異世界の《最強》ポリスウーマン

如月はるな

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異世界の《最強》ポリスウーマン

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「殿下ー、殿下ー、どこですかー!」
 皇太宮にルカの声が響き渡る。
「どうした、ルカ」
「あ、ア、アキラ様…」
 ルカの表情が曇り、少し恐怖に引きつった様に見えたのは気のせいか。
「あ、いえ、あ、あの…」
 答えがしどろもどろだ。
「シャルルが消えたのか」
「は、はい・・・」
 バレているのならば仕方ないと素直に認める。
「ふうん。警護の目を盗んでトンズラか」
「も、申し訳有りません!」
「でも行き先は分かってる。着いてこい」
「えっ?」
 アキラは大股で急ぎ歩く。男のルカでも歩調を合わせるのが精一杯だ。
 着いたのは厨房だった。
「ここに殿下が・・・」
 グルリと見渡すが姿は見当たらない。そんな中、アキラは一直線にある場所に歩を進める。そこは色鮮やかなお菓子を作っている場所だ。綺麗に並べられた数々の生菓子や、焼き菓子。
 見ていると並べられた菓子の台の下から手が伸びて来た。手探りでお菓子を探している様だ。その手をアキラは思い切り叩いた。
「い、痛い!」
 台の下から姿を現したのはシャルル王子だ。
「で、殿下!」
「ルカ? そ、それにア、アキラ~~?」
「全く目を離すとすぐこれだ」
 隙間から王子を力付くて引き摺り出すと睨みつけた。
「今日は何個食べた」
「え…ま、まだ、二つ…」
「二つも食べれば充分だろう」
「殿下…」
 ルカはがっくりと肩を落とし、王子は大きな身体を縮こませている。
「それよりルカ。王子に用事があったのではないか」
「は、はい。今日は殿下の剣の稽古日でしたので・・・」
「剣の稽古か。それは良いな。どこでやるのだ?」
「は、はい。我が第一親衛隊の宿舎の広場で…」
「そうか。王子たる者、国を守るのには必要だな。よし、そこまで走って行くぞ」
「ええええーーーー!」
 シャルルが抗議の声を上げたが聴き入られるはずも無く、追い立てられる様に必死で走る。
「ゼェ、ハァ、ゼェ、ハァ、も、もう、だ、ダメェェーー」
 百メートルも走ってはいないが、肥満体の王子は限界の様だ。
「無理せず、歩け」
「や、休みたい…」
「歩け」
 アキラの言葉は厳しい。
 ようやく第一親衛隊の宿舎に着くと、広場では剣の稽古が始まっていた。
「おお、皆んな強そうだな」
 カツンカツンと木刀の音が鳴り響く。ルカは荒い息をしているシャルルに木刀を手渡した。
「さあ、殿下。稽古を始めましょう」
「う、うん」
 仕方ないという体で木刀を受け取ると構えた。
「さあ、殿下、打ち込んで来て下さい」
「ううう…え、えーい!」
 ヨタヨタとルカの構えた木刀に打ち込んで行く。
「えい、えい、えーい!」
 数回打ち込んですぐ様膝に手を着いて止めてしまう。そんな様子を周りの隊員達が見守っている。
「誰だ、あの女?」「さあ?」「美人だよな」
 王子の稽古よりアキラの方が気になる様子
「おやおや、これはおままごとの稽古ですか」
 背後から嘲笑う様な声が聞こえて来た。
「・・・ギレン…」
(ギレン?)
 ギレンと言われた長身でいかつい顔の男はルカとシャルルに近づいて行く。
「第三親衛隊の副長が何の御用ですか」
 ルカがギレンと言う男と対峙する。
「いやぁ、余りにも情けない稽古でしたので、私目が本当の稽古をさしてあげようとまいったのですが…」
 アキラは近くの兵士に「何者だ」と尋ねる。
「ギレンは第三王子の親衛隊員です。いつもシャルル殿下の稽古を馬鹿にしにくるのです」
「ふうん」
 三人の王子にはそれぞれ親衛隊があるらしい。制服は同じだが、マントの色で区別するらしい。第一王子シャルルの親衛隊員のマントは青、第二王子フィリップの親衛隊は赤、第三王子ジェラールの親衛隊のマントの色は緑だ。
「ルカ殿は殿下に甘いですから本気で打ち込んだりしないでしょう。ですが、それでは稽古になりません。ままごとと変わりません。ですので、代わりに私目が稽古をつけたいと常々思っていました」
「それな結構だ。殿下の稽古は私がするので」
「それではいつまで経っても上達しないのでは?」
 意地の悪い笑みをシャルルに向ける。
「お断り致します。どうぞ、ギレン殿は第三部隊の方はお戻り下さい」
「ふう。これだからシャルル殿下の部隊は軟弱だと言われるのです」
(明らかに挑発してるな)
 アキラはじっとやり取りを見つめていた。
「どうですか、シャルル殿下。一度この私目とお手合わせいたしませんか?」
「えっ、で、でも・・・」
 シャルルはルカを見上げた。
「なりません! ギレン殿は第三部隊へお戻り下さい」
「チッ。つまらないな…」
 諦めて戻るふりを見せると、安堵のため息を漏らしたシャルルの隙を見計らってギレンが突然襲い掛かる。
「隙あり!」
「ギャアアアーーー!」
 突然の攻撃にシャルルは驚き逃げ出す。
「殿下!」
 ルカの元を離れめちゃくちゃに逃げ回るシャルルを楽しげにギレンが追い回す。
「キャー、キャー、キャァァァーーー!」
「ハハハ、そらそら、当たりますぞ」
 必死で逃げるが、運動不足の王子の限界は近い。
「ワアーン」
 ドテと石につまづいてシャルルが転ぶ。
「殿下ーー!」
 うずくまるシャルルの頭めがけてギレンの木刀が振り下ろされる。
 ガキーンと激しい音とともにギレンの木刀が跳ね飛ばされる。
「!」
「・・・?」
「ギレンとやら,冗談はそこまでにしておけ」
 ギレンの木刀を跳ね飛ばしたのアキラだった。
「ア、アキラァ~~」
 シャルルは這ってアキラの脚に縋り付く。
「・・・お前は?」
「私はアキラ。国王陛下からシャルル王子 の世話を任されている」
「アキラ…なる程貴女が聖女と噂の…」
「聖女では無いが、任された以上これ以上の余計な手出しは無用だ。お引き取り願いたい」
「作用ですか。それではこれで失礼致します」
 不遜な笑みを浮かべてギレンは去って行く。
「あいつ、本気で頭をかち割ろうとしてたな」
「へっ?」
「剣の稽古中に謝って死なせてしまった…みたいな」
「ヒェェェ~~~…」
「そんな事・・・」
「あり得ない話ではないだろう」
「そ、そうですが…」
「おい、シャルル」
「ふぇ・・・?」
「しっかり稽古しておいた方が良さそうだな。いつ何時命を狙われるかわからないぞ」
「そ、そんな…」
 メソッと涙しそうなシャルルの頭に木刀が落ちた。
「い、痛い!」
「ほら、ボーッとしてるとやられるぞ」
「え、ええーーー!」
 そしてもう一度木刀が襲い掛かる。それを察知してシャルルは横に飛び退く。
「おっ、良く勘づいたな」
「ア、アキラ…」
「自分の身は自分で守らないと…いつもルカが助けに来るとは限らないぞ」
「えええ~~」
「そら」
 今度は足を叩かれた。
「ず、ずるい、足だなんて・・」
「いつも頭を狙われるとは限らないだろう。そら」
「わーー!」
 シャルルは慌てて足を引っ込める。
「ハハハ。その調子だ」
 そんな二人の様子を見てルカは驚いていた。稽古嫌いな王子が遊びの様には見えるが、アキラはちゃんと剣の攻撃から身をかわす方法を教えている。
(何も真面目に稽古するだけが剣の練習では無いのかも知れない)
 それにあのギレンの一撃を察し、意図も簡単に弾きとばした。
(アキラ様などのくらいの剣の腕前なのだろう)
 手合わせしてみたいなと思ってしまった。

 ギレンはギレンで不敵な笑みを浮かべてあの場を去ったが、第一親衛隊の宿営舎を去ると誰も見ていない事を確認すると、己の右手を見つめた。
(俺の剣を跳ね飛ばすとは…)
 跳ね飛ばされた瞬間、手が痺れた。
(あの女・・・何者なんだ)

「殿下、お休み前の夜食はどうなさいますか」
 シャルルはお腹が空くと眠れないと、いつも就寝する前に軽く食事を摂るのが常だ。
「今日は疲れたよ、もう寝る」
 昼間アキラに鬼ごっこよろしく大分追いかけて回された。ちょっと油断しているとすぐ木刀の代わりに紙を丸めた物が襲い掛かってくる。それで精神的にも肉体的にも疲れた様だ。
「そうですか、ではお休みなさい」
「・・・・」
 返事は無い。既に寝てしまった様だ。
 ルカは静かに部屋を出ると、ドアの前に控えている番兵に目配せして自室にもどる。
「アキラ様の言った事は本当なのだろうか」
 ベッドに入りアキラの言葉を思い出してみた。ある得る話だと思う。国王の後継ではあるが問題があると周囲から思われている。特に第二王子や第三王子の支持者達から見れば、目の上のタンコブだ。それにあの性格も災いしてる。政には興味を示さないの、勉強は嫌い、稽古も嫌い、好きな事と言えば食べる事、寝る事となれば反感を買うのも仕方ない事。少しでも良いから政に興味を持って欲しいとルカも思っていた。
(アキラ様の登場で何か変わるかも知れない)
 アキラの顔を思い浮かべてルカは身震いする。期待もあるが少し怖さも感じてしまうのは気のせいか。
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