6 / 7
異世界の《最強》ポリスウーマン
しおりを挟む
「容体はどうだ」
アキラとリトルはシャルルが治療を受けている救護室に入った。
シャルルの治療にはラウールと数人の医師が当たっていた。
「大丈夫です。命に別状はありません。胃の中の物は全て吐き出しました」
「そうか…良かった…」
「結構な量を食べていたので、毒の回りも少し遅れた様で…」
「ふぅ・・・」
(食いしん坊が幸いしたか・・・)
「う~~ん…もっと…ケーキ…ん~~」
未だ意識の無いシャルルのうわ言を聞いて、アキラはその額を叩いた。
「ったく、どう言う神経してるんだこやつは!」
「びょ、病人ですよ、殿下は!」
ルカがその身を庇う。
「ルカ殿は殿下の身を本当に心配なさっているのですね。うらやましい…」
ラウールは端正な顔をルカに向けた。
「あ、当たり前です」
(あ~ん?)
視線を受け止める事はせす、ルカはうつむいた。
「それより原因は毒なのかな。ギレンは直ぐに毒だと言っていたが・・・」
「今ははっきりと申せませんが、調べれば分かります」
「調べてくれ。ちゃんとした治療を受けさせたいからな」
「承知しました」
ラウールはリトルを伴って出て行った。
アキラはルカに視線を移す。
「ルカ…」
「は、はい」
「この国の国民と獣人は仲が悪いのか」
「あ・・・それは…」
どうやらそれは国の起源に関わる話だと言う。この国はもともとは獣人だけが住んでいたと言う。そこへ流れ着いて来た初代国王軍が入り込み、獣人を山奥へ追いやり、国の発展の為に奴隷の様に働かせたとの事。不満を持った獣人達は反乱し長い間諍《いさ》かいが絶えなかった。だが地方の方では獣人との和解も進んでいた。特にザワム地方は獣人と協力し、蜜桃の栽培に成功した。
「でも、まだまだ両方のわだかまりは深いです。何か有れば人は獣人を疑い、獣人は人を疑います」
「ザワム侯やラウールの様な人は特別なんだ」
「そうです。他の所では未だに獣人を奴隷の様に扱っているそうです。先代の国王が獣人に人と同じ国民権を与えたにも関わらずにです」
「あのギレンもそうみたいだな」
「第三王子の一派はそんな考え方を持ってる輩が多い様に感じます」
「なるほどな」
だから直ぐザワム夫人なリトルを拘束して、罪を擦りつけようとしたのかと納得する。
「シャルルの事は頼んだぞ、ルカ」
「はい。お任せ下さい」
アキラは救護室を出るとお茶会を途中で終わりになってしまい充分なもてなしが出来なかったので、帰宅する招待客を見送る事にした。
「シャルル様は大丈夫ですか?」
「一体誰があんな事を・・・」
皆んながシャルルを案じる中
「心配ありません。命は大丈夫ですので」
と、安心させる事に終始した。
「アキラ様」
「これはアデル様」
アデルはお腹を押さえアキラに近づくと丁寧に頭をさげた。
「先程は助けて頂きありがとうございます」
「何を言いますか。貴女は少しも悪く無いのに。こちらこそ不快な思いをさせてしまって申し訳ありません」
アキラもアデル夫人に向かって頭を下げた。
「そんなアキラ様。頭を上げて下さい」
アデル夫人はアキラの行為に慌てた。人が獣人である自分に頭を下げるなんてかつて無い事だったから。
アキラは夫人のお腹に手を当てると、
「元気なお子を産んで下さいね」
と、優しく撫でた。
「あ、ありがとうございます・・・」
目に少し涙を溜めて二人は馬車に乗った。夫人は馬車の窓から姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。
「お姉様」
「!」
(お姉様?)
振り向くとシャルルの従姉妹姫が目をキラキラさせて立っていた。
「えーと、従姉妹の…」
「ステラです。お姉様」
「お、お姉様って・・・」
「今からアキラ様の事、お姉様とお呼び致します!」
「は、はあ~~?」
「私、とても感動しました。女性なのにあの度胸の良さ、その場を仕切る度量、もう感動です!」
ステラは更に目をキラつかせ手を握って来た。
「お姉様、またお会いできる事を楽しみにしてますね」
「は、はあ~~」
アデル夫人とは違った気持ちで、ステラは馬車の窓からずっと手を振り続けていた。
(な、なんか、苦手かも・・・)
背筋に何か走るのを感じ身震いする。
シャルルはまだ昏睡状態だ。危機は脱した様に見えるが油断は出来ない。
アキラはラウールのラボに向かった。シャルルが飲まされた毒の解析をしているのだ。
「こんにちは」
「あ、こんにちはアキラ様」
「う~~ん、リトル相変わらず可愛いなぁ」
アキラはリトルの頭を撫でる。本当に可愛いのだ。
「ラウールは?」
「研究室です。毒が何の毒かそろそろ分かると言ってました」
「そうか」
アキラは奥の研究室に向かう。ドアをノックし中は入る。
「何の毒か解明したか」
「アキラ殿か。分かったよ、これだ」
ラウールは手に花を持っている。
「花・・・毒草か?」
「この黒い花は『黒竜草』と言って、竜《ドラゴン》が体調の悪い時に食する花です」
「竜が、食する…花・・・?」
「竜だって生き物ですからね。でも竜の世界に医者は居ない。体調が悪い時や、変な物を食べた時にこれを食べて吐き出したりして体調を整えるのですよ」
「なるほど。では毒では無いのか」
「いや、これは竜が食べるから体調を良くするが、身体の大きさが違う人が食べれば毒となります」
「確かに。竜には薬草でも人には毒草って訳か」
「そうです。原因はが分かれば対処は出来る」
「解毒出来るのか」
「この私を誰だと思っているのですか。毒薬に関して私の右に出る者は居ない」
「頼もしいな。それはいつできるのだ」
「もうあります」
そう言うと、布の袋から包み紙を取り出した。
「これは先程は処方しました。これを飲ませれば直ぐに意識は戻ると思います。
「そうか。ありがとうラウール。頼りになる男だな」
「まあ・・・王子が亡くなったら悲しむからな…」
(誰が?)
「ちょっと聞いても良いですか・・」
「何だ?」
「アキラ様が獣人に関して偏見が無いのは分かりました。でも、その・・・だな」
「何だ、はっきりしないな」
「アキラは・・・同性を好きになる事に抵抗は無いのですか」
「ん? それって同性愛の事か」
「アキラ様の世界ではそう呼ぶのですか?」
「この世には男と女しか居ないからな。男と女、男と男、女と女、できるとしたらこの三パターンしか無い。私から見たらどれも普通だが・・・ん?」
「な、何?」
「まさか、リトルじゃ無いだろうな。リトルはまだ子供だぞ! それは犯罪だ!」
「何でリトルなんですか! リトルは私の弟子です。まだ子供ですが才能があるのを見出したのは私です。いずれは私の跡取りとして・・・」
「そうか。なら、誰だ? 私の知ってる人物か?」
「それはまあ、あの、おいおいと・・・良いから早く薬を持って行って下さい」
「フフフフ。ありがとうラウール」
薬の入った袋を受け取ると研究室を出る。パタンとドアが閉められると、ラウールはホッとため息をつき額の汗を拭う。すると、急にドアを開いてアキラが楽しそうに声を掛けた。
「もしかして、ルカか」
「わぁぁぁーーー!!」
図星だったのか、珍しくラウールが狼狽える。その姿を楽しみ、アキラはドアを再び閉めた。
(なるほどな。ちょっと楽しいな)
ルカはラウールの思いに気づいているのかわからないが、シャルルに忠誠を誓うルカを振り向かすのは容易くは無いだろと、アキラは想像するだけで顔がニヤけて来てしまう。
シャルルの寝室に近づくと見張り役の親衛隊員がドアの両脇に立っている。
「お疲れ様。変わりは無いか」
「アキラ様。只今医師が一人様子を見に参っております」
「ありがとう」
(医師が・・・?)
診察の時間は決まっている。時間外なのでアキラはちょっと違和感を覚えた。
ノックし中に入ると確かに医師の証である白い割烹着の様な服を来た男が鉢で薬を調合してるのが見てとれた。
「お疲れ様です」
アキラが声を掛けるとビックリした様子で振り返った。
「こ、これはアキラ様」
「診察ですか」
「は、はい。身体に良いというされる薬草が手に入ったので…」
「そうですか・・・」
アキラが近付いていくと、男は慌てて薬草を隠した。
(黒い花・・・)
先程ラウールに見せられた『黒竜草』に似ていた。
「そ、それでは・・・」
医師はアキラがいるから緊張しているのか少し手が震えている様に見えた。
「待て」
「!」
ビックリしたのか、医師は薬草の鉢を取り落とした。
「そなた、見知らぬ顔だが本当に医師か」
「!!」
男はアキラを突き飛ばすと部屋から逃げ出して行った。
(くっ、やっぱり偽医師か)
「待てぇぇーーー!」
「えっ、あの・・・」
逃げる医師、追いかけるアキラを見て、見張り役は狼狽える。
「何事だ!」
騒ぎを聞きつけてルカが駆けつける。
「は、はい、急に医師が飛び出して来たかと思うと、アキラ様がそれを追いかけて…」
「!」
ルカは室内に駆け込み、シャルルの様子を確認する。薬を調合した鉢が割れて落ちてはいたが、シャルルに変わった様子は無かった。
「私が戻って来るまで誰も入れてはならぬ!」
「は、はい!」
ルカも慌ててアキラが走った方向に急ぐ。
(し、しつこい女だな・・・)
女の足だから逃げ切れると思ったが、追ってくる女はしつこく引き離すことが出来ない。
「くっそぉー・・・」
だがあの角を曲がれば、逃げられる。角の向こうは裏門でそこで仲間が待っている。
「あっ、戻って来たな・・・」
腕組みをしてギレンは待っていた。医師に扮した者がシャルル王子を暗殺してくれると・・・。その男が走って戻って来た。
(な、何?)
だがギレンの目に映ったのは暗殺者の後ろから追いかけて来る者の姿をだった。
(ア、アキラ・・・)
「ギ、ギレン様ーーー」
男は助けを求める様に手を差し伸べて来た。ギレンは剣を引き抜く。
男はギレンが自分を助ける為にアキラを倒そうと剣を抜いたのかと思った。たが、それは間違いだと気付くのは遅かった。
ギレンの剣先はズブリと暗殺者の胸に突き立てられたのだ。
「ギ…レン…さ…ま?・・・」
信じられぬと目を向き、驚愕の表情を浮かべて男はその場に崩れ落ちた。
「!!」
アキラは目や前で敵とはいえ殺される事に怒りを覚えた。
「ギレン!!」
「こ、これはアキラ様」
ギレンはしれっと血に濡れた剣を男から引き抜き鞘に収めた。
アキラは男に近づき容体を確認するが、男は事切れてた。
「・・・何と言うことを・・・」
怒りを露わに立ち上がるとギレンを睨みつけた。
「何故殺した」
「いや、何か得体の分からぬ男が走って来たので…身の危険を感じまして・・・」
「この者は武器になる様な物は身につけていない様だが・・・」
「さ、左様ですか?」
「それよりお前は何故ここにいる。ここは第一王子の居住の敷地内だが…」
「そ、それは・・・シャルル王子が襲われる事件がありましたので、陰ながら見回りをしておりました」
「ふうん。ご苦労な事だな」
「ハハ…ハハハ・・・」
「アキラ様ぁーーー」
少し遅れてルカが駆けつけて来た。
「こ、これは?」
ギレンと遺体となった男を見て訳が分からないとアキラを見つめた。
「それでは私はこれで失礼します」
ギレンは丁寧にお辞儀をすると足早に去って行った。
「アキラ様…」
「この者を丁重に葬ってくれ」
「は、はい」
(あやつ・・・許せない)
アキラは裏門を抜けて姿の見えなくなった後も、門を睨み続けていた。
アキラとリトルはシャルルが治療を受けている救護室に入った。
シャルルの治療にはラウールと数人の医師が当たっていた。
「大丈夫です。命に別状はありません。胃の中の物は全て吐き出しました」
「そうか…良かった…」
「結構な量を食べていたので、毒の回りも少し遅れた様で…」
「ふぅ・・・」
(食いしん坊が幸いしたか・・・)
「う~~ん…もっと…ケーキ…ん~~」
未だ意識の無いシャルルのうわ言を聞いて、アキラはその額を叩いた。
「ったく、どう言う神経してるんだこやつは!」
「びょ、病人ですよ、殿下は!」
ルカがその身を庇う。
「ルカ殿は殿下の身を本当に心配なさっているのですね。うらやましい…」
ラウールは端正な顔をルカに向けた。
「あ、当たり前です」
(あ~ん?)
視線を受け止める事はせす、ルカはうつむいた。
「それより原因は毒なのかな。ギレンは直ぐに毒だと言っていたが・・・」
「今ははっきりと申せませんが、調べれば分かります」
「調べてくれ。ちゃんとした治療を受けさせたいからな」
「承知しました」
ラウールはリトルを伴って出て行った。
アキラはルカに視線を移す。
「ルカ…」
「は、はい」
「この国の国民と獣人は仲が悪いのか」
「あ・・・それは…」
どうやらそれは国の起源に関わる話だと言う。この国はもともとは獣人だけが住んでいたと言う。そこへ流れ着いて来た初代国王軍が入り込み、獣人を山奥へ追いやり、国の発展の為に奴隷の様に働かせたとの事。不満を持った獣人達は反乱し長い間諍《いさ》かいが絶えなかった。だが地方の方では獣人との和解も進んでいた。特にザワム地方は獣人と協力し、蜜桃の栽培に成功した。
「でも、まだまだ両方のわだかまりは深いです。何か有れば人は獣人を疑い、獣人は人を疑います」
「ザワム侯やラウールの様な人は特別なんだ」
「そうです。他の所では未だに獣人を奴隷の様に扱っているそうです。先代の国王が獣人に人と同じ国民権を与えたにも関わらずにです」
「あのギレンもそうみたいだな」
「第三王子の一派はそんな考え方を持ってる輩が多い様に感じます」
「なるほどな」
だから直ぐザワム夫人なリトルを拘束して、罪を擦りつけようとしたのかと納得する。
「シャルルの事は頼んだぞ、ルカ」
「はい。お任せ下さい」
アキラは救護室を出るとお茶会を途中で終わりになってしまい充分なもてなしが出来なかったので、帰宅する招待客を見送る事にした。
「シャルル様は大丈夫ですか?」
「一体誰があんな事を・・・」
皆んながシャルルを案じる中
「心配ありません。命は大丈夫ですので」
と、安心させる事に終始した。
「アキラ様」
「これはアデル様」
アデルはお腹を押さえアキラに近づくと丁寧に頭をさげた。
「先程は助けて頂きありがとうございます」
「何を言いますか。貴女は少しも悪く無いのに。こちらこそ不快な思いをさせてしまって申し訳ありません」
アキラもアデル夫人に向かって頭を下げた。
「そんなアキラ様。頭を上げて下さい」
アデル夫人はアキラの行為に慌てた。人が獣人である自分に頭を下げるなんてかつて無い事だったから。
アキラは夫人のお腹に手を当てると、
「元気なお子を産んで下さいね」
と、優しく撫でた。
「あ、ありがとうございます・・・」
目に少し涙を溜めて二人は馬車に乗った。夫人は馬車の窓から姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。
「お姉様」
「!」
(お姉様?)
振り向くとシャルルの従姉妹姫が目をキラキラさせて立っていた。
「えーと、従姉妹の…」
「ステラです。お姉様」
「お、お姉様って・・・」
「今からアキラ様の事、お姉様とお呼び致します!」
「は、はあ~~?」
「私、とても感動しました。女性なのにあの度胸の良さ、その場を仕切る度量、もう感動です!」
ステラは更に目をキラつかせ手を握って来た。
「お姉様、またお会いできる事を楽しみにしてますね」
「は、はあ~~」
アデル夫人とは違った気持ちで、ステラは馬車の窓からずっと手を振り続けていた。
(な、なんか、苦手かも・・・)
背筋に何か走るのを感じ身震いする。
シャルルはまだ昏睡状態だ。危機は脱した様に見えるが油断は出来ない。
アキラはラウールのラボに向かった。シャルルが飲まされた毒の解析をしているのだ。
「こんにちは」
「あ、こんにちはアキラ様」
「う~~ん、リトル相変わらず可愛いなぁ」
アキラはリトルの頭を撫でる。本当に可愛いのだ。
「ラウールは?」
「研究室です。毒が何の毒かそろそろ分かると言ってました」
「そうか」
アキラは奥の研究室に向かう。ドアをノックし中は入る。
「何の毒か解明したか」
「アキラ殿か。分かったよ、これだ」
ラウールは手に花を持っている。
「花・・・毒草か?」
「この黒い花は『黒竜草』と言って、竜《ドラゴン》が体調の悪い時に食する花です」
「竜が、食する…花・・・?」
「竜だって生き物ですからね。でも竜の世界に医者は居ない。体調が悪い時や、変な物を食べた時にこれを食べて吐き出したりして体調を整えるのですよ」
「なるほど。では毒では無いのか」
「いや、これは竜が食べるから体調を良くするが、身体の大きさが違う人が食べれば毒となります」
「確かに。竜には薬草でも人には毒草って訳か」
「そうです。原因はが分かれば対処は出来る」
「解毒出来るのか」
「この私を誰だと思っているのですか。毒薬に関して私の右に出る者は居ない」
「頼もしいな。それはいつできるのだ」
「もうあります」
そう言うと、布の袋から包み紙を取り出した。
「これは先程は処方しました。これを飲ませれば直ぐに意識は戻ると思います。
「そうか。ありがとうラウール。頼りになる男だな」
「まあ・・・王子が亡くなったら悲しむからな…」
(誰が?)
「ちょっと聞いても良いですか・・」
「何だ?」
「アキラ様が獣人に関して偏見が無いのは分かりました。でも、その・・・だな」
「何だ、はっきりしないな」
「アキラは・・・同性を好きになる事に抵抗は無いのですか」
「ん? それって同性愛の事か」
「アキラ様の世界ではそう呼ぶのですか?」
「この世には男と女しか居ないからな。男と女、男と男、女と女、できるとしたらこの三パターンしか無い。私から見たらどれも普通だが・・・ん?」
「な、何?」
「まさか、リトルじゃ無いだろうな。リトルはまだ子供だぞ! それは犯罪だ!」
「何でリトルなんですか! リトルは私の弟子です。まだ子供ですが才能があるのを見出したのは私です。いずれは私の跡取りとして・・・」
「そうか。なら、誰だ? 私の知ってる人物か?」
「それはまあ、あの、おいおいと・・・良いから早く薬を持って行って下さい」
「フフフフ。ありがとうラウール」
薬の入った袋を受け取ると研究室を出る。パタンとドアが閉められると、ラウールはホッとため息をつき額の汗を拭う。すると、急にドアを開いてアキラが楽しそうに声を掛けた。
「もしかして、ルカか」
「わぁぁぁーーー!!」
図星だったのか、珍しくラウールが狼狽える。その姿を楽しみ、アキラはドアを再び閉めた。
(なるほどな。ちょっと楽しいな)
ルカはラウールの思いに気づいているのかわからないが、シャルルに忠誠を誓うルカを振り向かすのは容易くは無いだろと、アキラは想像するだけで顔がニヤけて来てしまう。
シャルルの寝室に近づくと見張り役の親衛隊員がドアの両脇に立っている。
「お疲れ様。変わりは無いか」
「アキラ様。只今医師が一人様子を見に参っております」
「ありがとう」
(医師が・・・?)
診察の時間は決まっている。時間外なのでアキラはちょっと違和感を覚えた。
ノックし中に入ると確かに医師の証である白い割烹着の様な服を来た男が鉢で薬を調合してるのが見てとれた。
「お疲れ様です」
アキラが声を掛けるとビックリした様子で振り返った。
「こ、これはアキラ様」
「診察ですか」
「は、はい。身体に良いというされる薬草が手に入ったので…」
「そうですか・・・」
アキラが近付いていくと、男は慌てて薬草を隠した。
(黒い花・・・)
先程ラウールに見せられた『黒竜草』に似ていた。
「そ、それでは・・・」
医師はアキラがいるから緊張しているのか少し手が震えている様に見えた。
「待て」
「!」
ビックリしたのか、医師は薬草の鉢を取り落とした。
「そなた、見知らぬ顔だが本当に医師か」
「!!」
男はアキラを突き飛ばすと部屋から逃げ出して行った。
(くっ、やっぱり偽医師か)
「待てぇぇーーー!」
「えっ、あの・・・」
逃げる医師、追いかけるアキラを見て、見張り役は狼狽える。
「何事だ!」
騒ぎを聞きつけてルカが駆けつける。
「は、はい、急に医師が飛び出して来たかと思うと、アキラ様がそれを追いかけて…」
「!」
ルカは室内に駆け込み、シャルルの様子を確認する。薬を調合した鉢が割れて落ちてはいたが、シャルルに変わった様子は無かった。
「私が戻って来るまで誰も入れてはならぬ!」
「は、はい!」
ルカも慌ててアキラが走った方向に急ぐ。
(し、しつこい女だな・・・)
女の足だから逃げ切れると思ったが、追ってくる女はしつこく引き離すことが出来ない。
「くっそぉー・・・」
だがあの角を曲がれば、逃げられる。角の向こうは裏門でそこで仲間が待っている。
「あっ、戻って来たな・・・」
腕組みをしてギレンは待っていた。医師に扮した者がシャルル王子を暗殺してくれると・・・。その男が走って戻って来た。
(な、何?)
だがギレンの目に映ったのは暗殺者の後ろから追いかけて来る者の姿をだった。
(ア、アキラ・・・)
「ギ、ギレン様ーーー」
男は助けを求める様に手を差し伸べて来た。ギレンは剣を引き抜く。
男はギレンが自分を助ける為にアキラを倒そうと剣を抜いたのかと思った。たが、それは間違いだと気付くのは遅かった。
ギレンの剣先はズブリと暗殺者の胸に突き立てられたのだ。
「ギ…レン…さ…ま?・・・」
信じられぬと目を向き、驚愕の表情を浮かべて男はその場に崩れ落ちた。
「!!」
アキラは目や前で敵とはいえ殺される事に怒りを覚えた。
「ギレン!!」
「こ、これはアキラ様」
ギレンはしれっと血に濡れた剣を男から引き抜き鞘に収めた。
アキラは男に近づき容体を確認するが、男は事切れてた。
「・・・何と言うことを・・・」
怒りを露わに立ち上がるとギレンを睨みつけた。
「何故殺した」
「いや、何か得体の分からぬ男が走って来たので…身の危険を感じまして・・・」
「この者は武器になる様な物は身につけていない様だが・・・」
「さ、左様ですか?」
「それよりお前は何故ここにいる。ここは第一王子の居住の敷地内だが…」
「そ、それは・・・シャルル王子が襲われる事件がありましたので、陰ながら見回りをしておりました」
「ふうん。ご苦労な事だな」
「ハハ…ハハハ・・・」
「アキラ様ぁーーー」
少し遅れてルカが駆けつけて来た。
「こ、これは?」
ギレンと遺体となった男を見て訳が分からないとアキラを見つめた。
「それでは私はこれで失礼します」
ギレンは丁寧にお辞儀をすると足早に去って行った。
「アキラ様…」
「この者を丁重に葬ってくれ」
「は、はい」
(あやつ・・・許せない)
アキラは裏門を抜けて姿の見えなくなった後も、門を睨み続けていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる