哀しみの散花

如月はるな

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哀しみの散花

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「本当か?」
   王はギエルの言葉に驚きを隠しきれない。
(私の子供・・・しかも息子)
「アナベル・・・確かカールの子を身ごもったとして、払い下げた娘だったな」
「はい。しかし、カールの子とは思えません。王によく似た赤い髪でした」
   王はあの時の事を思い出していた。カールに軟禁され、媚薬を塗られて股間を男を誘うかの様にヒクつかせていた。
「あの時、確かに医者を連れて来る間に・・・」
「交渉を持ったのですか?」
   王は飽きて妃嬪館に送った女とは二度と交渉を持たない、それを信条としてきた。だが一度だけそれを破って交渉を持ったアナベルが妊娠。
「それで現在のアナベルの事を調べて見ました」
「うん」
「アナベルは出産と同日にラウールと籍を入れてます」
「ラウールか・・・何か図っているのか」
「それは分かりませんが、長子として実子として届けられてます。長子アレクシス、生年月日は一XXX年◯月◯日生まれです」
「・・・計算は合ってるな」
「王・・・」
「私の子か、しかも息子。フフフ・・・」
「王?」
「私にも出来たのだな子供が。しかも王子だ、やっと血は繋がる。リーシュテイン国の正統な血筋の子供だ」
「は、はい、王、そうです」
「何処の誰の子か分からない王妃が生んだ子供では無い、正真正銘のこの国の王家の正式な跡取りだ!」
「はい、王様!」
「ギエル!  直ぐに連れて来い。私の息子を!」
「は、はい」
   だからといってあのラウールが素直に「はいそうですか」と手放す訳もない。
(どうしたものか)
   しばらくギエルはラウールの屋敷を見張り、行動を観察する事にした。ラウールは仕事があるのか日中は屋敷にいない時が多く、アナベルと子供達は天気の良い日は中庭でお茶をする時がある。その時は周りに余り人は居ないのが分かった。まあ、あの闇商人と恐れてられてるラウールの屋敷を襲う輩はいないだろう。その油断がチャンスだと思った。
   そしてそれを決行する時は来た。
「お父さんは今日は遅いの?」
「大事な商談があるって」
   母子三人は初夏の明るい日差しを浴びて、何時もの様に中庭でお茶を飲む。
「今日はベラさんが作ってくれたチーズケーキよ」
「お口に合うと良いのですが」
   ベラと言われた中年女性がケーキとカップを用意している。
「アンナはミルクね」 
   中庭の椅子に座り、母子は美味しそうにお茶とケーキをたしなむ。
「うっ・・・」
   ベラのうめく声がしたかと思うと、ドサリと倒れる音がした。
「ベラさん?」
   背後を振り返ると倒れた使用人と見知らね男達。
   いや、アナベルはその男を知っている。
「ギエル様?」
   アナベルは立ち上がり、子供達を後ろにかくまう。「お久しぶりですね、アナベル殿。今日は貴女の息子に用があって参りました」
「!!」
   アナベルは直ぐに察知し、アレクシスに叫んだ。
「逃げなさい!」
「?  お母さん」
「早く!」
   母に背を押されてアレクシスは脱兎の様に走り出した。
「捕まえろ!」
   数人の男がアレクシスを追う。アナベルも娘を抱き逃げようと走り出すが、ギエルに直ぐに捕まえられてしまう。
「は、離して下さい!」
「うるさい。息子を捕まえれば離してやる」
   だが、すばしっこい男の子を捕まえるのは容易にではない。茂みや、狭い場所に入り込められ捕まえることが出来ない。大人達がモタモタしてる間にアレクシスは父に何かあったらこの紐を引けた言われた部屋に入るとその紐を思い切り引っ張った。
   するとあちこちで鐘や、鳴子が鳴り出した。
「な、何だ?」
「まずいです。人がやって来ます」
「子供は?」
「すみません。すばしっこくて・・・」
「逃げられたか・・・仕方ない」
   ギエルはアナベルを冷たい目で見つめた。
「息子の代わりに貴女に来て貰います」
「!   む、娘はここに・・・」
   自分一人なら何処でも行く気だった。
「一緒に連れて行け」 
   アナベルは娘と共に馬車に乗せられ、連れ去られる。
(ああ、ラウールさん、アレク・・・)
「マーマ、怖い・・・」
「大丈夫、大丈夫よ。ママが付いてるからね」
   本当は恐怖で泣き叫びたいが、今は怯える小さな娘を抱きしめじっと耐え忍ぶ。
(きっと、助けに来てくれる・・・)


   物音を聞きつけ、ラウールの屋敷には沢山の人が集まって来ていた。
「ボス、奥様がさらわれたというのは?」
「本当だ」
「一体誰が?」
「国王だ」
「えっー?」
   一同は驚きを隠せない。
「ボス、もしかして・・・」
   トーマがもしかしてとラウールにそっと耳打ちする。
「ああ。バレた様だな」
「どうしますか?」
「明日、ギエルに会いに行ってみる。まあ、そう簡単には返してくれないだろうがな」
「大丈夫ですか?」
「分からん。だか、アナベルと娘は必ず取り返す」
   その力強いボスの言葉に、トーマとその場にいた一同は頷いた。


「捕まえられなかったのか?」
「申し訳ありません。以外にすばしっこくて・・・。で、でもアナベルは捕まえて参りました」
「何処だ」
「隣の部屋に」
   王は案内されて隣の部屋に入っていく。長椅子にアナベルが疲れて寝入っている娘を抱いて座っていた。
「おお、アナベル、久しぶりだな」
   その顔を見て、言いようの無い悪寒が駆け抜ける。
「綺麗になったな。ラウールの妻になったそうな。その子はラウールの娘かな」
   娘に触ろうとして来た手を払った。
「アナベル!  王になんて事を!」
「よいよい」
   アナベルは王とギエルを睨み、
「私達を家に帰して下さい」と、きっぱり言い放つ。
「そうだね。君の息子と交換ならばね」
   ニヤニヤと王は笑みを浮かべて言う。
「嫌、君と私の息子かな」
   その言葉にアナベルは反論する。
「違います。あの子はラウールさんの子です!」
「フン。まあ良い。ラウールが息子を連れて来なければ君は出られないと思え!」
   複雑な気持ちがアナベルを包む。ここから出たい。ラウールの元へ戻りたい。でも、息子と交換も嫌だ。ラウールは実の父親では無いが、あの子にとっては本当の父親以上の存在だ。反対に、実の父親が王だとしても息子を預けたくは無い。
(ラウールさん・・・)
   どうして良いか分からず、アナベルは祈ることしかできない。

   翌日、ラウールはトーマを伴って城にギエルとの面会を求めた。
「来たか」
   ギエルはラウールが来た事を知らせ、執務室でラウールと面会した。
「これはこれは、急な起こしで、何用ですかな」
「昨日、我が家に賊が押し入り、妻と娘が拉致されました」
「ほう。それが私となんの関係が・・・」
「息子が言うには賊の名前はギエルと言うらしい」
「ほう。頭の良い子らしい」
「では、やはり・・・」
「そう。では話は早い。交換条件を申しましょう」
「交換条件?」
「そう。貴方の息子と称する子どもと交換です」
   内心、やはりバレたのかとラウールは察した。
「連れて来なければ永遠に妻と娘には会えないからな」
   そう言うとギエルは執務室から出て行ってしまった。
「ボス。どういたしますか?」
「仕方ない。今日のとこは引き上げよう」
「ですが・・・きっと何処かに」
「その何処かが分からない。部屋が多すぎるし、秘密の隠し部屋もあるかも知れない」
「では・・・」
「ああ。あの方に頼むしか無い様だ」
「分かりました。直ぐに鴉に連絡させます」
「頼む」
   頼りたくは無かったが、自分は城の中の事を知らなすぎる。
(アナベル、アンナ。きっと助けるからな)

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