」
俺はまず1階の調理室に行き、ハイターをあるだけ【インベントリ】に入れた。その際、目についた物も片っ端から保管した。さっき入れていなかった調味料も今回で全部確保だ。ハイターとタバスコなどの刺激臭の強い物を1階に振り撒き、窓を開けつつ茶道室にやってきた。コショウは今後の食糧事情がどうなるか分からないので、振り撒くのは自重した。
ノックもせずガラッと扉を開けた先に、お目当ての未来ちゃんは居た。
「良かった! 未来ちゃん。菜奈に頼まれて未来ちゃんを迎えに来たんだ。危険が迫っている。皆も一緒に付いてきてほしい。異常が起きてるのはなんとなく理解してる?」
「菜奈のお兄さん! はい、いきなりお昼のようになっておかしいねって、今、話していたところなんです」
「理由はすぐ後で説明する。とにかく危険が迫ってるので、皆、付いてきてくれ。菜奈もそこで待っている」
良かった、詳しく説明しなくても皆付いてきてくれた。
『……マスター、狩りが始まったようです。予想以上の酷い惨状です』
『ナビーの声が皆に聞こえていないって事は、念話のようなものか? 俺は頭の中でこんな感じで思うだけでいいのかな?』
『……はい、それで通じています。お急ぎください。姿を見られたらやってきますよ』
『ああ、既にここまで悲鳴が聞こえてきている。なんて嫌な声だ! 本当の人の絶叫というものはここまで悍ましいものなんだな……ドラマの悲鳴なんか、やはり演技なんだって実感するよ』
「菜奈のお兄さん! なんか凄く沢山悲鳴が聞こえてきます!」
「静かに。音には気を付けて、大きな声や音で見つかったら敵がこっちに来ちゃうから。怖くても悲鳴なんか出さないでね。あまりうるさくするようなら、他の人全員が危険になるから見捨てていくよ」
口に手を当てコクコク頷いている未来ちゃんの仕草は可愛いのだが、聞こえてくる絶叫が鳥肌もので、せっかくの俺の癒し要素が台無しだ。
「窓側の方を歩かないでね、女の子の姿が見えたら襲いに来るから、できるだけ教室側を静かに歩いてね。目的地は階段上の倉庫だよ、分かるね?」
周りから悲鳴が聞こえていたので、疑われることもなくスムーズに移動ができた……これでこの別館にいる人間は全てこの4階倉庫に集まったことになる。
「あ! 未来ちゃん! 良かった~、兄様ありがとう! でもさっきから悲鳴が一杯聞こえます!」
「菜奈、もう少し静かに喋れ。オークに襲われたいのか?」
口に手を当て、首をプルプル振っている。
未来ちゃんと同じような仕草だが、俺の妹の方が可愛いな……おっと、こんなアホな事考えてる場合じゃない。
外ではオークたちの虐殺が始まっているのだ。
俺は皆を倉庫の中に入れ、中から鍵を掛けた。
俺がこの倉庫を選んだ理由が、ここが丈夫な分厚い鉄の扉という事と、中から鍵がかけられるからなのだ。
人数が増えて少し狭いが仕方ない。
「外の声が皆にも聞こえたと思うけど、既にオークたちの強姦や虐殺は始まっている。怖いだろうけど泣いたり、悲鳴や大声を出さないでね。オーク1体だけなら何とかなるかもだけど、数体で襲ってこられたら対処できないから十分気を付けて」
廊下の窓を開けている為、外からは阿鼻叫喚の声がリアルに聞こえてくる。
窓開けたの失敗だったかなと感じつつ、聞こえてくる悲鳴の度にビクビクと肩を震わせている年下の女の子たちをどうやって守っていくか思案するのだった。
「兄様、皆、帰ってきましたよ」
菜奈を確保できて少し落ち着いた俺は気になってた事を聞くことにした。
「なんで、高等部の城崎さんがここに居るんだ? 横のその娘も高等部の1年だよね?」
そう、高等部のジャージを着た者が2名混じっているのだ。
この学園は中高一貫の私立の進学校なのだが、ジャージの色で学年が分かるようになっている。
「城崎先輩は去年まで料理部の部長だったのですよ、菜奈のお兄さん。今日は私がお願いして中等部に竹崎先輩と指導に来てくれたのです。竹崎先輩は副部長だった人です」
答えてくれたのは現料理部部長の長谷川綾ちゃん。菜奈を料理部に誘ってくれた菜奈のクラスメートだ。菜奈を通して何度か会った事があるし、菜奈と一緒に遊んでいるMMOにも時々やってきて俺とも遊んだりもしている。ハキハキとした元気な可愛い女の子だ。
いつもは『龍馬先輩』と言っているのに、今日は皆の警戒を減らそうと『菜奈のお兄さん』と呼んでくれたようだ。
実は高等部の者が居ることが気になったというより、城崎さんの事が気になったという方が俺の本音だ。
「兄様、城崎先輩の事、知っていたのですね?」
「クラスが違うので名前しか知らない。話した事もないし、殆ど面識もない。ただ学年1番というより、学園1番の美少女って言われている人だからね。男子で彼女の名前を知らない奴は居ないんじゃないか?」
「白石君、そんな事よりさっきのオークみたいなの何? 時間が無いってのも言ってたよね。手品のように物を消していたのも説明してほしいわ」
城崎さんは俺の学園1の美少女発言を『そんな事』で片付けてしまった。
そこから話を繋げたかったのだが、あっさりスルーされた形だ。
時間も無い事だし、本題から入るか……。
「そうだね、時間もあまりない。何から説明したものか……」
「兄様、さっきのはオークで間違いないんだよね? 先にそこだけ確認させてください」
「そうだよ、あれはオークで間違いない。俺たちはこっちの世界の女神様のミスで学園ごと異世界に召喚されてしまったんだ」
殆どの者がポカーンとした顔をしている。菜奈と城崎さんは思案中って感じだ。
「よし、順序立てて説明するね。その前に2つの組に分かれてもらう。MMOやRPG、異世界もののラノベが好きな人は俺の方に来てくれるかな。勿論菜奈はこっちだ」
「綾もこっちでしょ!」
菜奈に呼ばれて綾ちゃんもこっちに来た。他にも3名がこっち側に自主的に移動してきた。
「城崎さんもこっち側じゃないのかな?」
「え? し、白石君……なんでそう思うの?」
不自然にキョドッている。オタク系と思われるのが嫌なのかな?
「今後の計画や話を進めていく上で大事な事なんだ。命が掛かっている。隠れオタクとか思われたくないとかそんな程度の低い自尊心なら捨ててほしい。アレを見ただけでオークって判断できるだけの知識はあるんだろ?」
「そうね……ごめんなさい。ちょっと後輩たちの前だったので、恥ずかしかったてのもあるわ」
「他にも居ないか? 戦闘時の班分けなんかに関わる事だ。後で私もって言ってきても対応しないよ?」
小さな女の子が顔を赤らめこっちに来た。この子、小学生みたいだな……中1でも小さくないか。
「じゃあ、順序立てて話すね。まずここまでの間、威圧的にしゃべってごめん。中学生の女の子からすれば高校生の男子が命令口調で喋ったら怖かったかもしれない。いろいろ気遣いができてないだろうけど、安全確保ができるまで俺も余裕がないんだ。はっきり言ってまだ安全じゃない。どういう事かそれを今から説明するね。質問は最後にまとめて受け付けるから、先ずはこっちの話を聞いてほしい」
状況を理解している者がいないため、皆、すんなり俺の話を大人しく聞いてくれる。
混乱して、騒がれてもおかしくない状況なので、非常に有り難い。
「20分ほど前にあった地震なんだけど、あれは普通の地震じゃなく、この世界に学園ごと召喚転移された時の余波なんだ。この停電も送電線から断線されたのでもう回復しない。今、点いている災害時用の非常灯のバッテリーが無くなったら夜は闇夜になるはずだ。それから、転移の事は証明もできる。気付いた人もいるだろうけど、本当なら夕刻でもう日が落ちて暗くなってるはずだけど、外はまだお昼のように明るい。裏の山も本来だと山頂まで直ぐなはずだけど、今は樹海のような森林が見える。海が見えてた方は広大な草原が地平線まで広がっている」
皆、真剣に聞いてくれている。急に昼のように明るくなったのだ。バカじゃなければ何かおかしいという事ぐらいは感じるはずだ。
「それで、なんでこの世界に召喚されたかなんだけど、はっきりいうとこの世界の主神の女神様のミスらしい。本当はある1人の勇者になる人物を召喚する予定だったんだって―――
「ひょっとして、その勇者は2年の柳生美咲先輩?」
話の途中で城崎さんが割って話しかけてきた。
「城崎さん、正解ですが、質問は最後にね。それと余談ですが、勇者候補の柳生さんが生き残れるかどうかは女神様のミスのせいで現在不明だそうです」
「あ、ごめんなさい。続けてください」
城崎さんか……あれだけの話で柳生先輩が勇者と判断できるとは、やっぱ頭の回転が良いんだろうな。
「女神のミスで学園ごと異世界に来ちゃったわけだけど、最悪な事に転移された場所が大規模なオークやゴブリンのコロニーのすぐ側だそうだ……この意味が解りますか? 菜奈、恥ずかしがらずに答えてみろ」
「兄様が態々MMOを知っている組と知らない組で分けたのはそういう事ですか。大体のゲームやラノベの小説的設定では、オークやゴブリンは人を襲います。しかも食肉として人を食べるのですよね? 最悪なのは女の人を犯して子供を産ませようとする習性ですか?」
「そうだ。今からそいつらが500体ぐらいの規模で襲ってくる。総数で言えば5000体ほどがこの近辺にいるそうだ。しかも向こうは武器を持っている」
「兄様、オークって強いのですか? ゲームじゃ初期に出てくる弱い魔獣ですよね?」
「さっき見たオークって弱そうに見えたか? オークの強さは一般の成人男性が武器を持って3人で何とか勝てるかどうからしい。ゴブリンは成人男性なら武器持ちでタイマンでなら普通は勝てるそうだ。だが学園の者は皆、素手だ。とても勝てるはずがない。今から皆にこの事を忠告に行っても間に合わないし、すぐ信じる奴もいないだろう。女神様の予想ではこの学園の人間は最終的に1割残れれば良い方だと予想している」
「白石君の言い方だと、そのミスした女神に聞いてきたみたいなように聞こえるのだけど?」
「うん。実際に会って聞いてきたんだ。タイミング的に丁度いいね。じゃあ、次になぜ俺がいろいろ知っているかについて説明するね」
「待って兄様! 未来ちゃんが殺されちゃう!」
未来ちゃんは寮で菜奈と同室の娘の名前だ。
この学園は中高共に全寮制で、1室2名となっている。
「菜奈すまない。未来ちゃんには俺も何回か会ってるし、菜奈ととても仲が良いのは知っているけど……諦めてくれ。女子寮まで走って行って知らせる時間はもう無いんだ……そんな事をしていたら途中で俺も襲われて死んでしまう……」
「そんな……あ! 夕方お茶会するって言ってた! まだ茶道室にいるかもしれません!」
MAPを見てみると確かに3Fの茶道室に3名人が居る。
「菜奈、茶道部員って何名居るんだ?」
「未来ちゃんが7名って言ってた」
「今、3名茶道室に人が居るようだけど、それが未来ちゃんかどうかは分からない。確率で言えば半分以下だ。でも居るのを分かっていてほっとくのも可哀想なので、ちょっと行って3人を連れてくる。同じこの棟の中だし、それくらいの時間はあるだろう。でも未来ちゃんがその中に居なかった場合は諦めてくれ」
菜奈は泣きそうな顔をしているが、その条件で了承してくれた。
「他の皆も助けたい人はいるだろうけど、悪いが諦めてほしい。どうしても諦めきれず、助けに向かうと言うなら、気持ちは解るので俺は止めない。けど、ここの事は誰にも言わないでほしい。理由を説明する時間もないので、できれば皆ここに残って待っていてほしい。どうしても出て行くならそれなりの覚悟をして、もうここには戻ってこないでくれ。匂いでオークを引き連れて帰ってきて全滅とか、真っ平御免だからね。菜奈、俺はついでに匂い対策もしてくるから戻るのはぎりぎりになるかも知れない。俺の帰りが遅くてもここから絶対出るんじゃないぞ」
「白石君、匂い対策って何するの?」
「あいつらは豚並みに鼻が利くそうなんだ。効果があるかどうか分からないけど、ここの場所が匂いで追尾できないように窓はある程度開けて、刺激臭の強いハイターやコショウとかタバスコなんかを1階部分に振り撒いてこようかと考えている。この階だけでも皆で静かに窓を開けておいてくれるかな? もうすぐ側まで来ているので、姿を見られたら絶対やってくると思う。なのでやれる事はほんの少しだけど、とりあえず行ってできるだけの事をしてくるよ。まだ大事な説明の途中なので待っていてほしい」
俺はまず1階の調理室に行き、ハイターをあるだけ【インベントリ】に入れた。その際、目についた物も片っ端から保管した。さっき入れていなかった調味料も今回で全部確保だ。ハイターとタバスコなどの刺激臭の強い物を1階に振り撒き、窓を開けつつ茶道室にやってきた。コショウは今後の食糧事情がどうなるか分からないので、振り撒くのは自重した。
ノックもせずガラッと扉を開けた先に、お目当ての未来ちゃんは居た。
「良かった! 未来ちゃん。菜奈に頼まれて未来ちゃんを迎えに来たんだ。危険が迫っている。皆も一緒に付いてきてほしい。異常が起きてるのはなんとなく理解してる?」
「菜奈のお兄さん! はい、いきなりお昼のようになっておかしいねって、今、話していたところなんです」
「理由はすぐ後で説明する。とにかく危険が迫ってるので、皆、付いてきてくれ。菜奈もそこで待っている」
良かった、詳しく説明しなくても皆付いてきてくれた。
『……マスター、狩りが始まったようです。予想以上の酷い惨状です』
『ナビーの声が皆に聞こえていないって事は、念話のようなものか? 俺は頭の中でこんな感じで思うだけでいいのかな?』
『……はい、それで通じています。お急ぎください。姿を見られたらやってきますよ』
『ああ、既にここまで悲鳴が聞こえてきている。なんて嫌な声だ! 本当の人の絶叫というものはここまで悍ましいものなんだな……ドラマの悲鳴なんか、やはり演技なんだって実感するよ』
「菜奈のお兄さん! なんか凄く沢山悲鳴が聞こえてきます!」
「静かに。音には気を付けて、大きな声や音で見つかったら敵がこっちに来ちゃうから。怖くても悲鳴なんか出さないでね。あまりうるさくするようなら、他の人全員が危険になるから見捨てていくよ」
口に手を当てコクコク頷いている未来ちゃんの仕草は可愛いのだが、聞こえてくる絶叫が鳥肌もので、せっかくの俺の癒し要素が台無しだ。
「窓側の方を歩かないでね、女の子の姿が見えたら襲いに来るから、できるだけ教室側を静かに歩いてね。目的地は階段上の倉庫だよ、分かるね?」
周りから悲鳴が聞こえていたので、疑われることもなくスムーズに移動ができた……これでこの別館にいる人間は全てこの4階倉庫に集まったことになる。
「あ! 未来ちゃん! 良かった~、兄様ありがとう! でもさっきから悲鳴が一杯聞こえます!」
「菜奈、もう少し静かに喋れ。オークに襲われたいのか?」
口に手を当て、首をプルプル振っている。
未来ちゃんと同じような仕草だが、俺の妹の方が可愛いな……おっと、こんなアホな事考えてる場合じゃない。
外ではオークたちの虐殺が始まっているのだ。
俺は皆を倉庫の中に入れ、中から鍵を掛けた。
俺がこの倉庫を選んだ理由が、ここが丈夫な分厚い鉄の扉という事と、中から鍵がかけられるからなのだ。
人数が増えて少し狭いが仕方ない。
「外の声が皆にも聞こえたと思うけど、既にオークたちの強姦や虐殺は始まっている。怖いだろうけど泣いたり、悲鳴や大声を出さないでね。オーク1体だけなら何とかなるかもだけど、数体で襲ってこられたら対処できないから十分気を付けて」
廊下の窓を開けている為、外からは阿鼻叫喚の声がリアルに聞こえてくる。
窓開けたの失敗だったかなと感じつつ、聞こえてくる悲鳴の度にビクビクと肩を震わせている年下の女の子たちをどうやって守っていくか思案するのだった。
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