女神様から同情された結果こうなった

回復師

文字の大きさ
上 下
147 / 184
王都街道編 8・9日目

2-9-5 【クリスタルプレート】の機能?ハティのストーキング?

しおりを挟む
 いろいろ問題はあるが、まずは現在進行形で魔獣に追われている、逃げ出した護衛の男どもが先かな?
 距離的にここから2kmほどあるので、このまま放っておくと、ここに辿り着く前に魔獣に追いつかれるだろう。

『……マスター、逃げ出した男たちはそこの女冒険者たちとは違うパーティーのようです。死んだ冒険者は彼女たちを守ろうと最後まで戦ったみたいですが、薫の倒した元上級冒険者の男と助っ人の傭兵盗賊に殺されたようですね』

『仲間を置き去りかと思ったが、パーティーが違うから平気で逃げたのか……じゃあ、尚更助ける義理はないな。他の盗賊に助っ人してる危険な強い奴はどうなっている?』

『……三田村が1人、未来が1人倒しています。元上級冒険者は盗賊のボス以外はもういませんね』
『そうか、三田村先輩も剣術に極振りしているだけのことはあるんだな……』

 そのとき女の怒声が響き渡った。

「冗談じゃないわよ! 私たちを盗賊に差し出して逃げておいて、よくコールしてきたわね!」

 声の方をみたら女冒険者の1人が、なにやら覗き込んで叫んでいる。
 近づいてみたら、【クリスタルプレート】の画面に話しかけていた。

 どうやら、俺たちの世界を参考にしている世界だけあって、この世界の住人も【クリスタルプレート】を出せるみたいだ。

『ナビー、この世界の住人の仕様も俺たちと同じモノか?』
『……いえ、大体同じようですが、決定的に違うのはAPポイントを利用できない事ですね。コール機能やフレンド登録、チャット機能や写真や動画も保存できますが、マスターのようにステータスを弄ったりはできません。勿論ポイントを振ってスキルや技能を獲得するなんてチートもできません』

『分かった……で、彼女はなに怒り狂ってるんだ?』
『……逃げ出した男共がフレンドリストをみて、彼女たちがまだ生きてると知って、藁にもすがる思いで救助要請をしてきたようです』

 ナビーの補足説明では、多人数通話もできるし、キャッシュカード機能に討伐記録も自動カウントとか、優秀すぎてびっくりだわ!


『そりゃ、彼女も怒るわな……それにしても、フレンドリストか……ある意味厄介だな』

 この世界の国王や国の重鎮にフレンド登録されて、良いように呼び出されて使われたらたまったものじゃない。

 通話をぶった切ってお怒り中のお姉さんに一応聞いておく。

「さっき逃げた奴らからコールがあったのよ。私たちを見捨てて逃げておいて、逃げた先で魔獣に遭遇して、私たちがまだ殺されてないからもしやと思ってコールしてきたみたいだけど、『助けてくれ』はないでしょ?」

「もしやと思ってとは、どういうことです?」

 どうやら、こう考えたんだと彼女は推察したようだ。

 1、現在フレンドリスト上では生きてるが、時間的に盗賊たちが凌辱中
 2、盗賊たちを返り討ちにできて、生き残った
 3、第三者により助かっている

 こう考えて、1でないのなら助けてくれ的にコールしてきたのだろうと予想して、あまりにも腹が立って会話途中でブチ切ったようだ。


「では、救出に向かわないって事です?」
「助ける義理はないわ。それどころか、あいつらそのまま何食わぬ顔で護衛報酬まで寄こせって言い出すかもしれないし……」

「救助要請があった場合、それを見殺しにしてもギルドからはペナルティとかはないのですか?」
「ペナルティーとかはないわよ。だって、冒険者というものは契約で成り立っているのだからね。命がけで助けても、報酬はありませんとかじゃやってられないでしょ? 事前にちゃんと契約が書面でなされない限り、助けるも助けないも自由意志よ。口約束なんか信じちゃダメよ」

「確かに……助けてくれといわれて助けてあげて、『お金は持ってないです、ごめんなさい』じゃ、やってられないですね……ましてその際に仲間が怪我や死亡したりしたら、目もあてられない」

「そういうこと。特にあいつらは私たちを置いて逃げたやつらなのよ。それに、こっちだって余裕があるわけじゃないわ。盗賊たちの見張りもしないといけないし、商人や奴隷の娘たちを護衛しなきゃいけないでしょ? パーティーを分けて助けに行く余裕なんかないわよ?」

 彼女の言ってる事はごもっともだ。奴隷の権利は俺にあるのだから、依頼料は俺持ちになるのかな?

「そういえば、お姉さんたちはこの後どうされるのですか?」
「君たちはフォレストの街に向かってるんだよね? 申し訳ないんだけど、便乗させてくれないかな? 謝礼はちゃんと払うので、お願いします! 私たち3人だけじゃ、魔獣が出たら対処しきれないの!」

 彼女たちの方が助けてほしいから、謝礼を出してくれるのか……。
 まぁ、ついでだしお金は別にいいや……対価として今から行く街やこの世界の情報をいろいろ教えてもらおう。


「それは困る! 契約時に言ったとおり、納期があるんだ! 王都まで私を護衛するのが君らの仕事だろ!」
「そうはいっても、私たち3人だけじゃ迂回路の方でも無理だよ……ましてあの森を通ってとか、死ににいくようなものだから、一度帰って人員補充しなきゃ……それに盗賊の引き渡しもあるでしょ?」

「盗賊はそっちの子らのモノだろう! 君たちは契約通り、何が何でも私を王都に届けなさい! 納期に間に合わないと、私の宝石商としての人生が終わってしまうのです!」

 その事はナビーから聞いて知っていたが、宝石商人の奴、めっちゃ必死だな……。

「そう言われても……現実的に無理なのはバグナーさんも本当は解っているのでしょ?」

 どうやら解ってはいるようだ……めっちゃ悩ましげな渋い顔をしている。

「そうだ! 君らが護衛についてきてくれればいいじゃないか! 盗賊らはここで殺してしまえばいい! 盗賊を奴隷として売却する差額と、護衛料金は通常の倍額だそう!」

 切羽詰ってるんだろうが、こっちの都合を無視した身勝手な話だ。命だけは助かると思っていた盗賊たちもそれを聞きつけ騒ぎ出した。

「あの? レイラ? 本当にダリルたちパーティーは見捨てちゃうの?」
「ミラは腹立たないの? あいつらのせいで、ラエルたちは死んじゃったのよ!?」

「そうだけど……彼らが残ってたとしても、同じ運命だったと思うよ? そこの彼らがきてくれなかったら、全滅してたと思う……」

「でも! あいつらが逃げてなかったら……彼らがきてくれるまで一緒に最後まで戦ってくれていたら、ラエルたちも生き残ってたかもしれないよ?」

 どっちの言い分も解るんだよな……でも、ダリルという奴らを助けるとなったら結局動くのは俺たちの方になる。彼女たちでは、力不足だしね……。

「龍馬よ。其処の者の助けたくないという気も解らぬではないが……妾は助けられる命なら助けてあげてほしいのじゃが……どうじゃ?」

 ハイ! 女神様キター! この娘に偽善とかそんなもの一切ないです! 素で言ってます! だよね? 元とはいえ、慈愛の女神フィリア様が見殺しできるはずないよね~。

「龍馬先輩、私も見殺すのはどうかと思います……あまり良い気分ではないです……龍馬先輩なら、簡単に助けられるのですよね?」

 まぁ、そうだけどね。三田村先輩や三月先輩が何も言わないのは、俺と気持ちは同じなのだろう。正直、男としては助けたくない気がする……でも、フィリアと未来が良い気がしないのなら、助けに向かうのもやぶさかではない。

「ハティ! 隠れてないで出てこい! ちょっと頼みたい事がある……」

 木の陰からひょっこり顔を出して、耳を項垂れている……あざといくらい可愛い。

『ご主人様……怒ってる?』
「勝手に付いてきた事なら別に怒ってないぞ。付いてくるなと指示してないからね。それより、この道を進んだところに魔獣に襲われてる男たちがいるので、ちょっと行って助けてきてあげてくれ」

『魔獣を倒せばいいの?』

「そうだ。倒した魔獣はハティの【インベントリ】に入れて持ち帰るように。上手くできたら、なんかお礼をあげるよ? 欲しいものあるか?」

『牛さんのレバー!』
「よし! それを食べさせてあげよう! 桜に頼んで、胡麻油と塩でちゃんと味付けしたヤツだ!」

『ヤッター! 行ってくる!』

 超ダッシュであっという間に行ってしまった……俺の足じゃ間に合わないかもしれないけど、ハティなら余裕そうだな。

「おい! 今の白狼の子か? お前、あれを従魔にしているのか? ひょっとして凄いテイマーなのか?」
「あなた、さっきも言ったけど奴隷の分際で口のきき方をわきまえなさい! 今度、主にお前とか言ったらぶん殴るわよ!」

「うっ……すまない。俺は少し前まで君らと同じ冒険者だったんだ……奴隷の口のきき方など当然知らん。慣れるまで大目に見てほしい……」


 冒険者のお姉さんが忠言してくれたけど、彼に同情してしまう。

『……マスター、彼女は元上級冒険者だった彼に善意で言っているのです。犯罪奴隷の扱いは酷いものです……今のような彼の言葉使いではすぐに鞭で打たれてしまいます……』

 これがこの世界の常識なのなら、お姉さんの言い分の方が正しくて、矯正できなきゃ今後彼が苦労する羽目になるんだよな。


 なんだか盗賊退治より、事後処理の方がめんどくさい……。
しおりを挟む
感想 523

あなたにおすすめの小説

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

処理中です...