女神様から同情された結果こうなった

回復師

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王都街道編 8・9日目

2-9-8 真剣指南?ゴリぽんの好きな人?

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 ほどなくして血の匂いでやってきたブチ犬と三田村先輩たちが戦闘に入った。

 三田村先輩……なかなかお強い。

 柔道部の三月先輩は、近距離戦になるので獣相手だとやり辛そうだ。直ぐに刀を抜いて、蹴りと刀を上手く使い分けている……柔道というより総合格闘技のようだな。柔道は対人用の防御主体に開発されたものだから、本来殴ったり蹴ったりしないからね。そういえば盗賊たちも刀で切り殺していた……やっぱ人を殴り殺すのは抵抗あったのかな。

 少し眺めていたのだが、2人とも刀の使い方が全然なってない。剣道部の三田村先輩も真剣は使ったことないみたいで、扱いが竹刀と一緒だ。雅が俺の横でイライラしている。

「2人とも肉が傷まないように頭部を狙っているようですけど、竹刀と違うのですから普通の剣だと固い頭蓋骨なんか兜割りしたら刃こぼれしますよ。試しにこの鋼の剣で同じようにやってみてください」

 2人に鋼の剣を投げ渡すと、持ち替えてさっそく上段から振りかぶって頭部に切りつけた。

 三田村先輩の剣は根元から折れ、折れた刃先が頭部に食い込んだまま魔獣は絶命した。
 三月先輩の剣は頭に当たった部分からグニャリと折れ曲がってしまったようだ。

「解りましたか? こちらの世界の剣は、日本刀のように槌で打って鍛練されていません。ちょっとした炭素濃度の違いで直ぐに折れたり曲がったりします」

 2人を【レビテド】で上空に上げ、代わりに俺が地上に下りて、鋼の剣を抜いてお手本を見せてあげる。

「折れたら買い替え、刃こぼれしたら研ぎに出したりメンテでお金が要ります。剣はこう使うのです」

 襲ってくるスパティドゥドッグにこちらからも踏み込んで、すれ違いざまに首を薙ぐ。足に噛み付こうとしてきたヤツの心臓に剣を突き入れる。無理はせず、隙あらば足に切り付け、致命傷に至らなくても戦力を削ぐ。


 5頭ほど倒して、俺も再度上空に上がる。

「どうです? 倒したのは5頭ですが、前足を怪我させ、4頭ほどがビッコを引いて戦力は落ちているでしょう? 足の骨も硬いですが、日本刀だと峰で打ったり、おもいっきり切り付けるのではなく、怪我を負わせる程度に加減すれば刃こぼれも酷くない程度に済みます。剣が折れたり曲がったりしないように考えて戦闘しないと、自分の得物がダメになったら即、命に係わってきますので、予備の物を皆持っているのです」

「でも、お前の刀って刃こぼれなんかしないぞ? そこまで考えなくていいんじゃないか?」
「どんな状況でも戦える方が良いでしょ? その時有るモノで、いかに効率よく戦うか、常に考えて行動するべきです」

「龍馬君の言うとおりだね。参考になったよ、ありがとう」

 三月先輩は素直に俺の話に納得してくれたようだ。


「じゃあ、残りを2人で狩ってください」

 再度2人だけ下ろして見守る。

 雅やハティが戦いに参加したそうにしていたが、雑魚魔獣を狩っても経験値は僅かだ。
 2人の戦闘訓練に使った方が良いだろう。

『……うふふ、マスター。獣人たちを見てください』
『どうした?』

 ナビーに言われて見たのだが……可愛い!
 2人の戦闘を見ながら、耳や尻尾がピコピコ反応しているのだ。

 狼人族の2人と、黒豹族の娘なんかは手を握り締め食い入るように見ている。
 犬族の2人は尻尾がフリフリ振られ、目が輝いている。

『……おや? マスター、犬族のベルという少女が、三田村に好意を持ったようですよ』
『へっ? 好意って……好きになったってこと?』

『……はい。獣人族は強い者に憧れる傾向があります。彼女は襲われそうなところを彼に守ってもらい、今その強さを目にして、沙織や穂香状態になっているようですね』

『なるほど……ベルってあの茶毛の可愛い娘だったっけ?』
『……はい。その娘ですね……どうします?』


 ナビーの奴、人の心情は教えないとか言ってたのに……単に面白くなりそうなので言ってきたな。

 う~~~~~~ん、どうしよう。

『……ベルの気持ちを考慮して、三田村に譲ってあげてはどうですか?』
『あげるって……やっぱ物扱い?』

『……いえ。ナビーにはそのような感情はありません。あくまでベルの今の気持ちを考えての提案です。勿論三田村にその事を伝えて、彼がどう思うかは考慮していませんので、どうなるかは分かりません』

『三田村先輩って、美咲先輩のこと好きだよな? あからさまだし』
『………………ですね。ですが、只の片思いですし、美咲は彼に対してこの5年間、一切恋愛感情をもったことはないです……というか、分かってらっしゃいますよね?』

『うん。美咲先輩……俺が裸を見ちゃってから、やたらと意識してるよね? 責任取れとか言ってるし……そういうことなんだろ? 俺も美咲先輩には好意を持ってるから、誰にも渡す気はないけどね……あの人、人が良すぎて利用されそうだし、なんか放っておけないんだよね』

 三田村先輩には悪いが、剣道小町の美咲先輩を譲る気はない。尤も、美咲先輩が三田村先輩の事を好きだというなら話は違ってただろうけどね。

 ベルちゃんか~、結構可愛いよな~。正直欲張りな俺は料理部で囲っておきたい気もなきにしもあらず。
 ここで甘い考えの日本人的思考の者なら、奴隷なんか可哀想とか言って解放してやるんだろうけど、俺はそれほどお人好しではない。理由はどうあれ、彼女たちはその身を犠牲に対価を得ているのだ。まぁ、その分を稼いだら解放してやろうとは思っているけどね。

『……ですがマスター。アルヴィナとルフィーナは襲われて攫われただけで、対価など得ていませんよ? 儲けたのは彼女たちを攫った盗賊たちです。彼女たちは只の被害者です』

『それもそうだな……彼女たち、盗賊に攫われたんだったら酷い目に遭っているのだろ?』

『……マスターのいう酷い目、というのがレイプの事なら彼女たちはなんとか無事です。理由は処女の方が高く売れるからです。買い手が娼館でも若干高く売れますが、これほどの容姿だと貴族が性奴隷として買う可能性が高いです。貴族は男を知らない処女を買うのが通例です。なので誘拐を行う盗賊たちには、必ず処女判定のできるスキル持ちが仲間に居ます』

『処女だったおかげで、かろうじて貞操は護れたって感じか……でも、兎の娘は18歳だろ? この世界じゃ結婚しててもおかしくない歳なのに、処女なのか?』

『……少し訳ありで、兎人族の住む村から追い出されて、彼女1人が違う森で生活していたようです』
『訳ありってなんだ?』

『……彼女は生まれつきオッドアイなのです。兎人族は全員赤目で生まれてくるのですが、彼女は片方がブルーアイなので、幼少の頃から不吉だと言われて虐められて育ちました。16歳の成人までは両親が村長に懇願して居させてもらえたのですが、成人した誕生日に村から追放されたようです。両親から有り金を全て貰った彼女は仕方なく町に行ったのですが、何度か町中で攫われそうになり、逃げるように町の近くの森で暮らすようになりました』

『結局森で見つかって攫われちゃったんだね……』

 2人とも帰る所もないそうだし、彼女たち次第だけど料理部で庇護してあげよう。


 俺が奴隷たちの事を思案している間に、2人でブチ犬を倒しきったようだ。

「先輩たちお疲れ様」

「ああ。こうやって使い比べたら龍馬の刀スゲーな! 刃こぼれ1つしていないぞ」
「ほんとだね。これ、ひょっとしてかなり凄いものじゃない?」

「まぁ、そうですね……」

「あの、リョウマ君? 君たちのその武器見せてくれない? その黒い金属ってまさかブラックメタル製? もしそうならレジェンド級だよ?」

「レイラさん、申し訳ないのですが、手に取らせて見せる気はないです」
「龍馬、けちけちするな……レイラさんどうぞ」

 はぁ~、三田村先輩に武器渡したの失敗だったかな……なんにもこの人解ってないよ。

「三田村、その行為がどれほど危険か解ってる? レジェンド級がどれほど価値があるかは分からないけど、それを巡って国が軍をあげて襲ってくる可能性もあるってことだよ?」

「何だよ三月……オーバーだな」

「私も実物は見たことないから、それがそうなのか判断できないけど、もしそれがブラックメタル製なら事実だよ……過去にレジェンド武器をめぐって戦争を起こした国もあるんだからね。現在ブラックメタルの錬成ができる鍛冶師なんかドワーフ王とその弟子、後、確認されてる鍛冶師も4人しかいないんだから。しかも含有率も精々10%ほどのモノができれば良いほうなのに、それ真っ黒じゃない……かなり純度が高そうよね? どこのダンジョンで手に入れたの?」

 レイラさんの戦争という言葉に、三田村先輩も流石にビビったようだ。俺たちはレイラさんの質問に何も言えずに黙っていたのだが、そのレイラさんが【クリスタルプレート】を出した。

「あ、返事が来た!……リョウマ君、明日の朝一番に街から盗賊の引き取りに騎兵が7人来てくれるって。こっちからも朝早く街に向かえばお昼前には合流できるよ」

「レイラさんが街に連絡してくれたのですか?」
「ええ、最初は冒険者ギルドに救助要請を入れたんだけど、君たちが先に助けてくれたので、盗賊は捕縛したって再度連絡していたのよ。その返事がさっきメールで届いたの」

「ギルドに救助要請をしても、この距離じゃ間に合わないでしょ?」
「凌辱は受けた後になるだろうけど……運が良ければ、逃げた盗賊の蹄の後を追って救出してもらえるかもしれないからね。盗賊たちも逃げるための対策はするでしょうけど、何もしないよりは救助要請した方が助かる可能性はあるでしょ?」

 確かに―――

「レイラさん、ここに居るとまた血の匂いに誘われた魔獣がくるかもですので、少しここから離れますね。雅とハティはこのまま街道を3kmほど行った先に、見張りの盗賊がまだ2名残ってるから捕まえてきてくれるか? 俺たちは少し戻って、野営ができる場所に拠点を構えておく」

「ん、解った。ハティ行こ」
「ミャン!」

 速攻で見えなくなった……雅もちっこいのに凄い脚力だ。



 さて、皆と合流すると説明するのだけでも面倒だ……こっちの組と分ける方が無難だな。

「フィリア、野営地を分けようと思う。少し留守番頼めるか?」

 フィリアはそれだけで俺の意図が分かったようだ。

「ふむ、その方が問題は起きないじゃろう……あれこれ聞かれても面倒じゃしの」


「レイラさん、ダリルさんたちが逃げたことをギルドに報告しないでもらえますか?」
「理由はギルドから借り入れをするため?」

「ええそうです。信用を先に失えば借り入れができなくなりますし、彼らも仕事が減って返済にも苦労します。感情は抑えて、遺族の為にお金を残してあげる選択をしてください」

「解ったわ……ミラとアーシャもそれでいい?」
「「ええ、いいわ」」

「済まない……金は必ず用意する。それで許してくれ」
「決して許すことはできないわ! でもこれ以上は責めたりしないので、ラエルたちの家族にお金だけは用意してあげて……」

「「「了解した」」」


 冒険者同士のいざこざはお金でなんとか防げそうだ。



 後は、死ぬほど落ち込んでいるバグナーさんの方だな。最初ムカついたけど、ナビーがいうには悪い商人じゃないそうだし、手を貸してやるか。
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