4 / 17
誕生日
しおりを挟む
『ピーピピッ、ピーピピッ』スマホのアラームが鳴り響く。すぐに手を伸ばし止める。隣で眠る人に気を使っているのだ。まだ眠りの中にいるのを妨げたくない。私は顔を洗い、コーヒーを作り、炊飯器のご飯を確認する。
手際よくお弁当の段取りを始める。玉子焼きにウインナー、昨日の残り物を上手く使い、完成させていく。次は朝食の準備。テーブルの上はあっという間に朝食で溢れていく。
もう何年もの間、続けてきたルーティンだ。そんな時、ふとカレンダーに目をやった。今日は2019年6月19日、一瞬、手が止まり心が疼く・・ダメだ・・心を落ち着かせる私。あれから、もう20年以上の月日が流れていた。そう、今日は裕也の37歳の誕生日。いつまでだったかな・・10年前ぐらいまでは、6月19日は本当に特別な日だった。この日が来ると一日中、裕也のことを思い出した。でもいつからかな、その思い出も薄れていった。私は30歳の時に結婚をした。それからかな、子供ができて日々に追われ、裕也との思い出を思い出すこともなくなっていった。いや、心の中の思い出を閉じ込め鍵をかけたという表現が正しいかもしれない。
「そっかぁ裕也ももう37歳になるんだね・・」
感傷に浸る暇もない。子供たちを起こさないといけない。私の天使たち・・。長男『航太』7歳、長女『春音』4歳、まだまだ手のかかる子供たち。
「さぁ朝だよ~起きて! 早く起きるよ」
「ママ、おはよう」
そして私の夫『浩司』私より3歳年上の小学校の教師。仕事で出会い結婚。今では念願のマイホームも購入し、どこから見ても幸せな家族を築けいてる。夫は優しく家事や育児にも積極的で私を助けてくれる。
「パパ、今日帰りに買い物お願い!」
「わかった。ちょうど歯磨き粉きれてたから買ってくる」
「お願いね!」
「あっそうだ。来月の法事の時に行こうって言ってた遊園地のチケット取ったよ」
「ありがとう! さすがパパやることが早いね」
「ママ、仕事は、予定は大丈夫?」
「うん。大丈夫。マネージャーには言ってあるから」
「良かったなぁ。航太、春音、みんなで遊園地行けるぞ!」
「やったー」
子供たちの笑顔が私を幸せにする。こんな朝食の時間が裕也との思い出を忘れさせるのかもしれない。
「パパ、もうこんな時間!」
「あっヤバい!」
「はい、これお弁当!」
「ありがとう。行ってきます」
「いってらしゃ~い」
子供達とみんなで浩司を見送る。航太を小学校に行かせ、春音を保育園に預け、私は出勤をする。今年の6月19日も慌ただしく始まり通り過ぎていくのだろう。
私は、昔から何となく話すことを仕事にしたいと思っていた。その願いは一応、叶えられていた。私はイベントの司会などをする仕事についていた。2度の出産を乗り越え仕事だけは続けていた。
「おはようございます」
「おはよう。丁度良かった。森山さんに話があって」
マネージャーが私の顔を見るなり駆け寄ってきた。マネージャ―には大変お世話になっている。仕事だけでなくプライベートも含めて。
そのマネージャーが困り果てた表情で私に頼んできた。
「吉田さんがね、この前の健康診断であまりいい結果が出なくて、急に入院することになったのよ」
「えっそんなに悪いんですが?」
「まだわからないのよ。検査を兼ねてってことみたいなんだけど・・」
「それは心配ですね」
吉田さんは二つ年上の女性の先輩。中学生の子供が二人いる働き盛りのお母さん。
「それでね、来月のシフトを大幅に変更しなきゃいけなくて」
「それはそうですよね」
「これなんだけど・・どうかしら?」
私はシフトに目を通した。
「これっ有給のところ予定入ってますね」
「ダメかしら?」
わざとなのはすぐにわかった。でも状況が状況なだけに難しい判断を迫られた。子供たちの笑顔を思い出すとここで断るべきだけど、この状況でさすがに断れない。
「この日ってイベントの内容はなんでしたっけ?」
「あっ、これなんだけど」
マネージャーは資料を見せてくれた。
「M&T総合法律事務所のセミナーの司会なんですね」
「そうなの。ダメかしら?」
その瞬間、私は息を飲んだ! そうセミナー講師の名前・・弁護士『神崎裕也』
「裕ちゃん・・」
私は声にならない声で言った・・。間違いない同姓同名じゃない。裕ちゃんだ。私にはわかった。5年ほど前、裕也の名前を出来心から検索してみたことがあった。その時、M&T総合法律事務所に『神崎裕也』という弁護士がヒットしたのだ。顔を画像で見て、間違いがないことがわかっていた。
「弁護士になったんだね・・」
その裕也の講演の司会が仕事の内容。時が止まり思考停止に陥る。でも次の瞬間
「わかりました。任せて下さい」
私はマネージャーにそう告げていた。
「ありがとう。助かるわ!」
後先のことを考えることができなかった。本能が私の背中を押したのだ。裕也に会える。でも今更、会ってどうする? こんなおばさんになった私を見て、見せてどうするの? 私には家族がいる。子供もいる。もちろん裕也にも家族があるだろうに、今更会ってどうするの? 怖い・・急に恐怖感に襲われた。私、バカなんじゃないの・・でも会いたい気持ちは抑えきれずにいた。今日は裕也の誕生日。いつものように通り過ぎるだけ、そうなると思っていたのにそうはならなかった。
ずっと心の中に鍵をかけたままの扉がある。その中にある思い出が今にも暴れ出しそうだった。今更、開けてどうするの? 今更・・今更・・。でも、動き出した感情、歯車はもう止められなかった。私には誰にも触れられたくない過去がある。トラウマ? そんなのじゃない。とても素敵な思い出。甘くて苦くて他の誰かじゃ埋められない穴のようなもの。
その日は、仕事を早く終わらせ足早に自宅に戻った。誰もいない部屋で押し入れの荷物をあさり出す。『あった』鍵のかかった小さな箱。鍵の番号は「0619」まるで心の中の扉を開けるようにそっと両手で開けた。箱を開けると光が溢れ出した。ずっと閉まってあった大切な思い出。もう2度と開けないと誓ったのに・・溢れ出す思いに感情が止められなかった。私の16歳の誕生日に買ってくれたお揃いのブレスレット、交換しあった手紙、二人の写真にプリクラ、不思議だね・・一瞬にして20年前に戻ってしまう。忘れてた・・いや忘れようとしていた記憶が溢れ出す。もう止められない・・。
罪悪感がない訳がない。家族・子供達にまで嘘をつくのだから・・。でも動き出した気持ちを止められなかった。ぎこちない笑顔、心のない返事、家族で過ごす時間、一緒に食べる夕食がこんなにも味気ないと感じるのは初めてだった。
「あのね、来月の法事のことなんだけど・・」
私は勇気を振り絞り、話しを切り出した。
「どうかした?」
パパと航太は何があったのかと心配気な表情を浮かべた。幸いにも春音は小さくまだ理解ができていない。
「ママ、急遽仕事になったんだよね」
相談するような話し方をしないようにした。ここは決定事項だと言わなければ納得させる自信がない。
「えっそりゃないよ! せっかく遊園地のチケットまで取ったのに!」
あからさまにパパの機嫌が悪くなり、航太もぐずり始める。
「えーママ行けないの??」
「ごめんね。どうしても仕事が休めなくて」
心が痛む・・子供にまでこんな嘘をつくママを許してね・・心の中で謝っていた。
「えっ何かあったの? 今日の朝は大丈夫って言ってたじゃん!」
「そうなんだ。結婚式にも出てくれた吉田さんいたじゃん、なんか病気みたいなんだよね。それもかなりヤバいみたいで・・それで急遽シフト変更でさ・・」
「そんなに悪い感じなの?」
「うん」
こうなると人がいいパパは反論できずにいた。
「じゃあ仕方ないね」
「本当にごめんね・・マネージャーも困り果ててさ、いつもお世話になってる分、断れなくて・・」
「まぁ働いてるとそういう状況になる時はあるよな。俺もいつそういう状況になるかわからないし・・わかった! 俺が子供達連れて行ってくるよ」
パパは、私が仕事を続けることを条件に結婚したので強気には出れずにいた。私はそれより、子供達を連れて行くと言ってくれたことに安堵していた。本当に『嫌な女』だと自分で思った。母親失格だ・・。
「えっ子供達も連れて行ってくれるの?」
わざとらしく言ってみる。
「だってお袋にも連れて行くって言ってあるし、遊園地のチケットも取ってあるし、それにみんな楽しみにしてるしさ」
「ごめんね・・ありがとう」
「いいよ! 航太、春音、パパと3人で行くぞ!」
航太は聞き訳がいいので、余計に私を苦しめた。
「ママ行かないの?」
春音が何かを感じ取り急に不安な顔をする。
「春ちゃんごめんね・・ママ仕事なの。でもパパもいるし、ばあばもいるから心配しないで大丈夫」
私は泣く娘をあやしながら、心の中で泣いた。
当日、パパと子供達を精一杯の笑顔で見送った。
「運転気をつけて」
「任しとけって」
「航太、春ちゃん、パパとばあばの言うことよく聞いてね」
「うん!」
私は車が見えなくなるまで見送った。
パパの義理のお父さんが亡くなって3年目の法事、子供達を義理のお母さんにも会わせたくて、この日は家族みんなで帰省することは1年前から決まっていた。少しでも思い出を残したいと、1泊2日を2泊3日にして近くにあるテーマパークのチケットまで取ったのだ。その予定を、私は不純な動機で壊してしまった。
「裏切者・・」
小さく自分に言った。最低な母親だ。これから20年も会っていない元彼に会う! それがためにこんな嘘までついて、罪悪感に埋もれる・・。でもこれは私が決めたこと、会いたい気持ちは止められなかった。セミナ―の資料で見た名前・・その瞬間から今日まで、裕也のことが頭から離れなかった。会いたい気持ちは嘘じゃない、でも20年の月日でお互い色々変わっている。今更、会って・・不安、恐怖、この歳を取った私、結婚をし母親になった私、裕也はどんな反応をするのだろう? 迷惑なんじゃないか、裕也にも結婚をし家族がいるだろうに、そう考えるとなんて馬鹿なことをしようとしているのか、苦しくて泣き出しそうになる。でも会いたい・・この気持ちに正直になりたかった。後悔したっていい、今日会わないことを選択すればもっと後悔することだけは間違いないのだから・・。
手際よくお弁当の段取りを始める。玉子焼きにウインナー、昨日の残り物を上手く使い、完成させていく。次は朝食の準備。テーブルの上はあっという間に朝食で溢れていく。
もう何年もの間、続けてきたルーティンだ。そんな時、ふとカレンダーに目をやった。今日は2019年6月19日、一瞬、手が止まり心が疼く・・ダメだ・・心を落ち着かせる私。あれから、もう20年以上の月日が流れていた。そう、今日は裕也の37歳の誕生日。いつまでだったかな・・10年前ぐらいまでは、6月19日は本当に特別な日だった。この日が来ると一日中、裕也のことを思い出した。でもいつからかな、その思い出も薄れていった。私は30歳の時に結婚をした。それからかな、子供ができて日々に追われ、裕也との思い出を思い出すこともなくなっていった。いや、心の中の思い出を閉じ込め鍵をかけたという表現が正しいかもしれない。
「そっかぁ裕也ももう37歳になるんだね・・」
感傷に浸る暇もない。子供たちを起こさないといけない。私の天使たち・・。長男『航太』7歳、長女『春音』4歳、まだまだ手のかかる子供たち。
「さぁ朝だよ~起きて! 早く起きるよ」
「ママ、おはよう」
そして私の夫『浩司』私より3歳年上の小学校の教師。仕事で出会い結婚。今では念願のマイホームも購入し、どこから見ても幸せな家族を築けいてる。夫は優しく家事や育児にも積極的で私を助けてくれる。
「パパ、今日帰りに買い物お願い!」
「わかった。ちょうど歯磨き粉きれてたから買ってくる」
「お願いね!」
「あっそうだ。来月の法事の時に行こうって言ってた遊園地のチケット取ったよ」
「ありがとう! さすがパパやることが早いね」
「ママ、仕事は、予定は大丈夫?」
「うん。大丈夫。マネージャーには言ってあるから」
「良かったなぁ。航太、春音、みんなで遊園地行けるぞ!」
「やったー」
子供たちの笑顔が私を幸せにする。こんな朝食の時間が裕也との思い出を忘れさせるのかもしれない。
「パパ、もうこんな時間!」
「あっヤバい!」
「はい、これお弁当!」
「ありがとう。行ってきます」
「いってらしゃ~い」
子供達とみんなで浩司を見送る。航太を小学校に行かせ、春音を保育園に預け、私は出勤をする。今年の6月19日も慌ただしく始まり通り過ぎていくのだろう。
私は、昔から何となく話すことを仕事にしたいと思っていた。その願いは一応、叶えられていた。私はイベントの司会などをする仕事についていた。2度の出産を乗り越え仕事だけは続けていた。
「おはようございます」
「おはよう。丁度良かった。森山さんに話があって」
マネージャーが私の顔を見るなり駆け寄ってきた。マネージャ―には大変お世話になっている。仕事だけでなくプライベートも含めて。
そのマネージャーが困り果てた表情で私に頼んできた。
「吉田さんがね、この前の健康診断であまりいい結果が出なくて、急に入院することになったのよ」
「えっそんなに悪いんですが?」
「まだわからないのよ。検査を兼ねてってことみたいなんだけど・・」
「それは心配ですね」
吉田さんは二つ年上の女性の先輩。中学生の子供が二人いる働き盛りのお母さん。
「それでね、来月のシフトを大幅に変更しなきゃいけなくて」
「それはそうですよね」
「これなんだけど・・どうかしら?」
私はシフトに目を通した。
「これっ有給のところ予定入ってますね」
「ダメかしら?」
わざとなのはすぐにわかった。でも状況が状況なだけに難しい判断を迫られた。子供たちの笑顔を思い出すとここで断るべきだけど、この状況でさすがに断れない。
「この日ってイベントの内容はなんでしたっけ?」
「あっ、これなんだけど」
マネージャーは資料を見せてくれた。
「M&T総合法律事務所のセミナーの司会なんですね」
「そうなの。ダメかしら?」
その瞬間、私は息を飲んだ! そうセミナー講師の名前・・弁護士『神崎裕也』
「裕ちゃん・・」
私は声にならない声で言った・・。間違いない同姓同名じゃない。裕ちゃんだ。私にはわかった。5年ほど前、裕也の名前を出来心から検索してみたことがあった。その時、M&T総合法律事務所に『神崎裕也』という弁護士がヒットしたのだ。顔を画像で見て、間違いがないことがわかっていた。
「弁護士になったんだね・・」
その裕也の講演の司会が仕事の内容。時が止まり思考停止に陥る。でも次の瞬間
「わかりました。任せて下さい」
私はマネージャーにそう告げていた。
「ありがとう。助かるわ!」
後先のことを考えることができなかった。本能が私の背中を押したのだ。裕也に会える。でも今更、会ってどうする? こんなおばさんになった私を見て、見せてどうするの? 私には家族がいる。子供もいる。もちろん裕也にも家族があるだろうに、今更会ってどうするの? 怖い・・急に恐怖感に襲われた。私、バカなんじゃないの・・でも会いたい気持ちは抑えきれずにいた。今日は裕也の誕生日。いつものように通り過ぎるだけ、そうなると思っていたのにそうはならなかった。
ずっと心の中に鍵をかけたままの扉がある。その中にある思い出が今にも暴れ出しそうだった。今更、開けてどうするの? 今更・・今更・・。でも、動き出した感情、歯車はもう止められなかった。私には誰にも触れられたくない過去がある。トラウマ? そんなのじゃない。とても素敵な思い出。甘くて苦くて他の誰かじゃ埋められない穴のようなもの。
その日は、仕事を早く終わらせ足早に自宅に戻った。誰もいない部屋で押し入れの荷物をあさり出す。『あった』鍵のかかった小さな箱。鍵の番号は「0619」まるで心の中の扉を開けるようにそっと両手で開けた。箱を開けると光が溢れ出した。ずっと閉まってあった大切な思い出。もう2度と開けないと誓ったのに・・溢れ出す思いに感情が止められなかった。私の16歳の誕生日に買ってくれたお揃いのブレスレット、交換しあった手紙、二人の写真にプリクラ、不思議だね・・一瞬にして20年前に戻ってしまう。忘れてた・・いや忘れようとしていた記憶が溢れ出す。もう止められない・・。
罪悪感がない訳がない。家族・子供達にまで嘘をつくのだから・・。でも動き出した気持ちを止められなかった。ぎこちない笑顔、心のない返事、家族で過ごす時間、一緒に食べる夕食がこんなにも味気ないと感じるのは初めてだった。
「あのね、来月の法事のことなんだけど・・」
私は勇気を振り絞り、話しを切り出した。
「どうかした?」
パパと航太は何があったのかと心配気な表情を浮かべた。幸いにも春音は小さくまだ理解ができていない。
「ママ、急遽仕事になったんだよね」
相談するような話し方をしないようにした。ここは決定事項だと言わなければ納得させる自信がない。
「えっそりゃないよ! せっかく遊園地のチケットまで取ったのに!」
あからさまにパパの機嫌が悪くなり、航太もぐずり始める。
「えーママ行けないの??」
「ごめんね。どうしても仕事が休めなくて」
心が痛む・・子供にまでこんな嘘をつくママを許してね・・心の中で謝っていた。
「えっ何かあったの? 今日の朝は大丈夫って言ってたじゃん!」
「そうなんだ。結婚式にも出てくれた吉田さんいたじゃん、なんか病気みたいなんだよね。それもかなりヤバいみたいで・・それで急遽シフト変更でさ・・」
「そんなに悪い感じなの?」
「うん」
こうなると人がいいパパは反論できずにいた。
「じゃあ仕方ないね」
「本当にごめんね・・マネージャーも困り果ててさ、いつもお世話になってる分、断れなくて・・」
「まぁ働いてるとそういう状況になる時はあるよな。俺もいつそういう状況になるかわからないし・・わかった! 俺が子供達連れて行ってくるよ」
パパは、私が仕事を続けることを条件に結婚したので強気には出れずにいた。私はそれより、子供達を連れて行くと言ってくれたことに安堵していた。本当に『嫌な女』だと自分で思った。母親失格だ・・。
「えっ子供達も連れて行ってくれるの?」
わざとらしく言ってみる。
「だってお袋にも連れて行くって言ってあるし、遊園地のチケットも取ってあるし、それにみんな楽しみにしてるしさ」
「ごめんね・・ありがとう」
「いいよ! 航太、春音、パパと3人で行くぞ!」
航太は聞き訳がいいので、余計に私を苦しめた。
「ママ行かないの?」
春音が何かを感じ取り急に不安な顔をする。
「春ちゃんごめんね・・ママ仕事なの。でもパパもいるし、ばあばもいるから心配しないで大丈夫」
私は泣く娘をあやしながら、心の中で泣いた。
当日、パパと子供達を精一杯の笑顔で見送った。
「運転気をつけて」
「任しとけって」
「航太、春ちゃん、パパとばあばの言うことよく聞いてね」
「うん!」
私は車が見えなくなるまで見送った。
パパの義理のお父さんが亡くなって3年目の法事、子供達を義理のお母さんにも会わせたくて、この日は家族みんなで帰省することは1年前から決まっていた。少しでも思い出を残したいと、1泊2日を2泊3日にして近くにあるテーマパークのチケットまで取ったのだ。その予定を、私は不純な動機で壊してしまった。
「裏切者・・」
小さく自分に言った。最低な母親だ。これから20年も会っていない元彼に会う! それがためにこんな嘘までついて、罪悪感に埋もれる・・。でもこれは私が決めたこと、会いたい気持ちは止められなかった。セミナ―の資料で見た名前・・その瞬間から今日まで、裕也のことが頭から離れなかった。会いたい気持ちは嘘じゃない、でも20年の月日でお互い色々変わっている。今更、会って・・不安、恐怖、この歳を取った私、結婚をし母親になった私、裕也はどんな反応をするのだろう? 迷惑なんじゃないか、裕也にも結婚をし家族がいるだろうに、そう考えるとなんて馬鹿なことをしようとしているのか、苦しくて泣き出しそうになる。でも会いたい・・この気持ちに正直になりたかった。後悔したっていい、今日会わないことを選択すればもっと後悔することだけは間違いないのだから・・。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
白山小梅
恋愛
富裕層が集まる高校に特待生として入学した杏奈は、あるグループからの嫌がらせを受け、地獄の三年間を過ごす羽目に。
大学に進学した杏奈は、今はファミリーレストランのメニュー開発に携わり、穏やかな日々を送っていた。そこに突然母親から連絡が入る。なんと両親が営む弁当屋が、建物の老朽化を理由に立ち退きを迫られていた。仕方なく店を閉じたが、その土地に、高校時代に嫌がらせを受けたグループのメンバーである由利高臣の父親が経営するYRグループが関わっていると知り、イベントで偶然再会した高臣に声をかけた杏奈だったが、事態は思わぬ方向に進み--⁈
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

再会ロマンス~幼なじみの甘い溺愛~
松本ユミ
恋愛
夏木美桜(なつきみお)は幼なじみの鳴海哲平(なるみてっぺい)に淡い恋心を抱いていた。
しかし、小学校の卒業式で起こったある出来事により二人はすれ違い、両親の離婚により美桜は引っ越して哲平と疎遠になった。
約十二年後、偶然にも美桜は哲平と再会した。
過去の出来事から二度と会いたくないと思っていた哲平と、美桜は酔った勢いで一夜を共にしてしまう。
美桜が初めてだと知った哲平は『責任をとる、結婚しよう』と言ってきて、好きという気持ちを全面に出して甘やかしてくる。
そんな中、美桜がストーカー被害に遭っていることを知った哲平が一緒に住むことを提案してきて……。
幼なじみとの再会ラブ。
*他サイト様でも公開中ですが、こちらは加筆修正した完全版になります。
性描写も予告なしに入りますので、苦手な人はご注意してください。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる