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クエストを請ける
家と梟
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計画は失敗した。
アルマゲイドとかいう連中とそれを率いたファクマとか言うキモイやつにニセモノをどうにかして貰う計画だ。
計画の失敗理由は決まっている。
ギリギリまで待ったのに、あのキモイやつがご主人様を殺そうとしたからよ。
あのニセモノだけならどうなろうと構わなかったのに・・・・・・。
計画を練り直す必要が出てきた。
もう捨てたけど、あのローブの代わりも欲しい。
奴等はこの町で目立ち過ぎた、その所為で捨てるしかなくなったのよね。
あと、寝泊りする場所も必要ね。
木の上は虫がつくし、屋根の上は寝心地が最悪で体のあちこちが痛くなるもの。
隠すことも出来ず、露になった銀色の髪に桃色が混じった髪を揺らしながら裏路地を歩く。
「へぇ、えらいベッピンな譲ちゃんじゃねーか。なぁちょっと俺に付き合えよー」
少し酔っているのか、顔を赤くし酒瓶を片手にもった男が近寄ってくる。
「あーもう面倒ね・・・・・・。近寄って来て欲しいのはご主人様だけのに・・・・・・」
「へへへ・・・・・・。退屈はさせないからよぉー」
バカ丸出しで近付いて来る男を、すでに疲れたような表情で待つ。
男が手をミィナに似た子の肩に置こうとした時、似た子は素早くその頭に強烈な蹴りを見舞い簡単に気絶させた。
ちなみに、これが初めてではない。
「人目に付かない道ではあるけど、ほんとロクなのがいないわね・・・・・・」
そういいつつ、蹴り倒した男の持ち物を漁り有り金を奪う。
ちなみに、これも初めてではない。
「食料みっけ」
似た子は暗がりにナイフを投げつける。
似た子が仕留めた食料はネズミだ。
食費にお金をあまり使いたくなかった似た子は、こうして半自給自足をしていた。
「新しいローブと靴。あと鉄製のすねあても右足だけも用意したい所ね」
自給自足の理由は単純だ、お金が足らないのだ。
かといって店や人を襲ったりして騒ぎでも起こせばこの町に居られなくなるし、そうなればニセモノを排除できたとしてもご主人様に迷惑をかけてしまう。
最悪、最愛のご主人様に嫌われてしまう。
さっきのように相手に非があれば自己防衛の為なのだから、まだ大丈夫だろう。
そう考えていた。
「娘見事。我が仇敵仕留めた。礼を言う」
「誰よ?変な喋り方ね」
「我、梟じぃ。しかし・・・・・・」
似た子に話しかけたのは、町の見回りをしていた梟じぃだった。
確か、空き家を守り続けている梟だったわね。
「娘。今、闇の時。早々に帰る」
「残念だけど帰る場所なんて今は無いのよ。それとも、あなたが用意でもしてくれるのかしら?」
「ホゥ・・・・・・」
梟じぃは似た子を見定めるように観察し考え、ある決断を下す。
「理解。放浪娘、我が守護する家。許可する」
「意外ね。確か家を守るよう言われてるんじゃなかった?」
「正解。害ある者、我許さん。違うなら自由」
「分かり難いけど、家に危害を加えないなら住んでいいという事でいいの?」
「正解」
これは、渡りに船ね。
寝る場所も確保出来て、うまくすればお風呂も使えるわね。
川で水浴びにも不満があったしいい機会ね。
「私は遠慮なんてしない。使わせてもらうわよ」
「案内。ついて来る」
そう言って梟じぃは飛び、似た子は後を追った。
「ここ。自由しろ」
梟じぃはそういうとまた見回りをしに飛んでいった。
似た子は、その空き家を値踏みでもするかのように観察する。
「思ってた以上に放置されていた家のようね。透明なガラスがまるでスリガラスじゃない」
とはいえ、他の当てもあるわけではないし、今までの寝床を考えれば十分上等と言える。
私の好きにさせて貰おうじゃない。
似た子は家に入り明かりを付けた。
「どうやら、照明関係の魔道具は生きてるようね。これなら湯も使えるかもしれない」
ただ、床は埃が積もりにつもり靴を脱ぐ気にはなれなかった。
面倒だけど掃除も必要、でも今は寝床を確保しないとね。
布団や毛布などがあればいいのだけど・・・・・・。
布団も毛布も枕も無かった。
あったのは2階の部屋の古びたベッドと埃を被ったマットレスだった。
「ベッド一つあっただけでももうけものね」
似た子はマットレスを軽く叩いてから上下を逆にし、カーテンをはずしくるまって寝る事にした。
その様子をカーテンを無くした窓の外から一羽の梟が中を見つめる。
「ホゥー・・・・・・。放浪娘、安心し休め」
見回りから戻った梟じぃは汚れた窓の外から、眠る似た子をしばし見つめてから外を見張り夜を過ごした訳だが、どことなく梟じぃは嬉しそうであった。
そして次の日、さっそく似た子は掃除を開始した。
内心面倒に思っていたが、どのくらいの期間使わせてもらう事になるか不明だった事と、ニセモノを排除する妙案が無く暇であったからだ。
「初めて掃除をするけど、思ったより簡単ね。あのニセモノはよく苦戦していたようだけど」
似た子は手際が良かったようで天井・壁・窓・床をピカピカにさせていく。
トンットンットン。
近くの窓が叩かれる音がして、似た子がそこを見るといたのは梟じぃだった。
「手入れ感謝。食え」
「食料まで貰えるとはね。感謝するわ」
梟じぃが差し出したのはネズミ。
ネズミ等渡されたら嫌がらせに思う人の方が多いだろうが、梟等野生で生きる者にとっては立派な食料なのだ。
「簡単とは言ったけど、家一軒まるまる掃除するとなると時間がかかるものね・・・・・・」
朝から掃除をしていたが、空の色はすでに紫がかっていた。
似た子はネズミを捌き焼いて食べ、お金を得るために出かけた。
行き先はいつもの暗い裏路地だ。
「面倒ではあったけど、稼ぎとしては悪くないのよね・・・・・・」
近寄ってきたロクでもない男を蹴り飛ばし、有り金を奪い稼ぐそういうやり方だ。
似た子は悪くないと言うが実はそうでもない、酒に酔ってる奴は手持ちの大半を酒にして飲み食いした後な為にいい稼ぎとはいかない。もちろん稀に多く持っているやつもいるにはいる。
「これで、今日で3人目。そろそろ靴とローブくらい買えるかしらね」
似た子が欲しがっている靴やローブは、当然ながら普通の女の子が欲しがるような物ではない。冒険者が使うようなバリバリ実用的な物で値段も張るものだ。
「うわぁぁぁ!で、でけぇス、スライムだぁぁ!」
人通りの少ない場所に叫び声が響き渡る。
似た子は興味を引かれ、声の方向に向かって走った。
「町中に魔獣?見た感じなんだか間抜けな姿・・・・・・。でも使えるかもしれない。うまく利用できれば・・・・・・」
通常のスライムより大きく、高さだけで2.5mはありそうだった。
色は周囲が暗くてはっきりしない。
驚いた拍子に尻餅でもついたのだろう、座り込んでしまった男に触手みたいのを伸ばしていた。
「く、くるなぁぁ!誰かたすけてくれ~~!」
「ちっ。うるさいわね。今考えてる最中なのに、騒ぐくらいならとっとと逃げるか餌にでもなればいいのに・・・・・・」
まぁいいわ。
使えるかどうか強さを調べておきたいし、相手しておくのも悪くは無いわね。
「も、もうだめだぁぁ!」
「うっさいわよ!」
バシャッ!!
似た子は、見知らぬ男とスライムの間に割り込み触手を勢いよく蹴り飛ばす。
スライムは警戒でもしてるのか、一旦動きを止めた。
「そこの男。騒ぐなら他所行くかとっとと餌にでもなりなさい、邪魔よ!」
「ひどっ!!で、でも助かっ――」
ヒュン!ヒュン!
スライムが体の一部をボール状にして投げつけてきた。
似た子は一つ目を軽くかわし2つ目を蹴り飛ばした。
バシャッ!っと辺りにスライムの肉片が飛び散ると、先ほどとは違いじゅーっと靴から焼けるような音がした。
「へぇ~。なかなか面白いじゃない」
「面白いってキミねぇ・・・・・・」
「あんたは邪魔!どっか行って!」
「ひどっ!で、でも正論だ、だな・・・・・・」
男は立ち上がると走り去っていった。
誰か助けを呼んでくると言って、だ。
「助けなんて余計なのに・・・・・・。余計なやつらが来る前に、聞きたいんだけど話すだけの知能はある?」
「・・・・・・」
「はぁ、知能はないのね。なら、依頼の余地すらないか・・・・・・。残念」
「い、ら・・・・・・い、ぃ?」
どこが口なのかすら判別できないが、スライムは言葉のような物を確かに発していた。
「一応、知性はあったようね。なら話が早いわ。私に似ている子を始末・・・・・・。そうね、知性は低そうだしより分かるように言えば、あなたに食べて欲しいのよ」
スライムは大きな体を震わせ、縮み人の姿に変わった。
「・・・・・・い、や」
「人に化けれたんだ?ますますお願いしたい所ね。どうすれば言う事聞いてくれる?」
「に、にげ・・・・・・」
「何が言いたいの?」
人に化けたと思ったらドロっと形が崩れ再びスライムに戻り似た子に襲い掛かった。
「交渉は無理だったようね!」
最初に蹴り飛ばした触手とは違い、スライムの太い腕のような触手が3つ似た子に伸びる。
今度のは太さが違うため、簡単には蹴り飛ばせない事を理解し避けながらスライムの懐に向かって走る。
「本当に残念だわ。さよなら」
似た子はスライムの眼前で高くジャンプして、右足を上げ落下の勢いをつけて踵を使った蹴りをスライムにぶち当てた。
ドシャッン!!
スライムの体の一部分が勢いよく飛び散り溶けた。
似た子は手ごたえを感じたが、それで終わりとはいかなかった。
「ちっ。捕まるなんて不覚だわ・・・・・・」
足を振り抜く途中で靴がスライムの体にひっつき、似た子は靴を捕まれて逆さまの宙吊りになった。
じゅーじゅー・・・・・・
靴から再び溶けるような音が聞こえた。
これはまずいわね。
私じゃ相性が悪い。ここは逃げるべきね。
「はっ!」
似た子は腰のナイフを抜き上体を起こして、スライムごと靴を切り裂き捕まっている靴から足を素早く引き抜き逃げた。
「こっちだ!こっちで大きなスライムに襲われたんだ!女の子もいたし早くしてくれ!」
「分かった!お前ら!やるぞ!!」
「「おう!!!」」
それを追おうとするスライムだが、討伐に来たと思われる冒険者達の声を察知して逃げることを選択した。
「元々奪った物ではあるけど靴を無くすし、あのスライムは使えないし散々だわ」
似た子は裸足で梟ジィの家へ帰ると、梟ジィが待っていた。
「放浪娘。闇の時、外出やめる。・・・・・・裸足、何故だ?」
「ここを使わせてくれる事は感謝するわ。だけどね、私は自由にやらせてもらうわよ」
似た子は家に入り、家に明かりが灯る。
梟ジィはその様子を外から見つめた。
「放浪娘、否。・・・・・・不良娘か」
次の日、似た子は靴とローブを買いに冒険者用の店を訪れた。
大きな町とかでは、武器屋と防具屋は別の店になっているが、田舎や小さい町では冒険者屋という名で一つに纏められている。
「へぇ、お嬢さんその年で冒険者目指してるのか。なるほど、それでローブと靴か」
「えらく簡単に納得するのね。もっと何か聞かれるかと思ったわ」
「気にならない訳じゃないがな。冒険者になるやつには訳ありが多くてな、深く聞かないのが鉄則なんだよ。ま、流石に身の丈に合わない武器とか買おうとすれば、止めるし訳を聞かせてもらうがね。で、どんなのが欲しい?」
「まずローブだけど、色は目立たないのがいいわ。あと、フード付きで水を弾くようなのが理想ね」
「その目立たないってのはどんなのだ?町中とかか?あるいは森とか草原とかその辺は状況によるからな」
「町中ね。目立つのは苦手なの」
「おーけー。ちょっと待ってな」
そう言って店主が持ってきたのは、灰色、焦げ茶色、紺色、それと薄い水色のローブだった。
似た子はローブの表面に触れていくと、素材に違いがあることに気付く。
「素材が違うようだけど、何か違いがあるの?」
「まず、灰色と焦げ茶のやつは同じ動物の皮素材で出来てて差はないが、表面を薬品で加工しててな、水を弾くし丈夫だ。加工の過程で着色するからどんな色にでも出来て比較的安い。ただ、薬品のせいで他の物に比べて重めなのが難点だな」
「そう・・・・・・。重いのはパスね」
「確かに、お嬢さんみたいな小柄な子には重いのは合わないわな。んじゃ、この紺色だ。これは、ある水草の繊維を使って作られたもんでな。水をよく弾くし軽くて丈夫だ。難点は値が張る所だな」
「ローブだけならいいけど、値段が厳しいからパスで・・・・・・」
「ならこの藍色のやつだな。これは海にいるクラゲの仲間で、あー何だったかな・・・・・・。まーなんかそんな感じの生き物の頭の皮を使った物でな。水を弾くのは勿論だが、耐熱耐寒にも優れてる。何でも熱が伝わりにくい構造してるらしくてな。熱を遮るし体温を逃がさないらしい。ただ、他のに比べて耐久性能が低めだ。その分安いし、破れても他の利用法もあるらしくて買う奴は多いな」
「なら、この藍色がいい。あと靴だけど、私は蹴りが得意でね。少しくらい重くても良いから素材は固めで、同じく水を弾く物が良いわ」
「そうだな・・・・・・」
そう言って店の人が持ってきたのは、先ほどの灰色と焦げ茶のローブにも使われていた皮製の靴だ。ローブの物より厚みを持たせ硬くしてあり安価で丈夫で色も豊富でオススメされた。
他には金属製の物もあったが流石に重いだろうとのこと。
一応見せてもらったが似た子に買える様な金額ではなかった。というのも、頻繁に蹴りで使うと金属が凹んだり歪んだりする為に、蹴り主体で戦う人用のは相当な硬さの金属を使う靴になるからだった。
似た子は黒の皮製の靴を選び店を出た。
「悪くない買い物だったけど、お金をほぼ使い切ったし。今日は魚でも獲るとしますか」
似た子は町の近くの川で、浅い所を選び濡れないようスカートの端を掴み魚が来るのを待つ。
魚が来たらその足で素早く川岸まで蹴り飛ばし、4匹ほど獲ると梟じぃの家に帰った。
「梟じぃぃ!」
「何用だ?」
「家賃代わりよ!受け取りなさい」
似た子は魚を1匹梟じぃに向かって投げ、それを難なくその鋭い爪で梟じぃは魚を掴んだ。
「家賃等、不要。無償構わぬ」
「あっそ。だからと言って返されても迷惑だしそっちで好きに処理しなさい」
「不良娘」
「だれが不良娘よ!」
「不器用か?」
「うっさい!!」
似た子は魚を捌き焼いて昼食を済ませた後軽く仮眠した。
そして、暗くなった頃に起きていつもの裏路地でいつものようにお金を奪い、梟じぃの家に帰り眠りに付いた。
「ここが例の蹴り娘の家か」
「ああ。そうだぜ俺は見たんだこの目であの娘が入っていくのをよ」
「そりゃ、良かったぜ。これで、あん時の礼が出来るな。たっぷり楽しませてもらおうじゃないかよ」
「おいおい、涎がたれてんぞー」
3人ほどの柄の悪そうな男がその夜、梟じぃの家の前にやって来ていた。
目的は似た子に復讐する為だ。
そんな輩を警戒し睨む梟が一羽。
「明かりが付いてないし寝てんのか?」
「いいじゃねぇか。寝込みを襲う方が楽でよ」
「派手に抵抗されて、蹴られんのが一番面倒だかんな」
「「だな!」」
等とくだらない話をしつつ、梟じぃの家に近づいていく。
3人の男共に梟じぃは『ぎゃー』と『しゃー』の間のような威嚇の声を上げた。
「なんだ?」
「あそこにいる鳥だろ」
「無視だ無視」
梟じぃの威嚇を無視し尚近づいていく男共。
梟じぃはその目の前に降り立ち翼を広げ毛を逆立て、来るなと分かるようにアピールをする。
「貴様等。我守護する家、来るな!」
梟じぃは言葉が通じない事を知りつつも、最終勧告のつもりで必死に威嚇を続ける。
「なんだぁ?威嚇のつもりかよ」
「さっきから泣き声が煩いし、大人しくさせとくか」
「優しく言葉で心通わせる系?」
「いや、拳で」
「「ですよねー!」」
止まる気配のない男共に梟じぃは強硬手段に空に飛び立つ。
空中から鋭い爪で攻撃を仕掛けては飛び去る。いわゆるヒットアンドウェイを繰り返していく。
男共も応戦しようと拳を振り上げフルスイングするも、タイミングが合わずに空ぶっていく。野球なら何しに来たんだというぐらいのバッターアウトだ。
だが、鉄砲と言う訳ではないが、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる物。
タイミングを掴み始めた男の拳が梟じぃに当り、梟じぃは地面を転がった。
「貴様等。立ち去れぇ!」
左の翼を傷めたのか飛ぶことも出来ず、威嚇のために広げることも出来なくなった梟じぃ。
だが、それでも諦める様子はなく尚も足と右の翼を使い威嚇を繰り返す。
「いってぇな。手が傷だらけだぞ!」
「でもよ、もう終わりだろ」
「んじゃ、トドメは俺が・・・・・・」
男の一人が梟じぃに手加減することなく、後ろに足を振り上げ振り下ろした。
梟じぃに男の足が迫る。
梟じぃとて、この男共に勝てない事は最初から分かっていた。だからこそ必死の威嚇をしたのだ。
昔に主人にされた命令で逃げる事も無視する事もできず、去る様子のない相手に対してたとえ死ぬとしても戦うそれしかできないのだ。
「すまぬ、主。・・・・・・あと、不良娘よ」
梟じぃは男に蹴られ地面を転がり、家の玄関のドアに大きな音を立ててぶつかり落ちた。
「うお、ありゃ死んだんじゃね?」
「もはや虐めだな」
「いやいや、弱肉強食ってやつっしょ」
「なら、覚悟は良いかしら?」
「覚悟ってなんのだよ?」
「自分達が狩られる側になる覚悟よ。お馬鹿さん・・・・・・」
「「あ・・・・・・」」
似た子は騒ぎに気付き起きてきていた。
玄関ドアを開け目の前で虫の息の梟じぃを見つけ、怒りがこみ上げ肩を震わせる。
その殺気とも思える空気に人数で勝るはずの男共は弱腰になった。
「いやいや、でも俺等3人だしいけるだろ?」
「そ、そうだぜ?だれか一人が攻撃を体で止めれば残りの二人で取り押さえてだな・・・・・・」
「んじゃ、お前がその役な!」
「い、いやいやいやいや・・・・・・」
「呆れたわ・・・・・・。そっちから来たくせに今更作戦会議?」
似た子は男共に襲い掛かった。
前よりも硬さと重みが勝る靴による蹴りで、あっという間に男共を黙らせていった。体で受け止める?そんな余裕はない一撃で相手を仕留めていく。
「くそぉ・・・・・・いてぇ・・・・・・」
「小娘のクセに・・・・・・なんだよこの強さは・・・・・・」
「まだまだ、蹴り足りないけどここで許して欲しければ有り金全部よこしなさい!」
「だ、誰が!いてぇ思いまでして・・・・・・金だすかよ!」
まぁ、負けた方の考え的には普通だろうが、それは悪手だ。
なぜなら、似た子がその気なら頭を狙い一撃で相手を気絶させ、いつものように金を奪えるのだから。
あえて気絶させずに相手を降伏させる手・・・・・・。次のその手は気絶ではない、圧倒的痛みだ。
「そう。なら次はこの蹴りを、あえてしないであげた股間にぶち当てることにするけど?」
「「ひぃ!!!!!」」
それを聞いた男共は恐怖しお金を差し出し、一目散に逃げていった。
似た子が気絶を狙わなかった理由がこれだ。家の前で倒れられてても迷惑だったというのと、捕まえてしかるべき所に突き出すのも面倒かつその手間が惜しかった。一刻も早く梟じぃを治療するためだ。
「なんで無茶したのよ。・・・・・・ばっかじゃないの?」
似た子は組合に梟じぃを連れて行き治療して貰った。
男共から受け取った金を治療費にするつもりだったが、無料でいいと言われた。
町の守護者と言われている程に、町に貢献しているからだとからしい。
「不良娘。迷惑掛けた・・・・・・」
「馬鹿ね。掛けたのは私よ。それよりなんで無茶したのよ。威嚇までにして攻撃しなければ、こんな目に遭わなくて済んだんじゃないの?」
「否、それは守護、無理」
「そんなにあの家が大事?」
「良い事。悪い事。嬉しき事。悲しき事。沢山有る・・・・・・筈。思い出見る、叶わない。全て霧・・・・・・」
「何が言いたいの?」
「不良娘、手入れした。透明な窓、見えた部屋。僅か、昔が見えた。感謝故、我守護する」
「分からないわね。そんなに昔が大事?」
「・・・・・・不良娘。僅か、だがお前とも、共に過ごした家。守る」
「余計分からないわ。主人が捨てた家でもあるでしょうに」
「不良娘。我と違う。主、居る筈。今、我の主は家のみ。なぜ守護しない?」
「それは・・・・・・」
「我、未だ主を信じる。我捨てた思わず。不良娘、主を信じる大事だ」
私がご主人様を信じれていない?
確かにまだ一度もきちんと話したこともないけど、私は信じてはいるはず。
あのニセモノが邪魔なだけ。
それともそこが間違っている?
「やっぱりよく分からないわ」
アルマゲイドとかいう連中とそれを率いたファクマとか言うキモイやつにニセモノをどうにかして貰う計画だ。
計画の失敗理由は決まっている。
ギリギリまで待ったのに、あのキモイやつがご主人様を殺そうとしたからよ。
あのニセモノだけならどうなろうと構わなかったのに・・・・・・。
計画を練り直す必要が出てきた。
もう捨てたけど、あのローブの代わりも欲しい。
奴等はこの町で目立ち過ぎた、その所為で捨てるしかなくなったのよね。
あと、寝泊りする場所も必要ね。
木の上は虫がつくし、屋根の上は寝心地が最悪で体のあちこちが痛くなるもの。
隠すことも出来ず、露になった銀色の髪に桃色が混じった髪を揺らしながら裏路地を歩く。
「へぇ、えらいベッピンな譲ちゃんじゃねーか。なぁちょっと俺に付き合えよー」
少し酔っているのか、顔を赤くし酒瓶を片手にもった男が近寄ってくる。
「あーもう面倒ね・・・・・・。近寄って来て欲しいのはご主人様だけのに・・・・・・」
「へへへ・・・・・・。退屈はさせないからよぉー」
バカ丸出しで近付いて来る男を、すでに疲れたような表情で待つ。
男が手をミィナに似た子の肩に置こうとした時、似た子は素早くその頭に強烈な蹴りを見舞い簡単に気絶させた。
ちなみに、これが初めてではない。
「人目に付かない道ではあるけど、ほんとロクなのがいないわね・・・・・・」
そういいつつ、蹴り倒した男の持ち物を漁り有り金を奪う。
ちなみに、これも初めてではない。
「食料みっけ」
似た子は暗がりにナイフを投げつける。
似た子が仕留めた食料はネズミだ。
食費にお金をあまり使いたくなかった似た子は、こうして半自給自足をしていた。
「新しいローブと靴。あと鉄製のすねあても右足だけも用意したい所ね」
自給自足の理由は単純だ、お金が足らないのだ。
かといって店や人を襲ったりして騒ぎでも起こせばこの町に居られなくなるし、そうなればニセモノを排除できたとしてもご主人様に迷惑をかけてしまう。
最悪、最愛のご主人様に嫌われてしまう。
さっきのように相手に非があれば自己防衛の為なのだから、まだ大丈夫だろう。
そう考えていた。
「娘見事。我が仇敵仕留めた。礼を言う」
「誰よ?変な喋り方ね」
「我、梟じぃ。しかし・・・・・・」
似た子に話しかけたのは、町の見回りをしていた梟じぃだった。
確か、空き家を守り続けている梟だったわね。
「娘。今、闇の時。早々に帰る」
「残念だけど帰る場所なんて今は無いのよ。それとも、あなたが用意でもしてくれるのかしら?」
「ホゥ・・・・・・」
梟じぃは似た子を見定めるように観察し考え、ある決断を下す。
「理解。放浪娘、我が守護する家。許可する」
「意外ね。確か家を守るよう言われてるんじゃなかった?」
「正解。害ある者、我許さん。違うなら自由」
「分かり難いけど、家に危害を加えないなら住んでいいという事でいいの?」
「正解」
これは、渡りに船ね。
寝る場所も確保出来て、うまくすればお風呂も使えるわね。
川で水浴びにも不満があったしいい機会ね。
「私は遠慮なんてしない。使わせてもらうわよ」
「案内。ついて来る」
そう言って梟じぃは飛び、似た子は後を追った。
「ここ。自由しろ」
梟じぃはそういうとまた見回りをしに飛んでいった。
似た子は、その空き家を値踏みでもするかのように観察する。
「思ってた以上に放置されていた家のようね。透明なガラスがまるでスリガラスじゃない」
とはいえ、他の当てもあるわけではないし、今までの寝床を考えれば十分上等と言える。
私の好きにさせて貰おうじゃない。
似た子は家に入り明かりを付けた。
「どうやら、照明関係の魔道具は生きてるようね。これなら湯も使えるかもしれない」
ただ、床は埃が積もりにつもり靴を脱ぐ気にはなれなかった。
面倒だけど掃除も必要、でも今は寝床を確保しないとね。
布団や毛布などがあればいいのだけど・・・・・・。
布団も毛布も枕も無かった。
あったのは2階の部屋の古びたベッドと埃を被ったマットレスだった。
「ベッド一つあっただけでももうけものね」
似た子はマットレスを軽く叩いてから上下を逆にし、カーテンをはずしくるまって寝る事にした。
その様子をカーテンを無くした窓の外から一羽の梟が中を見つめる。
「ホゥー・・・・・・。放浪娘、安心し休め」
見回りから戻った梟じぃは汚れた窓の外から、眠る似た子をしばし見つめてから外を見張り夜を過ごした訳だが、どことなく梟じぃは嬉しそうであった。
そして次の日、さっそく似た子は掃除を開始した。
内心面倒に思っていたが、どのくらいの期間使わせてもらう事になるか不明だった事と、ニセモノを排除する妙案が無く暇であったからだ。
「初めて掃除をするけど、思ったより簡単ね。あのニセモノはよく苦戦していたようだけど」
似た子は手際が良かったようで天井・壁・窓・床をピカピカにさせていく。
トンットンットン。
近くの窓が叩かれる音がして、似た子がそこを見るといたのは梟じぃだった。
「手入れ感謝。食え」
「食料まで貰えるとはね。感謝するわ」
梟じぃが差し出したのはネズミ。
ネズミ等渡されたら嫌がらせに思う人の方が多いだろうが、梟等野生で生きる者にとっては立派な食料なのだ。
「簡単とは言ったけど、家一軒まるまる掃除するとなると時間がかかるものね・・・・・・」
朝から掃除をしていたが、空の色はすでに紫がかっていた。
似た子はネズミを捌き焼いて食べ、お金を得るために出かけた。
行き先はいつもの暗い裏路地だ。
「面倒ではあったけど、稼ぎとしては悪くないのよね・・・・・・」
近寄ってきたロクでもない男を蹴り飛ばし、有り金を奪い稼ぐそういうやり方だ。
似た子は悪くないと言うが実はそうでもない、酒に酔ってる奴は手持ちの大半を酒にして飲み食いした後な為にいい稼ぎとはいかない。もちろん稀に多く持っているやつもいるにはいる。
「これで、今日で3人目。そろそろ靴とローブくらい買えるかしらね」
似た子が欲しがっている靴やローブは、当然ながら普通の女の子が欲しがるような物ではない。冒険者が使うようなバリバリ実用的な物で値段も張るものだ。
「うわぁぁぁ!で、でけぇス、スライムだぁぁ!」
人通りの少ない場所に叫び声が響き渡る。
似た子は興味を引かれ、声の方向に向かって走った。
「町中に魔獣?見た感じなんだか間抜けな姿・・・・・・。でも使えるかもしれない。うまく利用できれば・・・・・・」
通常のスライムより大きく、高さだけで2.5mはありそうだった。
色は周囲が暗くてはっきりしない。
驚いた拍子に尻餅でもついたのだろう、座り込んでしまった男に触手みたいのを伸ばしていた。
「く、くるなぁぁ!誰かたすけてくれ~~!」
「ちっ。うるさいわね。今考えてる最中なのに、騒ぐくらいならとっとと逃げるか餌にでもなればいいのに・・・・・・」
まぁいいわ。
使えるかどうか強さを調べておきたいし、相手しておくのも悪くは無いわね。
「も、もうだめだぁぁ!」
「うっさいわよ!」
バシャッ!!
似た子は、見知らぬ男とスライムの間に割り込み触手を勢いよく蹴り飛ばす。
スライムは警戒でもしてるのか、一旦動きを止めた。
「そこの男。騒ぐなら他所行くかとっとと餌にでもなりなさい、邪魔よ!」
「ひどっ!!で、でも助かっ――」
ヒュン!ヒュン!
スライムが体の一部をボール状にして投げつけてきた。
似た子は一つ目を軽くかわし2つ目を蹴り飛ばした。
バシャッ!っと辺りにスライムの肉片が飛び散ると、先ほどとは違いじゅーっと靴から焼けるような音がした。
「へぇ~。なかなか面白いじゃない」
「面白いってキミねぇ・・・・・・」
「あんたは邪魔!どっか行って!」
「ひどっ!で、でも正論だ、だな・・・・・・」
男は立ち上がると走り去っていった。
誰か助けを呼んでくると言って、だ。
「助けなんて余計なのに・・・・・・。余計なやつらが来る前に、聞きたいんだけど話すだけの知能はある?」
「・・・・・・」
「はぁ、知能はないのね。なら、依頼の余地すらないか・・・・・・。残念」
「い、ら・・・・・・い、ぃ?」
どこが口なのかすら判別できないが、スライムは言葉のような物を確かに発していた。
「一応、知性はあったようね。なら話が早いわ。私に似ている子を始末・・・・・・。そうね、知性は低そうだしより分かるように言えば、あなたに食べて欲しいのよ」
スライムは大きな体を震わせ、縮み人の姿に変わった。
「・・・・・・い、や」
「人に化けれたんだ?ますますお願いしたい所ね。どうすれば言う事聞いてくれる?」
「に、にげ・・・・・・」
「何が言いたいの?」
人に化けたと思ったらドロっと形が崩れ再びスライムに戻り似た子に襲い掛かった。
「交渉は無理だったようね!」
最初に蹴り飛ばした触手とは違い、スライムの太い腕のような触手が3つ似た子に伸びる。
今度のは太さが違うため、簡単には蹴り飛ばせない事を理解し避けながらスライムの懐に向かって走る。
「本当に残念だわ。さよなら」
似た子はスライムの眼前で高くジャンプして、右足を上げ落下の勢いをつけて踵を使った蹴りをスライムにぶち当てた。
ドシャッン!!
スライムの体の一部分が勢いよく飛び散り溶けた。
似た子は手ごたえを感じたが、それで終わりとはいかなかった。
「ちっ。捕まるなんて不覚だわ・・・・・・」
足を振り抜く途中で靴がスライムの体にひっつき、似た子は靴を捕まれて逆さまの宙吊りになった。
じゅーじゅー・・・・・・
靴から再び溶けるような音が聞こえた。
これはまずいわね。
私じゃ相性が悪い。ここは逃げるべきね。
「はっ!」
似た子は腰のナイフを抜き上体を起こして、スライムごと靴を切り裂き捕まっている靴から足を素早く引き抜き逃げた。
「こっちだ!こっちで大きなスライムに襲われたんだ!女の子もいたし早くしてくれ!」
「分かった!お前ら!やるぞ!!」
「「おう!!!」」
それを追おうとするスライムだが、討伐に来たと思われる冒険者達の声を察知して逃げることを選択した。
「元々奪った物ではあるけど靴を無くすし、あのスライムは使えないし散々だわ」
似た子は裸足で梟ジィの家へ帰ると、梟ジィが待っていた。
「放浪娘。闇の時、外出やめる。・・・・・・裸足、何故だ?」
「ここを使わせてくれる事は感謝するわ。だけどね、私は自由にやらせてもらうわよ」
似た子は家に入り、家に明かりが灯る。
梟ジィはその様子を外から見つめた。
「放浪娘、否。・・・・・・不良娘か」
次の日、似た子は靴とローブを買いに冒険者用の店を訪れた。
大きな町とかでは、武器屋と防具屋は別の店になっているが、田舎や小さい町では冒険者屋という名で一つに纏められている。
「へぇ、お嬢さんその年で冒険者目指してるのか。なるほど、それでローブと靴か」
「えらく簡単に納得するのね。もっと何か聞かれるかと思ったわ」
「気にならない訳じゃないがな。冒険者になるやつには訳ありが多くてな、深く聞かないのが鉄則なんだよ。ま、流石に身の丈に合わない武器とか買おうとすれば、止めるし訳を聞かせてもらうがね。で、どんなのが欲しい?」
「まずローブだけど、色は目立たないのがいいわ。あと、フード付きで水を弾くようなのが理想ね」
「その目立たないってのはどんなのだ?町中とかか?あるいは森とか草原とかその辺は状況によるからな」
「町中ね。目立つのは苦手なの」
「おーけー。ちょっと待ってな」
そう言って店主が持ってきたのは、灰色、焦げ茶色、紺色、それと薄い水色のローブだった。
似た子はローブの表面に触れていくと、素材に違いがあることに気付く。
「素材が違うようだけど、何か違いがあるの?」
「まず、灰色と焦げ茶のやつは同じ動物の皮素材で出来てて差はないが、表面を薬品で加工しててな、水を弾くし丈夫だ。加工の過程で着色するからどんな色にでも出来て比較的安い。ただ、薬品のせいで他の物に比べて重めなのが難点だな」
「そう・・・・・・。重いのはパスね」
「確かに、お嬢さんみたいな小柄な子には重いのは合わないわな。んじゃ、この紺色だ。これは、ある水草の繊維を使って作られたもんでな。水をよく弾くし軽くて丈夫だ。難点は値が張る所だな」
「ローブだけならいいけど、値段が厳しいからパスで・・・・・・」
「ならこの藍色のやつだな。これは海にいるクラゲの仲間で、あー何だったかな・・・・・・。まーなんかそんな感じの生き物の頭の皮を使った物でな。水を弾くのは勿論だが、耐熱耐寒にも優れてる。何でも熱が伝わりにくい構造してるらしくてな。熱を遮るし体温を逃がさないらしい。ただ、他のに比べて耐久性能が低めだ。その分安いし、破れても他の利用法もあるらしくて買う奴は多いな」
「なら、この藍色がいい。あと靴だけど、私は蹴りが得意でね。少しくらい重くても良いから素材は固めで、同じく水を弾く物が良いわ」
「そうだな・・・・・・」
そう言って店の人が持ってきたのは、先ほどの灰色と焦げ茶のローブにも使われていた皮製の靴だ。ローブの物より厚みを持たせ硬くしてあり安価で丈夫で色も豊富でオススメされた。
他には金属製の物もあったが流石に重いだろうとのこと。
一応見せてもらったが似た子に買える様な金額ではなかった。というのも、頻繁に蹴りで使うと金属が凹んだり歪んだりする為に、蹴り主体で戦う人用のは相当な硬さの金属を使う靴になるからだった。
似た子は黒の皮製の靴を選び店を出た。
「悪くない買い物だったけど、お金をほぼ使い切ったし。今日は魚でも獲るとしますか」
似た子は町の近くの川で、浅い所を選び濡れないようスカートの端を掴み魚が来るのを待つ。
魚が来たらその足で素早く川岸まで蹴り飛ばし、4匹ほど獲ると梟じぃの家に帰った。
「梟じぃぃ!」
「何用だ?」
「家賃代わりよ!受け取りなさい」
似た子は魚を1匹梟じぃに向かって投げ、それを難なくその鋭い爪で梟じぃは魚を掴んだ。
「家賃等、不要。無償構わぬ」
「あっそ。だからと言って返されても迷惑だしそっちで好きに処理しなさい」
「不良娘」
「だれが不良娘よ!」
「不器用か?」
「うっさい!!」
似た子は魚を捌き焼いて昼食を済ませた後軽く仮眠した。
そして、暗くなった頃に起きていつもの裏路地でいつものようにお金を奪い、梟じぃの家に帰り眠りに付いた。
「ここが例の蹴り娘の家か」
「ああ。そうだぜ俺は見たんだこの目であの娘が入っていくのをよ」
「そりゃ、良かったぜ。これで、あん時の礼が出来るな。たっぷり楽しませてもらおうじゃないかよ」
「おいおい、涎がたれてんぞー」
3人ほどの柄の悪そうな男がその夜、梟じぃの家の前にやって来ていた。
目的は似た子に復讐する為だ。
そんな輩を警戒し睨む梟が一羽。
「明かりが付いてないし寝てんのか?」
「いいじゃねぇか。寝込みを襲う方が楽でよ」
「派手に抵抗されて、蹴られんのが一番面倒だかんな」
「「だな!」」
等とくだらない話をしつつ、梟じぃの家に近づいていく。
3人の男共に梟じぃは『ぎゃー』と『しゃー』の間のような威嚇の声を上げた。
「なんだ?」
「あそこにいる鳥だろ」
「無視だ無視」
梟じぃの威嚇を無視し尚近づいていく男共。
梟じぃはその目の前に降り立ち翼を広げ毛を逆立て、来るなと分かるようにアピールをする。
「貴様等。我守護する家、来るな!」
梟じぃは言葉が通じない事を知りつつも、最終勧告のつもりで必死に威嚇を続ける。
「なんだぁ?威嚇のつもりかよ」
「さっきから泣き声が煩いし、大人しくさせとくか」
「優しく言葉で心通わせる系?」
「いや、拳で」
「「ですよねー!」」
止まる気配のない男共に梟じぃは強硬手段に空に飛び立つ。
空中から鋭い爪で攻撃を仕掛けては飛び去る。いわゆるヒットアンドウェイを繰り返していく。
男共も応戦しようと拳を振り上げフルスイングするも、タイミングが合わずに空ぶっていく。野球なら何しに来たんだというぐらいのバッターアウトだ。
だが、鉄砲と言う訳ではないが、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる物。
タイミングを掴み始めた男の拳が梟じぃに当り、梟じぃは地面を転がった。
「貴様等。立ち去れぇ!」
左の翼を傷めたのか飛ぶことも出来ず、威嚇のために広げることも出来なくなった梟じぃ。
だが、それでも諦める様子はなく尚も足と右の翼を使い威嚇を繰り返す。
「いってぇな。手が傷だらけだぞ!」
「でもよ、もう終わりだろ」
「んじゃ、トドメは俺が・・・・・・」
男の一人が梟じぃに手加減することなく、後ろに足を振り上げ振り下ろした。
梟じぃに男の足が迫る。
梟じぃとて、この男共に勝てない事は最初から分かっていた。だからこそ必死の威嚇をしたのだ。
昔に主人にされた命令で逃げる事も無視する事もできず、去る様子のない相手に対してたとえ死ぬとしても戦うそれしかできないのだ。
「すまぬ、主。・・・・・・あと、不良娘よ」
梟じぃは男に蹴られ地面を転がり、家の玄関のドアに大きな音を立ててぶつかり落ちた。
「うお、ありゃ死んだんじゃね?」
「もはや虐めだな」
「いやいや、弱肉強食ってやつっしょ」
「なら、覚悟は良いかしら?」
「覚悟ってなんのだよ?」
「自分達が狩られる側になる覚悟よ。お馬鹿さん・・・・・・」
「「あ・・・・・・」」
似た子は騒ぎに気付き起きてきていた。
玄関ドアを開け目の前で虫の息の梟じぃを見つけ、怒りがこみ上げ肩を震わせる。
その殺気とも思える空気に人数で勝るはずの男共は弱腰になった。
「いやいや、でも俺等3人だしいけるだろ?」
「そ、そうだぜ?だれか一人が攻撃を体で止めれば残りの二人で取り押さえてだな・・・・・・」
「んじゃ、お前がその役な!」
「い、いやいやいやいや・・・・・・」
「呆れたわ・・・・・・。そっちから来たくせに今更作戦会議?」
似た子は男共に襲い掛かった。
前よりも硬さと重みが勝る靴による蹴りで、あっという間に男共を黙らせていった。体で受け止める?そんな余裕はない一撃で相手を仕留めていく。
「くそぉ・・・・・・いてぇ・・・・・・」
「小娘のクセに・・・・・・なんだよこの強さは・・・・・・」
「まだまだ、蹴り足りないけどここで許して欲しければ有り金全部よこしなさい!」
「だ、誰が!いてぇ思いまでして・・・・・・金だすかよ!」
まぁ、負けた方の考え的には普通だろうが、それは悪手だ。
なぜなら、似た子がその気なら頭を狙い一撃で相手を気絶させ、いつものように金を奪えるのだから。
あえて気絶させずに相手を降伏させる手・・・・・・。次のその手は気絶ではない、圧倒的痛みだ。
「そう。なら次はこの蹴りを、あえてしないであげた股間にぶち当てることにするけど?」
「「ひぃ!!!!!」」
それを聞いた男共は恐怖しお金を差し出し、一目散に逃げていった。
似た子が気絶を狙わなかった理由がこれだ。家の前で倒れられてても迷惑だったというのと、捕まえてしかるべき所に突き出すのも面倒かつその手間が惜しかった。一刻も早く梟じぃを治療するためだ。
「なんで無茶したのよ。・・・・・・ばっかじゃないの?」
似た子は組合に梟じぃを連れて行き治療して貰った。
男共から受け取った金を治療費にするつもりだったが、無料でいいと言われた。
町の守護者と言われている程に、町に貢献しているからだとからしい。
「不良娘。迷惑掛けた・・・・・・」
「馬鹿ね。掛けたのは私よ。それよりなんで無茶したのよ。威嚇までにして攻撃しなければ、こんな目に遭わなくて済んだんじゃないの?」
「否、それは守護、無理」
「そんなにあの家が大事?」
「良い事。悪い事。嬉しき事。悲しき事。沢山有る・・・・・・筈。思い出見る、叶わない。全て霧・・・・・・」
「何が言いたいの?」
「不良娘、手入れした。透明な窓、見えた部屋。僅か、昔が見えた。感謝故、我守護する」
「分からないわね。そんなに昔が大事?」
「・・・・・・不良娘。僅か、だがお前とも、共に過ごした家。守る」
「余計分からないわ。主人が捨てた家でもあるでしょうに」
「不良娘。我と違う。主、居る筈。今、我の主は家のみ。なぜ守護しない?」
「それは・・・・・・」
「我、未だ主を信じる。我捨てた思わず。不良娘、主を信じる大事だ」
私がご主人様を信じれていない?
確かにまだ一度もきちんと話したこともないけど、私は信じてはいるはず。
あのニセモノが邪魔なだけ。
それともそこが間違っている?
「やっぱりよく分からないわ」
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