愛玩兄弟

プロローグ

序章

「今日からこの学校に転校してきた、結城綾りょうくんだ」

その日、学校はいつになくざわついていた。
新しい転校生、この田舎の、ほとんど引っ越してくる人などいないようなところに転校生がやって来る。そのニュースは彼が教壇に立つより以前から生徒たちの間には広まっていて、学生たちの話題の中心を占めていた。

どんな子だろう、どうして来たんだろう、様々な憶測が飛び交う中、彼は今日やってきた。季節はもうすぐ初夏、そろそろ長袖は要らなくなりそうな頃。
しゃんと背筋を伸ばして、淡い栗色の髪をほのかな風に揺らしながら教室を見つめている。

「おいおい、あれはなんやねん」
「まった可愛い子が来たなぁ。蓮ほどちゃうけど」
「うるさいよ」
「俺…ちょっとトイレ行ってくるわ」

ざわざわと揺れる教室を静めるように、先生が彼に自己紹介を促す。

「さ、簡単にで良いから、皆に自己紹介してくれるかな」
「…はい。東京から来ました、結城綾です。よろしくお願いします」
「じゃあ、君は空いてるあの席に座ってくれ。さあみんな、浮かれてないで授業を始めるぞ」

事務的な作業を終え、何事もなかったかのように先生は教科書を広げた。
教室も、優雅に席へ向かう彼をちらちらと見つつ、各々授業の準備を始める。

綾は、窓際の席に腰掛けつつ、心地よい春の風に目を細めた。