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第三章
君がため 2
しおりを挟むだ、ん。
トイレに着くなり奥の壁際に追いつめられて、綾は震えながら夕貴を見上げた。
昼休みも半ばの今、トイレに来る生徒はまだほとんどいない。
比較的最近改修されたらしいトイレは明るいアイボリー色の壁で、上部に設置された窓から差し込む日差しが反射して眩しい。
男子校には珍しく、小綺麗な個室が並んでいる。
ぐい、顔を近づけてくる夕貴はどこか怒っているようで、綾は機嫌を伺うように夕貴を見つめ返した。
「サエ先輩?あの、これは一体…」
「ユウちゃん、俺のことどう思ってる?」
「えっ…?」
予想していなかった言葉に一瞬言葉がつまる。
いつもなら矢継ぎ早に言葉を続けてくるのに、今回はあくまでも綾を待つ姿勢らしい夕貴に、綾はぐるり、頭の中を一周した。
「サエ先輩は…なんていうか、明るくて、楽しくて…スキンシップが好き、なひと?」
「俺がやなくて。ユウちゃんが俺のことどう思ってるかが聞きたいん」
「えと…いい先輩だなって。色々構ってくれるし、気にしてくれるし、最初に知り合えてよかったと思ってます」
嘘ではなく、真摯に答えた。
なんとも社交辞令じみた月並みな言葉だが、別段夕貴の顔色を伺ったわけではない。
へぇ、と息を吐くように返事をして、夕貴は綾の顎を持ち上げた。
「ねぇ、俺のことスキ?」
「ぇ、あ、好き、です」
「じゃあ、俺の言うこと聞けるよね?」
「なんですか…?」
どくん、どくん、心臓が鳴る。
「いつも、誰に対しても油断しちゃダメ。友達でも、俺らでも。そう言ったよね?」
綾は、ここに来た当初、鍵を春人に盗まれて犯されかけた時にも夕貴は怒っていたのを思い出した。何をされるのかわからない圧迫感に緊張していたが、今回もまた怒っているのだ。
そう気付いたら、もう怖くはなかった。
千智は、大きく包み込んで癒してくれた。和也は面倒事を引き受け、涼樹や蓮は綾を気遣ってなだめてくれた。
それぞれ、それぞれの感情で自分を守ろうとしてくれている。
綾は、こくん、頷いた。
「ユウちゃんが傷付くのは嫌なんよ。俺、四六時中ついててあげられないし、ほんとに気をつけて」
「はい。ありがとうございます」
「ユウちゃんはカワイイんやからね!もっと自覚持たんと」
むにむにむに、顎を包んだまま綾の頰を揉みしだく。
くすぐったくて気持ちよくて、綾は抵抗しつつも笑ってしまった。
「ちょっと聞いてる!?ほんまにほんまに気をつけないと、俺が抱いちゃうからね!?」
「はぁっ?サエ先輩和也さんいるでしょ!」
壁ドンした状況を利用して押し迫ってくる夕貴を退けのけ、綾は思いきり夕貴にじゃれついたのだった。
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