異世界の《最強》ポリスウーマン

如月はるな

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異世界の《最強》ポリスウーマン

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「えー、散歩に行ったの。僕も一緒に行きたかったなぁ…」
 王子は部屋に戻ってきたアキラに一緒にお茶しようとワゴンに沢山のスイーツを並べて入って来た。
(・・・無理だろう)
 と、その体型を見て思う。
(子供っぽいけど幾つなんだ)
「ところで王子は幾つ何ですか?」
「えっ、僕? 二十一才になったよ」
「・・・」
(中身は子供だが、立派な大人なんだな)
「アキラは幾つなの?」
「私か? 二十七になるかな」
「えっ?」
 シャルルの手が止まる。何だ?
「お姉さんなんだ。若く見えるね……」
(何だ、その声のトーンは。年上は嫌なのか。それよりケーキ何個食べるんだよ)
「王子。ケーキ食べ過ぎなのでは?」
「えっ、まだ四つ目だよ」
 口の周りをクリームだらけにして、次のケーキを物色している。
(四つ食べれば充分だろ)
「ルカ、今度はそのチョコレートがかかったケーキが良いな」
「はい、殿下。これですね」
 護衛なのか、侍従なのか知らないが、王子が指したケーキを目の前に運ぼうとする。
「おい」
 アキラはその手を掴んだ。
「は? アキラ様も同じ物をご所望で」
「違う。幾つ食べさせるんだ。気が済むまで食べさせるつもりか!」
「えっ、し、しかし…」
 アキラはルカから皿を取り上げるとワゴンに戻した。
「なんでも食べたい物を与えるが護衛のする事か。見ろ、この姿を!」
「えっ・・・」
「へっ?」
 ルカは王子の姿を見る。いつもの姿だ。
「こんなに太らせて、早死にさせる気か」
「そ、そんな、私は…」
「王子も何でも手に入るからと際限なく欲しがるな。高血圧、糖尿病になるぞ」
「こ、こうけつあつ? とうにょう?」
「そうだ。糖尿病になれば肝機能が落ちて死ぬぞ。高血圧だって血管が詰まり脳梗塞、心臓疾患で死ぬぞ」
「ええええーーー!」
 二人は驚いて顔を青くする。
「ぼ、僕、死ぬの?」
「直ぐにではない。でもこのままこんな食生活を続けていればいずれそうなる」
「ええ~~、嫌だよ、死にたくない」
「殿下。私が死なせません」
「ルカ~~~」
 泣き崩れる王子の身体を抱いてルカが慰める。
(ふぅ。馬鹿かこいつら)
 アキラは冷たい視線で二人を見下ろす。
「兎に角だな、ケーキはこの位にしたけ。ルカも欲しがるからと無闇に与えるな」
「は、はい、承知しました」
「・・・承知しちゃうの?」
「・・・・」
「あのな~、護衛する者なら王子の身体も守ることを考えろ」
「は、はい、アキラ様」
 本当に分かったのか分からないが、ルカはケーキのワゴンを下げさせた。それを王子は物欲しげに見つめている。
「さて、私は少し汗をかいたので風呂に入りたいのだが、風呂場はあるのかな」
「あっ、確か、寝室の右奥にあるはず…今、お湯を用意させます」
「・・・一緒に入る?」
 ニヤけた顔して言ってきた王子の頭をアキラは思い切りド突いた。

 ベッドに座って待っていると奥の扉が開いてリーアが入って来た。
「お風呂の支度が出来ました」
「ありがとう」
 リーアに連れられバスルームに入る。思っていたより大きな浴室だ。浴槽にはお湯が張られ、香りの良い花が浮かべられている。
(おいおい、マジかよ)
 と、思いつつも衣服を脱ぐと浴槽に入る。
「う~ん、良い湯加減だな…」
 リーアが身体を拭くためのタオルを持って待っている。
「待っていなくても一人で大丈夫だよ」
「いいえ。アキラ様にお仕えするのが仕事ですから)「・・・そう…」
 同じ同性とはいえ裸を見られるのには多少抵抗があるが、ここは異世界だと諦める。
 浴槽から上がるとリーアがタオルを持って近寄り、身体を丁寧に拭いていく。
「ず、随分と筋肉質なんですね」
「そうか? 普通だろう」
「ここって…こうなるものですか?」
 リーアは六つに割れた腹筋を見て驚く。
「普通だろう。リーアも鍛えて見るか」
「い、いいえ、私は結構です」
 六つに割れた腹筋なんて屈強な剣闘士しか見たことが無いとリーアは思った。

 (平和だな・・・)
 元刑事のアキラには物足りない一日だった。部屋も広く、ベッドも大きく中々の寝付かれないと感じながらも窓から瞬く星を見つめていたらいつの間にやら寝入ってしまった。

 朝起きて朝食を済ませるとリーアを連れて散歩に出た。行き場所は裏庭だ。ラウールの薬草に興味があったのだ。
「おはよう」
 アキラは薬草の手入れをしている少年に声を掛けた。少年はビックリした様子で顔を上げてアキラを見た。
「お、おはようございます」
「ラウールに会いに来たのだが…」
「は、はい。少々お待ち下さい」
 少々は建物の中に走っていく。
「可愛い子だな。あの子が弟子なのかな」
「わ、分かりません」
 しばらくしたラウールを伴って少年が戻って来た。
「これは聖女様。また起こしで」
「来ると言ったろう」
「そうだったね。毒に興味がお有りなようで」
「少しな。どんなものか見せて欲しいな」
「ではラボのどうぞ」
 アキラはラウールに案内されて中へ入って行く。栽培されているのは毒草なのだろうか。見たことのある花やキノコなどもあった。
「キノコも調べているのか。これはテングダケだな」
「良くご存じで。キノコは種類も多くて見分けも難しい」
「うん。間違えて食べる人も多いと聞く」
 面白そうに見ているアキラと違って、リーアは身体を縮ませ恐ろしそうに顔を硬らせながら付いてくる。
「どうです、お茶でも如何ですか」
「お茶か、良いな。結構歩いたから喉が乾いた」
 ラボの奥の窓近くにテーブルと椅子が用意されていた。
「ここでいつもリトルと休憩してる」
「リトルとはさっきの少年か。可愛い子だな」
「おや、アキラ様はお気に召しましたか」
「めすも何も可愛い者は可愛いだろう」
 椅子に腰掛けるとそのリトルがお茶を運んで来た。
「良い匂いだな。ハーブティーか」
「いかにも。ハーブも薬草ですから」
 リトルがアキラの前に注いだカップを置いた。
「いただきます」
 アキラはカップを取るとまず匂いを嗅いだ。
「うん、美味しそうな匂いだな」
「アキラ様、毒味もなさらずに飲んでは……」
 言うが早いかアキラは一口飲む。
「うん、これは美味い」
 そう言うと一気に飲み干した。
「甘いのにしつこく無く、後からスッキリした清涼感が…レモングラスの様な」
「良く知ってますね。密桃《みつとう》を細かく切ってあとはレモングラスや他はのハーブとブランドしてみました。リトルはハーブティーを作るのが得意なんです」
「そうなのか。リトル、上手だな」
 アキラは側で恥ずかしそうに立っている少年の頭を撫でた。
「リーア、飲まないのか?」
「えっ、わ、私は…」
「もう一杯頂こう」
 リーアが躊躇してる間にアキラはカップをリトルに差し出した。その様子をラウールは目を細めて見ている。
「おや、新しいお客様がいらした」
 ラウールの言葉に外を見やると、王子か大汗を掻きながらルカを伴って歩いて来る姿が見えた。
「ルカ殿は相変わらず殿下にべったりですね」
「ルカを知ってるのか」
「勿論。殿下の為なら何でもする忠実な僕ですよね」
「・・・何か意味深な言い方だな」
「おっと、アキラ様は鋭いですね」
 ドカドカとリトルに伴われて二人がやって来た。
「はぁ、はぁ、アキラ…歩くの、はぁはぁ、は、早いよ…ふぅはぁ」
「ここまでの距離でよくそんなに汗かけるな」
「殿下はあまり出歩きませんので」
「何でもかんでもやってやると言うのも問題だな」
「・・・しかし、それは…」
「そうだラウール頼みがある」
「何ですかアキラ様」
「身体の脂肪を燃焼させる良い薬は無いか」
 その言葉にルカが反応する。
「殿下の飲む薬を医師の許可無く処方させられません!」
 強い眼差しでアキラとラウールを睨む。
「なら、貴方が一日一時間の運動をさせろ」
「ええーー!」
 ルカと王子が同時に叫ぶ。
「そ、それは…」
「僕は嫌だよ!」
「なら薬だな。ラウール頼む」
「承知しました」
 楽しそうに笑うとルカの肩をポンと叩くと奥は引っ込んで行った。その後ろ姿が見えなくなるとルカはアキラに噛み付く。
「何でもあの様な得体の知れぬ者に薬など….」
「ラウールは優秀な薬剤師だと思ったから。ほら、このハーブティーも美味しいぞ」
「いりません!」
「僕・・・喉が乾いた」
「あーー、殿下、お飲みになっては……」
 ゴクリと喉を鳴らして王子はお茶を飲み干した。
「美味しい…」
「だろう。ほら、ルカも飲んでみなさい」
 ルカら差し出されたカップを手にすると、渋々口にする。
「!」
 だが一口飲んで顔が和らぐ。
「どうだ? 美味しいだろう」
「僕、もう一杯飲みたい」
 リトルはハーブティーを新しく作るために奥は引っ込むと、クッキーを携えて戻って来た。
「これも美味しいな。リトルが焼いたのか?」
 リトルははにかみむと小さく笑った。
「リトルは良い子だな」
 アキラはリトルを抱き寄せ頭を撫でる。その様子を王子達は驚いた様子で見ていた。
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