167 / 184
商都フォレスト編
3-13 街の喧騒?母の覚悟?
しおりを挟む
今から街に行こうと思うのだが、既にお疲れ気味な表情を見せている人がいる。これまで実家で何もしてこなかった穀潰し女子のエリスと、元貴族の娘で商家の奥方だったクレアだ。勿論本人からは疲れたとか一切言ってこない……下手にへばっている所を見せ、使えないと判断されたら最悪売られると思っているのだろう。
「美弥ちゃん、車出すから、マイヤー・クレア・エリス・チロルの4人を乗せて商都まで送迎してあげてくれるかな?」
「エッ!? いいの? 車は内緒にするんじゃなかったの?」
「もう知られたくない人たちにはばれちゃいましたからね。別にこの世界の住人にばれても良いのですよ。現物を売ってあげても複製はできないでしょうしね」
「そうね……拳銃ぐらいなら複製できるでしょうけど、車やスマホなんかの高度な文明製品の現物をあげたとしても複製は無理だよね」
「外観はともかく、内部のマイクロチップなんか俺たち現代人でもさっぱりですしね。でも、サスペンションやベアリング、タイヤなんかはドワーフとかコピーしちゃいそうなので、商標登録しておいた方が良さそうかな。部品取りでお金になりそうな有用な品は、俺の方で事前に商標登録しておきます」
というわけで、体力的に不安なこの4人は車での送迎にした。マイヤーは平気そうだが、ご老体なので気を利かせたのだ。クレアの娘のセシルも不安だが、エリスほど酷くはないので、少し体力をつけるために頑張ってもらおう。
美弥ちゃんも何気に久しぶりのドライブで嬉しそうだ。
ちなみに、車底に錆が結構あった車を修理魔法の【リペア】で復活させようとしたらできなかった。ナビーがいうには魔力不足なのだそうだ……『え? 今の俺が魔力不足?』って思ったのだが、【リペア】の魔法は部品単位で魔力が消費されるそうで、スマホぐらいなら少し戻してもMPはなんとか足りて修理可能だが、車はまだ無理だそうだ。
その差はなにか……スマホの部品数は約千個、自動車はネジまで入れると約3万個もあるそうだ。膨大に増えている俺の魔力でも全然足らない。ただし、パンクやワイパー等の消耗品をパーツごとに修理するのは可能らしい。
それと、ゴムやエンジンなんかの摩耗での消耗品は復活修理できるそうだが、エンジンオイルやブレーキオイル、エアコンのガスなんかは復活できないそうだ。
これができるなら、ガソリンタンクの時間を戻して使い放題なんだけどな。回復剤なんかもそうだね……液体が可能ならできたけど残念だ。どうやら気体や液体の消費したモノは復元できないみたいだ。
皆、恐る恐る美弥ちゃんの車に乗り込んでいたが、いざ走り出すとチロルは大はしゃぎだ。エアコンが付いてて車内は暖かいし、コンポで音楽が聞けたり、カーナビでDVDが観れたりと、自動車って凄い快適空間なんだよね……住居を持たない車中泊の人も居るようだけど、夏以外ならエンジンを切ってても快適に過ごせるのかな? と思ってしまった。郵便物なんかは私書箱を借りておけばいいらしい。
「旦那様……あれは何なのですか?」
この世界の住人代表って感じでセバスが車の事を聞いてきた……レイラさんやバグナーさんもむっちゃ興味津々だ。
「俺たちの世界の乗り物だね。今乗ってるヤツでもこの世界の騎士が乗る良馬の2倍の速度が出るよ。早いヤツなら3~5倍近く出るかな」
「では、今は我々に合わせてゆっくり走らせているのですね?」
「うん。あ、そうだ。バグナーさんとレイラさんは宿屋から馬車と馬を持ってきてもらえますか? それと馬用の飼葉などの食糧と寝床用の寝藁も移動時の日数分も含めて仕入れておいてください」
「でも、リョウマ君。あのお屋敷には厩舎なんか無かったよね?」
「ええ、でもうちには馬は必要ないので出してなかっただけで、厩舎は持っています。馬房も14頭分は有りますので問題ないですよ」
「そうなんだ……じゃあ、私たち完全に宿屋を引き払ってきてもいいのね?」
「ええ、大丈夫です。帰りの送迎はバグナーさんの馬車でお願いしますね」
「ええ、お任せください」
あの馬車は奴隷商人の持ち馬車だったのだが、彼は護衛依頼時に保険を掛けていなかった為に、権利が俺に委譲したので、譲ってほしいというバグナーさんに馬と共に格安で売ってあげたのだ。持ってても邪魔だしね。何気に馬は経費が掛かるのだ。
バグナーさんとレイラさんに帰りの送迎は任せるとしよう。
門の手前で下車して、顔パスで街の中に入る。
昨日の門番が居てくれて助かった……入門には犯罪履歴とか調べられたり、本来は結構面倒なのだそうだ。
「龍馬君これって……」
「ああ、そうだな。暇人が多い世界だな……」
街の中心街は人で溢れかえっていた。俺たち異世界人約百人が街中に散って散策中だろう……それを見に来たのであろう街の人たちが数千人……人混みに酔いそうだ。
バグナーさんと別れて俺たちは冒険者ギルドに最初に向かう。
「旦那様……本当に私たち全員を冒険者登録してくださるのですか?」
ギルドに向かってる道中で、セバスが心配げに聞いてくる。
「ええ、俺の奴隷として登録してもらって結構です」
終身奴隷は奴隷になった時点でギルドカードを剥奪される決まりになっている。元ゴールドランク冒険者のセバスも今は只の奴隷扱いで、ギルドカードは剥奪されてしまっている。終身=個人としての人権なし―――という事らしい。
そして、終身奴隷や犯罪奴隷の身分ではギルドカードは発行してもらえない。例外として、誰かに買われて下僕として使われる者は、その主人の庇護下の元に再発行が許される。ランクは最初からになるが、ギルドカードの機能はランクに関係なく使えるので、有用性は計り知れない。
セバスが全員良いのか? と念を押してくるのには理由がある……従魔のハティと同じで、主人登録をした者に下僕がなにかやらかした時には責任が掛かってくるからだ。
少しアレクセイが何かやらかしそうで心配だが、まぁなんとかなるだろう。貴族に騙されて犯罪奴隷落ちしたほどのお馬鹿さんだから、俺としては少し心配なのだ。
ギルドに到着したのだが、入口から人が溢れている……結構大きな建物なのだが、体育館組が冒険者登録にきているようで、普段は仕事に出てここにはいない冒険者も残ってパーティー勧誘とかしているようだ。
「龍馬君……これ、今日は無理じゃない?」
「問題ない。事前連絡して、優先的に発行してもらえる話が付いている。勇者パーティーが順番待ちなんかしてられないだろ?」
「「「いつもながら手回しが良い……」」」
「兄様流石です!」
「ん、龍馬はやっぱり凄い!」
人員整理をしている人に声を掛けたら、裏口から中に入れてもらえ、2階の教室のような部屋に通された。
この部屋は大人数の会議や新人教習会などを開く時に使ってる部屋だそうだ。
「全員説明は受けているので、最速でカード発行だけお願いします」
俺たちの対応をしてくれたのは、先日説明会に来てくれてた受付嬢のお姉さんだった。
「その小さなお嬢ちゃんも登録するのです?」
6歳のチロルを見て流石にダメでしょ?ってな顔をしている。
「ポーターに使うのでお願いします……」
更にエッ?ってな顔をされた……ポーターとは荷物持ちの事だが、どう考えても無理だよね?
こんな幼い子を荷物持ちとか……我ながら鬼畜としか思えない。
言ってからミスったと気づくが、今更コロコロ意見を変えるのもどうかと思い押し通す。
ほどなくして全員分のカード発行が終えた。
ギルドを出ようとしたときに、チロルの動きが止まる……。
「お母様! お母様から……おともだちとうろくが……ご主人様、とうろくしてもいいですか?」
「お待ちなさい……旦那様、今後を考えますと、可哀想ですがしない方が賢明でしょう……」
セバスが反対した理由は、母親恋しさに泣かれたら困るという理由からだ。俺の優しさはかえってチロルに親恋しさを募らさせる行為になり、可哀想だと判断したのだ。それともう1つ……子供可愛さに元貴族の奥方が返してくれと泣きついた場合面倒な事になると考えたようだ。
でも、チロルは年齢の割にはしっかりしていて、自分の境遇も的確に理解している。ずっと親恋しさを我慢させるより、いつでも連絡できるような状態にしてあげて、真面目に仕事してれば解放してあげると理解させてあげれば、幾分は気も晴れると思っている。時々なら会わせてあげても良いしね……母親に情があるなら自分からチロルに会いに来るだろう。
「チロル、お母さんのフレンド登録の申請を承諾して良いよ」
「ご主人様いいの!? ありがとう!」
「ああ、仕事中以外でなら何時でもコールして話をしても良いぞ」
母親にコール機能で連絡を試みると直ぐに繋がった。
『あなた、チロルなの!?』
「お母様! チロルです! ウヮ~ン!」
母親の声を聴いた瞬間、年相応の子供らしくワンワン泣き出した……やっぱ無理していたんだな。泣いて会話になってなかったので、少し代わって俺が話すことにした。
「こんにちわ」
『……あなた誰なの?……』
「リョウマと言います。チロルを買い上げた者です。基本終身奴隷に身内との連絡はさせないそうですが、いずれ解放してあげようと思っているので、チロルに家族との連絡は何時でもしていいと許可を与えました。仕事中にコールを頻繁にされても困りますが、夜なら何時でも構いませんのであなたの方からも連絡してあげてください」
『どうか娘を返してください! お金ならいつか必ずご返済いたします!』
返してくれとか、セバスの予想的中か……俺、誘拐したわけじゃないし……いつかとか言われても、あなたじゃ一生かかっても無理でしょう。
「チロルは3千万ジェニーもしました。あなたに返済できる額とは思えませんが? その金額を用意できるのなら、そもそも奴隷落ちしていないでしょう?」
「旦那様……少し代わってもらっても宜しいでしょうか?」
このままだと話が進まないとみたマイヤーが助け舟を出してくれそうだ。
「奥様……マイヤーでございます」
『エッ!? マイヤー? あなたも買われたのですか……ごめんなさいね……主人の思慮が足らないせいで……』
「はい、その事はもう今更ですので謝罪はお受けします。それでですが、奥様は今、この街に勇者様の御一行が訪れているのはご存知でしょうか?」
『ええ、知っていますけど、そんな事よりチロルは無事なのですか? 泣いていたようですが、酷い事をされてないですか?』
「奥様落ち着いてください。チロルはとても大事にされているのでご心配なく。先ほどの話の続きなのですが、わたくしとセバスとチロルは現在勇者様のクランに買って頂きお世話になっています。勇者様の所有するお屋敷はとても綺麗で、生活環境は王族以上の暮らしぶりです。失礼ですが、子爵家と比べ物にならないほどの快適さです。主人になられたお方はとてもお優しいお人柄ですので何も心配は要りませんよ」
『勇者様のクランが奴隷商から身請けしてくださったのですか? セバスも一緒にですか?』
「奥様、セバスです。チロルの事は我ら夫婦で大事に面倒を見ますのでご安心くださいませ」
「お母様、ご主人様のお家のご飯がとっても美味しいのです! お風呂もお家のより何倍も大きいのです! だからお母様はなにも心配しなくていいですよ」
『チロル! 元気そうな声を聞けて母は安心しました……あなたを置いて母だけ解放されてごめんなさい……老後の余生をのんびり過ごしてもらいかったセバスたちにも苦労を掛けてしまい、申し訳なさでいっぱいです……』
「あ~、そういうチロルが誤解するような言い方はしないでくれるか? 6歳のチロルなら、性的に買われる事は無いだろうが、子爵家の奥方のあなたなら高確率で娼館が買っていく。それを見越したあなたの両親が不憫に思い私財を処分してまであなたを買い取ったのだろ? 6歳の子供だと思って言葉を濁してはダメだ。チロルが理解できる範囲で事実を伝えてある」
「リョウマ様とおっしゃいましたね。わたくしはエリカと申します。3千万ジェニーもの大金をすぐには用意できません……なので、私を買って少しでも返済にお当てくださいませんか? どんなお仕事でも致します。チロルと同じ終身奴隷として雇ってくださいまし……端女が行うお風呂介助でも夜伽でも何でもいたします……」
チロルの母ちゃんとんでもない事言ってきたぞ……夜伽って、夜のお相手って事だろ? 貴族は伴侶以外との性行為は自殺するほどの事じゃなかったのか?
子を想う母親の覚悟は恐ろしい―――
「美弥ちゃん、車出すから、マイヤー・クレア・エリス・チロルの4人を乗せて商都まで送迎してあげてくれるかな?」
「エッ!? いいの? 車は内緒にするんじゃなかったの?」
「もう知られたくない人たちにはばれちゃいましたからね。別にこの世界の住人にばれても良いのですよ。現物を売ってあげても複製はできないでしょうしね」
「そうね……拳銃ぐらいなら複製できるでしょうけど、車やスマホなんかの高度な文明製品の現物をあげたとしても複製は無理だよね」
「外観はともかく、内部のマイクロチップなんか俺たち現代人でもさっぱりですしね。でも、サスペンションやベアリング、タイヤなんかはドワーフとかコピーしちゃいそうなので、商標登録しておいた方が良さそうかな。部品取りでお金になりそうな有用な品は、俺の方で事前に商標登録しておきます」
というわけで、体力的に不安なこの4人は車での送迎にした。マイヤーは平気そうだが、ご老体なので気を利かせたのだ。クレアの娘のセシルも不安だが、エリスほど酷くはないので、少し体力をつけるために頑張ってもらおう。
美弥ちゃんも何気に久しぶりのドライブで嬉しそうだ。
ちなみに、車底に錆が結構あった車を修理魔法の【リペア】で復活させようとしたらできなかった。ナビーがいうには魔力不足なのだそうだ……『え? 今の俺が魔力不足?』って思ったのだが、【リペア】の魔法は部品単位で魔力が消費されるそうで、スマホぐらいなら少し戻してもMPはなんとか足りて修理可能だが、車はまだ無理だそうだ。
その差はなにか……スマホの部品数は約千個、自動車はネジまで入れると約3万個もあるそうだ。膨大に増えている俺の魔力でも全然足らない。ただし、パンクやワイパー等の消耗品をパーツごとに修理するのは可能らしい。
それと、ゴムやエンジンなんかの摩耗での消耗品は復活修理できるそうだが、エンジンオイルやブレーキオイル、エアコンのガスなんかは復活できないそうだ。
これができるなら、ガソリンタンクの時間を戻して使い放題なんだけどな。回復剤なんかもそうだね……液体が可能ならできたけど残念だ。どうやら気体や液体の消費したモノは復元できないみたいだ。
皆、恐る恐る美弥ちゃんの車に乗り込んでいたが、いざ走り出すとチロルは大はしゃぎだ。エアコンが付いてて車内は暖かいし、コンポで音楽が聞けたり、カーナビでDVDが観れたりと、自動車って凄い快適空間なんだよね……住居を持たない車中泊の人も居るようだけど、夏以外ならエンジンを切ってても快適に過ごせるのかな? と思ってしまった。郵便物なんかは私書箱を借りておけばいいらしい。
「旦那様……あれは何なのですか?」
この世界の住人代表って感じでセバスが車の事を聞いてきた……レイラさんやバグナーさんもむっちゃ興味津々だ。
「俺たちの世界の乗り物だね。今乗ってるヤツでもこの世界の騎士が乗る良馬の2倍の速度が出るよ。早いヤツなら3~5倍近く出るかな」
「では、今は我々に合わせてゆっくり走らせているのですね?」
「うん。あ、そうだ。バグナーさんとレイラさんは宿屋から馬車と馬を持ってきてもらえますか? それと馬用の飼葉などの食糧と寝床用の寝藁も移動時の日数分も含めて仕入れておいてください」
「でも、リョウマ君。あのお屋敷には厩舎なんか無かったよね?」
「ええ、でもうちには馬は必要ないので出してなかっただけで、厩舎は持っています。馬房も14頭分は有りますので問題ないですよ」
「そうなんだ……じゃあ、私たち完全に宿屋を引き払ってきてもいいのね?」
「ええ、大丈夫です。帰りの送迎はバグナーさんの馬車でお願いしますね」
「ええ、お任せください」
あの馬車は奴隷商人の持ち馬車だったのだが、彼は護衛依頼時に保険を掛けていなかった為に、権利が俺に委譲したので、譲ってほしいというバグナーさんに馬と共に格安で売ってあげたのだ。持ってても邪魔だしね。何気に馬は経費が掛かるのだ。
バグナーさんとレイラさんに帰りの送迎は任せるとしよう。
門の手前で下車して、顔パスで街の中に入る。
昨日の門番が居てくれて助かった……入門には犯罪履歴とか調べられたり、本来は結構面倒なのだそうだ。
「龍馬君これって……」
「ああ、そうだな。暇人が多い世界だな……」
街の中心街は人で溢れかえっていた。俺たち異世界人約百人が街中に散って散策中だろう……それを見に来たのであろう街の人たちが数千人……人混みに酔いそうだ。
バグナーさんと別れて俺たちは冒険者ギルドに最初に向かう。
「旦那様……本当に私たち全員を冒険者登録してくださるのですか?」
ギルドに向かってる道中で、セバスが心配げに聞いてくる。
「ええ、俺の奴隷として登録してもらって結構です」
終身奴隷は奴隷になった時点でギルドカードを剥奪される決まりになっている。元ゴールドランク冒険者のセバスも今は只の奴隷扱いで、ギルドカードは剥奪されてしまっている。終身=個人としての人権なし―――という事らしい。
そして、終身奴隷や犯罪奴隷の身分ではギルドカードは発行してもらえない。例外として、誰かに買われて下僕として使われる者は、その主人の庇護下の元に再発行が許される。ランクは最初からになるが、ギルドカードの機能はランクに関係なく使えるので、有用性は計り知れない。
セバスが全員良いのか? と念を押してくるのには理由がある……従魔のハティと同じで、主人登録をした者に下僕がなにかやらかした時には責任が掛かってくるからだ。
少しアレクセイが何かやらかしそうで心配だが、まぁなんとかなるだろう。貴族に騙されて犯罪奴隷落ちしたほどのお馬鹿さんだから、俺としては少し心配なのだ。
ギルドに到着したのだが、入口から人が溢れている……結構大きな建物なのだが、体育館組が冒険者登録にきているようで、普段は仕事に出てここにはいない冒険者も残ってパーティー勧誘とかしているようだ。
「龍馬君……これ、今日は無理じゃない?」
「問題ない。事前連絡して、優先的に発行してもらえる話が付いている。勇者パーティーが順番待ちなんかしてられないだろ?」
「「「いつもながら手回しが良い……」」」
「兄様流石です!」
「ん、龍馬はやっぱり凄い!」
人員整理をしている人に声を掛けたら、裏口から中に入れてもらえ、2階の教室のような部屋に通された。
この部屋は大人数の会議や新人教習会などを開く時に使ってる部屋だそうだ。
「全員説明は受けているので、最速でカード発行だけお願いします」
俺たちの対応をしてくれたのは、先日説明会に来てくれてた受付嬢のお姉さんだった。
「その小さなお嬢ちゃんも登録するのです?」
6歳のチロルを見て流石にダメでしょ?ってな顔をしている。
「ポーターに使うのでお願いします……」
更にエッ?ってな顔をされた……ポーターとは荷物持ちの事だが、どう考えても無理だよね?
こんな幼い子を荷物持ちとか……我ながら鬼畜としか思えない。
言ってからミスったと気づくが、今更コロコロ意見を変えるのもどうかと思い押し通す。
ほどなくして全員分のカード発行が終えた。
ギルドを出ようとしたときに、チロルの動きが止まる……。
「お母様! お母様から……おともだちとうろくが……ご主人様、とうろくしてもいいですか?」
「お待ちなさい……旦那様、今後を考えますと、可哀想ですがしない方が賢明でしょう……」
セバスが反対した理由は、母親恋しさに泣かれたら困るという理由からだ。俺の優しさはかえってチロルに親恋しさを募らさせる行為になり、可哀想だと判断したのだ。それともう1つ……子供可愛さに元貴族の奥方が返してくれと泣きついた場合面倒な事になると考えたようだ。
でも、チロルは年齢の割にはしっかりしていて、自分の境遇も的確に理解している。ずっと親恋しさを我慢させるより、いつでも連絡できるような状態にしてあげて、真面目に仕事してれば解放してあげると理解させてあげれば、幾分は気も晴れると思っている。時々なら会わせてあげても良いしね……母親に情があるなら自分からチロルに会いに来るだろう。
「チロル、お母さんのフレンド登録の申請を承諾して良いよ」
「ご主人様いいの!? ありがとう!」
「ああ、仕事中以外でなら何時でもコールして話をしても良いぞ」
母親にコール機能で連絡を試みると直ぐに繋がった。
『あなた、チロルなの!?』
「お母様! チロルです! ウヮ~ン!」
母親の声を聴いた瞬間、年相応の子供らしくワンワン泣き出した……やっぱ無理していたんだな。泣いて会話になってなかったので、少し代わって俺が話すことにした。
「こんにちわ」
『……あなた誰なの?……』
「リョウマと言います。チロルを買い上げた者です。基本終身奴隷に身内との連絡はさせないそうですが、いずれ解放してあげようと思っているので、チロルに家族との連絡は何時でもしていいと許可を与えました。仕事中にコールを頻繁にされても困りますが、夜なら何時でも構いませんのであなたの方からも連絡してあげてください」
『どうか娘を返してください! お金ならいつか必ずご返済いたします!』
返してくれとか、セバスの予想的中か……俺、誘拐したわけじゃないし……いつかとか言われても、あなたじゃ一生かかっても無理でしょう。
「チロルは3千万ジェニーもしました。あなたに返済できる額とは思えませんが? その金額を用意できるのなら、そもそも奴隷落ちしていないでしょう?」
「旦那様……少し代わってもらっても宜しいでしょうか?」
このままだと話が進まないとみたマイヤーが助け舟を出してくれそうだ。
「奥様……マイヤーでございます」
『エッ!? マイヤー? あなたも買われたのですか……ごめんなさいね……主人の思慮が足らないせいで……』
「はい、その事はもう今更ですので謝罪はお受けします。それでですが、奥様は今、この街に勇者様の御一行が訪れているのはご存知でしょうか?」
『ええ、知っていますけど、そんな事よりチロルは無事なのですか? 泣いていたようですが、酷い事をされてないですか?』
「奥様落ち着いてください。チロルはとても大事にされているのでご心配なく。先ほどの話の続きなのですが、わたくしとセバスとチロルは現在勇者様のクランに買って頂きお世話になっています。勇者様の所有するお屋敷はとても綺麗で、生活環境は王族以上の暮らしぶりです。失礼ですが、子爵家と比べ物にならないほどの快適さです。主人になられたお方はとてもお優しいお人柄ですので何も心配は要りませんよ」
『勇者様のクランが奴隷商から身請けしてくださったのですか? セバスも一緒にですか?』
「奥様、セバスです。チロルの事は我ら夫婦で大事に面倒を見ますのでご安心くださいませ」
「お母様、ご主人様のお家のご飯がとっても美味しいのです! お風呂もお家のより何倍も大きいのです! だからお母様はなにも心配しなくていいですよ」
『チロル! 元気そうな声を聞けて母は安心しました……あなたを置いて母だけ解放されてごめんなさい……老後の余生をのんびり過ごしてもらいかったセバスたちにも苦労を掛けてしまい、申し訳なさでいっぱいです……』
「あ~、そういうチロルが誤解するような言い方はしないでくれるか? 6歳のチロルなら、性的に買われる事は無いだろうが、子爵家の奥方のあなたなら高確率で娼館が買っていく。それを見越したあなたの両親が不憫に思い私財を処分してまであなたを買い取ったのだろ? 6歳の子供だと思って言葉を濁してはダメだ。チロルが理解できる範囲で事実を伝えてある」
「リョウマ様とおっしゃいましたね。わたくしはエリカと申します。3千万ジェニーもの大金をすぐには用意できません……なので、私を買って少しでも返済にお当てくださいませんか? どんなお仕事でも致します。チロルと同じ終身奴隷として雇ってくださいまし……端女が行うお風呂介助でも夜伽でも何でもいたします……」
チロルの母ちゃんとんでもない事言ってきたぞ……夜伽って、夜のお相手って事だろ? 貴族は伴侶以外との性行為は自殺するほどの事じゃなかったのか?
子を想う母親の覚悟は恐ろしい―――
10
お気に入りに追加
8,870
あなたにおすすめの小説
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。
突然足元に魔法陣が現れる。
そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―――
※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる