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錬金術士の弟子になる

交渉/町の宝/終始一貫の理

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「ファクマさん・・・・・・、でしたよね。何が目的なんですか?」

 ミィナは震えそうになる足を気持ちでなんとか押さえつけてファクマに訪ねる。
 その胸に抱いているトラジを心の支えにして。

「へぇ、思ったより落ち着いてやがるな。だが、すでに言ったはずだぜ?俺はお前のご主人様になるってな」
「狙いは、・・・・・・私。なんですか?」
「その通りだぜぇ。その為によ、わざわざ大金だしてこいつら雇ってこんな田舎クセェ所まで来たんだぜ?感謝して欲しいくらいだぜホントによ。で、さしずめそっちの目的はこのガキ共をなんとか助けようってか?」
「・・・・・・」

 ミィナは考えを言い当てられ、何も言えず黙る。

  コイツ相当イカれてやがるが、頭も回るタイプか・・・・・・。

「それなら簡単だぜぇ、大人しく捕まってくれよ。そうすりゃこいつらは逃がしてハイさよならだ」
「折角捕まえたのに逃がすのかよ・・・・・・」
「お前らはガキと遊びたいだけだろが。バカかよ。お前らは、俺の目的のために雇われてここにいるんだろうが!下手に目的に逃げ回れて前みたく邪魔が入るくらいなら、引き換えで目的達成するだろ?普通よぉ」
「ミィナちゃんダメよ!私はいいから逃げるの!私はね、ミィナちゃんが逃げ切って、このクズ連中の負け犬姿を見て爆笑してやる予定なんだから!」

 ファクマは動けないよう抑えられてるリーヤに近寄ると、おもむろに胸倉を掴む。

「穏便に交渉してる最中だぜぇ。黙れよ雌ガキがぁ!」

 そのまま、強引に引っ張り服を破いてしまう。

「きゃぁぁぁ!!」
「リーヤちゃん!」
「リーヤぁ!」
「さぁ、どうするよぉ、ミ・ィ・ナちゃん。逃げるか代わりに捕まるかの2択だぜぇ。面倒だから他の選択は無しな。逃げても逃がさねぇけど」

  交渉といいつつこっちの選択肢を2つに搾って来やがるとは、時間稼ぎも長くはさせないつもりかよ。
  本当、厄介な奴だ。

「ああ、あとその糞猫も大事に持ってろよな。キッチリ殺さなきゃいけねぇんだからよ」

 その言葉にミィナが目に見えて動揺する。
 必死に震えないように抑えてた足が震え、後ずさりして逃げ腰になる。

「ミィナ!とにかく時間を稼げばいいんだ。落ち着け!でないとリーヤ達が危ない」
「でも・・・・・・、逃げないとご主人様が・・・・・・」

 ミィナの心の内を占めたのは、先程のトラジを失うかもしれない恐怖だった。
 そのトラウマが再燃していた。

「ヤガタ。ゴメンね!やっぱりコイツ許せない!」
「ああ。それは俺もだ」
「何言ってやがる。後ろから羽交い絞めされてるくせによ。何が出来るってんだか。で、そろそろ決めろよな。でないとこの雌ガキを男共の餌にしちまうぞ?」
「リリ」

 ファクマがリーヤに背を向けたタイミングを見計らって、服の袖に隠れてたリリに小声で合図をする。
 リリは服から飛び出し後ろの男の腕に噛み付く。

「痛っ!このやろ!」

 リリは噛み付いたあと男の背中に回りさらに噛み付いていく。
 自由になったリーヤはファクマの後ろから股間を全力で蹴り上げた。

「がぁぁぁぁ!!!!!クソッ!くそがぁ!!やりやがったな!!くそが!クソクソクソクソォ~~~~~~~~~~~~!」

 股間を両手で押さえ、地面を右へ左へ転げまわる。

「クソはあんたよ!ザマァみろよ!私の使い魔はゴミじゃないわ、出来る子なの!私がどうなろうと、私の友達をあんたなんかに好きにされてたまるもんですか!!」

  おいおいおい!まずい、これじゃ交渉を長引かせる事もできないぞ!
  頭カンカンな相手は、交渉の余地もなく実力行使でくるぞ・・・・・・。

 リーヤは一度だけミィナとトラジに向かって笑って見せたあと、後ろから再び羽交い絞めされる。
 リリは捕まったあげく地面に叩きつけられ、意識がなく横たわっていた。生きてるかどうかも怪しい。
 トラジは気づく、この余裕のない中笑って見せたのは逃げるなら今だという合図をミィナとトラジに送るためであったと。
 リーヤは犠牲になる事、リリとヤガタを巻き込むだろう事を覚悟してまでミィナとトラジを逃がそうとしたのだ。

 トラジはその意思を汲んで、ミィナに小声で指示をする。

「ミィナ、逃げるぞ。返事はしなくていい、ぷくちゃんを使って雑草の森を突っ切って町まで行く」
「えっ・・・・・・でも・・・・・・」
「やるんだ。もう交渉はできない・・・・・・」

  俺達に出来る事は逃げ切ることと、助けを呼ぶ事。
  敵の用意周到さから見て、クロクスも何らかの妨害にあっている可能性もある。

 ぷくちゃんを使う理由は、ミィナの体力では雑草を掻き分けながら町の方へ進むには厳しいと思われたのと、遅すぎて敵に捕まるほうが早いと思われるからだ。

「あったま来たぞ!このクソ雌ガキが!お前はもう助からねぇからな!おい!お前らの好きにしていいぞ!ただし徹底的にだ、もうまともに喋れなくなるくらいにメチャクチャにしてやれぇ!」
「私が無抵抗で、終わるなんて思わないことね!最後まで・・・・・・抵抗、抵抗しきってやるんだからぁぁ!」
「ぷくちゃんお願い・・・・・・」

 リーヤは強気に振舞おうとするも、目に涙を溜めていた。当然だ、怖くないわけがない。そんなリーヤの姿を見て男共はいやらしく笑う。
 周囲の男共の注目をリーヤが集めてる間に、ミィナはぷくちゃんを出して指示を出す。
 スキをついたとは言え、ぷくちゃんの転がる音で相手に気づかれてしまうがミィナ達の判断の方が早い。
 相手もノーマークの即席の新しい道だ。当然邪魔者など居るわけもない。
 そこをどんどん走って行く。

「あークソ!追え!逃がすんじゃねぇ!」

 そう指示を出すが、黒いフードを着た男共は誰が追うかで迷い動きが止まる。子供とはいえ、そのリーヤを襲いたいゲスい思考がミィナ達の追い風となった。

「ああクソっ!どこまでも面倒なガキどもだ!」
「リーヤお前、まさか・・・・・・」

 ミィナが逃げた事でリーヤの狙いにヤガタが気が付く。巻き込まれてしまった事、そこに怒りの気持ちはない。
 生まれて初めて、ヤガタはすごいと尊敬した。たとえ、その後に地獄が待っているとしてもその気持ちは変わらないだろう。

「ミィナちゃんが逃げ切れば、どうなろうが私の勝ちなんだから。このクズ連中をバカにして笑ってやるの・・・・・・。だからさ、あんたも最後まで諦めちゃダメなんだからね!」
「ああ。あっ・・・・・・!」

 ヤガタとリーヤは地面に組み伏せられた。
 両腕を足で押えつけられた。ヤガタもリーヤも諦めないで手足を少しでも動かしあばれる。
 その甲斐むなしく、男は空いた手でリーヤの背中側の服を掴み破り捨てる。穢れのない綺麗なその白い素肌が月の光の下にさらされていく。

「ぜっ、たい・・・・・・絶対あんた達ただじゃ置かないんだから!」

 リーヤは泣きながら言った。
 そんなリーヤに他の男も群がり、他の男共が手足を押さえ空いた手がリーヤの黄色いスカートに伸びた。

 パサリッ。

 そんな音が聞こえた。周りに居た全員が破いた服が落ちた音だろうと考えた。
 勘違いも仕方がないのかもしれない。事実、そこに落ちていたのは布製の手袋だったのだから、落ちた音だって同じ布製ならば、そりゃ当然のごとく似た音になるだろう。
 ただし、その手袋は女の子用でなければ、男の子用でもない。成人した男用の魔道具の手袋だ。
 次の瞬間、力任せに投げたボールに当てられたボーリングのピンのように、群がった男共がまとめて吹っ飛んでいく。

 パサリッ。

 ヤガタの目の前にも手袋が落ちる、右手袋のようだ。

「うぎゃぁっっ!」

 ヤガタを押さえ込んでた男が空高く吹っ飛んでいく。

「リーヤくんの言うとおりだとも!ハッハー!お前達のような輩をただで返すわけには行かないな!ハッハー!」

 ハッハー!うるさいこの男は、ヤガタとリーヤの傍に素早く近寄り投げた手袋を手に嵌める。
 鮮やかな緑色。人差し指と中指以外の部分は先のない指ぬきの手袋だった。

「トーマスさん!」
「来るのがおせぇんだよ!」
「すまない。君達が捕まっていたからね下手に出て行けず、茂みで助ける機会を伺っていたんだよ。リーヤくんが蹴りを入れた時は流石に焦ったが、纏めて吹っ飛ばせて良かった!ハッハー!」
「なんだぁ?このクソ暑苦しそうな奴はよ」

 ファクマは面倒そうにしながらも、男共を吹っ飛ばした張本人であろうトーマスに警戒をする。

「なんだとは酷いじゃないか。お互い知らないわけじゃないんだ!ハッハー!」
「てめぇなんざ知らねぇよ。勝手に知ったつもりになるんじゃねぇ!」
「確かに直接合った事はない。だが、君の部下のその黒いローブの格好を私は知ってるぞ・・・・・・。君達アルマゲイドの残党だろう?私は殲滅戦に参加した錬金術士の一人にして、この町一番の錬金術士トーマス・ハーイィだ!ハッハー!その格好は腐るほど見たからすぐ分かったぞ!ハッハー!」
「ああ!忌まわしいなぁぁ!あの殲滅戦!それまで好き勝手できてたのによぉ!お前らのせいでどれだけの被害がでたと思ってやがる!あ・・・・・・、そういや、この町一番とか言ったな?」
「ああ。その通りだとも!ハッハー!」
「こりゃぁいいな。調べたんだよ一応よぉ、この町の邪魔になりそうなやつを。お前シルバーなんだろ?俺はよ、この町の連中とやりあう可能性も考えてよ、色々準備してきてんだよ。ここだけじゃねぇ他のとこに部下も配置したりプラチナやゴールドクラスなやつも呼んだりしてる。わかるかよな!てめぇは詰んだんだ!死ね!しねしねしね!」

 ファクマは積年の恨みを込めてトーマスを罵倒する。

「私は死なない、なぜならこの町が好きだからだ。いずれ大人になりこの町の大きな支えとなるだろう子供達。そんなこの町の宝を守らずに死ねるわけがない!ハッハー!ゴールド?プラチナ?たとえイマジナリーソーサラーが相手でも私は負けないさ!ハッハー!」
「ちっ!おめでたいバカがっ!イマジナリーだと?あんなバケモノども相手に負けないだと?よく知りもしねぇバカはコレだから困るなぁ!!ほんとに死ねよしねしねしねーーーーーーーー!・・・・・・おいそこのやつ、近くに待機させてるやつら呼んでこのバカを始末しろ。俺は行く」

 そして、言いたい事は言い終えたとばかりに急に冷静になりミィナの後を追うファクマ。

「トーマスさん!ミィナちゃんが・・・・・・」
「大丈夫だ、ミィナくん達は賢い。それより、まずは君達の安全を確保しないとな!ハッハー!」

 トーマスは準備運動とばかりに右肩や右の手を回したり、右の拳を突き出したりした。

「ほんとに大丈夫かよ・・・・・・。なんかわらわら敵の数が増えてんだけど・・・・・・」
「私から離れないようにするんだ。私一人ならこの程度何人いようが問題じゃないさ!ハッハー!それと、リーヤくんの使い魔だがまだ息はある。無事に帰ったらたくさん褒めてあげるといい!ハッハー!」
「リリ・・・・・・。ごめんね」

 リーヤ達に近づく時についでに拾っていたのだろう、左手にはリリがいた。
 リーヤはトーマスからリリを大事そうに両手で受け取る。
 それと同時に理解する。トーマスにとってリーヤ達はお荷物であり、そのせいでトーマスが思い切って闘う事ができないのだと。

「さぁて、そこのハッハー!うるせぇやつ覚悟はいいかよ?」
「覚悟?するのは君達の方だ。私は手加減などしない・・・・・・いや!力の加減の仕方が苦手なんだった!!ハッハー!」
「いやそこっ!胸張っていうとこじゃないから!」
「ハッハッハー!」

 トーマスは胸を張って答える。
 黒ローブの男共はナイフを抜き一斉に飛び掛る。

「甘いな!ハッハー!私の準備はすでに出来ているぞ?ハッハー!」

 トーマスは動かない。四方から同時に切りかかれたにも拘らずだ。
 ナイフの攻撃範囲に入った瞬間、なぜか切りかかった黒ローブの方が殴られたかのように後ろに吹っ飛んでいった。トーマスは何一つしてない、そう見えた。

「ちぃっ!何が起きやがった!」
「構うな!数で押せ!すぐ他の奴らも来るそれまで押しまくれ!」

 ダメージが軽かったのか、倒れた奴もすぐ起き上がる。

「ハッハー!敵の前で聞こえるように作戦会議とはな!ハッハー!君達よりこの子達の方がよほど優秀じゃないか!ハッハー!」
「おいおい、トーマスさん敵を煽っちゃダメだろー!数で負けてんだぞ!」
「ハッハッハー!」

 リーヤはヤガタの服をつかみ人差し指を口の前に立て、静かにするよう合図する。
 リーヤは気が付いていた、自分達が足手まといだと。
 だから、すぐ理解する。トーマスが声を上げて敵を怒らせるのも、リーヤ達が直接狙われないようにする配慮であると。
 リーヤの無言の合図で遅れてヤガタも気が付き、リーヤに分かったとばかりに頷いてみせた。
 その姿を横目で見てトーマスは思う。リーヤ達は、本当に優秀ないい子達で全力で守らなければ、と。

「チッ!ムカつく野郎だ。ぶっ殺してやる!」

 黒ローブの男共がトーマスにナイフで切りかかる。
 今度はそれを一人一人素早く殴り飛ばしていく。動きが早すぎてトーマスが2重にブレて見えたほどだ。
 そして、不思議なのは殴り飛ばされた敵が空中で勢いよくさらに跳ねた事だ。
 よほどの威力あったのだろう。口から血を吐き、地に落ちた時には動かなくなった。

「バケモノか!20人近くをもう倒しちまうとは、しかも息も切らしやがらねぇ・・・・・・」

 敵の増援は30人ほど来た、元々いたのが10人ほどで増援合わせてもすでに半数を仕留めた事になる。

「トーマスさん、すげぇ・・・・・・」
「ハッハッハー!そう褒めないでくれ、この程度は自慢にもならない・・・・・・。私はこう見えても、夜に一睡もせずにスクワットした事もあるんだぞ。その後少し寝込んでしまったがね!ハッハー!」
「スクワット?寝込んだ?何が言いたいんだテメェは!!」
「つまり!君達など偉大なるスクワットの足元にも及ばないって事さ!ハッハー!」
「わけが分からん!脳筋かテメェ!!」

 残りの10人ほどが一斉に向かってくる。
 その相手を素早い動きで殴り飛ばしていく。だが、その中の敵の一人がヤガタにナイフを向けた。

「脳筋で結構・・・・・・」

 咄嗟に右腕を盾にナイフを止める。
 そして、代わりに左手で渾身の一撃を打ち込む。

「それで!子供達を守れるのであれば問題ないさ!!ハッハー!」

 トーマスは右腕を怪我したが幸いな事に動かすのに支障はないようだった。
 そして、敵の残りは10人。もう勝ったも同然そうリーヤ達は考えてしまっていた。

「へぇ・・・・・・。すごいもんだねぇ。コイツなんてマジもんで死んでんじゃん。一撃でこれか、様子見してて正解じゃんか」

 倒れた黒ローブの男をつついてた小柄な・・・・・・、いや子供だった。黒いローブは着てるもののフードまでは被っていない。顔も見た限り子供だ、ただしその手に握られた大鎌が子供と思ってはいけないと本能に訴えてくる。
 勝ったも同然、そんな考えが消し飛ぶくらい・・・・・・。

「あの大きな鎌を持った彼が、恐らくあの男の言ったプラチナ・・・・・・、いやゴールドクラスになるのかな?ハッハー!」

 子供はそれを聞いて嬉しそうにする。

「うんうん。せいかーい!嬉しいなぁ。僕って見た感じからして子供じゃん?正直子供扱いするやつが多くて、ホントうんざりしてたんだよねぇ。僕ってこんなに頭良くてさ、強いのにさ!」

 その子供はそう言うと、近くのまだ息のあった黒いフードの男に大鎌を振り下ろし絶命させた。

「コイツも僕を子ども扱いしたんだ。弱っちぃくせにね」
「その大きな鎌は君が作ったのかな?ハッハー!」
「そうだよ。自慢の一品さ」

 離れた所から犬の遠吠えが聞こえた。
 トーマスはそれを聞いて苦虫を噛み潰したような顔をする。

「どうやら、同情の余地は無いらしいね。呪いの武器・・・・・・、それも人に強い効果をもたらす類のもの。作ってしまうだけで大罪だ!ハッハー!」
「見ただけでそこまで分かるんだ?はぁ・・・・・・。子供扱いしないのは褒めてあげるけどさ、これだから組合の連中はダメなんだ。錬金術において犠牲は仕方の無いもので、必要不可欠。丈夫で、強くて、ムカつく奴をぶっ殺せる。そんな良い物作るために躊躇なんてする方がどうかしてるんだよ」
「子供だろうとアルマゲイドはアルマゲイドか・・・・・・。今も昔も変わらずとはな、救いようが無いな!ハッハー!」
「僕を子供扱いするなぁぁぁ!大人はいつもそうだ・・・・・・、小さいからって弱いからって子供だと言ってバカにしてさぁ。僕はそんなやつらに鉄槌をくれてやるんだ。そのためのアルマゲイドなんだよ、そのための自由なんだよ」
「アルマゲイドが自由?どういう意味なのかな?ハッハー!」

 トーマスには理解が出来なかった。殲滅戦の最中でも敵は自由を謳い掲げていた。
 だが、実際はどうだ?自由といいつつ部下を平気で踏みつけ捨て駒にする様は暴君でしかなかった。その部下も自由の元に集まったようにはとても見えなかった。

「そうか、組合はまだ理解してないんだ?アハハハッ!滑稽だなぁ。そんな奴に前のアルマゲイドは負けたわけだ。これも笑っちゃうよ。でもさ今回は負けないよ、少なくともあんたにはね。観察させて貰ったからね?あんたのネタは分かってるんだ、空気だろ?空気の見えない玉を高速でぶち当ててる。恐らくそのグローブで触れた部分に飛んでいく。なぁ、そうなんだよね?」
「正解だ!ハッハー!この手袋で始まりと終わりを定めて空気の玉を打ち出す。始まりと終わりの距離が長ければ長いほど、空気の玉はより大きくより早く強力になる。私はこの手袋の魔道具にこう名づけた。終始一貫の理という名をね!ハッハー!」

 子供は嫌そうな顔をする。ネタを言い当てる事で相手の戦意がガタ落ちすると考えていたからだ。
 手の内が知れるのは優位から一転して、不利に傾いてもいいくらいのもののはずだった。

「ネタが知れてるからって、自分から説明するかな?普通。バレてても問題ないって事?相手はこいつらじゃなく僕だよ?わかってるのかな本当に、しかもお荷物2つも連れてるのに」
「問題ないさ!ハッハー!私はたとえ相手がイマジナリーソーサラーだとしても、負けるわけにはいかないからね!ハッハー!」
「バカだろあんた?」
「ハッハッハー!」
「トーマスさん!笑う所じゃないだろ!」

 ヌギヌギっ!

 トーマスは突然上着を脱ぎだした。

「脱ぐところでもないだろぉ!」
「リーヤくん、その格好は寒いだろう着たまえ!ハッハー!」
「えっ・・・・・・?」
「敵の数もだいぶ減らしたし、そろそろ私の同僚も来る頃だ。悪いがこれ着て逃げたまえ。今なら他の敵に追いつかれる前に、私の同僚に途中で保護してもらえるだろう!ハッハー!」

 リーヤはトーマスの上着を受け取る。サイズはぶかぶかなのが容易に想像できたが、半裸よりはマシだろうと思われた。
 それと、ここでリーヤ達を逃がすという事はそれだけ危険な相手でもあるという事だ。足手まといなのは理解できていても、危険な所に一人にしてしまう心苦しさをつい感じてしまうリーヤだった。

「ここまで走ったり、敵を殴り飛ばしたりで運動したからね。汗臭いだろうが許してくれ!ハッハー!」

 リーヤは微妙な顔でトーマスの少し湿った服を見つめ数秒悩んだ。

「トーマスさん・・・・・・。その一言で何かが台無しになってなくね?」
「きっと、気のせいさ!ハッハッハー!」
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