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錬金術士の弟子になる
BOSS戦 II
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「ミィナとりあえず今は会話だ。話が成立しなくてもいい、何でもいいから相手に何か喋らせたり考えさせたりするんだ」
ミィナは黙って頷く。
「つ、使い魔なら、あなたにはあの人魚がすでにいるじゃないですか」
「ああ、あのゴミか。心配はいらねぇさ、そこのクソ猫同様あの世に送ってやるからよぉ」
「ごみって・・・・・・」
クソッ!ほんとに反吐が出るほどのクソ野郎だ!
ミィナも俺を気にしてか、怖がってるな。がんばれミィナ。
どうせ俺を殺さなきゃミィナを使い魔には出来ないんだ。
いざとなりゃ、俺が囮となってでもミィナを守ってやるからな。
「ミィナ大丈夫だ。俺が居る、心を強く持つんだ」
「は、はい。あ、あなたは、今まで何回使い魔を殺して来たんですか?」
「は?使い魔を殺した回数だ?知るかよそんな事、あえて言うなら俺が飽きた回数分だろ?」
「あ、飽きたら殺すって・・・・・・。ひどいです」
ミィナは改めて怖いと感じた。
そんなミィナの反応に喜びの表情を見せるファクマ。
「ひどかねぇさ使い魔なんて物さ物。飽きたら捨てて新しくする単純にして当然の流れだ。安心しろよ、お前は俺のお気に入りとして長く使ってやるからよぉ」
ファクマが指を鳴らし、何かの合図をする。
ミィナとトラジの後ろの木の影から黒いローブを着た奴が2人現れる。
元から潜伏させてたな、こりゃ・・・。
だが、毒ガスがあるし元より後ろに逃げ道なんか無いから、大して状況は変わってないはず。
助かる道は黒猫とエリィが助けに来る事だけ、落ち着いて時間を稼ぐんだ・・・・・・。
「ところで、何で使い魔にこだわるんだ?言う事聞かせるだけなら使い魔にするまでも無いだろう?」
「いい加減にゃーにゃーと煩い猫だ。さっさと終わらせ――」
「な、何でそんなに使い魔にしたいんですか?言う事を聞かせるだけなら使い魔にしなくたって・・・・・・」
「そのクソ猫が言ったのか?なるほどなぁ。自分可愛さに使い魔に何でも命令するから助けて欲しいってか?ま、助かる可能性はそこしかねぇよな。クソクソ言ったが少しは賢いみたいじゃねぇかよ」
「ち――」
「ミィナ、時間を稼ぐためだ。そう言う風に思わせとくんだ」
ファクマは笑みを浮かべながら結論を述べる。
「だがだめだぁ。クソ賢い猫お前は生かさねぇよ殺す。これは決定事項だぜぇ」
ファクマが再度指を鳴らすとミィナ達の後ろの黒フードがミィナに向かって歩き出した。
「ミィナどうやら言葉での時間稼ぎは終わりのようだ・・・・・・。ツッチーくんを出すんだ」
ミィナはトラジを片手に抱えたまま、小さくて四角いフライパンを背負った鞄から引っ張り出しファクマに注意しつつ黒フードの方を向く。
「なんだぁ?そんなもんで戦おうってのかよ。無駄だよ無駄」
「ミィナ、直接戦っても勝ち目なんて無い。敵に合わせて少しずつ下がりつつ、合図をしたら黒フードにツッチーくんを投げつけて、右後方の森に向かって思いっきり走れ」
ミィナが直接振り回した所でまともに当てれるとは思えないし、それならツチノコにしてブン投げた方が当たる確率が高いよな?
狙いが少し甘くても少しくらいなら動いて軌道を修正できるはずだ。
あとは、毒ガスがない事ともう伏兵がいない事に賭けるしかない。
「は、はい・・・・・・」
「これは賭けだ。毒ガスがまだあっちに無い事に賭けるしかない」
「ちんたら歩くんじゃねぇよ。ただのガキに警戒でもしてんのか?とっとと捕まえりゃぁいいんだよ!」
黒ローブの2人組みがミィナに向かって走り出す。
「ミィナ今だ!」
「ツッチーくんお願い!」
ミィナはフライパンを黒ローブの二人組みの方にブン投げ方向転換し走り出す。
トラジはミィナの肩越しに後ろを見ていたが、その顔が驚きの表情に変わる。
フライパンはツチノコに変化し、見事に黒ローブの片割れに噛み付く。
ここまでは良かった。予定通りだ。
だが、次の瞬間。
もう片方の黒ローブが、あっと言う間につっちーくんの尾を掴みフライパンに戻して後方に放り捨てたのだ。
ありえないだろ。ツッチーくんを見るのも触るのも初めてのはずだろ・・・・・・。
なんであんなにすぐ対処出来るんだ?まるで前から知っていたかのようだぞ・・・・・・。
時間稼ぎにすらなってねぇ・・・・・・。
黒ローブの方が足が速い。
森にたどり着く前に追いつかれてしまう。
ミィナは後ろから黒ローブに肩と腕を掴まれてしまった。
「ミィナ!いいか最後まで諦めないで逃げるんだ!」
俺はミィナを助ける為にここまで来たんだ!
「お前らの好きにさせてたまるかーーー!!」
トラジは覚悟を決めて、ミィナの肩を足場に飛び出してミィナを捕まえている黒ローブに噛み付く。
「ちっ!さっきの蛇といいまた噛み付きやがって!」
「ご主人様!!」
くっそ!リリみたいにはできねぇな!
腕に一回噛み付いただけで捕まっちまった!
「ミィナ!いいから逃げろ!!」
「はははっ!面白くなってきやがった!おい、そのクソ賢い猫の処刑ショーといこうぜぇ!首を引っつかんでよ!ゆっくり絞め殺してやれ!いいかゆっくりだ、ゆ~~っくりだぞぉ!大事だから何度も言うがゆっくりじわじわだ!あはははっ!」
ミィナは逃げない。その足は震えてしまっていた。
「ミィ、ナにげ・・・・・・」
トラジは手足の爪を黒ローブの皮手袋に立ててもがき、命令で逃げるよう声を出そうとするが喉元がしまり命令できない。
ミィナは逃げるどころか、あろう事かトラジを助けようとする。
それも考えなしに、手ぶらで無鉄砲に涙を流しながら。
ミィナの腕力はたかが知れてる、ヤガタやリーヤに比べてもかなり劣るだろう。
トラジの喉元を掴んでいる腕にしがみつくも、当然のごとくあっさり片手で突き飛ばされてしまう。
「きゃぁっ・・・・・・」
ミィナの目にありえない物が映る。
トラジの手足が弱々しい抵抗をし、喉を絞められ口からは泡を吹いていた。
もう死んでしまう!そう確信してしまいそうになる状態だった。
「ご主人様ぁぁ!いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あははははっ!!おもしれぇ、こりゃお仕置き無しで廃人コースかぁ?楽勝で使い魔に出来そうだ!く~~~腹いてぇ!!」
ミィナは泣き叫び、ファクマはそれを見て喜び笑い声を上げる。
そして、トラジはとうとう意識を失い手足が重力に負け垂れさがっ・・・・・・。
「――何してんのよ!このニセモノがっ!!」
手足が重力に負け垂れ下がると思われた瞬間、トラジは体ごと重力に負け地面に落ちた。
トラジの首を絞めていた黒ローブは、もう一人の黒ローブにナイフで首を切り裂かれていた。
「ご主人様をまともに守れないなんて、ほんと使えないニセモノ」
その声は女性の物だった。
返り血が女性の黒いローブに降り注いだがそれもすぐ止み、黒ローブの男は地面に倒れ伏した。
「おいおい、何やってんだお前ぇ!お前らは俺に雇われてんだろうが!何勝手してくれてんだよ!!」
女性と思われる黒ローブはその被っていたフードをとりミィナと同じくらいの長さの髪をなびかせた。
その髪は銀色、桃色の髪が少量混じっていてローブの下から見える服は見覚えのある黒いワンピース。
「私はあんたのようなキモイやつに、雇われた覚えなんて無いけど」
「なんだと!このクソアマのガキがぁぁぁ!」
「ご、ご主人様!」
ミィナは地面を這うようにトラジの元に駆け寄ろうとする。
「気安く私のご主人様に近づかないで!ニセモノっ!」
ミィナに似た女の子はミィナを蹴り飛ばす。
「うっ・・・・・・」
ミィナは地面を転がり蹴られたお腹を抱える。
「なぁおい。俺をおいてキャッキャウフフしてんじゃねぇよ。何なんだテメェはよぉぉ!」
「私はそうねぇ。正しい使い魔とでも言っておくわ」
「正しいだぁ?正義のヒーローか何かのつもりかよ!クソが!そこのクソ賢い猫もまだ息があるみてーだし!!邪魔すんじゃねーよ!!」
「あんたこそ、私の邪魔をしないで貰える?あんたがとっととニセモノを連れてってくれると思ってたのに、とんだ誤算よ。本当つっかえない男ね」
「あ?何だと、テメェ喧嘩売ってんのかよ!!何が目的かしらねぇがテメェもぶっ殺してやる!!」
「私の目的は一つ。そこのニセモノを消す事よ。私が直接手を下すとご主人様が嫌がりそうだから、あんたに丸投げするつもりだったのにね。手際が悪くチンタラしてるし、あげくご主人様を殺そうとするし。ほんと使えないゴミねあんた」
ファクマの顔が怒りでみるみる赤くなる。ファクマの認識では自分は有能で賢い人間だった。
なのにゴミ扱いされた事が、とてつもなく我慢ならなかった。
ファクマは笛を取り出し吹く。ピィーー!という甲高い音が響く。
「お呼びですかな?」
「ああ、どいつもこいつも使えなくてな!お前に頼る事にしたぞぉ!」
「でしょうな。この山で待機させたり捜索に出した、雇っていた連中が軒並み所在が分からなくなりました。おそらく自分達で垂れ流した毒ガスにでもやられたのでしょう。本当に使えない連中です」
「ああ、だから任せるぞ!そこの黒い服の女を殺せ!んで、そこで泡吹いて寝てるクソ賢い猫に止めを刺せ!」
「了解しました」
ファクマの使用人は腰から下げた、細身の剣を鞘から抜いた。
ミィナに似た子は警戒を強める。というのも、似た子は敵の中に潜み危険な相手を順位付けし、観察していたからだ。
この男はその順位の中では上から三番目だ。
一番はプラチナとかいう軽薄な男(すでにエリィにボコられ済み)。二番は禍々しい大きな鎌をもった少年(トーマスに敗れ使い魔に殺された)。そして、三番がこの使用人。
ついでに、ファクマ以外の他は順位すら付けていない負ける気がしなかったから。そのファクマは最下位の一番弱いという順位を付けた。
「面倒なのが来たものね。ニセモノやゴミ男はいつでも始末できるし、先にこの男を殺さないとかな・・・・・・」
「そのローブを見るに、我々の雇っていた者の中に紛れていたようですが、この山で所在がつかなくなった者達はもしやあなたが何かしたのですかな?」
「知るわけ無いじゃない。私の目的には関係ないし、今邪魔なのはあんた達ね。手を引くなら見逃してあげるけど?」
「見逃す、ですか・・・・・・。この私より強いつもりとは舐められたものですね!」
使用人は剣を片手に駆け出す。
似た子もナイフを片手に姿勢を低くして駆け出した。
「はぁぁ!」
使用人は剣を横薙ぎに剣を素早く振る。
似た子はその剣を背面飛びみたいにかわし、下半身を空中でひねり蹴りを顔面にお見舞いする。
使用人は体勢を崩しながらも後ろに下がりかわすが、その顔には驚愕の色が伺えた。
「なんて素早い動き・・・・・・。それに蹴りの風圧――」
「体勢崩したクセに悠長に分析?」
似た子は隙を逃すつもりはなかった。
つかさず、相手に向かってナイフを構え近接する。より近く、剣よりナイフが蹴りが有利になるように間合いをつめる。
剣を振るには間合いが近すぎると判断した使用人は、剣を盾にするように似た子と自分のあいだに横にして滑り込ませる。
だが細身ゆえに、この使い方では心細く見える。いや、実際使用人は焦っていた。
見るからに女の子で、見るからに体を鍛えていたように見えないスレンダーな体。そして、見た事ないほど野生的で攻撃的な戦法。
この使用人は数多くの戦場で戦ってきた傭兵だった。当然、殲滅戦でもアルマゲイド側で戦い生き残っている。その経験豊富さゆえ、剣技や戦いの知識はかなりの物だしファクマもそこを買って使用人にした。
その知識がまるで役に立たない、言ってみれば新種の獣を相手にしてるようだった。
剣に有利な間合いを得るために、使用人は距離を開けようとするも距離が開かない。
フェイントがまるで通じないし、距離が開かない上にナイフの突きや蹴りが次々に繰り出されてくる。防ぐ事は出来ても攻撃に転じることが出来ない状況だった。
「いったい、どこでそんな戦い方を学んだ!?」
使用人は戦いの最中だというのに、その疑問を目の前の似た子に投げかけた。
似た子のナイフによる横薙ぎの斬撃が使用人の剣に防がれた。そのように見えた。だが違う。
そのナイフには力が入っておらず、ナイフが剣に触れた瞬間剣の表面をなでる様に回転した。
似た子はナイフをそのまま逆手に持ち替えナイフの鍔で使用人から剣を引き剥がし、膝を上に突き出した。
「学んだ?いいえ自分で考えただけよ」
「恐ろしい子供だ・・・・・・!」
使用人はすんでの所を、左腕で似た子の膝を受け止めた。
「ちぃっ!やっぱり、あんた強いわね。速さは私の方が勝るけど力じゃ押し負けるわねっ!」
強引に突き出そうと膝に力を入れるも、相手の左腕に押し返されてしまう。
その反動を利用して後ろにバク転を3回程決めつつ再度距離をとる。
「ファクマ様、アレを使わせてください。この娘想像以上に厄介です」
「マジかよ。腕が鈍ったとかじゃねぇのかよ?」
「かもしれません・・・・・・」
「まぁ、いいぜ俺のとっておきを使わせてやるよ」
「有難うございます」
ファクマは後ろの腰に付けていた3つの棘がついた円月輪のような物を取り出した。
それは、バチバチと音を立てていた。
ミィナは黙って頷く。
「つ、使い魔なら、あなたにはあの人魚がすでにいるじゃないですか」
「ああ、あのゴミか。心配はいらねぇさ、そこのクソ猫同様あの世に送ってやるからよぉ」
「ごみって・・・・・・」
クソッ!ほんとに反吐が出るほどのクソ野郎だ!
ミィナも俺を気にしてか、怖がってるな。がんばれミィナ。
どうせ俺を殺さなきゃミィナを使い魔には出来ないんだ。
いざとなりゃ、俺が囮となってでもミィナを守ってやるからな。
「ミィナ大丈夫だ。俺が居る、心を強く持つんだ」
「は、はい。あ、あなたは、今まで何回使い魔を殺して来たんですか?」
「は?使い魔を殺した回数だ?知るかよそんな事、あえて言うなら俺が飽きた回数分だろ?」
「あ、飽きたら殺すって・・・・・・。ひどいです」
ミィナは改めて怖いと感じた。
そんなミィナの反応に喜びの表情を見せるファクマ。
「ひどかねぇさ使い魔なんて物さ物。飽きたら捨てて新しくする単純にして当然の流れだ。安心しろよ、お前は俺のお気に入りとして長く使ってやるからよぉ」
ファクマが指を鳴らし、何かの合図をする。
ミィナとトラジの後ろの木の影から黒いローブを着た奴が2人現れる。
元から潜伏させてたな、こりゃ・・・。
だが、毒ガスがあるし元より後ろに逃げ道なんか無いから、大して状況は変わってないはず。
助かる道は黒猫とエリィが助けに来る事だけ、落ち着いて時間を稼ぐんだ・・・・・・。
「ところで、何で使い魔にこだわるんだ?言う事聞かせるだけなら使い魔にするまでも無いだろう?」
「いい加減にゃーにゃーと煩い猫だ。さっさと終わらせ――」
「な、何でそんなに使い魔にしたいんですか?言う事を聞かせるだけなら使い魔にしなくたって・・・・・・」
「そのクソ猫が言ったのか?なるほどなぁ。自分可愛さに使い魔に何でも命令するから助けて欲しいってか?ま、助かる可能性はそこしかねぇよな。クソクソ言ったが少しは賢いみたいじゃねぇかよ」
「ち――」
「ミィナ、時間を稼ぐためだ。そう言う風に思わせとくんだ」
ファクマは笑みを浮かべながら結論を述べる。
「だがだめだぁ。クソ賢い猫お前は生かさねぇよ殺す。これは決定事項だぜぇ」
ファクマが再度指を鳴らすとミィナ達の後ろの黒フードがミィナに向かって歩き出した。
「ミィナどうやら言葉での時間稼ぎは終わりのようだ・・・・・・。ツッチーくんを出すんだ」
ミィナはトラジを片手に抱えたまま、小さくて四角いフライパンを背負った鞄から引っ張り出しファクマに注意しつつ黒フードの方を向く。
「なんだぁ?そんなもんで戦おうってのかよ。無駄だよ無駄」
「ミィナ、直接戦っても勝ち目なんて無い。敵に合わせて少しずつ下がりつつ、合図をしたら黒フードにツッチーくんを投げつけて、右後方の森に向かって思いっきり走れ」
ミィナが直接振り回した所でまともに当てれるとは思えないし、それならツチノコにしてブン投げた方が当たる確率が高いよな?
狙いが少し甘くても少しくらいなら動いて軌道を修正できるはずだ。
あとは、毒ガスがない事ともう伏兵がいない事に賭けるしかない。
「は、はい・・・・・・」
「これは賭けだ。毒ガスがまだあっちに無い事に賭けるしかない」
「ちんたら歩くんじゃねぇよ。ただのガキに警戒でもしてんのか?とっとと捕まえりゃぁいいんだよ!」
黒ローブの2人組みがミィナに向かって走り出す。
「ミィナ今だ!」
「ツッチーくんお願い!」
ミィナはフライパンを黒ローブの二人組みの方にブン投げ方向転換し走り出す。
トラジはミィナの肩越しに後ろを見ていたが、その顔が驚きの表情に変わる。
フライパンはツチノコに変化し、見事に黒ローブの片割れに噛み付く。
ここまでは良かった。予定通りだ。
だが、次の瞬間。
もう片方の黒ローブが、あっと言う間につっちーくんの尾を掴みフライパンに戻して後方に放り捨てたのだ。
ありえないだろ。ツッチーくんを見るのも触るのも初めてのはずだろ・・・・・・。
なんであんなにすぐ対処出来るんだ?まるで前から知っていたかのようだぞ・・・・・・。
時間稼ぎにすらなってねぇ・・・・・・。
黒ローブの方が足が速い。
森にたどり着く前に追いつかれてしまう。
ミィナは後ろから黒ローブに肩と腕を掴まれてしまった。
「ミィナ!いいか最後まで諦めないで逃げるんだ!」
俺はミィナを助ける為にここまで来たんだ!
「お前らの好きにさせてたまるかーーー!!」
トラジは覚悟を決めて、ミィナの肩を足場に飛び出してミィナを捕まえている黒ローブに噛み付く。
「ちっ!さっきの蛇といいまた噛み付きやがって!」
「ご主人様!!」
くっそ!リリみたいにはできねぇな!
腕に一回噛み付いただけで捕まっちまった!
「ミィナ!いいから逃げろ!!」
「はははっ!面白くなってきやがった!おい、そのクソ賢い猫の処刑ショーといこうぜぇ!首を引っつかんでよ!ゆっくり絞め殺してやれ!いいかゆっくりだ、ゆ~~っくりだぞぉ!大事だから何度も言うがゆっくりじわじわだ!あはははっ!」
ミィナは逃げない。その足は震えてしまっていた。
「ミィ、ナにげ・・・・・・」
トラジは手足の爪を黒ローブの皮手袋に立ててもがき、命令で逃げるよう声を出そうとするが喉元がしまり命令できない。
ミィナは逃げるどころか、あろう事かトラジを助けようとする。
それも考えなしに、手ぶらで無鉄砲に涙を流しながら。
ミィナの腕力はたかが知れてる、ヤガタやリーヤに比べてもかなり劣るだろう。
トラジの喉元を掴んでいる腕にしがみつくも、当然のごとくあっさり片手で突き飛ばされてしまう。
「きゃぁっ・・・・・・」
ミィナの目にありえない物が映る。
トラジの手足が弱々しい抵抗をし、喉を絞められ口からは泡を吹いていた。
もう死んでしまう!そう確信してしまいそうになる状態だった。
「ご主人様ぁぁ!いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あははははっ!!おもしれぇ、こりゃお仕置き無しで廃人コースかぁ?楽勝で使い魔に出来そうだ!く~~~腹いてぇ!!」
ミィナは泣き叫び、ファクマはそれを見て喜び笑い声を上げる。
そして、トラジはとうとう意識を失い手足が重力に負け垂れさがっ・・・・・・。
「――何してんのよ!このニセモノがっ!!」
手足が重力に負け垂れ下がると思われた瞬間、トラジは体ごと重力に負け地面に落ちた。
トラジの首を絞めていた黒ローブは、もう一人の黒ローブにナイフで首を切り裂かれていた。
「ご主人様をまともに守れないなんて、ほんと使えないニセモノ」
その声は女性の物だった。
返り血が女性の黒いローブに降り注いだがそれもすぐ止み、黒ローブの男は地面に倒れ伏した。
「おいおい、何やってんだお前ぇ!お前らは俺に雇われてんだろうが!何勝手してくれてんだよ!!」
女性と思われる黒ローブはその被っていたフードをとりミィナと同じくらいの長さの髪をなびかせた。
その髪は銀色、桃色の髪が少量混じっていてローブの下から見える服は見覚えのある黒いワンピース。
「私はあんたのようなキモイやつに、雇われた覚えなんて無いけど」
「なんだと!このクソアマのガキがぁぁぁ!」
「ご、ご主人様!」
ミィナは地面を這うようにトラジの元に駆け寄ろうとする。
「気安く私のご主人様に近づかないで!ニセモノっ!」
ミィナに似た女の子はミィナを蹴り飛ばす。
「うっ・・・・・・」
ミィナは地面を転がり蹴られたお腹を抱える。
「なぁおい。俺をおいてキャッキャウフフしてんじゃねぇよ。何なんだテメェはよぉぉ!」
「私はそうねぇ。正しい使い魔とでも言っておくわ」
「正しいだぁ?正義のヒーローか何かのつもりかよ!クソが!そこのクソ賢い猫もまだ息があるみてーだし!!邪魔すんじゃねーよ!!」
「あんたこそ、私の邪魔をしないで貰える?あんたがとっととニセモノを連れてってくれると思ってたのに、とんだ誤算よ。本当つっかえない男ね」
「あ?何だと、テメェ喧嘩売ってんのかよ!!何が目的かしらねぇがテメェもぶっ殺してやる!!」
「私の目的は一つ。そこのニセモノを消す事よ。私が直接手を下すとご主人様が嫌がりそうだから、あんたに丸投げするつもりだったのにね。手際が悪くチンタラしてるし、あげくご主人様を殺そうとするし。ほんと使えないゴミねあんた」
ファクマの顔が怒りでみるみる赤くなる。ファクマの認識では自分は有能で賢い人間だった。
なのにゴミ扱いされた事が、とてつもなく我慢ならなかった。
ファクマは笛を取り出し吹く。ピィーー!という甲高い音が響く。
「お呼びですかな?」
「ああ、どいつもこいつも使えなくてな!お前に頼る事にしたぞぉ!」
「でしょうな。この山で待機させたり捜索に出した、雇っていた連中が軒並み所在が分からなくなりました。おそらく自分達で垂れ流した毒ガスにでもやられたのでしょう。本当に使えない連中です」
「ああ、だから任せるぞ!そこの黒い服の女を殺せ!んで、そこで泡吹いて寝てるクソ賢い猫に止めを刺せ!」
「了解しました」
ファクマの使用人は腰から下げた、細身の剣を鞘から抜いた。
ミィナに似た子は警戒を強める。というのも、似た子は敵の中に潜み危険な相手を順位付けし、観察していたからだ。
この男はその順位の中では上から三番目だ。
一番はプラチナとかいう軽薄な男(すでにエリィにボコられ済み)。二番は禍々しい大きな鎌をもった少年(トーマスに敗れ使い魔に殺された)。そして、三番がこの使用人。
ついでに、ファクマ以外の他は順位すら付けていない負ける気がしなかったから。そのファクマは最下位の一番弱いという順位を付けた。
「面倒なのが来たものね。ニセモノやゴミ男はいつでも始末できるし、先にこの男を殺さないとかな・・・・・・」
「そのローブを見るに、我々の雇っていた者の中に紛れていたようですが、この山で所在がつかなくなった者達はもしやあなたが何かしたのですかな?」
「知るわけ無いじゃない。私の目的には関係ないし、今邪魔なのはあんた達ね。手を引くなら見逃してあげるけど?」
「見逃す、ですか・・・・・・。この私より強いつもりとは舐められたものですね!」
使用人は剣を片手に駆け出す。
似た子もナイフを片手に姿勢を低くして駆け出した。
「はぁぁ!」
使用人は剣を横薙ぎに剣を素早く振る。
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使用人は体勢を崩しながらも後ろに下がりかわすが、その顔には驚愕の色が伺えた。
「なんて素早い動き・・・・・・。それに蹴りの風圧――」
「体勢崩したクセに悠長に分析?」
似た子は隙を逃すつもりはなかった。
つかさず、相手に向かってナイフを構え近接する。より近く、剣よりナイフが蹴りが有利になるように間合いをつめる。
剣を振るには間合いが近すぎると判断した使用人は、剣を盾にするように似た子と自分のあいだに横にして滑り込ませる。
だが細身ゆえに、この使い方では心細く見える。いや、実際使用人は焦っていた。
見るからに女の子で、見るからに体を鍛えていたように見えないスレンダーな体。そして、見た事ないほど野生的で攻撃的な戦法。
この使用人は数多くの戦場で戦ってきた傭兵だった。当然、殲滅戦でもアルマゲイド側で戦い生き残っている。その経験豊富さゆえ、剣技や戦いの知識はかなりの物だしファクマもそこを買って使用人にした。
その知識がまるで役に立たない、言ってみれば新種の獣を相手にしてるようだった。
剣に有利な間合いを得るために、使用人は距離を開けようとするも距離が開かない。
フェイントがまるで通じないし、距離が開かない上にナイフの突きや蹴りが次々に繰り出されてくる。防ぐ事は出来ても攻撃に転じることが出来ない状況だった。
「いったい、どこでそんな戦い方を学んだ!?」
使用人は戦いの最中だというのに、その疑問を目の前の似た子に投げかけた。
似た子のナイフによる横薙ぎの斬撃が使用人の剣に防がれた。そのように見えた。だが違う。
そのナイフには力が入っておらず、ナイフが剣に触れた瞬間剣の表面をなでる様に回転した。
似た子はナイフをそのまま逆手に持ち替えナイフの鍔で使用人から剣を引き剥がし、膝を上に突き出した。
「学んだ?いいえ自分で考えただけよ」
「恐ろしい子供だ・・・・・・!」
使用人はすんでの所を、左腕で似た子の膝を受け止めた。
「ちぃっ!やっぱり、あんた強いわね。速さは私の方が勝るけど力じゃ押し負けるわねっ!」
強引に突き出そうと膝に力を入れるも、相手の左腕に押し返されてしまう。
その反動を利用して後ろにバク転を3回程決めつつ再度距離をとる。
「ファクマ様、アレを使わせてください。この娘想像以上に厄介です」
「マジかよ。腕が鈍ったとかじゃねぇのかよ?」
「かもしれません・・・・・・」
「まぁ、いいぜ俺のとっておきを使わせてやるよ」
「有難うございます」
ファクマは後ろの腰に付けていた3つの棘がついた円月輪のような物を取り出した。
それは、バチバチと音を立てていた。
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辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
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この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
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そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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