上 下
15 / 18
最高のもっふもふを目指して!

兄弟達のその後

しおりを挟む
「ねぇ、また大きくなったんじゃない?」
「だね~。もう今のリーダーくらいありそう」

 そんな話をしだしたのは俺の兄弟達だった。
 当然だが、チビのあいつはいないけどな……。
 俺の所為で母さんとあいつが群れからいなくなってしまった。

 だが、いつまでも落ち込んでもいられない。

「まだまだだ。今の俺じゃリーダーには勝てない」
「体の大きさの話じゃないの?」
「大きさもまだ負けてる」

 一度やりあったからわかる。
 リーダーは強い、体の大きさも力も確かに群れの中では一番だ。
 その体の大きさと力を利用した力押しの戦い方を好んでもいた。

 でもそれだけだ。

 そういうやり方じゃいけない事を俺はもう知っている。
 経験も賢さだって必要なんだ。
 それをあいつから学んだ。

「まだって事はもしかして?」
「ああ、俺はいつかリーダーより強くなってみせる」
「かっこいい!」

 んでもって、あいつを群れに戻してやるんだ。
 俺の所為で追放させてしまったあのチビをな。



 同時刻のあのチビ。

「いやぁ、困っちゃうなー。えへへー、もうそんなにお肉は食べられないよー。でも、明日食べるから捨てないで置いてー……。ぐへっ、ぐへへへっ……(妄想中)」



「そろそろ、おしゃべりは無しだ。獲物が近い」

 獲物の匂いが濃くなり、狼の優れた嗅覚が近い事を教えてくる。

「うん」
「分かった」
「まかせて」

 俺の兄弟達はそれを聞いて自分の役割を理解しバラバラに走り去って行った。
 もう、子供の時のような競争はしない。
 協力して狩をする事を俺達は覚えた。

 どれもあのチビに教わった事だ。

「まったく、あのときの俺はホントにバカだった……」

 俺は物陰に隠れ、一人反省をした。

 これから俺がするのはチビがしてた待ち伏せだ。
 なんせ、今狙っている相手は雄の鹿だ。
 頭には立派な角を持ち、後ろ足による蹴りが危険な相手。

 だが、そんな鹿も待ち伏せで喉元さえ抑えれば怖くはない。喉元に喰らい付けば、角も後ろ足による蹴りも飛んでくる事はないのだから。

「よーし!逃げろ逃げろー!」
「もう!ふざけないのっ!それよりもっと右側に寄せて!」
「りょうかーい!」

 連携も今ではバッチリだ。
 後は俺がミスしなければ、しっかり仕留められる。

 狩で力をつけて、今のリーダーを追い越し、母さんの仇の熊も倒して、あのチビが群れに戻ってこれるようにしないといけない。

「それが俺に出来る罪の償い方だよな……」
「そろそろだよー!」
「ご馳走ゲットォ!」

 兄弟達の声に、別のことを考えていた俺はビクッとする。

 いけない、いけない。
 今は狩に集中しないとだな!

「今だっ!!」

 目の前に飛び出してきた鹿の首を狙い、見事に雄の鹿を仕留めた。

「なかなかの大物だねー」
「うんうん!」
「ちょっとくらい食べてもいいかなー?」
「リーダー達に見せてからにしなさいって」
「これで順位が上がったりしないかな?」
「どうだろうねー?」

 待ち伏せも戦略の一つ……。
 俺は目の前の仕留めた獲物を見て、子供の時に言われた事を改めて納得をした。

 俺は間違いだらけだな。なんで待ち伏せを卑怯なんて言ってしまったのか……。

「どうしたの?リーダー達を呼ばないの?」
「あ、ああ……。そうだな呼ぼう」

 俺はリーダー達を遠吠えで獲物を仕留めた事を知らせて、それから食事を済ませた。
 やがて日が沈みゆく空を見て俺は思ってしまう。

 チビは天才だ……。そして俺が馬鹿だったんだ……。

 無かった事にはならない過去の過ちが、いまも心の中で疼いてしまってた。



 同時刻のチビ。
 見上げた空は、青さを失い、日は沈みかけ、空は茜色に輝いていた。

「……私は結構バカなのかもしれない!!」



 その日の夜の事だった。
 俺はリーダーに呼び出された。
 理由は知らない。

「今日はなかなかの獲物を仕留めていたな」
「まあな……」
「緊張でもしてるのか?なに、お前の働き振りを見て少し褒めてやろうと思って呼んだだけだ」

 褒めてくれるらしいが、俺は少しも嬉しいとは思わなかった。
 一番に褒めて欲しかったのは俺の母さんだ。
 感謝をしたい相手は助けてくれて、狩の仕方を教えてくれたチビだ。

「そうか」
「あんまり嬉しそうじゃないな。ま、それも当然か。前に負かした相手だしな」
「……」
「力こそまだ未熟だが、お前はすでに私に並ぶほどの大きさになってきている。そのうち力でも私を超え――」
「超えてやる」

 リーダーの目つきが若干キツイものに変わるが、俺は気にしない。
 今は無理でも、いずれは超えてやるつもりの相手だ。
 この際ハッキリ言ってやってもいいかもしれないと思った。

 んでもって俺がリーダーになる!

「それはつまり、お前がリーダーになる、と?」
「今は無理だがな。その内なるつもりだ」
「今すぐでもいいんだぞ?」

 リーダーは俺を挑発してきた。
 今であれば勝てるのが向こうも分かっているんだろう。
 なので、俺は挑発には乗らない。無視をする。

「賢いふりはやめろ。そういうところはお前の父親そっくりだな。賢いふりをして逃げてばかりで、相手の隙をつくような卑怯な奴だった」

 ……我慢だ。無視をしろ。

「だがな、必要なのはそんな卑怯な手段じゃない。本当に必要なのは大きい体とそれに見合う強い力だけだ」

 違う、そんな単純な力だけじゃダメだ。
 それは母さんを死なせてしまった時の俺の考えだ。

「この間追放した奴なんかは群れにはいらん。あんな小さい体ではこずるい手しか使えんだろうな」

 ブチンッ!

 俺の中で何かが切れた音がした。

「上等だぁ!今すぐその座から引き摺り下ろしてやるぅ!!」

 俺は我慢しきれなかった。
 結果は言うまでもないが俺の負けだ。
 だが、不思議と後悔はない。

 何もせずに耐え続けるより、ボコボコにされてでも負けた方がスッキリする。



「ねぇ、大丈夫?」
「ああ、ちょっと転んだだけだ」
「転んだだけって感じじゃなくない?」
「まぁ。リーダーとまた喧嘩でもしたんだろうけどね」

 群れのリーダーと喧嘩なんて良くない事の筈で、距離を取られても仕方ない事だろう。
 でも、それを察しながらもいつも通りに俺に接してくれる、そんな兄弟達に感謝した。
 俺はいい兄弟を持ったと改めて思う。

 もっと早くにそこにも気付くべきだった。そうであったなら、あのチビにも少しは良くしてあげられた筈だ。



 次の日。

「おし、今日も大物狙っていくぞ!」
「えー、たまには楽したいなー」
「文句言わないの!リーダーの座を狙っているんだからこれくらい付き合わないとね」
「そういや何でリーダー狙ってるの?」

 兄弟達の視線が俺に集まる。

「俺が強くなるためだ。そんでもって母さんの仇を討つ!」
「……うん。私も仇を討ちたい」
「だね」
「僕もそう思う」

 俺達兄弟にとっての苦過ぎる経験で、因縁の相手だ。
 俺だけじゃなく、兄弟達も同じ気持ちがあった事に俺は嬉しく思う。

「そんでもって、あのチビ……。追放された俺達の兄弟を群れに連れ戻してやりたい」
「……あのままお別じゃ寂しいもんね」
「べ、別に寂しくて連れ戻すんじゃないって!」
「あははっ!別に恥ずかしがらなくてもいいのに」
「恥ずかしいわけでもない!」
「あの子、今頃どうしてるかなぁ……。元気でやってるといいけど」

 俺はその心配はしてなかった。
 なんせ、あのチビは力は弱いが俺よりずっと頭がいいし、総合的には俺より強いと思っていたからだ。

「心配はいらない。あのチビは俺より強い。今頃、一人で大物を仕留めて余裕顔でお腹を満たしてるに違いない」
「そうだね。あの子、あの時すごかったもんね」
「僕達だけじゃ勝てないような相手に、凄い戦い方してたもんね」
「今頃は、一人でもっと強くなってたりして?」

 ありうるな。
 なんたって一匹狼で生きていくのは難しい。
 群れで狩をしている俺達より獲物を捕まえる確立はずっと低い筈だ。

 だが、不思議とあのチビなら俺達より楽に狩をする姿が目に浮かんだ。



 同時刻のあのチビ。

 あのチビは内心ニヤリとしコロッケを食べた。
 サクっとした衣にホクホクなじゃがいもの香りに挽肉の香りが衣の中から顔を出す。
 味ももうしぶなく美味しかった。

 ただ、店主の人!不思議がっている場合じゃないよっ!
 だって、私の胃袋はまだまだ余裕があるんだからねっ!



 兄弟達の予想とはかなり違うものの、楽に美味しい食べ物にありついていたあのチビだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

処理中です...