愛玩兄弟

Rico.

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第三章

高校生男子の健全な休日

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「チィちゃんいらっしゃーい!」
「おう」
「さぁさぁ上がって上がってー!」
「って、なんであなたが出るんですか!」

チャイムに反応して、太陽みたいな笑顔で来客を迎えた夕貴は、いそいそと千智が座るためのクッションを用意した。
シンプルな白のクッションは、いつも綾がテレビを見ながらくつろぐ時に使用されているものである。来客用に二つ用意してあるが、来客が二名となった現状綾が座る場所は固い床となってしまった。

別に構わないけど、と心の中で呟き呟き端っこの方へ座ろうとしたら、ぐい、引っ張られて夕貴の膝へ収まることとなった。

「…ですよねぇ…」
「ん?」
「いえ、何も」

気取られない程度の短いため息を吐く。

今日は待ちに待った週末だ。
昨日の金曜日、花金を謳歌しようとする会社員よろしく勢いよく帰宅した綾は、それよりも素早く動いたらしい夕貴に部屋の前で捕まった。
本当は千智の部屋で週末泊まり込みでゲーム三昧の、いかにも男子高校生らしい休日を(そんな過ごし方に、綾はひそかに憧れている)送る予定だったのに、一転、夕貴に転がり込まれて千智を我が部屋に迎えることとなった。

昨夜、無理矢理二人で寝転んだベッドの狭さに身体が痛い。

「他の奴らは?蓮は来ンのか?」
「呼んでもいいよー?でもあんまり多いとさ、ユウちゃん素直になれんかなーって」
「まぁ…鈴木野郎は不要やな」
「え、なんです?なんなんですか?」

二人の会話に嫌なものを感じて、綾は半ば逃げ腰で先輩二人を見上げた。

まるで子うさぎのような後輩は、彼らにとって涎の止まらない獲物に違いない。
夕貴と千智は満面の笑みで、一本のDVDを取り出した。

「じゃーんっ!今日はユウちゃんのための、AV鑑賞会でーすっ!」
「は!?え!?なに!?」
「これ観るンいつぶりやろなぁ…間違いナイから期待しとけや」
「いや、そんなことはどうでもよくて!AVって、なんっ…!」

タイトルだけで真っ赤になる綾を、夕貴はがっちり捕まえて離さない。

「ユウちゃんがあんまり無防備だから?俺、昨日も言ったけど。欲求、きちんと発散させたげた方がいいかなーって。いいよなーって。決まったの!」
「決まったの!?いつ!?」
「昨日」
「チィ兄も!?」
「土日空けててもらいたかったからね!あはは!」
「あははじゃないーっ!」

逃げようと暴れる綾を夕貴が押さえ込んでいる間に着々とDVDはセットされ、電子機器の動き出す音が響き始めた。
ロード時間もほとんどなく、最新機器が無駄に豊富な自分の部屋を恨む。
せめて画面から離れようと最大限顔を背けようとするが、背後から抱き抱えられる状態ではどうしても目の端に肌色が見え隠れした。

見慣れない女性の身体に、恥ずかしさで目が眩む。
あぁだこうだ言いながらセッティングを進めていく先輩を止めようにも止められず、綾は目をつぶることにした。

「ほら、ユウちゃん始まるよー!」
「みっ、見ません…!俺は見ませんから!」
「目ぇつぶっても音は鳴るから一緒やぞ。観念せぇ」
「手、押さえてたら自分で出来へんよ?俺がシていい?」
「しなくていいですし、自分でもしませんからっ…!」

最悪だ、そんなことを思う間もなく、最高品質のステレオから艶っぽい声と湿った音が聞こえてきた。

アダルトビデオなど、生まれてこのかた観たことがない。
耐性ゼロの空間の中、綾は強く目をつぶり、唇を噛んだ。

(うぅ、音が響く…っ)

視界がない分聴覚が敏感に音を拾ってくる。
無意識に想像力が掻き立てられて、綾は足の指先をこすり合わせた。

「あぁ、ねぇユウちゃん反応してきた」
「ほんまに感じやすいなぁ」
「その顔あかんよ?ついイタズラしたくなっちゃう」
「いッ…!」

ゆるく反応していた下腹部に触れられ、綾は思わず夕貴を見た。
少し、色の入った夕貴の顔。
文句を言おうとして、言葉が詰まる。

「ほら見て。ちゃんと慣れて発散させてかないと、ユウちゃん男寄せ半端ないんだから」
「やっ…、チィ兄…!」
「また俺にシて欲しいンか?」
「ちがっ…」
「チィちゃんだけずるいなぁー。俺にも見せてよ、ユウちゃんのイくとこ」

こんなの、AV鑑賞会じゃない。
画面の中の女優なんかより、左右の先輩二人に反応してしまってる。

夕貴の言う通り、迫られてドキドキしてしまう自分に気づいて、綾はそんな自分から目を逸らすように首を振った。
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