異世界の《最強》ポリスウーマン

如月はるな

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異世界の《最強》ポリスウーマン

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「フワァ、良く寝た。お腹空いたな」
 ラウールの薬が効いたのか翌日にシャルルはいつもと変わらぬ様に目を覚ました。
「三日間昏睡してたのだから、普通の食事はまだダメですよ」
「えー、お腹空いてるのに・・・」
 不満はありそうだが、スープを大人しく飲む。
「おかわり!」
「! だ、ダメです。少しづつ胃腸を慣らしておかねば…」
「そう? 今度はもう少し量ふやしてね」
(大した生命力・・・いや、食欲か)
「アキラ、何処行くの?」
 目ざとくシャルルが声を掛けてきた。
「ラウールの所だ。ラウールの解毒剤のお陰だからな。シャルルを目を覚ましたと報告してくる」
「そう。ラウールによろしく言っておいてね」
「・・・分かった」
 何処までも明るい王子だ。返って感心してしまう。
 アキラがラウールのラボに向かって歩いていると、ルカが追って来た。
「どうした?」
「はい。どうにも昨日の事が気になりまして…」
「ギレンの事か」
「はい。本当にギレンは殿下のお命を狙っているのでしょうか」
「ギレンの後ろには本当の黒幕が居るだろうな」
「しかし、ギレンはジェラール様の・・・」
「地位やお金を持っていれば、それを欲しがる奴が出てくるのは当然だろう」
「しかし、ジェラール様と殿下は兄弟です…」
「残念だが、殺人が一番多いのは親族間だと言うのは知っているか。第一王子を倒して自分がと思う者が出てきてもおかしくは無いだろう」
「・・・・」
 ルカは黙った。
 確かに歴史を見れば分かる。王位を巡る争いは熾烈だし、シャルル王子を廃して第二、第三王子を次の国王にと推す声があるのも事実だ。
「あ、ラウールとリトルだ」
「えっ?」
 ラボの方からラウールとリトルが歩いてきた。
「ラウール!」
 アキラが声を掛ける。
「おや、アキラ殿。それにルカ殿も一緒ですか」
「シャルルが目を覚ましたので報告に行こうとしていたのだ。ラウールの薬のお陰だ。ありがとう」
「あ、ありがとうございます」
 ルカも礼を述べた。
「いやいや、趣味も兼ねてるからさ。目を覚まして良かったです」
「あ、それより何処かへ行くのか?」
「リトルの母親が体調を崩したと言うので、薬を届けに城下へ」
「城下か。一度行ってみたいと思っていた。同行しても良いか?」
「それは構いませんが・・・」
 ラウールはリトルを見た。リトルもうんと頷く。
「では一者に参りましょう」
「わ、私も行きます」
 ルカも慌てて声を上げる。
「えっ?」
「えっ?」
「!」
 三人が一斉にルカを見つめた。
「あ、いや、アキラ様に何かあったら困りますので・・・護衛として付いて参ります」
「まあ、それは、助かるが・・・」
「では参りましょう」
 ルカは先に立つと歩き出した。

 四人は乗り物は使わず城下まで周りの景色を堪能しながら歩いて行く。
「そうか、リトルにはお姉さんがいるのか」
「うん」
「ルナと言うんだよな。ルナもリトル同様にとても可愛いんですよ」
「エヘヘヘ…」
 リトルは照れた様に笑った。
「楽しみだな。カフェをやっているのか)
「お姉ちゃんの作る料理は美味しいんだ」
「そうかそうか」
 アキラはリトルの頭をグリグリと撫でた。
 城下町が近づいて来ると人の出入りが多くなってきた。かなり活気のある街のようだ。
「おおー、お店も多いな」
「貿易も盛んだから、色んな物が入って来るんですよ」
 その言葉通り、街の中心は色んな装束を来た人達で溢れている。
「凄いな。迷子になりそうだ」
「その角を右に入って下さい」
 角を右に入ると食べ物の店が立ち並んでいる。良い匂いが鼻口をくすぐる。
「美味しそうな匂いが立ち込めてるな」
「その奥まった店がリトルの家です」
 可愛らしい店の前には入りきれないお客が並んでいる。
「お腹空いてきたな」
「ここのパンとシチューは絶品ですよ」
「それは楽しみだな」
 リトルは薬を届けに店の奥に入っていった。残った三人は列に並ぶ。アキラの前には大柄な男がやはり三人並んで話をしているのが聞こえてくる。その内容は物騒だった。獣人の店なんかぶっ壊してやるとか、獣人がはびこるのが許せないとか話している。なのに何故並んでいるのか。何か企んでいる様子だ。
(イチャモンを付ける気なのか)
 アキラは三人をそっと見守る。きっと何かすると確信したから。
「前の三人、物騒ですね」
 ラウールも話し声を聞いたのかアキラに耳打ちしてきた。
「ああ。気をつけて見ていよう」
「そうですね」
 獣人は市民権を得ているが、未だに獣人を見下し、嫌う風潮は強いと聞く。
(ここはリトルの家だからな。騒ぎは起こしたく無い)
 繁盛店なのだろう、ようやくアキラ達も中に入る事が出来た。テーブル席とカウンターがある。窓側の席にアキラ達は案内された。怪しげな男達はその真向かいだ。
(動きが見えるな)
 料理を楽しみながら、男達の動向にも目を光らせる。
「うん、美味いな」
「野菜も甘味があって、しっかり煮込まれたお肉も柔らかい」
 ラウールが美食家の様な感想を言う。ルカは黙々と食べるタイプの様だ。
「ラウール様。いつもありがとうございます」
「おお、ルナ。元気そうだね」
 茶色い巻き毛の美少女がニコヤカに挨拶してきた。彼女がリトルの姉のルナかと、アキラは顔を上げて見た。確かに可愛らしく、愛くるしい美少女だ。
「こちらはルカと・・・」
「はい。ルカ様は存じております。シャルル王子様の護衛官なのですよね」
「・・・そうです。よく知ってますね」
「はい。よくラウール様がお話していますので…」
「うっ、ゴホゴホ・・・」
 ラウールが大きくむせた。
 その時あの三人組が急に立ち上がり、叫んだ。
「なんだぁー、この店は客にこんな物入った料理を出すのかぁーー!」
 男は虫を摘んで周りにアピールする。近くにいたルナが対応する。
「す、すみませんお客様」
「ああん? お前店の者か?」
「は、はい。調理の時は気をつけているのですが、大変申し訳ありませんでした」
「これは謝ってすむ問題か、お嬢さん」
「そ、それは・・・どの様にすれば・・・」
「そん時は決まってるだろう。お客には誠意を持って対応するんだよ」
 すなわち金品が欲しいと言う事なのだろう。
「駄目だよお姉ちゃん! そいつら自分で虫を入れたんだから」
 リトルがいつに無く大きな声を上げた。見ていたのだろう。
「僕は見てたよ、内ポケットから虫出して煮込みの中に入れたのを!」
「!」
 店の中に居たお客の視線が三人に注がれる。
「このガキ! 勝手な事言ってんじゃねぇ!」
 そう言い放つと、小さなリトルを殴った。
「!!」
 小さな身体が地面に叩き付けられた。
「リトル!」
「この獣人のガキがーーー!」
 再びリトルに襲い掛かろうとする男の前にアキラは立ちはだかる。
「アキラ様!」
「ア、アキラ様」
 男の勢いは止まらない。
「コノォッーーー」
 繰り出して来た拳を避けると、その手首を掴み、瞬時に捻ると男は地に転がった。
「えっ?」
 助けに入ろうとしたルカは目を見張る。何が起きたのか、地に転がった男も分からないと言う風だった。
「! イッテェ・・・」
(店の中は狭いな)
「ラウール、リトルを頼む!」
 叫ぶとアキラは店の外に出た。逃げ出したのかと思ったのか、男達が後を追う。
 女性を追って三人の男達が出て来たので、そこに並んでいた人達は何事かと息を呑む。
 通りに出たアキラは立ち止まると男三人に向き直った。
「逃げるのを諦めたか?」
「まさか。ここなら思う存分相手が出来ると思ってね」
「ケッ。女の分際で俺達を相手する気かよ」
 ハハハと三人は顔を見合わせて笑った。屈強な男三人に取り囲まれ状況は不利だが・・・。
 男達がジワジワと迫って来ると、アキラは先制攻撃とばかりに脱兎の如く油断している男達に蹴りを繰り出した。
「グワァッ!」
 蹴りが一番前にいた男の脇腹を捉えた。すぐさま反転すると隣の男に膝蹴り、手刀を繰り出す。
「ゲェェェッーーー!」
 もんどり打って男が倒れる。
「このあまぁーーー!」
 残りの一番の大男が怒りに顔を赤くしてアキラに襲い掛かかってきた。アキラは正面に身構えると踏ん張り、
そして男の勢いを逆手に男の腰を捕らえると投げる。いわゆる背負投げだ。男は背中から地面に叩き付けられた。
「! コ、コノォ・・・!」
 自分がしかも女性から投げ飛ばされた事が信じられず、逆に怒りで頭に血が昇る。
 立ちあがろうとする男よりも早く、アキラは男の鳩尾に肘鉄を見舞う。
「? ゲッ・・・」
 男は白目をむいて気を失う。
「あ、兄貴ィーー?」
 二人の男が首や腹を押さえて駆け寄る。
「チ、チクショウー、お、覚えてろよ!」
 気を失った男を抱え起こすと憎まれ口をきいて立ち去ろうとする。
「おい、待ちなさい」
「な、な、何だよ、ま、まだやろうってのか」
 言葉は強気だか、腰は引けている。
 アキラは手を出した。
「?」
「食事代。それと、子供を殴った治療費代」
「・・・」
 男達は顔を見合わせると、懐から巾着を取り出すと何枚かの銀貨をアキラの手に乗せた。
「そ、それで、足りんだろう」
 もちろんアキラにこの世界のお金の事は分からない。でも余裕を持ってそのお金を握ると、ルカを手招く。
「?」
 何だろうとズイと前に出ると、アキラはルカの身分を明かす。
「この方は親衛隊のルカ殿だ」
(ええ~、この私にどうしろと・・・)
 目が泳いでいるルカの背を押して、男達と向かわせた。
「え~、ゴホン。今度またこの様な狼藉をすれば親衛隊が直ぐにそなた達の犯行と見なし、捕まえる」
「・・・チッ」
 男達は少し顔を青ざめると、スゴスゴと去って行った。
その瞬間そこにいた群衆から歓声が上がった。
(ええ~~、これでは私が追い払ったみたいでは無いですか)
 後ろを振り返るとアキラの姿は無かった。
 アキラは店内でラウールに声を掛けた。
「リトルはどうだ?」
「大丈夫です。頬が腫れてますが、冷やせばすぐに引くでしょう」
「そうか、良かった。リトル、案外やんちゃなんだな」
 アキラはリトルの頭を撫でた。
「だって、あいつら、他の店でも同じ事してるって知ってたから・・・」
「そうか。でもあまり無茶は駄目だよ。お姉ちゃんが心配するからな」
「うん」
 リトルは素直に頷く。本当に可愛い子だと思う。
「しかし、ちょっとやらかしちゃったな」
 男を店内で投げ飛ばした時にテーブルな椅子、食器なども割れて散乱している。
「弁償したいけど、待ち合わせが・・・」
 何しろアキラは無一文なのだ。
「心配しないで下さい。むしろ、助かりましたので。代金は頂きましたし・・・」
 ルナはアキラから手渡された銀貨を見せた。
「しかしなぁ・・・」
「ルカ殿がきっとお金持ってますよ」
「そうか。では建て替えを頼むとしよう」
「え~、また私ですか」
 なんか最後に引っ張り出される感が強いなと、ルカは感じた。
 それでもサイフを取り出すと金貨を取り出した。
「おおーー、ミュール金貨だ!」
「ミュール金貨?」
「はい。金貨は二種類あって、一般の金貨はこれ」
 ラウールは懐から金貨を取り出して見せた。
「持ってるではありませんか!」
 ラウールにルカが噛み付く。
「まあまあ。王家の紋章が入ったのが一般的な金貨。ルカ殿が持っている金貨はミュール金貨と言って、純金で一回り大きい。ほんの限られた人しか持ち合わせて居ません。ので、価値は大分変わります。普通の金貨の五倍、いや、十倍位は・・・」
「凄いなあ。流石は親衛隊長」
「こ、これはシャルル様がもしもの時のためで・・・」
「これで壊れたテーブルや椅子、食器などの補償費にしてくれ」
 アキラはルカを無視してルナにミュール金貨を手渡す。
「そ、そんな、多すぎます」
「構わない。余った分で迷惑をかけたお店のお客さまの代金にしてくれ。今日はこの親衛隊長ルカ殿の奢りだ」
「ええ~~。アキラ様、勝手に・・・」
「金貨はまだあるのか?」
「えっ? は、はい・・・」
 アキラはサイフをひったくると三枚のミュール金貨を取り出した。
「これで頼む。ルカは太っ腹だな」 
 わぁーーと店内から歓声が上がった。
「は、はは・・・ははは・・・はぁ~…」
「かぶが上がりましたね、ルカ殿」 
 ルカの肩を叩いてきたラウールをルカは睨んだ。
「こ、これは全てアキラ殿のした事。私には関係ありませんよ」
 ラウールは手をのけるとそっぽを向いた。
 それはそうなのだが・・・王子の為の大事な金貨が・・・ちょっと納得出来ないルカなのだ。
 
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