きのまま錬金!1から錬金術士めざします!

ワイムムワイ

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逃亡/かくれんぼ/爆炎

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「逃げ場なんてないぞ!大人しく投降しろ!!」
「嫌よ!私はクリクラウス家の娘!私にこんな事をしてただで済むなんて思わないことね!!」

 しーちゃんが逃げようとしていた道は、すでに他の兵に封鎖され前と後ろを取り囲まれてしまっていた。

「我々は国王の命で動いている!そしてどこぞの悪党でもない!もはやそんな肩書きは意味がない事を理解しろ!!」
「私は無実よ!当然、私の両親もね!!後で痛い目を見るのはどちらかしらね!」
「全員構わず前進!少しくらい手荒で構わん取り押さえろ!!」
「くっ!」
「ふーー!!」

 しーちゃんの前後からじりじりと4人の兵士達が迫り、その前後にも数人の兵士が警戒し構えた。
 あっくんは近づくなと言わんばかりに威嚇の声を上げるが、相手は訓練を積んだ兵士だ。何の脅威にもなりはしなかった。

「こ、来ないでーーー!!」

 兵士の手が無情にもしーちゃんに伸びた。
 そんな時、しーちゃんとその周りの兵士の辺りに白い煙が立ち込めた。

「な、なにが・・・・・・」
「頭を低くしてなさい!!」

 何が起きたか分からないものの、その指示は自分に向けての物だと悟ったしーちゃんは頭を抱えてしゃがむ。

「ぐあっ!!」
「がはっ!!」
「ぐべしっ!」
「煙の中に何かいるぞ!全員周囲を警戒!!」

 少しして煙が薄れていく。
 すると、3人ほど気を失い倒れている兵士。それと4人の周囲を警戒する兵士。
 他には誰もいなかった。
 当然しーちゃんも・・・・・・。

「くそっ!逃げられた!!こうなれば町の出入り口を封鎖!!この件をベナード殿にも伝達!!」

「「はっ!!」」

 こうして、しーちゃんは難を逃れる事ができたのだった。

「な、なんで私を助けたのよ!!ミィナちゃんこれがどういう事なのか分かってるの!?」
「分かってます~。私達もしーちゃんの共犯になってしまうかもなんですよね?」
「そうよ!だからっ私も我慢して名前を呼ばないようにして!他人の振りをしたのに!!」
「そんなん知らんな。なんたって俺は猫だからな!」
「トラジ・・・・・・。申し訳ない」

 しーちゃんはトラジの方を向いて睨んだ。

「猫!あんた何言ってるか知らないけど、なんでミィナちゃんを止めなかったのよ!!」
「ふんっ!俺は猫だからな。人間の考えなんぞ知らん」
「主、猫だから分からないと言って――」
「ご主人様~・・・・・・。なんでこんな時に限ってそんな事を?全部知ってたじゃないですか、むしろ私よりも」

  ちっ。
  こういう時は猫ぶってた方が楽なのにバラされた。
  ・・・・・・猫だけど。

「それはそれでどうなのよ・・・・・・。と言いたいけど、実の所助かったわ。それと巻き込んでごめんなさい・・・・・・」

  もっとツンケンな事言われるかと思ったが、素直な事も言えたんだな。

 トラジはそう思いながら知らないフリをしつつ部屋を出た。
 強がってはいたものの不安や恐怖を押し殺してたのだろう。
 その直後、大きな声で泣くしーちゃんとそれを宥めるミィナの声が聞こえてきた。

「それで、どうされるんですか?トラジ様」
「そりゃ決まってるだろ?取りあえずこの町からしーちゃんを逃がす。それより、バーコード親父の方はどうだった?協力してくれそうか?」
「協力は出来ないそうよ。でも、『通報はしない好きにしな』とか言ってたわ。協力出来ないとか・・・・・・。ご命令とあれば脳天に一撃入れてきますが、どうしますか?」
「おいぃ!!すんな!!ダメ絶対!!」

  それ裏で協力してやるって言ってるようなもんだぞ!!

「えーとですね。表だって協力は出来ないって意味でして・・・・・・。そ、それで許してもらえませんか?」

  げっ!
  バーコード親父の娘ワカバに聞かれてた!!

「も、勿論だ!!それだけでも十分助かるし感謝してる!ほら、ナイミ通訳して」
「仕方ないわね。有難く思いなさい、トラジ様は感謝するそうよ!」

  意味は合ってるが、言いたい事となんか違う!!!!

「トラジ様って・・・・・・。その猫の事ですよね?」
「その通りよ」
「そ、そうですか・・・・・・」

 ワカバは微妙な顔でトラジを見た。

  あー、変な勘違いされた・・・・・・。

 そして、小一時間程して町を脱出する準備ができた。
 作戦自体は簡単だ、バーコード親父の馬車に積まれた荷物に紛れてドナドナされるだけだ。

「お父さん気を付けてね」
「何を気を付けるってんだか。商売の為に隣町まで行くだけだろうが」
「その調子なら演技の方は大丈夫そうね。ミィナちゃんもエリュシーちゃんも気を付けてね」
「色々とありがとうございます~。今度何かお礼させてください」
「いいのいいの。もうすでにガッツリ儲けさせて貰ったからねー」
「何か儲けたんですか~?」
「ちっ。バカが」
「あ、あーっと!何でもないです何でも!!」

  あー、あのぷちスライムのやつかな?それともライガーウルフか?
  俺らにはまだスライムの時の報酬が無いのになー・・・・・・。
  あれで儲けれるなら錬金術士がダメだったら商人目指すのもありかもなー。

「まさか、私だけ別行動なんて・・・・・・」
「すまんな。ナイミにあの家を任せるしかなくてな」

 実のところ、身体能力や運動神経の高いナイミを連れて行き、ミィナを置いて行く案もあった。
 だが、ナイミはしーちゃんに対して興味も薄く、たやすく切り捨てる判断を下す可能性が高かった為に置いて行く判断をしたのだ。

  それに、通訳があれだしな・・・・・・。

「・・・・・・理解はしてます。トラジ様達が指名手配されたら、跡形もなくあの家を燃やせばいいんですね?」
「えーと、今なんか凄い事さらっと聞いた気がする・・・・・・」
「そうだ。ミィナ達の両親の研究を知られる訳にはいかないからな。ま、誰にもばれずに済めばまたこの町に戻るけどな」
「ほら!もう行くぞ!!」

 ガラガラガラ・・・・・・。

 バーコード親父がそう言うと、他の商売仲間から借りてきたらしい馬車を発進させた。

  下手をすると、もうこの町には戻って来れなくなるのか・・・・・・。
  これでお別れかもと思うとつい感慨深くなるな。
  瀕死の猫に転生してから色々あったなぁ。
  長い筈の転生前の俺の人生より濃密で濃い日々だった気がする。

 今までの出来事を振り返ると、トラジの目にうっすら涙が浮かぶ。

  エリィ&黒猫やリーヤにヤガタにアメリー色んな人の世話になった。
  助けようとして助けてやれなかったウリリ。
  苦い経験もした。
  改めて、人と人は支えあって生きてるんだなって思える。

 などと、トラジは狭い樽の中でミィナの胸に体が埋まりながら思った。

  シリアスぶち壊しとか違うから!
  仕方ないんだ狭いし!
  んでもってありがとうございます!!

 ガラガラガラッ・・・・・・。

 ガタガタと揺れを立てつつ馬車の車輪が回転して進んでいく。
 ミィナは頭を樽から出して周囲を見ていた。

「ミィナ。一応言っとくが、何かあればすぐに樽に蓋をして隠れれるようにしておくんだぞ」
「了解です~」

 そんなミィナを申し訳なさそうにしながら、別の樽から顔を出して見ていたしーちゃんが口を開いた。

「・・・・・・今更だけど、ミィナちゃんまで付いてきちゃって大丈夫なの?」
「トラジさんがいるので~。大丈夫です」
「それもあるけど・・・・・・。そうじゃなくて、見られてないんだからミィナちゃんまで一緒に逃げる必要なんて無いはずでしょ?」
「それは違いますよ~」
「違うって、どういう事?」
「私は~、逃げてるんじゃないんです。しーちゃんを助けてるんです」

 思わず感極まってしまったのだろう。
 しーちゃんは樽の中に引っこみ、その樽からはすすり泣く声が聞こえてきた。

「泣かせちまったみたいだな」
「いいんです~」
「いいのか?」
「だって~、嬉しいなら良し!なんですよね?」
「確かにな」

  これは覚えてるな。
  ミィナと犠牲にしちまったゴーレムを作る約束をした時だな。
  覚えてくれているのは成長してるって事だし良い事だ。
  だがその反面・・・・・・、余計に下手な事は言えなくなったなぁ。
  あのスライムのうんちやハナクソみたいな黒歴史をミィナの記憶に多く刻みかねん・・・・・・。

 馬車は町中を進んでいく。
 天幕が張られている荷台の中、隙間から僅かに入る光と景色をミィナは見ていた。

  ミィナは何を考えてるんだろうな。
  ただ、ぼーっと外を眺めてるようにしか見えない。
  もう戻って来れないかもしれない町を見て何を思うんだろうか?

「なぁ、ミィナはほんとにこれで――」

 その時だった。
 馬車が動きを止め、馬のいななきが聞こえた。
 嫌な予感がしたトラジはミィナとあっくん、それにしーちゃんに樽に蓋をして隠れるよう指示をした。

「なんなんだてめーらは!」
「われわれはこの国の兵士だ。今この町にいるであろう犯罪者を探している。すまないが、後ろの荷台を確認させてもらう」

 トラジは耳を澄ます事で外の会話を聞き、状況を把握する。

  チッ!
  つまりこれは検問か。
  パッと見で終わらせてくれればいいんだが・・・・・・。
  ヤバイな・・・・・・。

「けっ!これから仕入に行くのに何もありゃしねーよ。空箱くらいしかねぇってのに・・・・・・」
「それを確認させて貰う」

 ドタドタッガタガタッ。

 荷台に一人と思われる足音と、他のダミーで置いていた木箱などを動かす音が聞こえてきた。
 やがてしーちゃん隠れている樽の前で足音が止まった。
 するとミィナが自分から動いた。小声でごめんなさいと言って・・・・・・。

 ゴロンッ!

「な、何者だ!?」

 ミィナは体に力を入れて、兵士の手がしーちゃんの樽に手を伸ばす前に自分の入る樽を盛大に音を立てて倒した。

「ご、ごめんなさい~」
「子供・・・・・・?なんでこんな所に隠れていたんだ?」

  しーちゃんの為なのは分かるが、ミィナのやつどうする気だ・・・・・・?

「え、え~と・・・・・・」

  まさかのノープラン!!?

 ミィナの視線は足元にいたトラジに向けられていた。

  俺はどう助言すればいい?
  むしろ俺も助言がほしいんだけど!!
  はぁ・・・・・・、つっても俺が考えるかないんだよな。知ってんよ!

「・・・・・・か、かくれんぼを友達としてて、寝ちゃったとか?」
「か、かくれんぼを友達としてて~・・・・・・、寝ちゃいまして・・・・・・」
「なるほど、かくれんぼか。君は知らないかもしれないが、今この町には凶悪な犯罪者がいるから気を付けて帰るといい」

 凶悪な犯罪者と言われてミィナがムっとしていた。
 そんなミィナを見てトラジは内心ハラハラだ。

  ミィナは追いつめられると何をするか分からないとこがあるからな。
  死ぬ気で魔獣がいる森に行こうとしたり、命がけで俺を助けようとしたり・・・・・・。
  普段の様子からは想像しにくい行動力を見せるんだが、今はやめてくれよ頼むから。

 兵士は再び手をしーちゃんの樽へと伸ばし、それをミィナはどうするべきか考えながらじーっと険しい顔で見ていた。
 兵士はその視線が気になるようで手を止めて口を開いた。

「き、君。そんな風に見られると非常に作業しにくいんだが・・・・・・」

  わかる!
  ミィナのじと目光線に俺は何度も晒されてきたからな。

「ご、ごめんなさい~。・・・・・・さっき樽から出るときに足をぶつけちゃって、馬車から降りにくくて手伝ってくれないかなって思ってて」
「ああ、なるほど。だが、そのくらいすぐに言ってくれていいのにな」
「ご、ごめんなさい~」

  何を考えてるか分からないが、何か考えがあっての行動だろうし少し様子を見るか・・・・・・。

「ほら、手を出してくれ転ばないように支えてあげよう」

 兵士は馬車から降りてからミィナに手を差し出した。

「ありがとうございます~・・・・・・」

 ミィナは何かを考えつつその手を見つめる。
 よくみると足が少し震えていた。
 先ほど足をぶつけたとミィナが言ったからだろう、兵士はその足の震えを変だとは思わずむしろ自然と思ったようだ。

  なるほどな。
  兵士を馬車から降ろしてなんだかんだ言ってこのまま馬車を行かせるつもりか。
  となると、しーちゃんとはここでお別れ。
  それが不安で足が震えたのか・・・・・・。

 ミィナは差し出された兵士の手に手を伸ばした。

  しかし、ここでしーちゃんと別れるのはミィナにとって心残りだろうなぁ。
  だが、俺達にはその方がいいかもな。
  今まで通りの生活が送れて、しーちゃんも逃げれる訳だし。

 ミィナの手が兵士の手に乗り、ミィナが馬車を降りようとしたその時だった。

「えいっ!!」
「ぐおっっ!!」

  ちょっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 トラジはいきなりの事で驚き目を見開き唖然としてしまった。
 なぜなら、ミィナは馬車を降りると見せかけて兵士の手を自分の方にに引っ張りつつ、手を引き寄せて飛び降り兵士の股間に膝をぶちあて、体当たりで地面に押し倒したのだから。

  やべぇ!あれは痛い!!

 トラジの玉の辺りが身震いした。

  いや、そうじゃないくて・・・・・・。
  ミィナがやらかしたーーー!!
  これもう誤魔化せないだろう!
  やべぇ!!

「いってぇーーー!!」
「え、え~と・・・・・・」

 兵士は股間を両手で押さえつつ地面を左右に転がっていた。

  『え、え~と・・・・・・』じゃないだろう!!
  も、もしかして、またノープランなのか!?

 ミィナがどうしようと言わんばかりの目でトラジを見た。

  あー!もう!
  あーもう、あーもう!!
  やるっきゃねぇ!!!!

「ミィナ!!馬車に戻れ!!ここまで来たら強行突破しかない!バーコード親父には悪いが馬車を走らせてもらうように言ってくれ!!」
「は、はい~!」
「急げ!!」

 ミィナは馬車に戻り急いでバーコード親父に強行突破してほしい事を伝えた。

「ちっ。面倒な事になりやがってぇ!!」
「くそっ!!この馬車何かある!!逃がすなーーー!!」

 馬車を急いで走らせたバーコード親父と、それを追うように動き出した兵士達。

「ダメ!このままじゃすぐ追いつかれるわ!」

 さらに、もう隠れる意味はないと判断して出てきたしーちゃん。

「任せてください~!」

 そして、ミィナは馬車の後方に向かってお手製の小麦粉で作った煙球いくつも投げた。

  少しは時間が稼げるといいんだが、小麦粉だしなー。
  あと、できる事と言えばもう不要な木箱や樽を捨てて少しでも身軽に――。

 トラジが次にする事を考えていた時だった、ゴウッ!っと炎が馬車の後ろの方で上がった。

「な、なんだ?」

 トラジが後方に目をやると白かった煙が黒煙へと変わっていた。
 そして急な事で馬が驚いたのだろう、馬で追いかけようとしていた兵士達が落馬していた。

「び、びっくりしました~。粉塵爆発ってすごいんですね・・・・・・」

 前に目の前でエリィにやって見せられた時は、煙を散らされた後だった事もあり低威力だった。
 だが今回は違う。
 投げた煙球は複数で散らされる間もなく火を放った、その威力は段違いでそれに驚いたミィナだった。

「粉塵爆発!?」

  ミィナがやったんかい!
  しかも初めてっぽい?

「・・・・・・そんな危ないもんどこで知ったんだ?」
「エリィさんです~」

  エリィかよ!!
  こっちまで巻き込まれなくて良かったものの、なんつーもん教えてんだよ。あの酔っ払い・・・・・・。

 いきなりの粉塵爆発で驚いたトラジであったが、これで逃げれるとそう考えていた。
 だが、そううまくはいかない。

 それはある男がその粉塵爆発を冷静に観察していたからだ・・・・・・。

「ほう。思い切りのいい炎の燃え上がりと熱風・・・・・・。しかし――」
「感心してる場合か?」

 ミィナの放った粉塵爆発を見て少しも慌てる様子もないその男。
 逃げられる等と少しも思っていないのだろう。その顔には余裕があった。
 そして、その男は使い魔と思われる一匹の白い虎を連れていた。

「感心等していない。むしろ拍子抜けだ。本物の爆炎という物を知らないらしい」
「逃げられるぞ?」
「私が逃がすと思うか?」
「・・・・・・思わないが」

 次の瞬間逃げようとしていた馬車の目の前でミィナの粉塵爆発とは比べ物にならない大きな爆炎が起こった。
 周囲の砂を巻き上げ土埃があたりを舞い、うっすらと見える馬車と思われる影は横倒しになっていた。

「見たか?これが本当の爆炎というものだ」
「加減しろ。土埃で何も見えん・・・・・・」
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