146 / 184
王都街道編 8・9日目
2-9-4 宝石商?越後屋?
しおりを挟む
獣人の姿を見た雅がフラフラと犬耳の娘に近づいていく。
「ん、わんこ~おいで~チッチッチッ……」
「コラ雅! 失礼だぞ。それに獣人にとって耳や尻尾を触る行為は、余程親しい関係の者だけだ」
「ん? そうなの……?」
雅に悪気はないのだが、獣人を動物扱いするのは最低の侮辱行為にあたる。それに尻尾や耳を触っていいのは、家族や恋人のような凄く親しい者だけだ。
「はい……凄く敏感な所なので、恋人とかでないのなら触れてはいけません……」
「ん、ごめんなさい……知らなかった……」
雅が触れようとした犬族の娘が申し訳なさそうに答えてくれた。
「素直に謝れる良い娘だ。雅、超可愛いぞ~」
抱き上げて、雅のほっぺにキスをした。雅は嫌がることもなく、なんだか嬉しそうなので、俺は更に良い気分になる。
その時、倒れた馬車の中から声がする。
「おーい! 誰か引っ張り出してくれ!」
その声を聴いた瞬間、冒険者の女性たちがチッと舌打ちしたのが聞こえた。
そいつは、荷物の下敷きになり出れなくなっていたみたいだ。冒険者のお姉さんに助け出されたそいつは、この商隊のリーダーの宝石商のようだ。少し小太りのそいつは、周りをぐるっと見回した後、にんまりと笑ったのだった。
『……マスター、ナビーの懸念が的中したようです』
『どういうことだ?』
『……すぐに分かります』
「どうやら、ポッパーの奴は死んでしまったようですね。まぁ、なんというか……これは不幸中の幸いです」
「バグナーさん! この方たちが助けに入ってくれたおかげで命拾いしたのです」
女性冒険者の1人が何やら感じ取ったのか、そう発言したのだが、宝石商からふざけた発言がなされた。ちなみに、ポッパーとは奴隷商人だった人の名前だ。
「私は助けてくれなど、一言も言ってないですよ? よって、この奴隷と盗賊たちの権利は全て商隊長の私のモノになります。あなたが、パーティーのリーダーですね? 私の言ってる事、お分かりです?」
三田村先輩に向かって、にやけながらそう言ったのだ。
「俺はリーダーじゃないが……助けてもらって礼も言えないような奴の為に殺人をしたかと思ったら、無性にやるせないな……」
三田村先輩、超お怒りです。言葉は穏やかだが、殺気がダダ漏れですよ……。
そういえばこの人、礼節にうるさい人なんだよね……初めて会話した時、ちょっとバカにしたら『殺すぞ』って凄まれた事があったっけ。
「あれ? では、どなたがリーダーですか? あなたです?」
今度は三月先輩の方に話しかけた……別にいいけどね。
「一応、俺がリーダーです。あなたは、頼んでもないのに勝手に助けたので、権利は全て自分のモノだと主張するのですね?」
「ええ、当然じゃないですか。一言も救助要請などしていないのに大きなお世話です!」
「ちょっとあんた! いい加減にしなさいよ! この人たちが助けに入ってなかったら、あんたも殺されていたんだよ!」
実際そうなのだが、商人が言うような、そういう規則があるなら面倒だな……。
『ナビー、こいつは悪人だよな?』
『……いいえ、悪人ではないです……当然、善人でもないですけどね。奴隷たちがあまりにも可愛い粒ぞろいなので欲が出たようです。マスターたちが、子供たちだけのパーティーだと思って、舐めてかかっているのです。戦利品全部って考えではなく、最初に無茶ぶりをして、交渉で盗賊たちとその持ち物はマスターたちに、高額で売れる奴隷たちは自分のモノにする気のようです。商人の交渉術の1つですね。ちなみに、そこの白い娘1人で、盗賊全員の価値より上です。馬や武具を含めても、もう1人付ければおつりが出るほど価値のある娘ばかりですね』
『ふざけたヤツだな……ちょっと俺の思考を読んで、問題ないか判定してくれるか?』
『……マスター……「お主も中々の悪よのぅ~」』
『ハァ? お前ナニ悪代官風な口調で言ってるんだよ! どこでそんなネタ仕入れたんだ! 俺は越後屋か!?』
『……流石マスター! 凄く良いツッコミです!』
『はぁ……で、どうなんだ?』
『……限りなくグレーですが、問題ないです……』
ナビーは何やらちょっと不満げだが、問題ないようだ。
「ちょっと聞くけど、今、奴隷の権利は盗賊のボスに移ってるんだよね?」
これに答えたのは、例の獣人の男だった。
「そうだ、奴隷商人が死んだので、殺した奴に権利が譲渡される事になる。なので、今、俺たちはそこの盗賊の奴隷として扱われることになる……だが、盗賊の権利が倒した商隊にあるのだとしたら、その権利は商隊のリーダーのモノになる。その辺は最初の護衛依頼の契約時に成されているはずだ」
「今回の契約では、倒した魔獣は倒した冒険者に権利をあげるが、捕えた盗賊は商隊のモノということになっていましたよね?」
ニヤッと笑いながら宝石商が答えた。
「そうですか、分かりました……」
「ちょっと待って! すぐ諦めないで、もっと交渉すれば少しは貰えるはずだよ!」
冒険者のお姉さんは、全部商人に持っていかれるのが不当で腹立たしいようだ。
勿論俺がそれを許すはずない!
「龍馬……お前でもどうしようもないのか? 俺らじゃ結局あの娘たちを救えないのか?」
三田村先輩は悲痛な顔で俺を見てきた。殺人までさせておいて、俺が黙ってるわけないでしょ!
「おいお前ら! どうやら俺は大きなお世話をしたらしい。なので、お前たちを解放してやる。所持品は返さないが、命だけは助けてやる。あと、この剣を1本だけ返してやる。だが逃げる前に、小太りのおっさん以外に危害を加えたらその場で即殺す! 俺の意図が理解できた奴は、その場で頭を地面にひれ伏せろ!」
俺の意図を真っ先に理解したのが商人だった。
「ちょっと待ちなさい! あなた、私を殺す気ですか!」
「ん? 俺は一言もそんなことは言ってないけど? 俺がいつ殺せと言いました?」
『うぐっ!』っという苦虫を噛む潰した声を発して、商人は俺を睨んでいる。目の前の宝石商人の言い回しをそのまま使った、事実上の死刑宣告だ。
「お姉さん、1つ聞くけど、盗賊を解放した際に、商隊のリーダーが死亡した場合、権利はどうなる?」
「う~ん、権利者が不在扱いになって、商人たちがギルドに登録していれば半分は商人たちの遺族に、もう半分はこの地の領主様のモノになるのかな?」
「護衛してたお姉さんのモノにならないの?」
「うん。逆に護衛依頼失敗として冒険者ギルドに違約金を取られることになる」
「じゃあ、商人が死んだ後に盗賊がまだ残っていて、それを俺たちが再度横から割り込んだとすれば?」
「あっ! それだと権利はあなたたちのモノになる!」
「というわけで、盗賊のリーダーのお前だけは残ってもらう」
「待ってくれ! 私が悪かった! 盗賊の権利は全て君たちにあげよう!」
「まだ勘違いした奴が居るな……助けてもらって恩を仇で返すような者の命など知ったこっちゃない!」
「分かった! 奴隷の権利もやろう! だから殺さないでくれ!」
「まだ勘違いしているね……俺が殺すんじゃなくて、勝手に盗賊が逃げる際に1人殺していくだけです。あなたの言い方だと、まるで俺が脅迫しているみたいじゃないですか? 俺は殺せとか一言も言ってないのに……」
「本当にすまなかった! さっきの『助けてくれとか一言も言ってない』とかの発言も取り消す! ちょっと欲が出てしまったんだ! お願いだ、許してくれ!」
バグナーという宝石商人は泣きながら懇願してきた……後ろを見たら、フィリアと未来ちゃんがあきれたような目で俺を見ている。
「なあ、三月……龍馬ってワルだよな?」
「どうなのでしょう……本当に殺す気だったのなら悪でしょうけど、彼は計算高いですからね。ほら、あの『みやび』って子と『かおる』って子……凄くキラキラした目でこの状況を見てますよ」
盗賊のリーダーから奴隷の権利を俺に移させ、改めてバグナーと今後の交渉をする。
「あなたの宝石まで寄こせとは言わないけど、奴隷と盗賊は貰うからね。普通は命を助けてもらったのだから、それプラス謝礼が相場なんだろうけど、あんたから一切貰いたくないからそれはいいや」
盗賊たちが約束が違うと騒ぎ出したが、冒険者のお姉さんたちがタコ殴りにして黙らせた。
「お姉さんたち、気持ちは解るけど、あんまり痛めつけないでください! 商品価値が下がっちゃいます!」
「「あっ! そうだった、ごめんね……」」
逃げ出した奴はともかく、仲間を何人か殺されているのだ……本当ならこの場で殺したいはずだが、我慢してくれているようだ。
ある程度落ち着いたところで、仲間の亡骸の側で彼女たちは泣いていた。
「フィリア、未来、皆に回復魔法と【クリーン】をお願い」
「全回復で良いのか?」
「うん。交渉は終えたので、全快してあげて」
「残念じゃが、妾はまだレベルが足らぬので、部位欠損は治せぬのじゃ……すまぬのぅ」
「いや、奴隷に回復魔法を掛けてくれるだけでもありがたいことだ。感謝する」
彼の切断された腕は俺が拾ってある……。
他の者には上級回復魔法を使ったが、彼だけは理由があって止血だけにしている。
上級回復魔法を掛けまくるフィリアと未来に、冒険者のお姉さんたちからの勧誘が当然あったが、俺に睨まれて渋々諦めたようだった。
「そういえば、あなたも奴隷だったんですね? 冒険者の1人かと思っていました」
「俺も元は冒険者だったのだが、貴族に騙されてしまってな……今は犯罪奴隷として奴隷落ちだ」
獣人の男に声を掛けたのだが、自虐的にそう答えたのだった。
ここでやっとじっくり奴隷の少女たちを見まわしたのだが、人族の少女が2名、犬族の少女が3名、猫族の少女が2名、兎?の少女が1名、合計9名の奴隷が俺の所有物になった……助けたは良いものの、どうしようかな。
「龍馬……この娘たちどうするんだ?」
思案顔で彼女たちを眺めてたら、三田村先輩も気になってたようで、俺に聞いてきた。
「犬族の彼はともかく、他の少女たちは性の対象として競売にかけられる予定だった娘たちなんですよね」
「ちょっと待て! 俺は犬じゃないぞ! 誇り高い灰狼族だ! 犬と一緒にするんじゃない! そっちの白いのも狼人族の希少種だ。数少ない白狼族の娘なんだ。大事に扱うんだぞ」
「奴隷のくせに随分偉そうね! 奴隷落ちした理由なんか知らないけど、いつまでも冒険者のつもりでいるんじゃないわよ! 主人に対しての言葉遣いはちゃんとしなさい! 回復までしてもらっておいてその態度は不敬だわ!」
冒険者のお姉さんが注意してくれたが、奴隷制度のない国の俺からすれば逆にうろたえてしまう。
「ああ、別にそういうのは良いです。皆に1つ聞くけど、娼婦になるのは嫌だよね?」
皆、激しく頷いている……まぁ、当然だよな、好き好んで男に良いように抱かれる商売女に成りたい人なんか、そうはいないだろう。
雅が触ろうとしていたのは白狼族という希少な種族の娘のようだ……この娘、確かに耳や尻尾が白い毛でフワフワしてて可愛いんだよね。奴隷の娘たちの事も悩みの種だが、実は逃げ出した冒険者たちも現在進行形で問題だった……。
どうも血の匂いに誘われてやってきた野犬の魔獣の群れと逃走中に鉢合わせになったようで、追われてまたこっちに逆走してきているようなのだ。
放っておいたら追いつかれて死ぬだろうな……面倒な事この上ない……。
「ん、わんこ~おいで~チッチッチッ……」
「コラ雅! 失礼だぞ。それに獣人にとって耳や尻尾を触る行為は、余程親しい関係の者だけだ」
「ん? そうなの……?」
雅に悪気はないのだが、獣人を動物扱いするのは最低の侮辱行為にあたる。それに尻尾や耳を触っていいのは、家族や恋人のような凄く親しい者だけだ。
「はい……凄く敏感な所なので、恋人とかでないのなら触れてはいけません……」
「ん、ごめんなさい……知らなかった……」
雅が触れようとした犬族の娘が申し訳なさそうに答えてくれた。
「素直に謝れる良い娘だ。雅、超可愛いぞ~」
抱き上げて、雅のほっぺにキスをした。雅は嫌がることもなく、なんだか嬉しそうなので、俺は更に良い気分になる。
その時、倒れた馬車の中から声がする。
「おーい! 誰か引っ張り出してくれ!」
その声を聴いた瞬間、冒険者の女性たちがチッと舌打ちしたのが聞こえた。
そいつは、荷物の下敷きになり出れなくなっていたみたいだ。冒険者のお姉さんに助け出されたそいつは、この商隊のリーダーの宝石商のようだ。少し小太りのそいつは、周りをぐるっと見回した後、にんまりと笑ったのだった。
『……マスター、ナビーの懸念が的中したようです』
『どういうことだ?』
『……すぐに分かります』
「どうやら、ポッパーの奴は死んでしまったようですね。まぁ、なんというか……これは不幸中の幸いです」
「バグナーさん! この方たちが助けに入ってくれたおかげで命拾いしたのです」
女性冒険者の1人が何やら感じ取ったのか、そう発言したのだが、宝石商からふざけた発言がなされた。ちなみに、ポッパーとは奴隷商人だった人の名前だ。
「私は助けてくれなど、一言も言ってないですよ? よって、この奴隷と盗賊たちの権利は全て商隊長の私のモノになります。あなたが、パーティーのリーダーですね? 私の言ってる事、お分かりです?」
三田村先輩に向かって、にやけながらそう言ったのだ。
「俺はリーダーじゃないが……助けてもらって礼も言えないような奴の為に殺人をしたかと思ったら、無性にやるせないな……」
三田村先輩、超お怒りです。言葉は穏やかだが、殺気がダダ漏れですよ……。
そういえばこの人、礼節にうるさい人なんだよね……初めて会話した時、ちょっとバカにしたら『殺すぞ』って凄まれた事があったっけ。
「あれ? では、どなたがリーダーですか? あなたです?」
今度は三月先輩の方に話しかけた……別にいいけどね。
「一応、俺がリーダーです。あなたは、頼んでもないのに勝手に助けたので、権利は全て自分のモノだと主張するのですね?」
「ええ、当然じゃないですか。一言も救助要請などしていないのに大きなお世話です!」
「ちょっとあんた! いい加減にしなさいよ! この人たちが助けに入ってなかったら、あんたも殺されていたんだよ!」
実際そうなのだが、商人が言うような、そういう規則があるなら面倒だな……。
『ナビー、こいつは悪人だよな?』
『……いいえ、悪人ではないです……当然、善人でもないですけどね。奴隷たちがあまりにも可愛い粒ぞろいなので欲が出たようです。マスターたちが、子供たちだけのパーティーだと思って、舐めてかかっているのです。戦利品全部って考えではなく、最初に無茶ぶりをして、交渉で盗賊たちとその持ち物はマスターたちに、高額で売れる奴隷たちは自分のモノにする気のようです。商人の交渉術の1つですね。ちなみに、そこの白い娘1人で、盗賊全員の価値より上です。馬や武具を含めても、もう1人付ければおつりが出るほど価値のある娘ばかりですね』
『ふざけたヤツだな……ちょっと俺の思考を読んで、問題ないか判定してくれるか?』
『……マスター……「お主も中々の悪よのぅ~」』
『ハァ? お前ナニ悪代官風な口調で言ってるんだよ! どこでそんなネタ仕入れたんだ! 俺は越後屋か!?』
『……流石マスター! 凄く良いツッコミです!』
『はぁ……で、どうなんだ?』
『……限りなくグレーですが、問題ないです……』
ナビーは何やらちょっと不満げだが、問題ないようだ。
「ちょっと聞くけど、今、奴隷の権利は盗賊のボスに移ってるんだよね?」
これに答えたのは、例の獣人の男だった。
「そうだ、奴隷商人が死んだので、殺した奴に権利が譲渡される事になる。なので、今、俺たちはそこの盗賊の奴隷として扱われることになる……だが、盗賊の権利が倒した商隊にあるのだとしたら、その権利は商隊のリーダーのモノになる。その辺は最初の護衛依頼の契約時に成されているはずだ」
「今回の契約では、倒した魔獣は倒した冒険者に権利をあげるが、捕えた盗賊は商隊のモノということになっていましたよね?」
ニヤッと笑いながら宝石商が答えた。
「そうですか、分かりました……」
「ちょっと待って! すぐ諦めないで、もっと交渉すれば少しは貰えるはずだよ!」
冒険者のお姉さんは、全部商人に持っていかれるのが不当で腹立たしいようだ。
勿論俺がそれを許すはずない!
「龍馬……お前でもどうしようもないのか? 俺らじゃ結局あの娘たちを救えないのか?」
三田村先輩は悲痛な顔で俺を見てきた。殺人までさせておいて、俺が黙ってるわけないでしょ!
「おいお前ら! どうやら俺は大きなお世話をしたらしい。なので、お前たちを解放してやる。所持品は返さないが、命だけは助けてやる。あと、この剣を1本だけ返してやる。だが逃げる前に、小太りのおっさん以外に危害を加えたらその場で即殺す! 俺の意図が理解できた奴は、その場で頭を地面にひれ伏せろ!」
俺の意図を真っ先に理解したのが商人だった。
「ちょっと待ちなさい! あなた、私を殺す気ですか!」
「ん? 俺は一言もそんなことは言ってないけど? 俺がいつ殺せと言いました?」
『うぐっ!』っという苦虫を噛む潰した声を発して、商人は俺を睨んでいる。目の前の宝石商人の言い回しをそのまま使った、事実上の死刑宣告だ。
「お姉さん、1つ聞くけど、盗賊を解放した際に、商隊のリーダーが死亡した場合、権利はどうなる?」
「う~ん、権利者が不在扱いになって、商人たちがギルドに登録していれば半分は商人たちの遺族に、もう半分はこの地の領主様のモノになるのかな?」
「護衛してたお姉さんのモノにならないの?」
「うん。逆に護衛依頼失敗として冒険者ギルドに違約金を取られることになる」
「じゃあ、商人が死んだ後に盗賊がまだ残っていて、それを俺たちが再度横から割り込んだとすれば?」
「あっ! それだと権利はあなたたちのモノになる!」
「というわけで、盗賊のリーダーのお前だけは残ってもらう」
「待ってくれ! 私が悪かった! 盗賊の権利は全て君たちにあげよう!」
「まだ勘違いした奴が居るな……助けてもらって恩を仇で返すような者の命など知ったこっちゃない!」
「分かった! 奴隷の権利もやろう! だから殺さないでくれ!」
「まだ勘違いしているね……俺が殺すんじゃなくて、勝手に盗賊が逃げる際に1人殺していくだけです。あなたの言い方だと、まるで俺が脅迫しているみたいじゃないですか? 俺は殺せとか一言も言ってないのに……」
「本当にすまなかった! さっきの『助けてくれとか一言も言ってない』とかの発言も取り消す! ちょっと欲が出てしまったんだ! お願いだ、許してくれ!」
バグナーという宝石商人は泣きながら懇願してきた……後ろを見たら、フィリアと未来ちゃんがあきれたような目で俺を見ている。
「なあ、三月……龍馬ってワルだよな?」
「どうなのでしょう……本当に殺す気だったのなら悪でしょうけど、彼は計算高いですからね。ほら、あの『みやび』って子と『かおる』って子……凄くキラキラした目でこの状況を見てますよ」
盗賊のリーダーから奴隷の権利を俺に移させ、改めてバグナーと今後の交渉をする。
「あなたの宝石まで寄こせとは言わないけど、奴隷と盗賊は貰うからね。普通は命を助けてもらったのだから、それプラス謝礼が相場なんだろうけど、あんたから一切貰いたくないからそれはいいや」
盗賊たちが約束が違うと騒ぎ出したが、冒険者のお姉さんたちがタコ殴りにして黙らせた。
「お姉さんたち、気持ちは解るけど、あんまり痛めつけないでください! 商品価値が下がっちゃいます!」
「「あっ! そうだった、ごめんね……」」
逃げ出した奴はともかく、仲間を何人か殺されているのだ……本当ならこの場で殺したいはずだが、我慢してくれているようだ。
ある程度落ち着いたところで、仲間の亡骸の側で彼女たちは泣いていた。
「フィリア、未来、皆に回復魔法と【クリーン】をお願い」
「全回復で良いのか?」
「うん。交渉は終えたので、全快してあげて」
「残念じゃが、妾はまだレベルが足らぬので、部位欠損は治せぬのじゃ……すまぬのぅ」
「いや、奴隷に回復魔法を掛けてくれるだけでもありがたいことだ。感謝する」
彼の切断された腕は俺が拾ってある……。
他の者には上級回復魔法を使ったが、彼だけは理由があって止血だけにしている。
上級回復魔法を掛けまくるフィリアと未来に、冒険者のお姉さんたちからの勧誘が当然あったが、俺に睨まれて渋々諦めたようだった。
「そういえば、あなたも奴隷だったんですね? 冒険者の1人かと思っていました」
「俺も元は冒険者だったのだが、貴族に騙されてしまってな……今は犯罪奴隷として奴隷落ちだ」
獣人の男に声を掛けたのだが、自虐的にそう答えたのだった。
ここでやっとじっくり奴隷の少女たちを見まわしたのだが、人族の少女が2名、犬族の少女が3名、猫族の少女が2名、兎?の少女が1名、合計9名の奴隷が俺の所有物になった……助けたは良いものの、どうしようかな。
「龍馬……この娘たちどうするんだ?」
思案顔で彼女たちを眺めてたら、三田村先輩も気になってたようで、俺に聞いてきた。
「犬族の彼はともかく、他の少女たちは性の対象として競売にかけられる予定だった娘たちなんですよね」
「ちょっと待て! 俺は犬じゃないぞ! 誇り高い灰狼族だ! 犬と一緒にするんじゃない! そっちの白いのも狼人族の希少種だ。数少ない白狼族の娘なんだ。大事に扱うんだぞ」
「奴隷のくせに随分偉そうね! 奴隷落ちした理由なんか知らないけど、いつまでも冒険者のつもりでいるんじゃないわよ! 主人に対しての言葉遣いはちゃんとしなさい! 回復までしてもらっておいてその態度は不敬だわ!」
冒険者のお姉さんが注意してくれたが、奴隷制度のない国の俺からすれば逆にうろたえてしまう。
「ああ、別にそういうのは良いです。皆に1つ聞くけど、娼婦になるのは嫌だよね?」
皆、激しく頷いている……まぁ、当然だよな、好き好んで男に良いように抱かれる商売女に成りたい人なんか、そうはいないだろう。
雅が触ろうとしていたのは白狼族という希少な種族の娘のようだ……この娘、確かに耳や尻尾が白い毛でフワフワしてて可愛いんだよね。奴隷の娘たちの事も悩みの種だが、実は逃げ出した冒険者たちも現在進行形で問題だった……。
どうも血の匂いに誘われてやってきた野犬の魔獣の群れと逃走中に鉢合わせになったようで、追われてまたこっちに逆走してきているようなのだ。
放っておいたら追いつかれて死ぬだろうな……面倒な事この上ない……。
10
お気に入りに追加
8,871
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ユウ
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。
突然足元に魔法陣が現れる。
そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―――
※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる