赤い糸(20年の時を越えて)

平尾龍之介

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エピローグ

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 温かい風が柔らかく吹き抜ける、深い緑色をした木々たちが揺れ『ザーザー』と音を立てる。鳥たちの鳴き声が妙に心を落ち着かせる。私は西福寺の縁側に腰を下ろし、少し薄めのお茶を飲んでいる。私の目には、小さな車のおもちゃを手に走り回る男の子と、その後ろを心配そうに見守りついていく、初老の女性の姿が微笑ましく映った。
男の子は『海斗』まだ4歳になったばかり、頭がよくおとなしい性格で、人見知りをする甘えん坊・・。この子が裕也の子供・・私の宝物、私の天使、生きる支え・・。その後ろを追うのが思織さん、私の母。

その光景は、とても尊く美しい・・。

今日は裕也の5回忌・・。もうあれから5年の年月が経つなんて信じられない・・。時の流れは無情で、愛おしい人はもう戻らない。でも、今もまだ裕也は生きていて・・あの笑顔で・・そんな夢を見ることがある・・。切なくて痛くて悲しい時は、海斗を抱きしめて眠っている。不思議と海斗からは裕也の匂いがするから・・。
あれからも色んな事があったけど、母や早希に助けられ、大倉先生の支援もあって何とかやってこられた。航太と春音、ふたりの子供たちとも、定期的に会うことが許されている。時が経つと共に、浩司の気持ちの変化もあって、少しだけ穏やかに話しが出来るようになった。そして何より裕也に支えられている。裕也が残してくれたもの・・それは経済的なことだけじゃなく、母との再会という、お金では決して買えないもの・・それと数多くの思い出たち・・。
私の人生で裕也と過ごした時間は、そう長くない。ほんの一瞬、短い時間・・。でもこの時間はかけがえのない時間。私がこの先70、80歳まで生きたとしても、この時間は永遠に宝物であり続けるだろう『人は忘れる生き物』色んなことを忘れて生きていく、なのに何故、裕也との思い出だけは、忘れようとしても忘れられなかったのだろう・・。今は絶対、忘れたくない思い出・・。
私が心の扉を開けてしまったことで、家族を裏切り傷つけた。もう出口がない・・そうわかっていたのに、足を踏み入れた・・。そして私は、みだらで薄汚い女になった。でも後悔はない。例えこの恋が許されない恋だとしても・・。
これから先、私はこの罪を背負い、償いの道を歩き続ける・・それが罰を受けるということだと思うから。

私は海斗の手を引き、ゆっくりとゆっくりと西福寺を後にした。

この恋をして、裕也の愛に触れ、人が人をこんなにも、深く深く愛せることを知った。それはまさに『深愛』この温かく切ない、言葉を超越した気持ち・・それは、真心の中にこそ宿るもの。

青空の下、太陽の光が私たち親子を包んだ時、ふと後ろを振りむいた。お寺に続く一本道・・そこには裕也が立っていて、手を振ってくれている。まるで生きているように・・いつもの笑顔で・・。
耳をすませば聞こえる裕也の声が・・『香織』・・

「裕ちゃんありがとうね・・」

いつまでもあなたとの思い出を胸に生きていきます。

「また海斗を連れて会いに来るからね」

もう私の目に涙はない・・。

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