上 下
8 / 18
最高のもっふもふを目指して!

もふもふLv1&ですわ

しおりを挟む
 もふもふとは何か?
 まずはそこから語らねばなるまい。
 もふもふとは、あたたかみと柔らかさを有し!触れた物を優しく包み込むパない包容力!対象の思考能力を低下させ!その心地よさからまた味わいたくなるその中毒性!

 つまり、もふもふとは最高の癒しであり洗脳である!(これは狼の母からこの主人公が教わった事であり、これが正しい訳ではありません)

「鍛えるとは言ったけど、今の私のもふもふ度合いが分からない……」

 私はあれから川に沿って下流に進み人間達の町をみつけた。その町は川を跨ぐように作られていて、意外と大きく大きな橋が川には掛かっていた。
 しかし、私は小柄とは言え狼。簡単に踏み込むわけにはいかない。
 とりあえず、町の近くにあった見晴らしよい大きな木の下に母の腕を埋めて黙祷をして、それから改めて私のもふもふ具合を目視で確認していた。

「見た目だけど、ふっくら度が足らない気がする……」

 ふっくらふんわりさせるには、毛と毛の間にしっかり空気を含ませる必要がある。
 汚れ等で毛と毛同士がくっついたり絡まったりすると固い感触となり、状態にもよるがもはや硬いゴムだ。
 硬いゴムに顔をうずめて、だれがワーイふわふわ等と言うだろうか?

 もはや『ぺっ!なにこれゴミレベルね!!』と悪態をつかれること請け合いである。

「石鹸かシャンプー……。その代わりがいる。出来れば香りも付けたい。ハーブか何か探しておいたほうがいいかもしれない。ブラッシングにブラシの代わりになる物もいるな」

 謎本能と思っていたが、実は前世らしい人間知識が私の頭から出てきて教えてくれる。
 だが、余計に困る。石鹸もブラシも人間が作った物で自然には存在しない。
 ハーブくらいなら狼の鼻でも探せるだろうが、他が無理だ。

「お金さえあれば、狼でも買えるだろうか……?」

 世の中には何もない所でうっかり財布や小銭を落とす人が存在したりする。
 500円くらい手に入れられれば、安い物なら手に入るのではないかと考えた。

「町には直接入らない範囲で探してみよう」



 まずは町から伸びていた街道沿い3キロ程を移動しながら探してみた。

「時間の無駄だった!!」

 結果は何もなし。
 The無駄足。
 私はトボトボとUターンで町の方へ戻ろうとした時だった。
 私の方に向かってトボトボと歩いてくる子供がいた。
 その時だ、私の頭でピコーンと閃くものがあった。

「何があったかは分からないが、これはチャンスかもしれない」

 子供にうまく気に入られれば、そのまま人間達の仲間入り(ペット扱い)で3食昼寝つきの楽な生活ができる!
 洗ってもらったりブラッシングまでして貰えれば、私のもふもふはもはやレベルMaxだろう。
 そして人間達を虜にできればもはや老後まで安泰……。素晴らしい!!

「たとえそこまでいかなくとも、子供と仲良くしてさえいれば無害アピールが出来て町への出入りも自由自在……。なるほど、まず子供と仲良くするのが私の第一の課題なわけだ」

 子供と仲良くするを第一歩に、3食昼寝付きの楽な生活という私の妄想が膨らむ。

「落ち着け私。小柄だろうと狼である事を忘れてはいけない。走って駆け寄りでもしたら、怖がられて水の泡……。慎重にまずは、相手に興味がないフリをしつつ歩こう」

 私は慎重にゆっくりとぼとぼ歩く子供の横に向かって歩いた。
 その子供はどうも男の子だったようで、困り顔で何かを探していた。
 とりあえず、その男の子の横を通り過ぎて背後に回り、背後から足元に擦り寄る。

 狼の私が普通に近付けば逃げられる恐れもある。だが、背後から足元に擦り寄ってやれば驚くだろうが、敵意については無い事くらいは察してもらえるはずだ。

「うわっ!?」

 作戦通りに男の子の足元に擦り寄る事が出来た私だったが、私自身も逆に驚く結果となった。

「い、犬か?」

 良くは分からないが人間の言葉が理解できたからだ。
 意味不明言語でなくて私は安心し神に感謝した。

「神様ありがとーーー!!」
「いきなり吠えんなって!言っとくが食べもんは何も持ってないからな!!」

 だが、私の言葉は向こうには通じないらしい。
 神様のあやふや設定にちょっとプンスカな私だった。

「手抜き設定反対ーーー!!」
「だから吠えないでくれって!逃げたらどうしてくれんだよ」

 私は男の子の機嫌を損ねたらまずいと思い、静かに男の子の横に座った。
 男の子は私が静かになった事でホッとしたのか胸をなでおろし、また頭を動かし辺りをキョロキョロと見渡していた。

 しかし、逃げるとは何の事だろうか?

「あれは、なんだ?」

 私も一緒になって辺りを見渡してみると、なにやら特徴的な黒い三角の耳が短い草の中から生えていた。
 私がじーと何かを見てるのが気になったのだろう。男の子が私の視線の先に目を向けると「あっ!」と声をあげた。

 どうやら、あの黒い耳の生き物が目的の生き物のようだ。

「アルベス!!やっと見つけた!!」

 男の子がそう叫ぶと、アルベスと呼ばれた黒い耳がピクンッ!と動き顔を上げた。
 私の前世知識があれは甲斐犬だと告げた。ただ、似てるだけの可能性も勿論ある。
 男の子は走ってアルベスらしい黒い犬に向かって行った。

 どうも、逃げ出した犬を探していたようだ。

「くそぉ……。すでに犬を飼っているご家庭の子供だったか。これじゃ、私の3食昼寝付きドリーム作戦がぁ!」

 今日のところは諦めて、川の子蟹で腹を満たすべきかを男の子を目で追いつつ考えていた私だった。
 男の子がいくらアルベスに向かって走っても、アルベスまで辿りつけないでいた。
 簡単に言って躾に失敗し、舐められて逃げ回れているようだった。

 主の言う事を聞かないダメ犬ちゃんのようだ。
 もしかしたら、男の子を舐め切ってるだけでその親の言う事には従順なパターンかもしれないけど。

「見たとこ首輪もリードも付いてるな。私なら追いついて捕まえられるかもしれない」

 いくら私が仲間や兄弟に比べて小さくて力が弱いとはいえ、そこは自然の中で体を慣らした狼なわけだ。
 私はこれでも大型犬下位くらいの大きさはあるし、あれに負けないだろうと思われた。
 あれが甲斐犬だとすれば、普通に猟犬なので甘く見ない方がいいかもしれないけども。

 アルベスを追っていた男の子がコケた辺りで、私の重い腰が動いた。

「ここで協力しても見返りは何も得られないだろうが仕方ない。ボランティア活動してやろう」

 私はアルベスの死角になる位置まで、興味のないフリをして歩いた。
 あとは、ゆっくりアルベスを目指して歩き、気付かれた所で全力疾走するだけだ。

 そろーり、そろーり……。

「あっ!」

 コケて座り込んでいた男の子が、迷惑な事に気付いて声を上げた。
 その声に反応したアルベスと私の目が合ってしまう。
 距離的に30m程だろう。正直もう10m程近付きたかったが仕方ない。

 私は全力疾走を試みた。

「逃がさないよっ!」
「捕まってたまるか!俺はまだ自由に遊びたいんだよっ!!」
「このダメ犬がぁ!」

 アルベスは逃げるべく右に左にくねくね曲がりながら逃げようとする。
 だが、むしろ走ってくれたほうが私的には楽に思えた。
 なぜなら、その方が元々狙っていたリードの先が、宙に浮き狙いが定めやすかったからだった。

 私はアルベスが小回りを利かせた急なUターンを狙い、リードに飛びつきキャッチした。

「くそっ!は、放せ!!」

 今になってではあるが、どうやら私は犬とも意思疎通が可能な事に気が付いた。
 私がアルベスのリードの端をしっかり咥えて、嫌がるアルベスをズリズリ引き摺って男の子の所まで運ぶ。
 速さは狼である私の圧勝。もしかしたら猟犬としての訓練を受けていない、温室育ちなのかもしれない。

 ハッキリ言って羨ましい。私なんて波乱万丈と言える生活だったと思うし……。

「お前、俺の代わりに捕まえてくれたのか?」

 一度頷いてから私はアルベスのリードを男の子に渡した。

「すげー賢いな。できればアルベスに見習わせたいくらい」

 男の子に感謝されつつ私は近くの川まで戻ろうとしたときだった。
 男の子に引き渡され、静かに仏頂面になっていたアルベスが口を開いた。

「悔しいが俺を捕まえるとは、雌のクセにやるな……。つ、次は負けないからな!!」

 えっ????????

 私は思ってもみなかった問題発言を聞いて、飛び出すように川まで全力疾走した。
 落ち着いて自分の体を確かめてみる為だ。

「……ない。……アレがない。嘘?マジ?」

 乱れた呼吸を整えつつ、座り込み左後ろの足を持ち上げて後ろを見ていた。

「ない。というか、ないわ?と言うべきなのか……?」

 今まで気にした事がなかった。
 群れの中での順位だって考える必要もなく最下位だって分かりきってたし、雄と雌の順位分けだって子育てするペアを決める物だって聞いてたし、今のところ関係ない物だった。
 というか、私の前世の人間知識が一番の驚きを上げている気がした。

 なんで雄じゃないんだ?と。今まで確認すらせずに、自分を雄である事を前提で生きてきていた事に違和感が無かった事に、今更違和感を感じた私だった。

「なんで雌なのよーーー!ですわーーー!!」

 私は天に向かって吠えた。

「……やっぱり、『ですわ』はないな。……雌らしくしなくてもいいか。今まで通りでいこう。うん!」

 ビックリはしたが、気にせずに今まで通り私らしく過ごそうと思った私だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

緑の魔法と香りの使い手

兎希メグ/megu
ファンタジー
ハーブが大好きな女子大生が、ある日ハーブを手入れしていたら、不幸な事に死亡してしまい異世界に転生。 特典はハーブを使った癒しの魔法。 転生した世界は何と、弱肉強食の恐ろしい世界。でも優しい女神様のおかげでチュートリアル的森で、懐いた可愛い子狼と一緒にしっかり準備して。 とりあえず美味しいスイーツとハーブ料理を振る舞い、笑顔を増やそうと思います。 皆様のおかげで小説2巻まで、漫画版もアルファポリス公式漫画で連載中です。 9月29日に漫画1巻発売になります! まめぞう先生による素敵な漫画がまとめて読めますので、よろしくお願いします!

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

処理中です...