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哀しみの散花
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小国リーシュンは大帝国サージルの友好国として貿易で繁栄していた。しかし、その裏にある実態を知る者は少ない。
花屋の娘アナベルは緊張していた。何故なら初めて国王の誕生日のパーティーに出席するからだ。婚約者のハンスは小間物の貿易をしている父の代理で、婚約者のアナベルを同伴してパーティーに出席する事になった。若い二人はお互いの手を取り、緊張をほぐそうとしているが、返って相手の緊張が伝わってきて緊張をほぐすどころでは無い。
「何か凄く緊張するね。もう手汗びっしょり」
「うん。それにしても凄い人だね。国王夫妻の横に並んでいる美女達が噂の妃嬪“きひん”達かな」
国王に子供は居ない。王妃のヒルダは大帝国サージルの第三皇女だが、この国のしきたりで三年以内に子が授からない場合は妃嬪が設けられる。すでに妃嬪の数は十人超えているが、未だに一人として子を生んだ妃嬪は居ない。ので、王には子種が無いのでは無いかと噂されている。
「アナベルは可愛いから王のお眼鏡にかなったらどうしようかと心配だよ」
「馬鹿ね。そんな事ある訳ないでしょう」
そんな他愛もない話をしていたら、拝礼する順番がやってきた。
国王を前に深呼吸をする。
進行役がハンスの名前を呼ぶ。
「小間物商、クロード・クロンツェルの名代の息子ハンス・クロンツェルと婚約者のアナベル嬢です」
「父の名代で参りました、ハンス・クロンツェルです。こちらは婚約者のアナベルです」
「アナベルと申します」
アナベルはドレスの両端を摘み、膝を折り、作法通り恭しく挨拶をした。
「うむ」
王のその一言で拝礼は終わった。
逃げる様にその場を去ると、会場の端で二人は胸をだ撫で下ろし、顔を見合わせて笑顔を見せ合った。
「はぁ~、緊張したぁ~」
「もう、胸がドキドキよ」
二人は近くのテーブルに手を伸ばし、飲み物を一気に飲み干した。
「のど乾いてたんだね」
「本当、カラカラ」
一気に緊張がほぐれた二人は、お腹が空いてたのを思い出し、普段は食べられない高級な料理に手を伸ばす。
「これ、美味しい!」
「本当! こっちも美味しい!」
そんな二人の様子を王はじっと見ていた。
「誰か気になる女性はいましたか?」
近くに控えていた側近のギエルが声を掛ける。
「うん」
王はアナベルをアゴで指した。
アナベルを見たギエルは眉をしかめた。
「あの娘ですか? 可愛らしいですが、さほど美人とは思えませんが。体型も子供っぽいのでは」
今までの 王の好みから大分離れてるのに違和感があった。
「花の香りがした。良い香りだった」
王の意図を察した側近は軽く頷いて見せた。
横に居た王妃はスクッと立ち上がった。
「失礼させて頂きます」
王妃の言葉に二人は目で挨拶をしただけだ。王妃はその場を離れ奥へと引っ込んだ。
サージルの皇女ヒルダは気位が高いと評判だが、気位が高いのでは無く、同じ女として、女をモノ扱いする王の性癖が嫌いなのだ。
「部屋に戻ります」
「はい、マイロード」
王妃に従うのはサージルからヒルダの護衛として付いてきた騎士リューシルだ。
今度はあの娘が餌食になるのだと思うと居たたまれない。そして、自分にはそれを止める術もないのだと思うと、夫である王への嫌悪感が更に増幅するのを感じた。
何も知らずに愛するハンスと共に食事を楽しむアナベルが哀れだ。
王と側近ギエルが好奇の視線を浴びせてるとも知らずに、アナベルは最後となる楽しいひと時を楽しんでいた。
花屋の娘アナベルは緊張していた。何故なら初めて国王の誕生日のパーティーに出席するからだ。婚約者のハンスは小間物の貿易をしている父の代理で、婚約者のアナベルを同伴してパーティーに出席する事になった。若い二人はお互いの手を取り、緊張をほぐそうとしているが、返って相手の緊張が伝わってきて緊張をほぐすどころでは無い。
「何か凄く緊張するね。もう手汗びっしょり」
「うん。それにしても凄い人だね。国王夫妻の横に並んでいる美女達が噂の妃嬪“きひん”達かな」
国王に子供は居ない。王妃のヒルダは大帝国サージルの第三皇女だが、この国のしきたりで三年以内に子が授からない場合は妃嬪が設けられる。すでに妃嬪の数は十人超えているが、未だに一人として子を生んだ妃嬪は居ない。ので、王には子種が無いのでは無いかと噂されている。
「アナベルは可愛いから王のお眼鏡にかなったらどうしようかと心配だよ」
「馬鹿ね。そんな事ある訳ないでしょう」
そんな他愛もない話をしていたら、拝礼する順番がやってきた。
国王を前に深呼吸をする。
進行役がハンスの名前を呼ぶ。
「小間物商、クロード・クロンツェルの名代の息子ハンス・クロンツェルと婚約者のアナベル嬢です」
「父の名代で参りました、ハンス・クロンツェルです。こちらは婚約者のアナベルです」
「アナベルと申します」
アナベルはドレスの両端を摘み、膝を折り、作法通り恭しく挨拶をした。
「うむ」
王のその一言で拝礼は終わった。
逃げる様にその場を去ると、会場の端で二人は胸をだ撫で下ろし、顔を見合わせて笑顔を見せ合った。
「はぁ~、緊張したぁ~」
「もう、胸がドキドキよ」
二人は近くのテーブルに手を伸ばし、飲み物を一気に飲み干した。
「のど乾いてたんだね」
「本当、カラカラ」
一気に緊張がほぐれた二人は、お腹が空いてたのを思い出し、普段は食べられない高級な料理に手を伸ばす。
「これ、美味しい!」
「本当! こっちも美味しい!」
そんな二人の様子を王はじっと見ていた。
「誰か気になる女性はいましたか?」
近くに控えていた側近のギエルが声を掛ける。
「うん」
王はアナベルをアゴで指した。
アナベルを見たギエルは眉をしかめた。
「あの娘ですか? 可愛らしいですが、さほど美人とは思えませんが。体型も子供っぽいのでは」
今までの 王の好みから大分離れてるのに違和感があった。
「花の香りがした。良い香りだった」
王の意図を察した側近は軽く頷いて見せた。
横に居た王妃はスクッと立ち上がった。
「失礼させて頂きます」
王妃の言葉に二人は目で挨拶をしただけだ。王妃はその場を離れ奥へと引っ込んだ。
サージルの皇女ヒルダは気位が高いと評判だが、気位が高いのでは無く、同じ女として、女をモノ扱いする王の性癖が嫌いなのだ。
「部屋に戻ります」
「はい、マイロード」
王妃に従うのはサージルからヒルダの護衛として付いてきた騎士リューシルだ。
今度はあの娘が餌食になるのだと思うと居たたまれない。そして、自分にはそれを止める術もないのだと思うと、夫である王への嫌悪感が更に増幅するのを感じた。
何も知らずに愛するハンスと共に食事を楽しむアナベルが哀れだ。
王と側近ギエルが好奇の視線を浴びせてるとも知らずに、アナベルは最後となる楽しいひと時を楽しんでいた。
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