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再起
一刀両断/火葬/復元練成
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トラジ達は前に休憩していた所まで急いで戻り一息ついていた。
「まったくついてないさね。まさか水源への通り道にあんなのがあるなんてね」
「つー事は諦めるしかないか。まぁ仕方ないんだろうけどな」
「直接見てないですけど~、ご主人様が言うなら仕方ないですね・・・・・・」
「諦める必要はないわ。ですよね?ご主人様」
「その通りさね。あんたらを連れて行くのは危なそうだから引き返しただけだからね。後で私と黒猫で狩ってくるから大丈夫さね」
「あ、危なくないのか?」
「あら、心配してくれるの?でも大丈夫よ。ね?ご主人様」
「この私が心配されるなんてねぇ。久しぶりすぎて涙が出るさね」
「酒の飲みすぎでいつか死ぬんじゃないかって、心配なら普段からしてるけどな」
「そ、それは・・・・・・。私も否定できないわね残念だけど・・・・・・」
「あんたら何の話してんだい?」
「え~と、お酒の飲み過ぎの心配の話ですね」
「その心配だけはいらんさね!!(きっぱり)」
相手のための心配でも酒やタバコの心配は煙たがれるよなぁ。
ほんと厄介な話だ。
エリィは軽く手を叩いて話を戻した。
「はいはい、それで話を戻すけどね。実のところアレをやったやつの目星はついてるさね」
「マジか!」
「えっと~、誰なんですか?」
「あれをやったのは、おそらくカイザースライムさね」
えーと、たしかスライムの中でも最上級にやばいやつだったか。
黒っぽい色のスライムなんだよな?
「ほんとに~、カイザースライムなんですか?」
「あの複数の丸い傷口はカイザーの特徴さ。やつはとにかく動きも消化能力も早い。そして動く物を敵と認識して襲う。相手がどれだけ弱ってようが死んでようが相手が動く限り攻撃を続ける。それがカイザースライムさね」
で、動かなくなると興味をなくして放置するわけか・・・・・・。
あの丸い傷口はカイザースライムの歯型みたいなもんなのか。
「そうよ。もしであったなら落ち着いて動かず静かにすることね。冒険者がすれ違いざまに、腕を一瞬でもってかれるほど消化吸収能力に優れた危険な相手なの」
「スライムってそんなに動きが早いもんなのか・・・・・・」
「これについてはカイザーが特別なだけね。研究者の話では見た目では分からないけど、体の表面を高速で回転させ、体の中をバネのように動かすことで高速で動いたり跳んだりしているそうよ」
「だ、大丈夫なんですか~・・・・・・?」
「心配性だねぇ。私ひとりなら今出てきても余裕勝ちさね!」
「フラグがたった気がするんだが・・・・・・」
「フラグですか~?」
「えっと、何かしらそれは?」
「よく分からないが、とにかく私に任せればいいさね」
また、そんなフラグが立ちそうな事を・・・・・・。
その時黒猫の耳がピクピク動いた。
「ご主人様何か来ます!」
「方向は?」
「前方右斜めです!」
エリィは背中に背負っていたでかい包丁のような刀を地面に突き刺し、腰に下げていた長めの長剣を抜き構えた。
「あんたらはそこを動くんじゃないよ!カイザーかもしれないからね!」
「フラグがーーー!」
「わっ、わかりました~」
「フラグって何よ・・・・・・」
草木を揺らしながら進んでくる音が近づいてきた。
トラジを抱くミィナの手には僅かな震えが伴っていた。
「来るよ!」
ガサッガサッ!!
「あ、あれはライガーウルフ~!」
「あれがライガーウルフか」
草の葉を撒き散らしながら出て来たのは、以前ミィナとトラジの体の前の持ち主を襲ったライガーウルフだった。
ライガーウルフはトラ柄のオスのライオンのような立派なたてがみを持ち、トラの頭と胴体に狼の尻尾をしている。
出てきたライガーウルフは勢いを殺すことなくエリィやミィナ達を無視するかのようにそのまま走り去ろうとしていた。
「いいえ。違うわ・・・・・・」
「別の魔獣さんなんですか~?」
「いいから静かにするさね!」
「ギャウッッーーー!!」
次の瞬間悲鳴のような甲高い声を上げライガーウルフが転倒した。
何が起こったか分からないトラジとミィナがその様子をよく見てみると、後ろ足が片方無くなっており血を撒き散らしていた。
「なっ・・・・・・」
「ギャウッギャ・・・・・・」
さらに次の瞬間には、急いで立ち上がろうとしたライガーウルフの頭がいきなり地面に落ち沈黙・・・・・・。
よく見ると、首に当たる部分がたてがみごと無くなっており、胴体と頭が離れていて血が勢いよく流れた。
「魔獣の事はエリィに任せて、ミィナは目を閉じているんだ」
「は、はい~・・・・・・」
トラジは何が起こったか理解した。
最初の転倒した時こそ何も見えなかったが、首が無くなった時に一瞬だが黒い影をその目で捉える事が出来ていたからだ。
その黒い影こそ・・・・・・。
「あれが、カイザースライムなのか・・・・・・」
「ええ。集中してないと目で追えないほど動きが速いのよ。だからご主人様に任せて、そのまま動かないでね」
エリィは居場所が分かっているとばかりに木の上を見つめながら、準備運動なのか両肩を回していく。
するとポチョンと言う音が聞こえ地面に黒いスライムが落ちてきた。
目に当たる部分が無くどうやって周りを見ているか分からず、不気味であったがエリィを敵かどうか見定めようと観察してるように見えた。
「まったく。カイザーがこの森にいるなんて予想外さね。こりゃ、アーグライトのやつの判断は正しかったのかもしれないねぇ。あれはなかなか面倒だけどねぇ」
アーグライトってなんだ?
スライムと何か関係あるのか?
「さて、黒いのいつでも来な!」
エリィは片手で抜き身の長剣を居合い抜きのように後ろに構えでながら、挑発するみたいにもう片方の手で手招きした。
動いたっ!
すると、黒いスライムがギリギリ目で追えるかという速度でエリィに向かって一直線に飛び出した。
「おそい!!」
だが、目で追えなかったのは黒いスライムではなくエリィの握る剣だ。
黒いスライムがエリィの目の前に来たと思ったら、エリィの剣はすでに上に振り上げられてその切っ先は空を指していた。
そして、黒いスライムは真っ二つに割れて地面に落ちて溶けていった。
「他の気配はとりあえずなさそうだねぇ。あんたらもう大丈夫さね」
「なぁ、エリィってマジですごいやつだったのか・・・・・・?」
カイザースライムは消化吸収に優れたスライムだ。生半可な速さでは、剣がカイザーを両断する前に刀身が溶かされて無くなってしまう。
それが可能である事を見せ付けたエリィ、その強さを初めて見たトラジは、素直に驚いていた。
「お酒さえ飲んでなければ、だけどね」
「ご主人様~、もう目を開けてもいいでしょうか?」
「あ・・・・・・」
ライガーウルフの血生臭い死体をあまり見せたくなかったから、目を閉じるよう指示をしたトラジだったが、その事によってエリィの雄姿を見逃したミィナに少しだけ悪い気がしたトラジだった。
「ミィナすまんな」
「はい~?」
「どうさね。少しは私を見直したかい?」
「すみません~、見てません」
「何でさね!!」
エリィすまん。
その後、ライガーウルフの死体を軽く血抜きして軽くし、持って来た袋に詰めて持ち帰る事にしたのだが、意外な事にミィナが待ったをかけた。
「あの~、あの放置されたという死体はどうするんですか?」
「ん?どうもしないさね。あんなでかいの持ち帰れるわけ無いだろ?」
「えっと~、そうじゃなくて。死んでるのにいつまでもあのままなのは、良くない気がして・・・・・・」
「一理あるわね。あそこまで腐敗が進んだら、もう他の魔獣が食べることはまず無いわ。そして、さらに腐敗が進めば生じた毒素で周辺の木々を枯らしかねないもの」
「でもねぇ。あんなでかいの土に埋めてやる事なんてできやしないさね」
「そう、ですよね~。無理な事言ってごめんなさい・・・・・・」
「いや、ミィナあんたは正しい事を言ったさね。その気持ちは大事にしときな」
「いえ~、実はこれもご主人様に教えてもらったんです」
「は?」
「へぇ。猫スケがねぇ」
「当のトラジは心当たりがなさそうだけど、知らないフリなのかしら・・・・・・」
続けて黒猫は聞き取れないような小声で『そういうのも、ちょっとカッコイイじゃない』と付け加えた。
んー。
何か言ったっけ?
まったく覚えが無い・・・・・・。
色々大変だったからかなぁ?出てこないな。
ま、分からないのは仕方ないとしてここは・・・・・・。
「その事は置いておくとして、せめて火葬くらいしてあげたらどうだろう?」
「それも大変そうではあるけど、出来なくはないわね」
「ミィナ、猫スケはなんて?」
「えっと~、火葬はどうだろうって言ってますね」
「ほんと猫スケは猫なのに色々知ってるね。ま、確かに面倒だけど出来なくはないさね」
ミィナとトラジと黒猫を残してエリィはあの腐敗臭を発していた死体を燃やしに向かい、しばらくしてドシン!と何か大きな物が倒れる音がした。
ミィナはエリィを心配したようだが、黒猫は心配いらないと言いきっていた。
さらにしばらくしてエリィが戻ってきた。
「ご希望通り火葬してきてやったさね。もう骨しか残ってないよ」
「なぁ、なんかデカイ音がしたんだが何か知ってるか?ミィナ頼む」
「えっと~、大きな音が聞こえたんですけど何か知ってますか?」
「ん?ああ。あれは近くの木を切り倒しただけさね。火が燃え移ると面倒だからね。ちなみにほとんど使っちまったが火はコイツを使ったさね」
エリィが取り出したのは使い捨ての魔道具で火炎球と言われている。
ビー玉程の大きさで、一旦使うと燃え尽きるまで炎を吐き出し続ける。大量に持ち運びが出来て、それなりに長持ちする事から冒険者も良く使う。
「あの~、火葬してくれてありがとうございます」
「ま、これくらいいいさね。それとこれはお土産さ」
そう言ってミィナに差し出したのは立派な4つの牙だった。
「これ~、貰っていいんですか?」
「あんたが言い出したんだし、いいに決まってるさね。素材としてはライガーウルフよりかなり上等なもんだし、遠慮なく使うといいさね。それと・・・・・・」
「それと~?」
「おりゃっ!」
ばさぁ~~~っ!
何をするかと思えばエリィはその場でローブの下のミィナの長めのスカートを勢いよく捲った。
「きゃ~~~!な、何するんですか!!」
ミィナは顔を真っ赤にして両手でスカート押さえトラジは地面に落ちた。
「普通の白かい。もう少し色気があっても良さそうなのにねぇ・・・・・・」
「ちょっ!危ないだろうが!!」
「ご主人様・・・・・・。ちゃんと話すべきだと思いますよ?」
「分かってるさね。ミィナあんた採集には向かないからその長めのスカートはやめておきなよ?あと、スカートの場合でも足の地肌をなるべく出さないようにしときな。長めの靴下でもタイツでもいいけどね。森には魔獣だけじゃない小さな毒虫なんかも出たりするからね」
「そういうのは行く前に教えてくれよな」
「今回は良く知ってるクオの森だったのと、ご主人様と私で大抵の事は済ませるつもりだったから言わなかったんだと思うわ」
「なるほど・・・・・・」
「いや、単に今思い出しただけさね!(キッパリ)」
「ああもう!どうしてご主人様は、自分で評価を落とすようなマネをするのかしらーーー!!」
そして、エリィがライガーウルフの死体を引き摺り、町まで帰ってそのまま解散。
ミィナとトラジは無事に家に帰りつく事が出来たのだった。
ちなみにライガーウルフの死体はバーコード親父の店に売られ、お金はエリィの酒代となって消えた。
「ご主人様。それとミィナお帰りなさい」
「おう。ただいま!」
「ただいまです~」
家に帰るとナイミが出迎えてくれた。
下着姿の上から少しゆったりめのTシャツを着ていた。
「ときにナイミくん。その服装はなにかね?」
「ダメでしょうか?」
ナイミは自分の今の服装を見直すかのように手でシャツの裾を引っ張り眺めた。
すると、ナイミのおヘソがコンチワした。
海で水着の上からシャツを着てる人を見たことがあるが、家の中でそんな感じのやられるとエロいもんだな。
うん。どげんかせんといかんな!
「俺達ならまだいいが・・・・・・」
ほんとは良くはないけども!
「他の知らない人が尋ねて来たらどうする?」
「このまま出ます」
「ぶっ!!」
おっふ!
躊躇なくそのまま出るんかい!!
あかん!そのうちご近所に変な噂でちゃうかもしれんじゃろ!
「その~、恥かしくないんですか?」
「ないわね(キッパリ)」
その姿で堂々としてると、いっそ清々しくもあるがあかん!
「ナイミくん!アウトォーーー!!お説教確定!!」
「ご褒美タイムですね!」
「断じて違う!」
「え~と、私も参加していいですか?」
なんでだよ!!
「ダメです。ミィナはいつもの夕食を作っててくれ」
「む~・・・・・・。わ、わかりました」
この後、ナイミに正座させて服の必要性を1時間程かけて教え込みました。
「さて、腹も膨れたし復元練成といきますか。ミィナとナイミ頼んだぞ」
「了解です~」
「お任せください!」
トラジはエリィに教わった事を思い出す。
「いいかい?概念練成もそうだが、作る物の指定は掻き回す棒の方じゃなく入れ物の方さ。壷や鍋や大釜、大きさは違うがどれも同じ魔道具。棒も使いながら平行して入れ物も扱うから、当然難易度は高くなるから注意しな。それと・・・・・・」
錬金棒と錬金鍋を一つの魔道具と考えて、繋げるイメージで錬金棒経由で錬金鍋を制御かぁ・・・・・・。
やる事パネェな・・・・・・。
概念練成はさらに材料の概念まで指定すんだろ?難易度高いの理解したわ。
トラジはやる事を思い出しその難易度にビビりそうになるも覚悟を決める。
「おし!いくぞ!!」
結果は拍子抜けなほどあっさり出来てしまった。
というのも、復元練成では錬金鍋の中の情報を引き出す必要が殆ど無く、錬金鍋の方に意識を向けるだけで済んだためだ。結果で言えば新アイテム製作の方が難易度がかなり高く、それをやってのけたトラジ達の敵ではなかったのだ。
「おっしゃ!完璧!!」
「ご主人様!私も頑張りました!褒めてください!!」
「ダメです~!ナイミちゃんは全然魔力集めれてなかったんですから!!」
むしろ、俺を褒めて欲しいんだがなぁ・・・・・・。
ちょっとさびしい・・・・・・。
「そんな事ないはずです!」
「あります~~!!」
「2人ともよくやってくれたと思うからその辺にして、風呂行くぞー!」
「は~い!」
「たまには私がご主人様を洗いたいわ」
「姉特権ですから~、諦めてください」
「少しは譲ってもいいと思わない?」
なんか言い争いはしてるが、少しは姉妹っぽくなった気がするな。
いい事だ。
「思いません~!」
ただ、ミィナの方がナイミより子供に見えるのは気のせいかな・・・・・・?
「まったくついてないさね。まさか水源への通り道にあんなのがあるなんてね」
「つー事は諦めるしかないか。まぁ仕方ないんだろうけどな」
「直接見てないですけど~、ご主人様が言うなら仕方ないですね・・・・・・」
「諦める必要はないわ。ですよね?ご主人様」
「その通りさね。あんたらを連れて行くのは危なそうだから引き返しただけだからね。後で私と黒猫で狩ってくるから大丈夫さね」
「あ、危なくないのか?」
「あら、心配してくれるの?でも大丈夫よ。ね?ご主人様」
「この私が心配されるなんてねぇ。久しぶりすぎて涙が出るさね」
「酒の飲みすぎでいつか死ぬんじゃないかって、心配なら普段からしてるけどな」
「そ、それは・・・・・・。私も否定できないわね残念だけど・・・・・・」
「あんたら何の話してんだい?」
「え~と、お酒の飲み過ぎの心配の話ですね」
「その心配だけはいらんさね!!(きっぱり)」
相手のための心配でも酒やタバコの心配は煙たがれるよなぁ。
ほんと厄介な話だ。
エリィは軽く手を叩いて話を戻した。
「はいはい、それで話を戻すけどね。実のところアレをやったやつの目星はついてるさね」
「マジか!」
「えっと~、誰なんですか?」
「あれをやったのは、おそらくカイザースライムさね」
えーと、たしかスライムの中でも最上級にやばいやつだったか。
黒っぽい色のスライムなんだよな?
「ほんとに~、カイザースライムなんですか?」
「あの複数の丸い傷口はカイザーの特徴さ。やつはとにかく動きも消化能力も早い。そして動く物を敵と認識して襲う。相手がどれだけ弱ってようが死んでようが相手が動く限り攻撃を続ける。それがカイザースライムさね」
で、動かなくなると興味をなくして放置するわけか・・・・・・。
あの丸い傷口はカイザースライムの歯型みたいなもんなのか。
「そうよ。もしであったなら落ち着いて動かず静かにすることね。冒険者がすれ違いざまに、腕を一瞬でもってかれるほど消化吸収能力に優れた危険な相手なの」
「スライムってそんなに動きが早いもんなのか・・・・・・」
「これについてはカイザーが特別なだけね。研究者の話では見た目では分からないけど、体の表面を高速で回転させ、体の中をバネのように動かすことで高速で動いたり跳んだりしているそうよ」
「だ、大丈夫なんですか~・・・・・・?」
「心配性だねぇ。私ひとりなら今出てきても余裕勝ちさね!」
「フラグがたった気がするんだが・・・・・・」
「フラグですか~?」
「えっと、何かしらそれは?」
「よく分からないが、とにかく私に任せればいいさね」
また、そんなフラグが立ちそうな事を・・・・・・。
その時黒猫の耳がピクピク動いた。
「ご主人様何か来ます!」
「方向は?」
「前方右斜めです!」
エリィは背中に背負っていたでかい包丁のような刀を地面に突き刺し、腰に下げていた長めの長剣を抜き構えた。
「あんたらはそこを動くんじゃないよ!カイザーかもしれないからね!」
「フラグがーーー!」
「わっ、わかりました~」
「フラグって何よ・・・・・・」
草木を揺らしながら進んでくる音が近づいてきた。
トラジを抱くミィナの手には僅かな震えが伴っていた。
「来るよ!」
ガサッガサッ!!
「あ、あれはライガーウルフ~!」
「あれがライガーウルフか」
草の葉を撒き散らしながら出て来たのは、以前ミィナとトラジの体の前の持ち主を襲ったライガーウルフだった。
ライガーウルフはトラ柄のオスのライオンのような立派なたてがみを持ち、トラの頭と胴体に狼の尻尾をしている。
出てきたライガーウルフは勢いを殺すことなくエリィやミィナ達を無視するかのようにそのまま走り去ろうとしていた。
「いいえ。違うわ・・・・・・」
「別の魔獣さんなんですか~?」
「いいから静かにするさね!」
「ギャウッッーーー!!」
次の瞬間悲鳴のような甲高い声を上げライガーウルフが転倒した。
何が起こったか分からないトラジとミィナがその様子をよく見てみると、後ろ足が片方無くなっており血を撒き散らしていた。
「なっ・・・・・・」
「ギャウッギャ・・・・・・」
さらに次の瞬間には、急いで立ち上がろうとしたライガーウルフの頭がいきなり地面に落ち沈黙・・・・・・。
よく見ると、首に当たる部分がたてがみごと無くなっており、胴体と頭が離れていて血が勢いよく流れた。
「魔獣の事はエリィに任せて、ミィナは目を閉じているんだ」
「は、はい~・・・・・・」
トラジは何が起こったか理解した。
最初の転倒した時こそ何も見えなかったが、首が無くなった時に一瞬だが黒い影をその目で捉える事が出来ていたからだ。
その黒い影こそ・・・・・・。
「あれが、カイザースライムなのか・・・・・・」
「ええ。集中してないと目で追えないほど動きが速いのよ。だからご主人様に任せて、そのまま動かないでね」
エリィは居場所が分かっているとばかりに木の上を見つめながら、準備運動なのか両肩を回していく。
するとポチョンと言う音が聞こえ地面に黒いスライムが落ちてきた。
目に当たる部分が無くどうやって周りを見ているか分からず、不気味であったがエリィを敵かどうか見定めようと観察してるように見えた。
「まったく。カイザーがこの森にいるなんて予想外さね。こりゃ、アーグライトのやつの判断は正しかったのかもしれないねぇ。あれはなかなか面倒だけどねぇ」
アーグライトってなんだ?
スライムと何か関係あるのか?
「さて、黒いのいつでも来な!」
エリィは片手で抜き身の長剣を居合い抜きのように後ろに構えでながら、挑発するみたいにもう片方の手で手招きした。
動いたっ!
すると、黒いスライムがギリギリ目で追えるかという速度でエリィに向かって一直線に飛び出した。
「おそい!!」
だが、目で追えなかったのは黒いスライムではなくエリィの握る剣だ。
黒いスライムがエリィの目の前に来たと思ったら、エリィの剣はすでに上に振り上げられてその切っ先は空を指していた。
そして、黒いスライムは真っ二つに割れて地面に落ちて溶けていった。
「他の気配はとりあえずなさそうだねぇ。あんたらもう大丈夫さね」
「なぁ、エリィってマジですごいやつだったのか・・・・・・?」
カイザースライムは消化吸収に優れたスライムだ。生半可な速さでは、剣がカイザーを両断する前に刀身が溶かされて無くなってしまう。
それが可能である事を見せ付けたエリィ、その強さを初めて見たトラジは、素直に驚いていた。
「お酒さえ飲んでなければ、だけどね」
「ご主人様~、もう目を開けてもいいでしょうか?」
「あ・・・・・・」
ライガーウルフの血生臭い死体をあまり見せたくなかったから、目を閉じるよう指示をしたトラジだったが、その事によってエリィの雄姿を見逃したミィナに少しだけ悪い気がしたトラジだった。
「ミィナすまんな」
「はい~?」
「どうさね。少しは私を見直したかい?」
「すみません~、見てません」
「何でさね!!」
エリィすまん。
その後、ライガーウルフの死体を軽く血抜きして軽くし、持って来た袋に詰めて持ち帰る事にしたのだが、意外な事にミィナが待ったをかけた。
「あの~、あの放置されたという死体はどうするんですか?」
「ん?どうもしないさね。あんなでかいの持ち帰れるわけ無いだろ?」
「えっと~、そうじゃなくて。死んでるのにいつまでもあのままなのは、良くない気がして・・・・・・」
「一理あるわね。あそこまで腐敗が進んだら、もう他の魔獣が食べることはまず無いわ。そして、さらに腐敗が進めば生じた毒素で周辺の木々を枯らしかねないもの」
「でもねぇ。あんなでかいの土に埋めてやる事なんてできやしないさね」
「そう、ですよね~。無理な事言ってごめんなさい・・・・・・」
「いや、ミィナあんたは正しい事を言ったさね。その気持ちは大事にしときな」
「いえ~、実はこれもご主人様に教えてもらったんです」
「は?」
「へぇ。猫スケがねぇ」
「当のトラジは心当たりがなさそうだけど、知らないフリなのかしら・・・・・・」
続けて黒猫は聞き取れないような小声で『そういうのも、ちょっとカッコイイじゃない』と付け加えた。
んー。
何か言ったっけ?
まったく覚えが無い・・・・・・。
色々大変だったからかなぁ?出てこないな。
ま、分からないのは仕方ないとしてここは・・・・・・。
「その事は置いておくとして、せめて火葬くらいしてあげたらどうだろう?」
「それも大変そうではあるけど、出来なくはないわね」
「ミィナ、猫スケはなんて?」
「えっと~、火葬はどうだろうって言ってますね」
「ほんと猫スケは猫なのに色々知ってるね。ま、確かに面倒だけど出来なくはないさね」
ミィナとトラジと黒猫を残してエリィはあの腐敗臭を発していた死体を燃やしに向かい、しばらくしてドシン!と何か大きな物が倒れる音がした。
ミィナはエリィを心配したようだが、黒猫は心配いらないと言いきっていた。
さらにしばらくしてエリィが戻ってきた。
「ご希望通り火葬してきてやったさね。もう骨しか残ってないよ」
「なぁ、なんかデカイ音がしたんだが何か知ってるか?ミィナ頼む」
「えっと~、大きな音が聞こえたんですけど何か知ってますか?」
「ん?ああ。あれは近くの木を切り倒しただけさね。火が燃え移ると面倒だからね。ちなみにほとんど使っちまったが火はコイツを使ったさね」
エリィが取り出したのは使い捨ての魔道具で火炎球と言われている。
ビー玉程の大きさで、一旦使うと燃え尽きるまで炎を吐き出し続ける。大量に持ち運びが出来て、それなりに長持ちする事から冒険者も良く使う。
「あの~、火葬してくれてありがとうございます」
「ま、これくらいいいさね。それとこれはお土産さ」
そう言ってミィナに差し出したのは立派な4つの牙だった。
「これ~、貰っていいんですか?」
「あんたが言い出したんだし、いいに決まってるさね。素材としてはライガーウルフよりかなり上等なもんだし、遠慮なく使うといいさね。それと・・・・・・」
「それと~?」
「おりゃっ!」
ばさぁ~~~っ!
何をするかと思えばエリィはその場でローブの下のミィナの長めのスカートを勢いよく捲った。
「きゃ~~~!な、何するんですか!!」
ミィナは顔を真っ赤にして両手でスカート押さえトラジは地面に落ちた。
「普通の白かい。もう少し色気があっても良さそうなのにねぇ・・・・・・」
「ちょっ!危ないだろうが!!」
「ご主人様・・・・・・。ちゃんと話すべきだと思いますよ?」
「分かってるさね。ミィナあんた採集には向かないからその長めのスカートはやめておきなよ?あと、スカートの場合でも足の地肌をなるべく出さないようにしときな。長めの靴下でもタイツでもいいけどね。森には魔獣だけじゃない小さな毒虫なんかも出たりするからね」
「そういうのは行く前に教えてくれよな」
「今回は良く知ってるクオの森だったのと、ご主人様と私で大抵の事は済ませるつもりだったから言わなかったんだと思うわ」
「なるほど・・・・・・」
「いや、単に今思い出しただけさね!(キッパリ)」
「ああもう!どうしてご主人様は、自分で評価を落とすようなマネをするのかしらーーー!!」
そして、エリィがライガーウルフの死体を引き摺り、町まで帰ってそのまま解散。
ミィナとトラジは無事に家に帰りつく事が出来たのだった。
ちなみにライガーウルフの死体はバーコード親父の店に売られ、お金はエリィの酒代となって消えた。
「ご主人様。それとミィナお帰りなさい」
「おう。ただいま!」
「ただいまです~」
家に帰るとナイミが出迎えてくれた。
下着姿の上から少しゆったりめのTシャツを着ていた。
「ときにナイミくん。その服装はなにかね?」
「ダメでしょうか?」
ナイミは自分の今の服装を見直すかのように手でシャツの裾を引っ張り眺めた。
すると、ナイミのおヘソがコンチワした。
海で水着の上からシャツを着てる人を見たことがあるが、家の中でそんな感じのやられるとエロいもんだな。
うん。どげんかせんといかんな!
「俺達ならまだいいが・・・・・・」
ほんとは良くはないけども!
「他の知らない人が尋ねて来たらどうする?」
「このまま出ます」
「ぶっ!!」
おっふ!
躊躇なくそのまま出るんかい!!
あかん!そのうちご近所に変な噂でちゃうかもしれんじゃろ!
「その~、恥かしくないんですか?」
「ないわね(キッパリ)」
その姿で堂々としてると、いっそ清々しくもあるがあかん!
「ナイミくん!アウトォーーー!!お説教確定!!」
「ご褒美タイムですね!」
「断じて違う!」
「え~と、私も参加していいですか?」
なんでだよ!!
「ダメです。ミィナはいつもの夕食を作っててくれ」
「む~・・・・・・。わ、わかりました」
この後、ナイミに正座させて服の必要性を1時間程かけて教え込みました。
「さて、腹も膨れたし復元練成といきますか。ミィナとナイミ頼んだぞ」
「了解です~」
「お任せください!」
トラジはエリィに教わった事を思い出す。
「いいかい?概念練成もそうだが、作る物の指定は掻き回す棒の方じゃなく入れ物の方さ。壷や鍋や大釜、大きさは違うがどれも同じ魔道具。棒も使いながら平行して入れ物も扱うから、当然難易度は高くなるから注意しな。それと・・・・・・」
錬金棒と錬金鍋を一つの魔道具と考えて、繋げるイメージで錬金棒経由で錬金鍋を制御かぁ・・・・・・。
やる事パネェな・・・・・・。
概念練成はさらに材料の概念まで指定すんだろ?難易度高いの理解したわ。
トラジはやる事を思い出しその難易度にビビりそうになるも覚悟を決める。
「おし!いくぞ!!」
結果は拍子抜けなほどあっさり出来てしまった。
というのも、復元練成では錬金鍋の中の情報を引き出す必要が殆ど無く、錬金鍋の方に意識を向けるだけで済んだためだ。結果で言えば新アイテム製作の方が難易度がかなり高く、それをやってのけたトラジ達の敵ではなかったのだ。
「おっしゃ!完璧!!」
「ご主人様!私も頑張りました!褒めてください!!」
「ダメです~!ナイミちゃんは全然魔力集めれてなかったんですから!!」
むしろ、俺を褒めて欲しいんだがなぁ・・・・・・。
ちょっとさびしい・・・・・・。
「そんな事ないはずです!」
「あります~~!!」
「2人ともよくやってくれたと思うからその辺にして、風呂行くぞー!」
「は~い!」
「たまには私がご主人様を洗いたいわ」
「姉特権ですから~、諦めてください」
「少しは譲ってもいいと思わない?」
なんか言い争いはしてるが、少しは姉妹っぽくなった気がするな。
いい事だ。
「思いません~!」
ただ、ミィナの方がナイミより子供に見えるのは気のせいかな・・・・・・?
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