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クエストを請ける

BOSS戦

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「これは・・・・・・、ごめんなさい私だけじゃ判断しかねるわ。ご主人様にも見てもらった方がいいかもしれないわね」

 トラジとミィナに少しばかり不安がよぎる。
 そんな心境を見透かすように黒猫は言葉を続けた。

「心配しなくて大丈夫よ。ちゃんと出来てるし通用すると思うわ。でも相手は紫色のチェンジャードスライム。毒に対する耐性も高い筈だから、ちょっと念入りに調べておきたいだけよ」

 そしてエリィと黒猫の鑑定が始まった。

「わぁ~、すごいですね・・・・・・。魔力の色の変化が早いです。それに玉にしてぶつけるコントロールも早さも・・・・・・」
「何してんのか全然わかんねぇ・・・・・・」
「そういえば~、ご主人様は魔力見えないんでしたね」
「ここではトラジな」
「ご、ごめんなさい~」

 エリィと黒猫は鑑定を終えた。

「鑑定については今は気にしなくていいわ。まだトラジとミィナさんには早いもの」
「ま、結論から言うとね。これは強力な結晶化の毒さね。スライムに対してのみ有効なもののようだけどね」
「相手は紫のスライムだが、た、倒せるんだよな?」
「その~、紫のスライムですけど、倒せるでしょうか?」
「倒せるさね。本当によく頑張ったよ。これから行くんだろ?がんばんな」
「そのつもりだが、悪いな今日ばかりは組合の仕事を休ませて貰う」
「はい~、頑張ります。ただ、今日のお仕事は休ませて貰うとご主人様が・・・・・・」
「今日くらいいいさね。ただし、無理だと思ったらすぐに逃げな、町中なら逃げりゃ他の大人が何とかしてくれる。私からは以上さね、依頼完了させてきな!」
「おう!」

 トラジとミィナは組合を出て行った。

「黒猫あんたは何か言ってあげないのかい?」
「物が出来たとはいえ、危ない事にかわりないですから。つい辞めるように言ってしまいそうになりました。なので、これでいいんです」
「過保護だねぇ」
「ご主人様は放任主義すぎます!今回の事だってもっと前にご主人様が直接見てあげてればきっと・・・・・・」
「黒猫と猫スケの仲が悪くならずに済んだって事かい?でもねぇ、そういう訳にもいかんさね。教えてもらった近道だけを進んでちゃね、自分で道を探せない大人になるさね。自分で考えて進む事も大事なんだよ」
「・・・・・・さぼる為の建前ですね?」
「なんだ、バレたのかい」
「当然です!」
「もう少し建前くらい立たせといてほしいねぇ。そういうとこは可愛くないさね」
「か、可愛くないですか・・・・・・」
「もうちょっと相手を立ててやる事もできないといけないさね」
「相手を立ててやる・・・・・・」
「つーわけで、私の顔を立てると思ってお酒を見逃すさね」
「それは立てるの使い方から違いますよね!ダメです!」

 トラジとミィナはリーヤ達を呼んでバーコード親父の店の所に集まっていた。
 紫色のスライムを目撃した依頼人でもあるウリリの家が、この店のお隣らしいからだ。

「宣言通り完成させたのね。やっぱトラジちゃんは男だわ!」
「センニン元気だった?」
「グゥ、グゥ!」
「そ、そう。ネタになりそうな事はなかったかー残念」

  え?ネタだと?

「なんで、粉作るときに俺のとこには話が来なかったんだろうな・・・・・・」

  すまん。忘れてた。

「今から作戦を説明する。まずこの車輪のついた箱でこの周辺一帯の道にスライム避けの粉で線を引く。あとはこのスライムが嫌がる匂いの出る袋を持って歩きスライムを探す。匂いを嫌がって飛び出したスライムを完成したスライムデスるくん(仮)で仕留める」

 ミィナは作戦をみんなに伝えた。

「なるほどな。飛び出したスライムが他へ逃げていかないようにする為の線なわけか」
「んで、役割なんだがヤガタとリーヤには線を引いてもらいたい。出来れば、ここからでかいスライムが見つかったという裏路地方面を重点的に引いていって欲しい。匂い袋は俺が担当する。スライムにトドメをするのは依頼人のウリリで、ミィナとアメリーはウリリのサポートな」
「え~・・・・・・、私もウリリちゃんのサポートなんですか?」
「勿論だ。俺は猫だしな。ウリリのサポート頼むぞ」
「トラジちゃんはなんて?」
「え~と、リーヤちゃんとヤガタくんは線引きをお願いするそうです。出来ればここから大きいスライムの目撃情報のある裏路地方面に向かって重点的に引いて欲しいそうです」
「線引きだな。わかったぜ!」
「私もわかったわ」

 リーヤとヤガタは早速ライン引きを手に線を引きに行った。

「それで~、アメリーちゃんは私と依頼人のウリリちゃんのサポートだそうです」
「それはいいけど、そのウリリちゃんは?」
「今はまだ寝てるかもな。リーヤとヤガタが戻ってきたら起こしに行こうか」
「えっと~、今はまだ寝てるらしいので、リーヤちゃん達が戻ってきたら起こしに行くそうです」
「寝込みを襲うのね!そして男同士に例えるとまさかの3P!これは来るわー!!じゅるり!」
「襲わないからな!」
「男同士~?3Pってなんでしょうか?」
「ほほう。ミィナちゃんも興味がおありですね。ふふふ腐腐腐・・・・・・」
「や、やめろーーーー!!ミィナ聞くんじゃない!!」
「え、え~と・・・・・・?」

 しばらくすると、バーコード親父の店からワカバが出てきた。

「ミィナさんにアメリーさん、おはようございます。なんだか楽しそうな事になってますねー!」
「おはようー。ミィナちゃんがついに対スライム用のデストロイアイテムを完成させたらしいですよー!」
「おお!それはすごいー!ぜひ詳しい話が聞きたいですねー!」
「その~、今はスライムを倒すための作戦中でして・・・・・・」
「なるほどなるほど。この白い線もその作戦なんですね?」
「はい~。その通りです」
「なるほどー。ウリリちゃんも頑張ってねー!」

 トラジ達はワカバが見ていた方に顔を向けた。
 そこには、ウリリが白線を眺めながら立っていた。

「ウリリ!喜べ!ついにスライムを倒す準備が出来たぞ!」
「えっと~、ウリリちゃんの敵討ちをする準備が出来ましたってトラジさんが言ってます」
「よかったー!やっと、かたきうてるんだね!」
「おう!!」
「よかったですね!ウリリちゃん。このワカバ姉さんも必要とあればお手伝いしますよ!」
「うん!おねがいね!もう、からだがうまくうごかせなくなってきてて。もうね、わたしかたきうちむりそうなの・・・・・・おねがい!」
「敵討ちが無理そうって何を言って――」

 トラジが言い終わる前に、突然ウリリの顔半分がグニャリと歪んだ。

「うそ、だろ・・・・・・」
「ウ、ウリリちゃん・・・・・・?」
「くぅちゃんに、おとうさん、おかあさんそれにね・・・・・・、わたしのね!かたきをうって!」

 歪んだ部分が背中の方にまで侵食し、そこからドロドロとした半透明で灰色な物が背中で膨れ上がり飛び出した。
 体積にしてウリリの7~8倍はありそうだ、そしてそれは未だ半分程形を残していたウリリとホースみたいなので繋がっていた。

「ウリリは既にスライムに食われてた?!い、いつから・・・・・・」
「そ、そんなウリリちゃんが・・・・・・」
「ご、ご主人様~・・・・・・」
「ご、ごめ、んね・・・・・・おね、がいぃ。かたき・・・・・・う、って」

 半分ほど形を残していたウリリが仇を取ってほしいと懇願する。
 ウリリの後ろのボコボコしたスライムと思われる塊は今も尚膨れ上がっている。

「な、なぁ。もう無理なのか・・・・・・。俺は助けようと思って依頼を請けたんだぞ!!」
「ご・・・・・・め、ん・・・・・・なに・・・・・・いって、わ、わからなっ」
「な、何あれ!!」
「おいおい・・・・・・。どうなってんだよこれ!」

 そこに、粉が無くなってリーヤとヤガタが戻ってきた。
 ボコボコと膨れ上がっていたスライムの体が落ち着き滑らかなスライムの形に落ち着いた。ただ、スライムにしては巨大な大きさと灰色の体が不気味さを漂わせていた。

「なぁ・・・・・・、ど、どうすんだこれ?」
「そんなの私に聞かないでよ・・・・・・」

 リーヤはどうするべきか悩んだ。
 助けを呼びに行くべきか、このままミィナやトラジに任せるべきか。

「じゃ、じゃぁ、誰に聞けばいいんだ・・・・・・?」
「・・・・・・トラジちゃんやミィナちゃんの依頼だもの。なら決めるのは――」

 リーヤはトラジとミィナを見つめる。
 トラジは先ほどから何かをウリリと思われる人型の何かに猫の言葉で叫んでいて、ミィナはそんなトラジを辛そうに涙目で見ていた。
 リーヤには正直、まともな判断が出来そうに見えなかった。トラジは何かを言っているようにも見えるがその実、錯乱しているように思えるし、ミィナは思考停止してしまってるように見える。
 危険なスライムがいるのに、ヤガタの質問に答えれる人がいないヤバイ状況だった。

「朝っぱらから、にゃーにゃーやかましい!まったく何を――」
「お父さん!ウリリちゃんが!ウリリちゃんがっ!!」
「引っ付くない!それに、いい歳して半べそかきやがっ・・・・・・。ウ、ウリ坊なのか・・・・・・」

 バーコード親父は絶句する。
 ウリリと思われる半分がドロドロになった姿とその後ろの灰色の巨大なスライムを見て言葉を失った。
 そんなバーコード親父を見てウリリは辛そうな顔になる。

「かた、き。うっ・・・・・・て」
「わかんねぇ!わかんねぇよ!!なんでっこんな事になっちまったんだよ!!!!」
「ね、ねこ、ちゃ・・・・・・」
「こんな敵討ち、したくねぇよ・・・・・・」

 灰色のスライムがもぞもぞと動き出した。
 辺りに引かれたスライム避けの白い線によって動きを制限され、戸惑い動きを止めていたスライムが現状打破するために動き出す。

「ボォゥーーー!」

 スライムは声を上げて目の前の白線に体の一部を飛ばした。
 白線とスライムの一部だった物が混ざりジューーっという音がした。
 その様子を見てリーヤは焦った。
 トラジやミィナだけじゃない。ヤガタもアメリーもワカバもバーコード親父ですら、どうしていいか分からず固まってしまっていたのだ。
 リーヤは覚悟を決める。良くない事かもしれないし、もしかしたら嫌われてしまうかもしれないそれでもそれが最善であると考えて。

「ミィナちゃんにトラジちゃん!あのスライムを倒しなさい!!出来ないなら冒険者に倒してもらうわ!!」
「リーヤ!何を言ってんだ!みな子達の依頼だってリーヤが言ったんじゃないか!!」
「ヤガタ!冒険者ギルドに行って、責任は私が取るから!!」

 ヤガタはミィナ達を見て迷った。
 トラジもミィナもどうすればいいか迷っているようだったが、止めて欲しいそう言ってるように見えた。

「下手をすればみんな死んじゃう!ヤガタ急いで!!」
「わ、わかったよ!!」

 ヤガタは背を向けて走り出した。

「トラジちゃんにミィナちゃん!ウリリちゃんの敵討ちする気があるなら急いで!!」
「リーヤちゃん!どうして――」
「ミィナいいんだ!悪いのは俺だ!」

 ヤガタに助けを呼びに行かせておいて、敵を討てってどういうつもりなのかとミィナは思った。
 だが、リーヤだってこんな事したくなかった事をトラジは理解してミィナを止めた。

「俺が迷ってもたもたしてたから、リーヤはやってくれたんだ。そりゃあ、そうだよな。目の前に人を食っちまうようなヤベェの前にしてもたもたしてな・・・・・・。だからだな!ミィナやるぞ!!」
「そ、それでいいんですか・・・・・・?」
「やるしかないだろ!!」
「ボォゥーーー!」
「よ、よけっ・・・・・・」
「ご主人様~!!」

 灰色のスライムは叫んでいたトラジに向かって、先程白線を溶かした体の一部を飛ばした。
 ミィナはそれ気付きトラジに向かって走った。自分の体を盾にするつもりで。
 だが、足は遅く到底間に合いそうにない。
 トラジ自身も回避行動が遅れ、飛んでくる物体をただ見てしまっていた。 
 そのトラジの瞳に人影が飛び込んだ。
 藍色ローブにフードを深く被り、黒いガッチリした靴を履いたミィナと同じくらいの身長の。

「まったく!使えないニセモノなんだから!!」

  バシャッ!

 藍色のローブを纏った少女が飛んできたスライムの一部をたやすく蹴り飛ばした。

「まさか冒険者か・・・・・・?」
「さすがに来るには早すぎるけど、ナイスタイミングね!」

  ドクンッ!

 ミィナはその姿を見て心臓が強く脈打ち、思わずお腹を手で押さえた。

「誰だか分からないが助かった!だ、だけどな。頼む!俺とミィナにトドメをやらせてくれ!ミィナ通訳を――」
「通訳はいりませんご主人様。そして、アレにトドメを刺したいのであればいくらでも手をお貸します」
「通訳がいらないだと・・・・・・」
「あ、あなたは~・・・・・・」
「その辺の話は後にしましょう。敵が目の前ですし、人目もあります」
「あ、ああ」
「ただ、そうね。ご主人様とニセモノにはこれで少しは理解してもらえるでしょう?」

 そういうと、藍色のローブをミィナへと投げ、露になった素顔と銀色の髪と少量の桃色の髪が風になびく。

「そのローブを着てご主人様を守ってなさい。水を弾くから今みたいな液体なのも弾いてくれるわ」
「ミ、ミィナちゃんに似てる?」

 リーヤはミィナ似の女の子を上から下まで見て、ある決定的な違う箇所を見つめた。

「・・・・・・胸以外は」
「そこ!聞こえてるわよ!あんたとそこの眼鏡女は邪魔な人でもどかしてなさい!巻き込まれても私は責任持たないから」
「ムッカー!あとから出てきて偉そうにして・・・・・・。でも、それが正しいでしょうから今だけは言う通りにしてあげる。アメリー!ワカバさん達と一緒に距離をとって!スライムはミィナちゃん達にまかせるわよ!!」
「わ、わかったー!」

 リーヤやアメリー達は離れていく。

「今度は前みたいに行かないわよ。なんたって、前と違ってご主人様がいるんですからね」

 灰色のスライムは後から現れたミィナ似の女の子を警戒し動きを止めていた。
 だが、すでにスライム避けの白線はもう消えかかっていて自由に動き回れるようになるのも時間の問題だと思われた。

「それでご主人様。トドメの件ですが何か作戦はありますか?」
「ミィナに持たせてある黒い玉を投げつければ倒せる筈なんだが、ミィナの腕力を考えると近くにいきたい。だからミィナが近付く為の道を作ってあげて欲しい」
「分かりました。私がニセモノの前を走ります。ニセモノは私の後ろを付いてきなさい」
「ひっ・・・・・・」

 ミィナ似の子と目が合うと、怖かったのかミィナは一歩あとずさった。

「ミィナ?どうした?」
「ボォゥーー!!」

 しびれを切らしたのか、スライムが動き出し消えかかっていた白線とミィナ達に体の一部を飛ばした。

「ちぃっ!面倒なニセモノね!ご主人様、私はしばらくアレの相手をして時間を稼ぎます。その間に準備をお願いします」

 ミィナ似の子は、スライムがミィナ達に飛ばしたそのすべてを蹴り飛ばしてそのままスライムに向かって行った。

「ミィナ・・・・・・、ウリリが見えるか?」

 ミィナは無言のままウリリを見て驚き目を見開いた。
 ウリリの下半分はもう無い。地面に倒れ顔をこちらに向けていたが、その瞳には光が無く虚ろだった。

「たぶん、あのスライムに少しずつ体を持っていかれてるんだと思う。あのスライムの反応や動きが遅いのも、ウリリの意識がギリギリ残っていて抵抗してるからだろうな」
「ごめんなさい・・・・・・。わ、私――」
「いい。分かるさ。あのミィナに似てる子が気になる、というかちょっと怖いんだろ?」
「・・・・・・はい」
「正直俺もあの子の事は気になる事だらけだし、分からん事だらけだ。でも、今優先するべきは・・・・・・」

 トラジはウリリを見て悲痛な面持ちで言葉を詰まらせた。

「・・・・・・ご主人様。私、頑張ります。だから・・・・・・、何があっても一緒に居ていいですよね?」

 ミィナ似の子はトラジの言葉を理解しご主人様と呼ぶ。ミィナにはそれがどう言う事なのかを理解していた。
 そして、それがミィナにとって恐ろしい事でもあった。もし、ポンコツな自分より優秀な使い魔がいたらどうなるか、それを考えてしまっていたのだ。

「当たり前だ。やっと抱っこされての移動に慣れて来たんだ。そこんとこ責任とってもらわないとな」
「わかりました。これからず~っと責任とって抱っこしますね!」
「いや、ずっとはちょっとな・・・・・・。自分で動き回れるように体力つけるトレーニングの手伝いの方をだなぁ・・・・・・」
「ニセモノ!聞こえたわよ!抱っこは私にもさせなさい!」
「いやです~!」
「ま、まぁアレだ。ミィナ元気が出たならウリリを楽にしてやろうな」
「了解です~!」

 ミィナはローブを纏いトラジを片手で持ち、もう片方の手にスライムデスるくん(仮)を手にした。

「時間稼ぎありがとう!準備OKだ!」
「ボォゥーーーーー!」
「させない!」

 大声を出したスライムはトラジに反応し体の一部を飛ばすが、ミィナ似の子の蹴りで防がれる。
 ミィナ似の子は華麗なサマーソルトを決めつつミィナとトラジの居る位置まで戻った。

「ご主人様の御指名なんだからちゃんとやるのよニセモノ!失敗したら私にご主人様を任せてもらうから」
「ぜ~~~ったいに嫌です!」
「二人とも言い争いはその辺にして、真面目に頼むぞ!」
「了解です~」
「はい、お任せください。では、行きます!」

 ミィナ似の子が前を走りミィナとトラジが続く。

「ボォゥーーーーー!!」
「ワンパターンね!そんなのが私に通用するわけないじゃない!!」

 スライムはまた体の一部を5発ほど飛ばしたが、ミィナ似の子は空中で回転しながらそのすべてを蹴り飛ばした。
 だが、よく見れば蹴り飛ばした時に出来た僅かな飛沫が、体に当るようで手足に軽い火傷のような細かい傷があちこちに出来ていた。

  そうかローブをミィナと俺の為に渡したから、細かい水飛沫まで防げないのか・・・・・・。

「俺とミィナの為に怪我までさせてすまない。後でこの埋め合わせはさせてくれ」
「礼は不要ですご主人様。でも、そ、そうですね。ど、どうしてもと言うなら添い寝を――」
「ボォゥゥーー!!」

 ミィナ似の子が言い終わる前にスライムが雄たけびを上げ、ボコボコと4つの山がお腹からまるでたけのこのようにに生えた。

「もう!邪魔なんだから!!」

 4つの山は太い腕のような触手になって伸びてミィナ達に襲い掛かった。
 以前、ミィナ似の子が蹴り飛ばせなかった太さの腕だ。

「前と同じと思わないで!」

 ミィナ似の子は新調した黒い靴で、太い腕のような触手を蹴りで切り飛ばした。

「ミィナ!そろそろ行けるか?」
「はい~!いけます!!」
「やれるならとっととやりなさい!ニセモノ!!」
「分かってます~!!」

 ミィナはスライムデスるくん(仮)を投げた。
 投げた方向も勢いも十分なように見えた。

「ウリリ・・・・・・。今楽にしてやるからな」
「ボォォゥーーーーーー!」

 だが危機を悟ったスライムが、ミィナの投げたスライムデスるくん(仮)に特大の体の一部を飛ばした。
 このまま行けば、直接当ることなく打ち落とされ倒せなくなる。

「ダメ・・・・・・。私の蹴りじゃ間に合わない」

 その光景を見たミィナ似の子はそう言い、ミィナ達も失敗だと心の中でそう思った。

「詰めが甘いわね」

 そんな時だ。トラジの耳に声が聞こえた気がした。
 近くの家の屋根から現れた人影が凄い速度で飛び出し、スライムが飛ばした体の一部を殴りその風圧で吹き飛ばした。

「ボォゥ・・・・・・ォウ・・・・・・」

 スライムデスるくんがスライムにぶつかると割れて中の粉が舞い、スライムをまるで水晶のような塊へと変えてく。
 地に降り立った人影は人ではなく、猫耳に猫尻尾で黒髪のロングで毛に覆われた少し太めの手と足をしていて大人のお姉さんといった感じだった。
 その猫耳お姉さんは、水晶へ変わっていくスライムの光景を眺めていた。

「でも、・・・・・・効果の程はさすがね」
「あの耳は・・・・・・」
「あの人は~・・・・・・。あっ」

 トラジは後から現れた猫耳お姉さんに目もくれず、ミィナの手から飛び降り倒れ伏していたウリリに元に歩いて行った。

「遅くなって・・・・・・、本当に遅くなっちまったが、敵討ち終わったぞ・・・・・・」

 人の形を保っていた顔半分の瞳は相変わらず光も生気もなく虚ろだった。
 ただ、その口元は喜びを表現しているかのように口角が上がっていた。

「ごめんな。ウリリ・・・・・・」

 徐々にスライムが水晶のような石に変化していき、その結晶化がウリリにまで及びその顔を石へと変える。

「ごめん・・・・・・」

 トラジはその場で蹲り、額を地面につけた。
 額を地面につけた土下座をしながら声にならないうめき声を漏らす。
 ミィナはそんなトラジに近付き抱きかかえて座り込んでトラジと共に涙した。
 やがて、水晶のような石はひび割れて砕けて崩れた。

「アメリー・・・・・・。私はこれで良かったのかな」
「リーヤは正しい判断をしてたよ。私なんて突然の事で何も出来てなかったし・・・・・・」
「トラジちゃんやミィナちゃんに、敵討ちするように追いこむ事・・・・・・言っちゃった。だけど、余計に悲しい思いさせただけなのかも・・・・・・」
「大丈夫・・・・・・。大丈夫だから」

 リーヤはアメリーに抱きつき泣いてしまった。

「リーヤ!ぼ、冒険者達を連れてきたぞ!!って何がどうなってんだ?」

 ヤガタが冒険者を連れて戻って来た頃には、ミィナ似の子も猫耳のお姉さんもその場から消えており、ミィナ達もリーヤ達も泣いていて何がどうなっているのか分からない状況だった。
 ヤガタに連れて来られた冒険者達は状況が飲み込めず、泣いていたミィナ達に近寄り事情を聞こうとした。

「待ちな!!事情なら俺が説明してやらぁ!その子供達は今は休ませてやってくれ!」
「分かった。確かにあんたの方が落ち着いて話が出来そうだ」
「ワカバぁ!いつまでも泣いてんじゃねぇ!おめぇ年長者だろーが、しゃきっとしてそこの子供らを店の奥で休ませて来な」
「ご、ごめんなさい。そうだよね・・・・・・。私がしっかりしないと!みんなを店の奥で休ませてくる!」

 ワカバは泣きたい感情を無理やり抑え込んでアメリーとリーヤ、トラジとミィナあとついでにヤガタを店の奥の部屋に案内したのだった。
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