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使い魔と契約
先輩/黒猫/記憶喪失
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気がつくと男は死に掛けていた。
だと言うのに、すぐにそれを受け入れる。
ああ、そうかこれは・・・・・・。
俺は死ぬんだろうな。
気がつくと瀕死の状態というこの理不尽。
それを納得してしまうあたり、この男は相応に変わっていると言えるかもしれない。
その原因の一つとして、すでに感覚が麻痺していたのもあるだろう。
だが、真に男が死を受け入れた理由は無いからである。
ま、特にやりたかった事もないし・・・・・・。いいと言えばいいか・・・・・・。
この男の名は、山中 虎次郎ヤマナカ コジロウ32歳。
市役所で働く公務員だ。悩みはクレームモンスターの対処。
ついでに最近話題になったアニメ映画を見て、アニメにドハマリしそこからオタクになりつつあった新米オタクだ。
生に執着する理由無くなんとなく流れで生きてきたような男でもあった。
瀕死の状態だからだろう。男は体が思うように動かせない。
幸運なのは痛みがないのが救いだろうか、痛みがあったらまともに考える事もできず無駄にもがき死期を早めたに違いない。
男は動かない体の代わりに目を動かす。
ここは・・・・・・、森の中か?
地面には赤い血の跡、これはもしかしなくても俺の血かな。
少ない情報から自分の置かれた状況を把握しようとする。
ダメだ、ムリ。
全然分からん。
そもそも俺のこうなる前の記憶と大分違うし・・・・・・。
血を流しすぎたのか意識も遠のき始める。
そんな中、視界には映らないが女の子のすすり泣く声が聞こえた気がした。
それと一言・・・・・・。
「ごめん・・・・・・、なさい。でも、なんとか・・・・・・、するから」
泣きながら発せられた言葉だからだろう。少し聞き取りにくい。
――次の瞬間。ふわりと持ち上げられるような感覚があった後に男は意識を失った。
「・・・・・・頭が痛いな」
次に目を覚ますとそこは檻の中だった。
体中包帯ぐるぐる巻きで。
状況を整理しよう。
俺は森の中で瀕死の状態だった。次に気がついたら檻の中・・・・・・。
うん。わからん。
さらに瀕死になる前を思い出してみる。
「俺は電車から降りる時痴漢だと言われたな確か。身に覚えは無かったがヤバイと思って逃げ出そうとしたら腕を掴まれてバランスを崩して線路に落ちて・・・・・・そこに電車が・・・・・・」
なんとなーく線で繋がった、かな。
俺は電車に?あと森と思ったが林だったかも?
その所までぶっ飛ばされて痴漢として捕まった訳か。
「くっそう!間違いで捕まるくらいなら、ガッチリ触ればよかったーー!これからの人生お先真っ暗だろぉコレぇぇ!」
冤罪で捕まるくらいなら!という心理に陥るもののダメなものはダメである。
「何だ?そこの新人・・・・・・」
檻の外から声がしたと思ったらそこにいたのは猫(茶色系統のトラ柄)だった。
「ね、」
「ん?」
「猫がしゃべったぁぁぁ!」
「お前も猫だろ!」
「え?」
「変なやつ。だが説明。先輩様が」
その猫はここがどういう所なのかを、先輩風をふかしつつ説明してくれた。
ここは、錬金術士組合にある使い魔候補のための部屋で、とある少女によって男はここに担ぎこまれたらしい。
錬金術士を目指す者には必ず使い魔が必要で、現役の使い魔やその候補を保護・治療する事も錬金術士組合は行っている。
それはつまり・・・・・・。
「お前選ぶ。使い魔、成るか否か」
「否だとどうなるんだ?」
「すぐ野良」
怪我があろうと何だろうと只でとはいかない。
治療や日々の食事代等も考えれば当然で、無料で誰でもなんて到底無理である。
使い魔になるなら保護しますよって事か。
「ちなみに誰の使い魔になれと?」
「未定。錬金術士の候補生。それに選ばれると使い魔」
「こっちに選ぶ権利は・・・・・・」
「ある。拒否は無理。が、選ばれないよう振舞え」
なるほど・・・・・・。
って!なんでだよ!なんで猫なのよ俺!
しかも使い魔って!アレだ、パシリみたいなもんだろ。
はぁ・・・・・・、ホント何がどうなってんだか。
「お前、怪我悪そう。猶予ある、よく考えろ」
そう言ったあと、檻の中にあったメザシみたいな生の魚を器用に手で手繰り寄せ1匹くわえてった。
先輩様が教えてやった、その報酬代わりらしい。
生だし食う気はしないからいいけど。
しかし、パシリになるのもやーだが、野良はもっと無理か・・・・・・。
虫なんて食える気しないし、生の魚も鳥も食える気しないどころか獲れるかどうか・・・・・・。
やべっ・・・・・・。選択の余地ないじゃん。
そう思いつつも、猫である事を受け入れられてるあたり相応の適応力はある男だった。
その日の午後また別の猫(黒猫で主人が宅急便でもしてそうな奴)がやってきた。
「あなたが昨日の晩に、瀕死で運ばれてきた猫よね?」
男は驚いた。
前の猫より言葉がスムーズ・・・・・・。というか人に話しかけられたようにさえ感じたからだ。
「そうだけど、あんたは?」
そう答えただけだったが、猫は目を少し大きく見開きすぐに目を細め眼光を鋭くした。
「少し驚いたわ。ただの野良猫とは思えない。私並・・・・・・あるいはそれ以上に、人間よりの話し方をするのね」
なるほどね・・・・・・。
先輩様が言ってた選択を聞きに来たやつなんだな。
ついでに俺の使い魔適正でも確かめてるんだろう。
「どこで暮らしていたのか聞いてもいい?もし飼い主がいるなら、そこに戻れるように人間に伝えてあげるわ」
男は正直に答えるべきか悩んだ。
普通は元人間なんですなんて、信じてもれえる訳がない。
下手を打てば精神異常者扱いかもしれないし、そうなれば使い魔適正なしという判断が下るかもしれないと考えられた。
現状、使い魔になった方がいいと判断している男は慎重になるべきだと考えた。
つーか、あれ?
今コイツ人間に伝えるとか言わなかったか?
人と話ができるのだろうか?
というか錬金術士って?使い魔ってなんだ?
そんな職業聞いたことねぇぞ!ゲームやアニメの中以外で!
鋼でもつくるアルケミストか鉄鋼業かっての!
いろんな事が頭に思い浮かぶ。だが、シンプルに最初の疑問を聞くことにした。
「なぁ、人間に伝えるって言ってたがあんた話が出来るのか?」
「そう、・・・・・・何も知らないのね。てっきり誰かの使い魔かと思ったのだけど・・・・・・」
黒猫はどこから話をすべきかといった風に少し目を閉じ考え頷いてから話し出した。
「私は錬金術士の使い魔なのよ。私のご主人様がここで働いていて、私はその手伝いでここにいる猫達の面倒を見ているの。ここまでは大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「当然猫同士だし話はできる。話し方に大分個体差があるけどね。普通私達猫は人間ほど多くの言葉を必要としないからなんだけど、使い魔を目指す子や使い魔として長年仕えた先輩は、当然のように人間のような話し方になるの」
「だから俺の事も誰かの使い魔だと思ったわけか」
「そのとおり。で、人間のような話し方になっていく理由があなたの疑問の答えね。使い魔とそのご主人様は普通に会話できるようになるの」
「人間とではなく、そのご主人様と話せるようになると?」
「それで間違いはないわね。他の人間とは話す事はできないわ」
この時、男は確信した。
単に猫になっただけではないと。
ぜってぇ!異世界だここ!!しかも転生だーーー!!
声にこそ出さないものの、心の中で盛大に叫んだ。
「疑問はもうない?なければあなたの事聞かせて欲しいのだけれど」
おっと、そうだった。
ここでうまく答えないと・・・・・・、使い魔になれるかどうかが決まるんだった。
「実は何も覚えてなくて――」
「ふざけないで!ちゃんと答えて頂戴!」
「ふぇっ・・・・・・」
記憶喪失設定が効かない、だと!
しかも驚きのあまり変な声でちゃったじゃん!
「あなたの理解の早さや話し方を見るに、何も覚えてないなんて事はないはずよ」
「いや、でも記憶喪失なものは仕方ないですし」
「”きおくそうしつ”って何?ふざけて言ってないでしょうね?」
猫の世界で記憶喪失なんて病例はまったく知られておらず、男は目に見えて焦った。
どうすりゃいいんだぁぁぁ!!
落ち着けぇ、落ち着くんだ俺ぇ!
頭を抱えて必死で打開策を考え出そうとするが、見かねたのか黒猫が先に口を開く。
「話し方だけみるなら、優秀な使い魔になれそうなのに・・・・・・。残念ね」
『これはもうダメかしら』そんな雰囲気をしだす黒猫。
何か手は・・・・・・。
何か何か何か何か何か何か・・・・・・。
「お、俺は本当は実は元は人間で死んだら猫に・・・・・・」
「はぁ・・・・・・。もういいわ。次が最後の質問ね」
オワタ・・・・・・。
最後の質問は『使い魔になりたい?』だった。
男は最後の質問に小さな声で『・・・・・・ハイ』と答えた。
「記憶喪失設定使えねぇとかどうなってんだよぉ!!」
だと言うのに、すぐにそれを受け入れる。
ああ、そうかこれは・・・・・・。
俺は死ぬんだろうな。
気がつくと瀕死の状態というこの理不尽。
それを納得してしまうあたり、この男は相応に変わっていると言えるかもしれない。
その原因の一つとして、すでに感覚が麻痺していたのもあるだろう。
だが、真に男が死を受け入れた理由は無いからである。
ま、特にやりたかった事もないし・・・・・・。いいと言えばいいか・・・・・・。
この男の名は、山中 虎次郎ヤマナカ コジロウ32歳。
市役所で働く公務員だ。悩みはクレームモンスターの対処。
ついでに最近話題になったアニメ映画を見て、アニメにドハマリしそこからオタクになりつつあった新米オタクだ。
生に執着する理由無くなんとなく流れで生きてきたような男でもあった。
瀕死の状態だからだろう。男は体が思うように動かせない。
幸運なのは痛みがないのが救いだろうか、痛みがあったらまともに考える事もできず無駄にもがき死期を早めたに違いない。
男は動かない体の代わりに目を動かす。
ここは・・・・・・、森の中か?
地面には赤い血の跡、これはもしかしなくても俺の血かな。
少ない情報から自分の置かれた状況を把握しようとする。
ダメだ、ムリ。
全然分からん。
そもそも俺のこうなる前の記憶と大分違うし・・・・・・。
血を流しすぎたのか意識も遠のき始める。
そんな中、視界には映らないが女の子のすすり泣く声が聞こえた気がした。
それと一言・・・・・・。
「ごめん・・・・・・、なさい。でも、なんとか・・・・・・、するから」
泣きながら発せられた言葉だからだろう。少し聞き取りにくい。
――次の瞬間。ふわりと持ち上げられるような感覚があった後に男は意識を失った。
「・・・・・・頭が痛いな」
次に目を覚ますとそこは檻の中だった。
体中包帯ぐるぐる巻きで。
状況を整理しよう。
俺は森の中で瀕死の状態だった。次に気がついたら檻の中・・・・・・。
うん。わからん。
さらに瀕死になる前を思い出してみる。
「俺は電車から降りる時痴漢だと言われたな確か。身に覚えは無かったがヤバイと思って逃げ出そうとしたら腕を掴まれてバランスを崩して線路に落ちて・・・・・・そこに電車が・・・・・・」
なんとなーく線で繋がった、かな。
俺は電車に?あと森と思ったが林だったかも?
その所までぶっ飛ばされて痴漢として捕まった訳か。
「くっそう!間違いで捕まるくらいなら、ガッチリ触ればよかったーー!これからの人生お先真っ暗だろぉコレぇぇ!」
冤罪で捕まるくらいなら!という心理に陥るもののダメなものはダメである。
「何だ?そこの新人・・・・・・」
檻の外から声がしたと思ったらそこにいたのは猫(茶色系統のトラ柄)だった。
「ね、」
「ん?」
「猫がしゃべったぁぁぁ!」
「お前も猫だろ!」
「え?」
「変なやつ。だが説明。先輩様が」
その猫はここがどういう所なのかを、先輩風をふかしつつ説明してくれた。
ここは、錬金術士組合にある使い魔候補のための部屋で、とある少女によって男はここに担ぎこまれたらしい。
錬金術士を目指す者には必ず使い魔が必要で、現役の使い魔やその候補を保護・治療する事も錬金術士組合は行っている。
それはつまり・・・・・・。
「お前選ぶ。使い魔、成るか否か」
「否だとどうなるんだ?」
「すぐ野良」
怪我があろうと何だろうと只でとはいかない。
治療や日々の食事代等も考えれば当然で、無料で誰でもなんて到底無理である。
使い魔になるなら保護しますよって事か。
「ちなみに誰の使い魔になれと?」
「未定。錬金術士の候補生。それに選ばれると使い魔」
「こっちに選ぶ権利は・・・・・・」
「ある。拒否は無理。が、選ばれないよう振舞え」
なるほど・・・・・・。
って!なんでだよ!なんで猫なのよ俺!
しかも使い魔って!アレだ、パシリみたいなもんだろ。
はぁ・・・・・・、ホント何がどうなってんだか。
「お前、怪我悪そう。猶予ある、よく考えろ」
そう言ったあと、檻の中にあったメザシみたいな生の魚を器用に手で手繰り寄せ1匹くわえてった。
先輩様が教えてやった、その報酬代わりらしい。
生だし食う気はしないからいいけど。
しかし、パシリになるのもやーだが、野良はもっと無理か・・・・・・。
虫なんて食える気しないし、生の魚も鳥も食える気しないどころか獲れるかどうか・・・・・・。
やべっ・・・・・・。選択の余地ないじゃん。
そう思いつつも、猫である事を受け入れられてるあたり相応の適応力はある男だった。
その日の午後また別の猫(黒猫で主人が宅急便でもしてそうな奴)がやってきた。
「あなたが昨日の晩に、瀕死で運ばれてきた猫よね?」
男は驚いた。
前の猫より言葉がスムーズ・・・・・・。というか人に話しかけられたようにさえ感じたからだ。
「そうだけど、あんたは?」
そう答えただけだったが、猫は目を少し大きく見開きすぐに目を細め眼光を鋭くした。
「少し驚いたわ。ただの野良猫とは思えない。私並・・・・・・あるいはそれ以上に、人間よりの話し方をするのね」
なるほどね・・・・・・。
先輩様が言ってた選択を聞きに来たやつなんだな。
ついでに俺の使い魔適正でも確かめてるんだろう。
「どこで暮らしていたのか聞いてもいい?もし飼い主がいるなら、そこに戻れるように人間に伝えてあげるわ」
男は正直に答えるべきか悩んだ。
普通は元人間なんですなんて、信じてもれえる訳がない。
下手を打てば精神異常者扱いかもしれないし、そうなれば使い魔適正なしという判断が下るかもしれないと考えられた。
現状、使い魔になった方がいいと判断している男は慎重になるべきだと考えた。
つーか、あれ?
今コイツ人間に伝えるとか言わなかったか?
人と話ができるのだろうか?
というか錬金術士って?使い魔ってなんだ?
そんな職業聞いたことねぇぞ!ゲームやアニメの中以外で!
鋼でもつくるアルケミストか鉄鋼業かっての!
いろんな事が頭に思い浮かぶ。だが、シンプルに最初の疑問を聞くことにした。
「なぁ、人間に伝えるって言ってたがあんた話が出来るのか?」
「そう、・・・・・・何も知らないのね。てっきり誰かの使い魔かと思ったのだけど・・・・・・」
黒猫はどこから話をすべきかといった風に少し目を閉じ考え頷いてから話し出した。
「私は錬金術士の使い魔なのよ。私のご主人様がここで働いていて、私はその手伝いでここにいる猫達の面倒を見ているの。ここまでは大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「当然猫同士だし話はできる。話し方に大分個体差があるけどね。普通私達猫は人間ほど多くの言葉を必要としないからなんだけど、使い魔を目指す子や使い魔として長年仕えた先輩は、当然のように人間のような話し方になるの」
「だから俺の事も誰かの使い魔だと思ったわけか」
「そのとおり。で、人間のような話し方になっていく理由があなたの疑問の答えね。使い魔とそのご主人様は普通に会話できるようになるの」
「人間とではなく、そのご主人様と話せるようになると?」
「それで間違いはないわね。他の人間とは話す事はできないわ」
この時、男は確信した。
単に猫になっただけではないと。
ぜってぇ!異世界だここ!!しかも転生だーーー!!
声にこそ出さないものの、心の中で盛大に叫んだ。
「疑問はもうない?なければあなたの事聞かせて欲しいのだけれど」
おっと、そうだった。
ここでうまく答えないと・・・・・・、使い魔になれるかどうかが決まるんだった。
「実は何も覚えてなくて――」
「ふざけないで!ちゃんと答えて頂戴!」
「ふぇっ・・・・・・」
記憶喪失設定が効かない、だと!
しかも驚きのあまり変な声でちゃったじゃん!
「あなたの理解の早さや話し方を見るに、何も覚えてないなんて事はないはずよ」
「いや、でも記憶喪失なものは仕方ないですし」
「”きおくそうしつ”って何?ふざけて言ってないでしょうね?」
猫の世界で記憶喪失なんて病例はまったく知られておらず、男は目に見えて焦った。
どうすりゃいいんだぁぁぁ!!
落ち着けぇ、落ち着くんだ俺ぇ!
頭を抱えて必死で打開策を考え出そうとするが、見かねたのか黒猫が先に口を開く。
「話し方だけみるなら、優秀な使い魔になれそうなのに・・・・・・。残念ね」
『これはもうダメかしら』そんな雰囲気をしだす黒猫。
何か手は・・・・・・。
何か何か何か何か何か何か・・・・・・。
「お、俺は本当は実は元は人間で死んだら猫に・・・・・・」
「はぁ・・・・・・。もういいわ。次が最後の質問ね」
オワタ・・・・・・。
最後の質問は『使い魔になりたい?』だった。
男は最後の質問に小さな声で『・・・・・・ハイ』と答えた。
「記憶喪失設定使えねぇとかどうなってんだよぉ!!」
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