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王都街道編 8・9日目

2-9-9 奴隷娘たちの今後?ゴリぽんの今後?

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 俺は今から行く商都には2日ほどしか滞在しないつもりだ。すぐに美咲先輩を伴って王都に向かおうと思っている。理由は2つ……国王の謁見と、王都に居る聖女に会うためだ。

 聖女とは、神託を受け任命される神職で、国に必ず神から1人選ばれ、国の神事や祭事などを執り行っている。
 神の声を聴ける聖女は国王以上の発言力が有り、皆から敬われる存在のようだ。

 まぁ、ぶっちゃけると今居る各国の聖女は、フィリアが選んだ娘なのだそうだけどね。


 どうせ直ぐに王都に向かうのだから、報酬を倍くれるという宝石商のバグナーさんを連れて行ってやろうかと考えたわけだ。決して2倍の報酬に釣られたとか、旅の間にこの世界の商業情報をいろいろ聞き出してやろうという打算はないよ? 本当だよ? 俺、そんなに腹黒くないからね?


「バグナーさん、王都にはいつまでに到着すればいいのですか?」
「エッ? ああ、もう後9日しかない……ここから馬車で8日ほどの距離だ。お願いだ! 私を王都まで連れて行ってくれないか!? 今からならまだ間に合うんだ!」

 急に話を振られたのでびっくりしていたが、再度護衛依頼を懇願してきた。

「どうしてそこまで納期にこだわるのですか? 違約金を払えば済むだけでしょ?」

 少し悩んでいたが、理由を話してくれる……仕事での守秘義務とかあるのかな?

「伯爵家のご子息が、結婚式の為の指輪を私に発注してくださったのだ……式までに間に合わないと彼に大恥をかかせてしまうことになる」

『……マスター、どうもそれだけじゃないようですね。その伯爵のご子息という人物は、バグナーの同級生になるようです。魔法学校の同期で、親の反対を押し切ってバグナーに大事な結婚指輪を作らせる依頼をしたようです。親は大手の宝石商に頼む気でいたようですが、学生時代のパーティーメンバーの彼にどうしても頼みたかったようで、バグナーも赤字覚悟で期待に沿おうと態々この商都に赴いて良品を手に入れたようです』

『大事な婚儀に間に合わなかったら、相手が伯爵家なので商人としてはもう活動できないって事か……』

 身分差のある友人の為か……こういう話は嫌いではない。最初に欲を出して奴隷の娘まで独り占めしようとしなかったら、心証はもっと良かったんだけどな~。

『……まぁ、この宝石の取引自体は大赤字ですからね……赤字を補てんできると考えてしまったのですね』

「バグナーさん、俺たちのパーティーは2日ほど商都フォレストに滞在したのち王都に向かいます。期日までには余裕で到着させますので、依頼を受けてあげてもいいですよ」

「本当ですか!? 是非お願いします! でも、2日も商都に居てから出発して、本当に間に合うのですか?」

「ええ、余裕です。それとレイラさん、ミラさん、アーシャさんの3人もそのまま雇ってもらっていいですか?」
「ええ、勿論いいですよ! いくら君たちが強くても7人だけじゃ、あの森は危険ですからね」

「レイラさんたちもそれで大丈夫ですか? 亡くなったメンバーの葬儀とかもあるでしょうけど、2日で出立できますか?」

「依頼は受けさせてもらうわ……途中で投げるのは嫌だし。でも、冒険者が葬儀なんかしないわよ? 家族に遺体を引き渡して、酒場で飲んで追悼するだけよ。貴族じゃないんだから、葬儀なんか普通しないわ……【亜空間倉庫】に空きがなければ、遺体だってこの場で埋めたり火葬にしたりするのが普通よ。遺体を持って帰っても、処理するのにお金も要るからね……人によってはかえって迷惑がられるわ。今回はダリルから慰謝料が入るから、持って帰って家族に引き渡すけど」

「そうなのですか……」

 仲間でも死体はその場に埋めちゃうんだ……墓とか造って後でお参りするとかの風習は貴族でもない限りあまりないようだ。

「それと私たちの本拠地は王都の方よ。護衛依頼でこっちにきていたのだけれど、手ぶらで帰るのは勿体ないので、帰り道もどうせならということで護衛して帰ることにしたの……結果、ラエルたちは亡くなっちゃったけどね」

 護衛依頼の詳細は、夜話し合う事にした。血の匂いで魔獣がまたくるかもしれないので5㎞ほど移動する。肉食獣は夜行性が多いからね……これから野営するのに、血の匂いが充満した場所には居られない。

 横転してた馬車も車輪の交換だけで済み、奴隷を乗せてそのまま使うことにした。灰狼族のアレクセイが御者をかってでたので任せてみた。彼だけは止血だけで怪我も治してやってないのに、片手で上手く操作できている。

 可哀想だがもう少しだけ辛抱してもらおう。


 忘れずに途中に転がしていた盗賊2名も回収して連れて行く。


「今日はここで野営します。俺たちの分は考えなくていいので、レイラさんとダリルさんは自分たちの寝る場所を確保してください」

「分かった。盗賊たちはどうするんだ? あのまま手枷足枷のまま地面に転がせておくと夜間に凍死しかねないぞ?」

「魔法を使いますので問題ないです。後で水だけはあげますが、今はそのまま放置しておいてください。便所に行きたいとか騒いでも放置でいいです。後で【クリーン】を掛けますので」

「分かった」
「あなた【クリーン】も使えるの? ねぇ、本当に私たちの仲間になってくれない?」

「その話も後でしましょう。アレクセイ、ちょっとこっちへきてくれ……」

 彼は片手で馬の世話をしてくれていたが、皆から見えないように馬車の裏に連れて行く。

「アレクセイ、脱げ!」
「なっ!? ご、ご主人……ゆ、許してくれ……」

 何を勘違いしたのか、立派な尻尾を股の間に挟んで、自分のお尻を隠すようにしている。

「俺にそんな趣味はないよ! 変な勘違いするな! お前だけ止血だけで回復してないのには訳があるんだ……」
「解っている……危険な戦闘種族の狼人族だから、警戒しての事だろう?」

「全然違うよ! 回復魔法を掛けてしまうと、お前の腕の傷が完全に塞がってしまって、部位欠損が確定してしまうからだ。今から切り落とされた腕を治してやる」

 【インベントリ】から彼の切断された腕を取り出し、両方の切断面に【クリーン】を掛ける。雑菌を滅して化膿を防ぐためだ。

 勘違いしたまま服を脱ぐのを渋っていたので命令して全裸にさせ、【ボディースキャン】で調べる。軽い栄養失調と出ているが、腕以外は特に問題なさそうだ。

 腕の方は止血の為に弱いヒールを使ったので、表面にうっすら膜ができている。肘の上を強く縛り、うっすら張った被膜をナイフで剥ぎとる……痛いだろうに、顔を歪めはするが一切声はあげない。縛っていても再度出血が始まったので、ここからはできるだけ急ぐ必要がある。

「この角度で、自分の左手を持っていてくれるか? いいと言うまで手や指を一切動かそうとするなよ」

 【アクアフロー】と【細胞治療】を併用して、まず骨を繋げる。血管と大きな神経を繋げたら、聖属性の上級呪文【神聖回復】を発動する。念のために水系回復魔法の【アクアガヒール】も掛けておく。

 聖系回復魔法と水系回復魔法の効果には違いがあるのだが、説明は今はいいだろう。

「どうだ? 動かしてみろ……」
「治ってる! ちゃんと違和感なく動く! ありがとう! 本当にありがとう!」

「ああ、引き続き馬の世話を頼めるか?」
「ああ! いや……はい、お任せください!」

「アレクセイ、俺はあなたをずっと奴隷のまま縛っておこうとは考えていない。いずれ解放してあげようと思っている。でも、その腕の治療費分は稼いでもらうからね?」

「解放してくれるのか? 勿論恩を受けた分はきっちり返すつもりだ! 腕もそうだが、命を助けてもらったんだ。受けた恩を返さないのは、誇り高い狼人族の恥だからな」

 彼は元冒険者だ……いろいろ役に立ってくれるだろう。



「ウソッ!? 本当に腕が治ってる!」

 レイラさんがアレクセイの治った腕を見て絶叫して、また勧誘が始まったが……今は無視だ。



 そうこうしているうちに雅が盗賊2名を連れて帰ってきた。

「ん、こいつら、逃げて8km先の林の中に居た」
「いつまで経っても仲間からの連絡がないので、身の危険を感じて逃げたんだろうね……雅、ご苦労様」

「ん、問題ない」


 後は向こうの拠点を設置するために、高畑先生たちと一度合流しないといけない。

「フィリア、君もやっぱ一緒に行ってもらう。三田村先輩と三月先輩だけ少しここで留守番しててもらえますか?」

「俺ら2人だけ残るのか?」
「ええ、女子を盗賊と一緒に一晩置きたくないですからね。ハティも念のために残っててくれな」

「ミャン!」

 奴隷娘はどうしよう……話を聞いて決めるか。

「セシル、ミーニャ、リリー、ベル、君たちは今後俺たちパーティーと一緒に行動してもらう。ミーニャは商都に着いたら、まずお母さんを治しに行くので案内をしてくれ。アレクセイの腕が治ってるのだから、治癒師としての俺の腕は信用してくれるかい?」

「本当にお母さんを治してくれるの?」
「「「私たちは娼館に売られなくて済むのですか?」」」

「うん。君たちを娼婦にはしないので、安心してくれ。それといつまでも奴隷のままにする気もない。王都に行ったら何か商売をするつもりなので、そこで働いてもらう。君たちが借りた分を返し終えたら解放してあげるから、何も心配することはない」

「「あの! やはり私たちは売られてしまうのでしょうか?」」

 名前が呼ばれなかった白狼族のアルヴィナと兎人族のルフィーナが不安そうに聞いてきた。

「いや、ただ捕まって奴隷にされた君たちはすぐにでも解放してあげても良いと思っている。でも、そうするとまたすぐ捕まっちゃう可能性が高い……だから、【奴隷紋】で庇護するという形になるんだが、俺たちと一緒に行動する気はないかい?」

 言ってる意味が解らないようで、2人ともキョトンとしている……可愛い。

「2人ともお金も財産も頼るあてすらないんだろ? このまま解放してあげてもいいけど、行く当てはあるの? 【奴隷紋】があると、俺が死ぬか、契約を放棄するとか契約の更新をしない限り上書きはできないから、捕まって無理やり娼館に売られたりする事はなくなると思うんだ。衣食住の保証はするし、ちゃんと給金も払ってあげるよ」

「あの……どうしてそこまでしてくれるのでしょうか?」

 そりゃ~怪しすぎるよね……売れば数千万ジェニーになるのに、解放してあげるっていうんだから、警戒するよね。

「君たちが、凄く可愛いから!」

 正直に言ったら雅に蹴られた……。

「雅、痛いって! マジ痛いから、もう蹴らないで……」

 フィリアや未来ちゃんもめっちゃ睨んでる。ああ、薫ちゃん……そんな冷めた目で見ないで~!

「まぁ、そういうことだ……可愛い娘を保護するのは男の甲斐性だ」

 2人とも少しだけ悩んでいたようだが、1ジェニーもお金が無いのだ……お世話になりますと深々と頭を下げてきた。

 そこで不満を噴出したのは穀潰し娘と盗人猫の2人だ。

「「何で私たちだけ売られなきゃなんないのよ!」」

「お前たち2人は自業自得だろ? 俺は働かない寄生虫は要らないし、性格の悪い盗人も要らない。自分のこれまでの所業を反省して、体で返すんだな……寝ているだけなら、何もできない君でも仕事ができるだろ」

「なぁ、龍馬……ちょっと可哀想じゃないか?」
「なんなら三田村先輩に売ってあげますよ? 間違いなく後悔するでしょうが……早いうちに甘い考えがなくなると思えば良い勉強になるんじゃないですか」

「いや……俺もいくら可愛くても、流石に嫌だけどさ……『働かざる者、食うべからず』って言うだろ?」
「下手な同情はしないことです。この世界では簡単に共倒れしますよ?」

「なんかなぁ~……実際目の当たりにすると、割り切れないよな~」


「そうだ。ベル、この人に仕えてみるか?」
「はぁ? 龍馬、お前何言ってるんだ?」

「あの、リリーちゃんも一緒なら……」
「ベルちゃん、ごめん! 私は嫌よ! このご主人様がいいわ!」

「だよね~……なのです……」

 ベルちゃんに振られたか~。ゴリぽんへの好意は友情以下のモノだったようだ。

「ゴリぽん残念……」
「誰がゴリぽんだ!」


 三田村先輩から言ってこないから、こちらから聞くか……まぁ、無視してても良いんだけど……。

「三田村先輩、商都に着いてからの身の振り方は考えていますか?」

「俺は柳生の手伝いをしようと思っている……」
「それは無理です……手伝いどころか足手纏いにしかなりません。あなたを守りながらじゃ、柳生先輩も迷惑でしょう」

「でも、龍馬は付いていくんだろ?」
「ええ、女神の意図していない事でしたが、実際勇者である美咲先輩より俺の方が遥かに強くなっちゃってますからね……付いて行くというより、先導する方になるでしょう」

「でも……俺も役に立つよう努力してもっと鍛える! だから連れて行ってくれ!」
「相手は邪神です。普通の人間では邪に染まるから、純善な美咲先輩が選ばれたのです。三田村先輩が美咲先輩に好意を持っているのは知っていますが、美咲先輩は俺に惚れているようです。俺もあれほどの人をそう簡単に譲る気はないです……俺たちに同行して、俺に好意を寄せる美咲先輩の姿を見て、嫉妬や負の感情を抱かないで居られますか? 邪に染まったりしないですか? 俺は仲間を討たなきゃならないようなのは御免ですよ」


 少し酷だが、美咲先輩にその気がない以上、早めに諦めてもらった方がよい。

『……マスター、三田村は有用な男になると思うのです。ログハウスと拠点になる館を少しナビーが改造しますので、暫く連れていってあげてはどうですか? 邪神討伐に行く前に、レベリングや王都で拠点固めをするのですよね?』

『そうだけど……女子からすれば気を許してない男が混ざるのは嫌だと思うぞ?』
『……はい。ですので、部屋割りは一切目に触れない造りにいたします』



 そこまでして三田村先輩を必要とは思えないが、ナビーには何か考えがあるのかもな。
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