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最高のもっふもふを目指して!

もふもふLv2→Lv3&味見

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 私が背後に感じた視線の方へ恐る恐る顔を向ける。
 そこにいた人物は……。

 ……誰だよっ!!

 つい顔を見て『誰だよっ!!』と内心で言ってしまったが、よーーーく見れば、薄紫色の髪に緑色の服を着ていて、兎耳と尻尾のついたヘアバンドを付けていた。
 もしかしなくても以前出会ったことのある女の子だろう。

 ただし、その手にはゴム手袋、そして顔にはゴーグルにガスマスクを装着していた。

「じーーー」

 OK……。
 ちょっと待って、頭が状況に追いつかない。
 前回のダニの件でお互い嫌な気持ちになったのは認める。
 だから私に直接触りたくないのも分かる。

 やっぱわかんねーよ!何がしたいのこの子はっ!!

「……お腹、見せてくれないの?」

 私は目の前の女の子が何がしたいのか未だにサッパリだったが、どうやら前と同じようにお腹を見せて欲しいらしかった。
 が、ゴム手袋とゴーグルにガスマスクまで付けているこの不審者っぷりの相手に、お腹を見せるのを思わずためらってしまう私の気持ちも分かって欲しいとこだ。
 おそらく大抵の犬猫なら見た目で怖がって逃げるだろう。

 なんにせよ、私は恐る恐る仰向けになった。今回ばかりはもふ尻尾ふりふりのサービスは無し。

「よし……」

 女の子はそう言うと、なにやらドロッとした液体を私のお腹にかけてワシャワシャしだした。
 見なくてもお腹の辺りで何かは分からないが、泡立っているのが私には分かった。
 いつもなら、ワーイこれ洗ってくれてるー!!と喜ぶ所なのだが、何やら嫌な予感がしていた。

 だって、ただの石鹸や犬用シャンプーとかなら、ゴム手袋もガスマスクもゴーグルもいらないだろう?

「な、何かワシャワシャされた辺りがチクチク?というかピリピリ?なんかそんな感じがするんだが……」

 前世の人間知識、それもサバイバル知識の中にパッチテストというものがあった。
 食べられるかどうか分からない未知の物を、肌の弱い部分に軽く塗ったり舌先に少し付けたりして食べられるかどうか調べるというものだ。
 その時のピリピリに近い感じがした。

 まぁ、つまりはこれは石鹸や犬用シャンプー等ではない。除菌?滅菌?そういうので使われる毒物を使っている可能性が高いと思われた。

 恐らく前の件で、私の体にノミダニが繁殖してる事を知りそれを一掃しようとしてるのだろう。
 ゴム手袋にゴーグルにガスマスクまで装備して。
 一応私もノミダニ対策はして来たが、一掃に至っているかは分からないので有難いと思わない事はない。ないんだが、ただ一つ待って欲しい。

 私はノーゴーグルにノーマスク、そして直接地肌に当たっているんだが?

「ちょっと待って!その調子で顔までは無理だから!!やばい気がするから!!」

 フロントラインを見習って欲しい!
 一部に付けるだけで済む安心設計を見習って欲しい!
 安易にやばめの洗剤みたいなので洗わないで欲しい!!

 私は体の半分が泡まみれなのまだ途中であったが、無理やりに起き上がった。もちろん身の危険を感じてだ。

「あのーすみません。この辺で白い野良犬を、見ませんでした……か?」

 そしてそこへ、保険所配下の手下がやってきた。
 さっきの保健所警察が手を回したのだろう、どうやら私を探しているらしかった。
 そして出会う不審者少女と保健所の手下。

 見詰め合うと素直におしゃべり出来ないのか、気まずい沈黙がしばらくの間その場を支配する。

 自分の格好を見られて、恥ずかしかったのか石のように固まる少女。
 これは警察の仕事なのではないだろうかと考え、どうするべきか決めかねて固まる保健所の手下。
 そしてわしゃわしゃされた辺りがピリピリチクチクしながら、保健所の手下の登場にドキリとして固まる私。

 三者とも固まっていたが、先に決断を下し動いたのは私だった。

「撤退ぃーーーー!!」

 元々、身の危険を感じ起き上がり逃げる気だった。
 それもあって素早い決断が下せた。
 不審者少女と保健所の手下で固まってくれたのも、今となれば都合が良かったといえた。

 それもあって、私はすでに体の一部のように扱いなれた木箱を被り余裕で逃走できた。

「……えっと、白い野良犬はたぶんアレです」
「あ、ああ。教えてくれてありがとう……。ちなみに君は不審者とかじゃないよね?」
「違いますっ!」

 女の子は顔を真っ赤にしてゴーグルとガスマスクを外して答えた。



「あー酷い目に遭ったー」

 私は川で体に付いた泡を落とした。
 もう、バシャバシャと念には念をスタイルで入念に泡を落とした。
 そうやって泡を落としたわけなのだが、泡が付いていた部分の皮膚がヒリヒリしてならない。

「あー、風がヒリヒリした部分に当たると心地いいーなぁー……」

 風に当たり体を乾かすと泡を洗い流した部分の毛が今までよりも白く、ややふっくらしていた。
 身の危険を感じはしたが、そこだけは良かったと思う。
 当然だが全身ではなく中途半端に一部だけではある。

 とはいえだ。全体的に見れば私のもふもふはLv2→Lv3に上がったと言えると思うし、3食昼寝付きの生活にまた一歩前進した。
 だが、それに喜んでばかりもいられない理由がある……。

「まさか保健所がちゃんとあって、しかも目を付けられるとはなぁ……」

 しばらく町には入らず、様子見をした方が良いと思われた。
 目を付けられたのだから、しばらく町では捜索が続くだろう。
 ならば、次に町に行くのは3~4日くらい間を空けた方が良い。

 あとは……。

「保健所の魔の手をかいくぐり、無害アピールしつつ『3食昼寝付きとブラッシングたまにで、小さい犬小屋暮らしでも我慢します』を実行しないと……」

 ん?内容がまた変わってないかって?
 いやいやいや。私は謙虚な賢い狼ですからこんな感じだったと思うよ?
 うん、そうだったはずだ。

 断じて保健所の手下達にビビッたとか、保健所が魔王の城に思えたとか、なんなら今後は保険城と呼ぼうなんて思ってたりしますよっ!

「しかし、その保険城の魔の手を掻い潜るにはどうしたものか……」

 今回ばかりは、私の前世の人間知識もうんともすんとも言わない。
 狸寝入りでもしてんじゃないかと疑いたいくらいだ。
 そうやって疑いたくなるくらい私は妙案が浮かばずに困っていたのだ。

 ああでもこうでもそうでも昼寝Zzz、それでもそっちでもそりはでもないと考えていると、町の入り口の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「アルベスー!戻って来いっ!!」
「へへん!捕まえられるなら捕まえてみろ!!」

 私がその声のした方に向かうと、案の定以前あった事のある男の子とダメ犬が追いかけっこをしていた。

「また逃げ出したのか。あのダメ犬ちゃんは……」

 再度犬が逃げ出した、だとしても私がまた助けるかどうかは別の話。
 何度もボランティアで助けるのもなぁ。
 次もその次も助けて貰えると勝手に思われるとこっちも困る。

 なんせ、そう都合よく常に助けに入れる筈はない。こっちにはこっちでやる事や考え事があったりするのだから。

「まぁ、これも経験というものだ。次に同じ事にならないようしつけるなり、逃げないよう対策するなり考えていかないとね……」

 起きた問題に対して頭を捻り対策を考えていくのが人間らしさの一つだとも思う。
 自分で対策を考えて解決する為にも、苦労を経て問題を浮き彫りにするべきだろう。

 なんて偉そうな事を、走るダメ犬と同じく走る男の子を見ながら思った私だった。

「ほら!お前の大好きな燻製ジャーキーもあるんだぞ!」
「へい!坊ちゃん!!お困りですかい!!」
「……お前は確か、アルベスを捕まえてくれた犬だよな?」
「そうですぜ!」

 私はジャーキーに目がくら……んだわけではない。
 これから人間達と仲良くしていく訳だし、こういうご褒美的な物を貰うかもしれないしだな……。
 その為の研究というか参考というか、そういう経験を積んでおこうと思っただけでね?

 まぁ、つまりそのジャーキーちょっと味見させてください!!そういうわけです!!!!

「お前これが欲しいのか?」
「イエス!マムッ!!」

 私の目線がジャーキーにある事に気が付いたのだろう。
 男の子は目の前でお上品にお座りをする涎だらだらの私に交渉を持ちかけた。

「アルベスを捕まえてくれたらいいぞ」
「合点承知!!」

 私はアルベスをすぐさまロックオン!
 そして、捕まえる為に駆け出した。
 いいわけになるが仕方ないんだ。

 最近まともにお肉なんて口に出来てないんだよ?
 ましてや美味しさ上乗せの加工肉ジャーキーだよ?

 そりゃやる気にもなるってもんでしょ!!!!

「また捕まってもらうよ!!」
「く、くんじゃねぇーーー!!」

 前回の事ですでに手の内というか、アルベスの能力値というのが分かりきっていた。
 なので私は、なるたけ気付かれずに近寄るという事なしで追い駆けた。
 結果は楽勝。特に何か新しい逃げ方もなかった為に余裕の勝利となった。

 少しは頭を使ってこう?ダメ犬ちゃんよ。

「へへっ、これでお肉いただきっ!!」
「なにっ!あの程度の肉の為に俺の自由を邪魔したってのか!」
「おだまりっ!温室育ちっ!!」

 人間達から与えられる肉がどこから来ているのか、そしてその肉を自然の中で得る難しさと過酷さを理解してない発言にムキーっとなった私だった。

 私は涎が垂れつつも、ズリズリとアルベスを引き摺りながら男の子にリードを渡した。
 すでにお座り状態でやや過剰に尻尾を振りまくった。
 ああ、これが温室育ちなセレブな世界……。待っていれば勝手に出て来る食事ときれいな水……。寒ければ毛布やタオルが支給され、冬には室内であれば暖炉かストーブの前で丸くなれる幸せ。コタツとかいうのも知らないけど捨てがたい……。

 色々と妄想が膨らんでしまうが、私は今そんな温室育ちなセレブ世界の一旦を味わうんだ……じゅるり。

「へへっ、えへへへっ……じゅるじゅる」

 男の子が差し出してくる私のジャーキー……。
 旨味を凝縮させると同時に、長期保存を可能にした煙で燻しつつ余計な水分飛ばした一品……。
 この香りはリンゴの木片を使ったチップだろうか?煙の香りの中にほのかに甘い香りが混じる。

 やばいー!涎が止まらないーーー!!

「ほら、約束どおりこれやるよ」
「じゅるじゅる……」

 パクッ!

 口に含むと、肉の味が前菜とばかりに僅かに染み出し食欲をさらに刺激してきた。
 食欲を刺激され噛み噛みしていくと、メインディッシュのと言わんばかりに濃厚な肉の旨味がジャーキーから溢れてきて……ってバカか私は!!!!
 私はだらだらと垂れる涎を噛み噛みし、妄想で語ってしまっていた……。

 つまり、男の子が差し出したジャーキーは私の口に入る事無く、直前にダメ犬ちゃんことアルベスに強奪されたのだった。

「……お、おまえ、私の、お、お肉をくったのか?」
「けっ!俺の自由を邪魔した罰だ!!」

 へへっ……。久しぶりに狼の血が騒ぐんだぜ?

「アルベス!勝手に食べちゃダメだろっ!!」
「いくらすごんだってお前なんか怖くないからな!」

 目の前の獲物をやっちまえってさ……。

「ほほぅ。それは私にも同じ事言えるのかな……?」
「ああ!お前なんか怖くないも……ん、ね?」
「てめーの血は何色じゃーーーーーーーーーーー!!!!」
「ごめんなさーーーい!!」

 野生で生きてきた狼を本気にさせるとどうなるか、この温室育ちのダメ犬ちゃんに教えてあげよう。
 ふっふっふっふ……。

「悪いな。ジャーキーは明日また持ってくるから……」
「わかりました!親分!!」

 そして、やや大人しくなったアルベスと男の子は帰っていった。

「……しかし、ほんとにいいよね。飼い犬はちょっとくらい反抗しても楽な生活が送れるし、保険城の魔の手に追われる事もないんだから……。……お?」

 私は男の子に連れられていくアルベスに注目した。
 その時、私にの脳裏に何か閃くものがあったのだった。
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