異世界の《最強》ポリスウーマン

如月はるな

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異世界の《最強》ポリスウーマン

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「容体はどうだ」
 アキラとリトルはシャルルが治療を受けている救護室に入った。
 シャルルの治療にはラウールと数人の医師が当たっていた。
「大丈夫です。命に別状はありません。胃の中の物は全て吐き出しました」
「そうか…良かった…」
「結構な量を食べていたので、毒の回りも少し遅れた様で…」
「ふぅ・・・」
(食いしん坊が幸いしたか・・・)
「う~~ん…もっと…ケーキ…ん~~」
 未だ意識の無いシャルルのうわ言を聞いて、アキラはその額を叩いた。
「ったく、どう言う神経してるんだこやつは!」
「びょ、病人ですよ、殿下は!」
 ルカがその身を庇う。
「ルカ殿は殿下の身を本当に心配なさっているのですね。うらやましい…」
 ラウールは端正な顔をルカに向けた。
「あ、当たり前です」
(あ~ん?)
 視線を受け止める事はせす、ルカはうつむいた。
「それより原因は毒なのかな。ギレンは直ぐに毒だと言っていたが・・・」
「今ははっきりと申せませんが、調べれば分かります」
「調べてくれ。ちゃんとした治療を受けさせたいからな」
「承知しました」
 ラウールはリトルを伴って出て行った。
 アキラはルカに視線を移す。
「ルカ…」
「は、はい」
「この国の国民と獣人は仲が悪いのか」
「あ・・・それは…」
 どうやらそれは国の起源に関わる話だと言う。この国はもともとは獣人だけが住んでいたと言う。そこへ流れ着いて来た初代国王軍が入り込み、獣人を山奥へ追いやり、国の発展の為に奴隷の様に働かせたとの事。不満を持った獣人達は反乱し長い間諍《いさ》かいが絶えなかった。だが地方の方では獣人との和解も進んでいた。特にザワム地方は獣人と協力し、蜜桃の栽培に成功した。
「でも、まだまだ両方のわだかまりは深いです。何か有れば人は獣人を疑い、獣人は人を疑います」
「ザワム侯やラウールの様な人は特別なんだ」
「そうです。他の所では未だに獣人を奴隷の様に扱っているそうです。先代の国王が獣人に人と同じ国民権を与えたにも関わらずにです」
「あのギレンもそうみたいだな」
「第三王子の一派はそんな考え方を持ってる輩が多い様に感じます」
「なるほどな」
 だから直ぐザワム夫人なリトルを拘束して、罪を擦りつけようとしたのかと納得する。
「シャルルの事は頼んだぞ、ルカ」
「はい。お任せ下さい」
 アキラは救護室を出るとお茶会を途中で終わりになってしまい充分なもてなしが出来なかったので、帰宅する招待客を見送る事にした。
「シャルル様は大丈夫ですか?」
「一体誰があんな事を・・・」
 皆んながシャルルを案じる中
「心配ありません。命は大丈夫ですので」
 と、安心させる事に終始した。
「アキラ様」
「これはアデル様」
 アデルはお腹を押さえアキラに近づくと丁寧に頭をさげた。
「先程は助けて頂きありがとうございます」
「何を言いますか。貴女は少しも悪く無いのに。こちらこそ不快な思いをさせてしまって申し訳ありません」
 アキラもアデル夫人に向かって頭を下げた。
「そんなアキラ様。頭を上げて下さい」
 アデル夫人はアキラの行為に慌てた。人が獣人である自分に頭を下げるなんてかつて無い事だったから。
 アキラは夫人のお腹に手を当てると、
「元気なお子を産んで下さいね」
 と、優しく撫でた。
「あ、ありがとうございます・・・」
 目に少し涙を溜めて二人は馬車に乗った。夫人は馬車の窓から姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。
「お姉様」
「!」
(お姉様?)
 振り向くとシャルルの従姉妹姫が目をキラキラさせて立っていた。
「えーと、従姉妹の…」
「ステラです。お姉様」
「お、お姉様って・・・」
「今からアキラ様の事、お姉様とお呼び致します!」
「は、はあ~~?」
「私、とても感動しました。女性なのにあの度胸の良さ、その場を仕切る度量、もう感動です!」
 ステラは更に目をキラつかせ手を握って来た。
「お姉様、またお会いできる事を楽しみにしてますね」
「は、はあ~~」
 アデル夫人とは違った気持ちで、ステラは馬車の窓からずっと手を振り続けていた。
(な、なんか、苦手かも・・・)
 背筋に何か走るのを感じ身震いする。


 シャルルはまだ昏睡状態だ。危機は脱した様に見えるが油断は出来ない。
 アキラはラウールのラボに向かった。シャルルが飲まされた毒の解析をしているのだ。
「こんにちは」
「あ、こんにちはアキラ様」
「う~~ん、リトル相変わらず可愛いなぁ」
 アキラはリトルの頭を撫でる。本当に可愛いのだ。
「ラウールは?」
「研究室です。毒が何の毒かそろそろ分かると言ってました」
「そうか」
 アキラは奥の研究室に向かう。ドアをノックし中は入る。
「何の毒か解明したか」
「アキラ殿か。分かったよ、これだ」
 ラウールは手に花を持っている。
「花・・・毒草か?」
「この黒い花は『黒竜草』と言って、竜《ドラゴン》が体調の悪い時に食する花です」
「竜が、食する…花・・・?」
「竜だって生き物ですからね。でも竜の世界に医者は居ない。体調が悪い時や、変な物を食べた時にこれを食べて吐き出したりして体調を整えるのですよ」
「なるほど。では毒では無いのか」
「いや、これは竜が食べるから体調を良くするが、身体の大きさが違う人が食べれば毒となります」
「確かに。竜には薬草でも人には毒草って訳か」
「そうです。原因はが分かれば対処は出来る」
「解毒出来るのか」
「この私を誰だと思っているのですか。毒薬に関して私の右に出る者は居ない」
「頼もしいな。それはいつできるのだ」
「もうあります」
 そう言うと、布の袋から包み紙を取り出した。
「これは先程は処方しました。これを飲ませれば直ぐに意識は戻ると思います。
「そうか。ありがとうラウール。頼りになる男だな」
「まあ・・・王子が亡くなったら悲しむからな…」
(誰が?)
「ちょっと聞いても良いですか・・」
「何だ?」
「アキラ様が獣人に関して偏見が無いのは分かりました。でも、その・・・だな」
「何だ、はっきりしないな」
「アキラは・・・同性を好きになる事に抵抗は無いのですか」
「ん? それって同性愛の事か」
「アキラ様の世界ではそう呼ぶのですか?」
「この世には男と女しか居ないからな。男と女、男と男、女と女、できるとしたらこの三パターンしか無い。私から見たらどれも普通だが・・・ん?」
「な、何?」
「まさか、リトルじゃ無いだろうな。リトルはまだ子供だぞ! それは犯罪だ!」
「何でリトルなんですか! リトルは私の弟子です。まだ子供ですが才能があるのを見出したのは私です。いずれは私の跡取りとして・・・」
「そうか。なら、誰だ? 私の知ってる人物か?」
「それはまあ、あの、おいおいと・・・良いから早く薬を持って行って下さい」
「フフフフ。ありがとうラウール」
 薬の入った袋を受け取ると研究室を出る。パタンとドアが閉められると、ラウールはホッとため息をつき額の汗を拭う。すると、急にドアを開いてアキラが楽しそうに声を掛けた。
「もしかして、ルカか」
「わぁぁぁーーー!!」
 図星だったのか、珍しくラウールが狼狽える。その姿を楽しみ、アキラはドアを再び閉めた。
(なるほどな。ちょっと楽しいな)
 ルカはラウールの思いに気づいているのかわからないが、シャルルに忠誠を誓うルカを振り向かすのは容易くは無いだろと、アキラは想像するだけで顔がニヤけて来てしまう。

 シャルルの寝室に近づくと見張り役の親衛隊員がドアの両脇に立っている。
「お疲れ様。変わりは無いか」
「アキラ様。只今医師が一人様子を見に参っております」
「ありがとう」
(医師が・・・?)
 診察の時間は決まっている。時間外なのでアキラはちょっと違和感を覚えた。
 ノックし中に入ると確かに医師の証である白い割烹着の様な服を来た男が鉢で薬を調合してるのが見てとれた。
「お疲れ様です」
 アキラが声を掛けるとビックリした様子で振り返った。
「こ、これはアキラ様」
「診察ですか」
「は、はい。身体に良いというされる薬草が手に入ったので…」
「そうですか・・・」
 アキラが近付いていくと、男は慌てて薬草を隠した。
(黒い花・・・)
 先程ラウールに見せられた『黒竜草』に似ていた。
「そ、それでは・・・」
 医師はアキラがいるから緊張しているのか少し手が震えている様に見えた。
「待て」
「!」 
 ビックリしたのか、医師は薬草の鉢を取り落とした。
「そなた、見知らぬ顔だが本当に医師か」
「!!」
 男はアキラを突き飛ばすと部屋から逃げ出して行った。
(くっ、やっぱり偽医師か)
「待てぇぇーーー!」
「えっ、あの・・・」
 逃げる医師、追いかけるアキラを見て、見張り役は狼狽える。
「何事だ!」 
 騒ぎを聞きつけてルカが駆けつける。
「は、はい、急に医師が飛び出して来たかと思うと、アキラ様がそれを追いかけて…」
「!」
 ルカは室内に駆け込み、シャルルの様子を確認する。薬を調合した鉢が割れて落ちてはいたが、シャルルに変わった様子は無かった。
「私が戻って来るまで誰も入れてはならぬ!」
「は、はい!」
 ルカも慌ててアキラが走った方向に急ぐ。

(し、しつこい女だな・・・)
 女の足だから逃げ切れると思ったが、追ってくる女はしつこく引き離すことが出来ない。
「くっそぉー・・・」
 だがあの角を曲がれば、逃げられる。角の向こうは裏門でそこで仲間が待っている。

「あっ、戻って来たな・・・」
 腕組みをしてギレンは待っていた。医師に扮した者がシャルル王子を暗殺してくれると・・・。その男が走って戻って来た。
(な、何?)
 だがギレンの目に映ったのは暗殺者の後ろから追いかけて来る者の姿をだった。
(ア、アキラ・・・)
「ギ、ギレン様ーーー」
 男は助けを求める様に手を差し伸べて来た。ギレンは剣を引き抜く。
 男はギレンが自分を助ける為にアキラを倒そうと剣を抜いたのかと思った。たが、それは間違いだと気付くのは遅かった。
 ギレンの剣先はズブリと暗殺者の胸に突き立てられたのだ。
「ギ…レン…さ…ま?・・・」
 信じられぬと目を向き、驚愕の表情を浮かべて男はその場に崩れ落ちた。
「!!」
 アキラは目や前で敵とはいえ殺される事に怒りを覚えた。
「ギレン!!」
「こ、これはアキラ様」
 ギレンはしれっと血に濡れた剣を男から引き抜き鞘に収めた。
 アキラは男に近づき容体を確認するが、男は事切れてた。
「・・・何と言うことを・・・」
 怒りを露わに立ち上がるとギレンを睨みつけた。
「何故殺した」
「いや、何か得体の分からぬ男が走って来たので…身の危険を感じまして・・・」
「この者は武器になる様な物は身につけていない様だが・・・」
「さ、左様ですか?」
「それよりお前は何故ここにいる。ここは第一王子の居住の敷地内だが…」
「そ、それは・・・シャルル王子が襲われる事件がありましたので、陰ながら見回りをしておりました」
「ふうん。ご苦労な事だな」
「ハハ…ハハハ・・・」
「アキラ様ぁーーー」
 少し遅れてルカが駆けつけて来た。
「こ、これは?」
 ギレンと遺体となった男を見て訳が分からないとアキラを見つめた。
「それでは私はこれで失礼します」
 ギレンは丁寧にお辞儀をすると足早に去って行った。
「アキラ様…」
「この者を丁重に葬ってくれ」
「は、はい」
(あやつ・・・許せない)
 アキラは裏門を抜けて姿の見えなくなった後も、門を睨み続けていた。
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