幸せの場所

如月はるな

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幸せの場所

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「ここですか?」
 目の前にそびえるホテルに悠は目を見張った。迎賓館風の厳かな建物を見入る。テレビや雑誌などで特集される程のホテルだ、フロアも広く敷き詰められた絨毯の深さに驚きを隠せない。
「足音がしません!」
 些細な事で驚き、キョロキョロする悠をパーティ会場まで連れて行くのにかなり時間がかかった。
「うわあーーー、ひ、広いですね」
「これでも小さい方の会場らしいよ」
「そ、そうなんですか?」
 立食式なのだろう、至る所にテーブルが並べられ、その上にには既に悠が見たことの無い食べ物や、飲み物が並べられている
「お、美味しそう……」
「そうですね……」
 今にもよだれを垂らしそうな顔で料理を見つめている光の横から悠も同意見を述べた。
 部屋の隅には沢山の箱が並べられている。
「こ、これはプレゼントですか?」
「そうだ。二人の叔父や父、姉も提供してくれた」
 並ぶは電化製品からバッグ類、高級食材も並んでいる。
「凄いですね」
 感心する悠に英はポツリと言う。
「政治家とか、経営者には何かも見返りを求める代わりに贈り物を送る輩が多いからな。厄介払い出来ると喜んでたよ」
「そ、そうなんだ……」
(金持ちって凄い……)
 改めて格差を実感する。
「あれ、早くついちゃったかな」
 純白のスーツに身を包んで現れたのは麗央だった。
「西園寺さん、いらっしゃい」
 悠は麗央の元へ走るとペコリと頭を下げた。
「招待されたからね」
 麗央の後に続いてやって来たのは母達だ。
「キャー、西園寺さん、お久しぶりでーす!」
 甲高い黄色い声の持ち主は優花だった。
「ゆ、優花ちゃん……」
「西園寺も来るって聞いてもう、チョーチョー嬉しいです!」
 麗央の手を取りブンブンと振り回す。
「アハ、アハハ、ぼ、僕も嬉しいよ」
 横目でこの妹をどうにかしろと樹也に訴えるが、樹也は悠の隣にいる英に母と共に招待してくれた礼を述べた。
「こちらこそ来てくれて嬉しいよ」
 樹也は悠を誘い食べ物が並んでいるテーブルを物色していると、今度はドヤドヤと大勢入って来た。
 『HAKU』の仕事仲間達だ。
「真柴君、早いね」
「英さん、今夜は招待ありがとうございます」
 皆んなは英さんの周りに集まり、それぞれ礼を述べている。
「あっらぁー、西園寺さんもいらしたたの」
「いつ見ても美人さんね」
 今度はおばさん軍団が麗央の周りに群れる。撮影会の始まりだ。顔は笑ってはいるが内心苦々しい思っているのはわかる。
 主だった人が集まったのを見計らって、パーティの開会を英が発声した。
「今夜は楽しんで下さい。帰りが心配な方は申し出て下さい。何部屋かは確保してますので。それではクリスマス兼忘年会を始めます。カンパーイ」
「カンパーイ!」
 乾杯の掛け声で皆んなが一斉に飲食が始まる。英と麗央の周りには人だかりが出来ている。
「悠君」
「たっ君。ジュース?」
「僕はまだ未成年だから」
「料理、美味しいね」
「さすが一流ホテルだよね、お肉美味しいよ」
 皆んなが食事で気分が盛り上がってきた頃、ゲームの時間となった。
 最初のゲームはダーツだった。的には番号が貼ってありそこに当てた番号のプレゼントを貰える様になっている。
「やったー、高級肉だわ!」
 町田さんが喜びの声を上げる。
「僕は米だ」「私はビール券よ」当てた人達が様々な声を上げる中、悠と麗央は当たることができないでいた。
「下手くそだなぁ」
「うるさい! 欲しいものなんか無いから良いんだよ」
 と、虚勢を張る麗央。落ち込む悠には英が投げるコツを教える。
「あ、当たった、当たりました!」
 当たった事に素直に喜ぶ悠。
 絵の伝言ゲームでは五人チームになって、お題の絵を書いて伝言するのだが、麗央の次が樹也だった。最後にお題の絵を当てるのだが、麗央の書いた絵に樹也は困惑する。
「何だよ、この絵は!」
「うるさいな。前から伝わって来たんだから僕のせいじゃない!」
「・・・う~~ん」
「はい、時間です。お答えは?」
「う~~ん」
 散々迷った挙句樹也は尻尾の感じから「ライオン」と、答えた。
「ブッブッー。答えは虎です」
「何処が虎なんだよ!」
 樹也は麗央に振り向いて怒鳴った。麗央の前まではちゃんと縞模様があって虎だと分かる。
「何で縞模様書かないんだよ」
「縞模様は好きじゃない」
「はぁーーー⁈」
 簡単なゲームで盛り上がり、最後は定番のビンゴゲームだ。ビンゴした人は箱の中のカードを引いて番号の景品をもらうのだが、麗央が引いた番号は小百合さんから提供された樹也の絵画だった。
「要らない」
「おい!!」
 そんな二人の様子を見て悠は思った。
「あの二人本当は相性良いのかな」
「ん? 何で?」
「だってやり取りが漫才みたいなんで……」
 悠はオレ様風の物言いの麗央に対して怒って突っ込む樹也の姿を見て楽しそうだなと感じていた。
 深夜近くになりお開きの時間となった。余ったプレゼントは欲しい人がそれぞれ持ち帰る事になった。
「このワイン飲みたかったのよね」
「この日本酒。あまり出回らないんだよな」
 麗央も余った酒類は貰って行く。
「ただで貰ったお酒で金儲けか」
「当たり前だ。ただ程高い物は無いってな」
「・・・ふうん」
 ホテルに泊まるのは結局英達だけだった。皆んなそれぞれ家族が迎えに来た。樹也達は父親の車に三人分のプレゼントを乗せて帰って行った。
 麗央も弟の敦の車に余った酒類を乗せて戻って行った。
「なんか終わってみると寂しいですね」
「ああ」
「光先輩は完全に出来上がってるよ」
 西脇はそう言って飲みすぎて既に寝入ってる光を抱き上げて部屋に入って行く。
「お前を飲んでたな」
「だってカクテルなんて初めてだから……」
 少し上気した顔を英に向けて笑う。
「抱いていってやろうか」
「えっ? 大丈夫です」
 そう言いながらも足元は少しおぼつかない。英にもたれる様に歩いてホテルの部屋に入って行く。

 部屋に入ると悠は用意しておいた英へのプレゼントを取り出した。
「こ、これ、気持ちです」
「俺にか?」
「そんなに高い物じゃ無いですけど……でも、一応カシミヤです」
 中身はマフラーだった。
「嬉しいよ。ありがとう」
「えへへへ・・・」
 喜んでもらえて嬉しさを表す悠だった。
「実は俺も……」
 そう言うと英もプレゼントの袋を出した。
「えっ? 俺に!」
 開けると手袋だった。
「これから寒くなるからな」
「あ、ありがとうございます!」
 外側は革、中はミンクの毛だと言う。手を入れてみるととても暖かい。
「そろそろ寝るか」
「は、はい」
 ホテルが用意したパジャマに着替えそれぞれのベッドに入る。
「ん?」
 悠はベッドを出て英のベッドの側に立った。
「どうした?」
「その……一緒に寝て良いですか?」
 英は恥ずかしそうに俯いてる悠の為にスペースを開けた。オズオズと隣に身を横たえると、身を寄せ合い形になった。
「シングルだから狭いな」
「・・・はい」
 狭い分身体がくっつき、英の心臓の音がトクントクンと優しく聞こえて来る。
「・・・襲うぞ」
「・・・どうぞ」
「! 良いのか? この前の様にまた蹴飛ばして逃げられるとは限らないぞ」
「・・・俺、分かったんです」
「ん?」
「英さんがいかに優しく、俺を見守っていてくれたかを……」
「この前は違ったのか?」
「・・・初めてで、怖くて……ごめんなさい」
「・・・悠……」
 英は悠を抱き寄せるとキスをする。最初は軽く、気分が高まって来るとお互いに舌を絡め合わせる。その間に英はパジャマのボタンを外すと悠の乳首を摘んだ。
「は、英さん……早い」
「俺のモットーは即実行だ」
「・・・すけべ……」
「ふふん」
 英は体位を入れ替えた。上になると悠の顔や首、胸元にキスの雨を降らす。
「・・・あ……」
 パジャマのズボンの上から性器を触られた。撫でられ、握られる。
「や、やだぁ…は、恥ずかしい……」
 英の手淫に悠の性器は勃ち上がった。
「元気だな」
「英さん……イヤらしい」
「俺はイヤらしいスケベ親父だからな。ほら」
 そう言って悠の手を自分の性器に触らせる。
「・・・大っきい……熱いし……」
「お前を抱けると思っただけでこうだ」
「だ、抱くの……?」
「当たり前だ。今度は逃がさない。悠もその気だろう」
「・・・う、うん」
 覚悟を決めていた。あの時とは違う。英さんは優しい、自分を暖かく見守りその気になるまでじっと待つ忍耐力も持ってる。その気持ちに応えたい。酒を飲んで気持ちが大きくなった事もあるかも知れない。
「あっ……やだ」
 悠は大きく身を捩った。英の指が尻に伸びてすぼみを触って来たのだ。そこが英を受け入れる場所だとはもうわかっている。
「悠……もう少し足を開いて……」
 英の要望に赤面しながらも素直に従い、足をゆっくりと広げる。英の顔がゆっくりと下がって行き、悠の性器を口で捉えた。優しく舐められ、かじられどうしようもなく身体が歓喜に震える。
「あ………」
 英の舌は悠の窄まりをほぐす様に舐めた。
「だ、だめだよ、英さん……き、汚いから……」
 英の舌を遠ざけようとするが、英の舌は執拗に舐め、吸った。
「お前に汚い処は無い。お前の大事な場所だ、傷付けたく無い」
「は、英さん……」
 その言葉に悠は全身を英に委ねた。
「あっ、あっ……」
 次に英の指が入ってきた。狭い窄まりを押し広げ入って来る……奥へ…奥へ……。
「感じるか?」
「・・・な、何かヘン……」
 むず痒い様な、痛い様な、未知の感覚に全神経がそこに集中する。奥へ伸びてきた指が更に奥へと侵食して行く。
「あ、う……ん、はぁ……」
 未だかつて無い初めての感覚、静かな部屋に英がいじる粘膜の音がクチョクチョと卑猥にこだまする。
 急に指がスーッと抜かれた。
「あっ……」
 英はサイドテーブルの引き出しから何か取り出した。コンドームだ。
「な、何で持って?」
「お前から来なかったら俺から行こうと思ってたからな」
 ゴムをつけながら英はニヤリと笑った。
「ズ、ズルい……」
「経験の差だ」
 身体を押さえつけられ、足を持ち上げられた。
「力を抜いてろ」
 グググッと狭い所を指より太いものが侵入して来た。
「うっ、あああ………」
 力を抜けて言われても無理だ。圧迫感と痛みが悠を襲う。
「悠……可愛い……」
 英は初めての衝撃に動揺し、涙を浮かべているその目にキスをする。涙を絡め取り、優しく何度も何度も目や頬や唇にキスを繰り返す。
「は、英さん……」
 乳首を摘れ、萎れてしまった性器を揉み解す。
(英さん……優しい……)
 そう思って力が抜けた瞬間を見計らって、英は一気に悠の中へ押し進んだ。
「わあああーー……」
 最奥に英の性器を感じる。
「は、は、入った……の?」
「ああ。痛いか?」
「す、少し……英さんが居るの分かるよ」
「ゆっくり動くから……」
「う、うん」
 英はゆっくりと抜き差しを始める。
「あ、ああ……あっ」
 狭い場所を行き来され、悠の呼吸も上がる。
(これがセックス……)
 痛みとひきつる感覚に必死に耐える。しばらくして英が腰を大きく揺らした。
「い、いったの?」
「ああ。でも、もう一回良いか」
「・・・・」
 答える間も無く身体を反転させられた。
「な、なに?」
「こっちの方が楽だと思う」
 しっかりと腰を手で支えられ、背後から再び英が押し行ってきた。でも先程の痛みは無く、スルリと英を受け入れることが出来た。
「あっ、あっ、ああっーー!」
 先ほどより深く挿入される。
(ふ、深い……)
 先程より奥に英の性器が突き刺さる。
「動くからな
「・・・う、うん」
 ズッズッと英が抽送を繰り返す。
「あ、あっ、あん、あ………」
 前立腺を刺激され悠の性器を再び勃ち上がる。
「は、英さん……なんかヘン……あ、ああ……」
「そのまま感じてろ」
「やぁ……は、英さん……」
 背後から悠の性器を握り、優しく扱く。
「やぁ……いっ、いっくーー……」
 初めての刺激に悠は、英の手の中に吐き出した。
それを見て英は更に動きを早める。 
「お、俺も行くから……」
 その言葉通り英は達した。
(こ、これが……セ、セックスなんだ……)
 悠は達した後気が遠くなるのを感じた。その後もう一度挿入された様な気がしたが記憶は無い。

 英はシャワーを浴び終わるとベッドでグッタリしている悠に近づいて行く。セックスの回数は三回だ。最後は悠は半分気絶状態で覚えて無いかもしれないが。
 英としては三回は満足いく回数では無い。出来るなら今までの分、一晩中やりたかったが悠の身体と気持ちをおもんばかって自制したのは初めてだった。
 英は悠の身体をゆっくりと、そして優しく拭き始める。首や胸元に散る赤い花びら模様はキスの跡だ。
(俺がこんな事をするなんてな……)
 身体を拭き終えるとパジャマのボタンを止め直す。
(今夜はゆっくりお休み)
 額の髪をかき揚げ優しくキスし、隣のベッドに入る。

「朝食食べないのかな」
「ルームサービス頼んだのかな」
 朝、西脇と光はビュッフェ形式の朝食を食べていた。そんな時、英がフロントへ歩いて行く姿を見えた。
「奨眞君」
「おはよう。もう一泊するのなか?」
「ああ。ちょっと悠の身体が……」
「身体?」
「いや。お前達も泊まるなら……」
「いや。俺達は朝食食べたら戻るよ」
「そっか。じゃあな」
「おお」
 英の後ろ姿を見送りながら二人は同時に思った。
(やったな)
(やったね)

 部屋に戻ると悠のは目を覚ましていた。
「起き上がれるか」
「・・・うーん……腰とお尻が痛い……」
 その言葉に英は笑うと側に近寄り、抱き起こした。
「朝食食べられそうか」
「うん。お腹空いた」
 英はルームサービスで頼んでおいたワゴンを引き寄せると、スプーンを取りスープを悠の口元に持って行く。
「美味しい……」
「そうか。ここはパンも美味いぞ」
「うん。食べたい」
 英はパンをちぎって悠の口に運ぶ。アーンと口を開ける悠を姿を見て、自分が相手をこんなにも労わり、世話をやく日が来るなんてと驚く。
「ねぇ……」
「何だ?」
 悠はパジャマの胸元を広げて英に見せた。そこには英が付けたキスマークが転々と広がっていた。
「虫かな? 痒く無いけどいっぱい付いてるんだ。昨日までは無かったのに……」
「・・・プッ!」
「な、なに? おかしな事言った?」
「それはキスマークだ。俺が付けた」
「キ、キ、キスマーク! こ、これが?」
 悠は改めて自分の胸元を見つめた。
「ど、どうやって付けるの?」
 英は悠の手を取り、手首の内側を強く吸った。離すとそこにはうっ血した赤い跡が残った。
「あっ………」
 悠は英の首元に飛びつくと強く吸った。
「な、何だ?」
「俺も英さんに付けたい」
 首元には悠が付けたいキスマークがあった。それを見て悠は嬉しそうに微笑んだ。
「お前なぁ……」
「英さん。サラダ欲しい」
 すっかり甘えることを知った様だ。英は小さくため息を吐くと口を開けて待っているサラダを運ぶ。
「美味しい」
「たくさん食べろ」


「お帰り!」
 翌日二人はマンションに戻った。すぐさま光が飛んできた。
「ただいま、光さん」
 光は意味ありげに悠の周りをグルグル回る。
「な、何ですか?」
「へへへ」
「な、何?」
「ううん。これで僕たち同じになったなぁと思って」
 その言葉に悠は赤面する。
「な、何言ってるんですか。そうだ、あのホテルのパンとケーキ買って来ました。お茶にしませんか」
「いいね、お茶にしよう!」
 横で聞いていた英は(上手く逃げたな)と光の話を誤魔化した事に心の中で拍手を送った。
 部屋の中でお茶の支度をしているのに西脇が何か書類を持って入って来た。
「リフォームが終わりましたと業者が写真とか持ってきたぞ。何処かリフォームしたのか?」
「リフォーム?」
「そうか。やっと終わったか」
 英はリフォームしたのを写した写真を広げた。
「ここは……?」
 三人が一斉に写真に見入る。
「あっ……」
 その家の外観に見覚えがあるのか悠が声を上げる。
「これは俺が住んでいた家ですか?」
「ああ。大分傷んでいたからリフォームしてみた。
 藁葺き屋根だったが、藁も相当傷んでいたが、写真の藁葺き屋根は新しく葺き替えられていた。家の中も以前とは違っていた。台所もシステムキッチンになり、畳も張り替えられていた。部屋も洋室が二つ、和室が一つ、三部屋あった。
「あのまま朽ち果てさせるのはもったい無いと思った。悠の育った家だし、お母さんにとっては実家だからな」
「・・・・・ウッ………」
「・・・悠?」
「あ、ありがどうございまず、英さん」
 悠の目からは涙が滝の様に流れていた。
「あ、ああ」
「よかったね悠君」
「あ、あいィィ」
「お母さんにも鍵を渡すと良い。実家にいつでも帰れ様にな」
「は、英さーん、う、嬉しいです」
 そう言うが早いか、英に抱きついた。
「あ………」
 涙だけなら良いが、鼻水が真新しい英のシャツに着いた。
「俺はただ勿体無いと……」
(聞いちゃいないか)
 英は悠の背中をヨシヨシと撫でた。
「良かったね。これでいつでも帰れるね。あ、僕達も遊びに行っても良いのかな」
 光は新しく別荘が出来た気分だと言うのがわかる。
「もちろんです」
「じゃあ、お正月とか皆んなで出掛けたいね」
「田舎ですけど、近場にはスキー場もあるし、手付かずの自然や温泉もあるし……」
「行こう行こうよ、新年はそこで迎えようよ」
「はい。良い考えですね」
 いつの間にか光と悠の間で話しが盛り上がっていた。
「おい、良いのかよ」
「良いんじゃないか。悠の家だ。最初に泊まる権利がある」
「お前、つくづく悠君には甘いな」
「好きな相手が喜ぶのは嬉しいだろう」
「まあ、そうだな」
「早速家具や食器を用意させないとな。あの調子だと明日にでも出掛けかねない」
「確かに」
 盛り上がっいる二人の様子を見て英は携帯を手に取る。
 悠は預かった鍵を母に手渡した。驚いてはいたが、同時に凄く喜んでいた。生まれ育った家が新たに生まれ変わったのだ。里帰りも出来る。
 後日、お礼として大量のシナモンロールやチーズケーキを貰った。
「わあー、美味しそうだね」
 もちろん手を挙げて喜んだのは光だ。早速かぶりつく光に西脇は声を掛けた。
「余り食べすぎない様にね。光はちゃん、最近重くなったよ」
「!」
 その言葉に光は西脇に噛み付いた。
「ぼ、僕がデブだと言うの?」
「い、いや、そこまでは……ポッチャリも良いけど、食べ過ぎは……」
「食べすぎ? ポッチャリ?」
「あ、いや、あれ……」
「大丈夫です。食べ過ぎでも俺が光さん用の食事でアフターケアしますから」
「そ、そうか」
「悠君、ありがとう」
 安心したのか光はチーズケーキにかぶりつき、それを不安ながらも安心して見つめる西脇だった。
「英さんも如何ですか。美味しいですよ」
「そうだな。折角のお礼のケーキだからな」
「はい」
 ケーキを切り分け英の前に出しながら悠はしみじみと感じていた。
(幸せだなぁ……)
 いつまでもこの生活が続いて欲しいと願う。

 夜、悠は英の寝室のドアを叩いた。
「入っても良いですか?」
「どうした。ここへおいで」
 英はキングサイズのベッドの横を叩いた。悠はオズオズとベッドに近寄るとペコリと頭を下げた。
「何だ?」
「英さんにお礼を言いたくて……」
「お礼?」
「はい。俺、英さんにどうしても言いたいことがあるんです」
 真剣な顔に英も上半身を起こした。
「何だ?」
「お、俺、いま、凄く幸せで……」
「ん?」
「東京に出て来て行き場所も無い俺にこのマンションに住まわせてくれたり、仕事を世話してくれたり、感謝してもしたら無い」
(お別れの挨拶か……)
 英は悠の言葉に不安を募らせた。
「本当は自分で住まいを探すまでの約束だったのに、凄く過ごしやすくて探す事しなかった。そればかりか英さんの事凄く好きになって……」
「それは俺も同じだ。お前の素直で危なっかしい所から目が離せなくなっていた」
「お、俺、英さんが百才のお爺ちゃんになっても好きだし、動けなくなってもオムツ交換とかするし…」
「おいおい、俺が百才になったらお前もいい年齢だろうが」
「えっ?」
 英は悠の手を取るとベッドの引き寄せた。
「・・・あ……」
「嬉しいよ。そんな未来の事まで俺の事思ってくれていて….」
「・・・英さん」
「一緒にゆっくり歳を取ろう」
「は、はい」
 悠はベッドに入り、英の胸元に顔を埋めた。
「その前に俺の事『奨眞』って呼んで欲しいな」
「しょ、奨眞……さんですか」
「そうだ。もう恋人同士なんだから、いつまでも他人行儀の『英さん』はちょっとな……」
「しょ、奨眞さん……」
「悠……」
 英は悠を抱き締めると顔を上向かせキスを交わす。
「・・・は、英さん」
「・・・・」
(ま、いいか)
 二人の時間は長い。少し緊張している悠の身体を抱きしめ、首筋や胸元にキスの雨を降らすと、吐息が甘くなってもくるのを感じた。
「・・・悠……愛してる」
「お、俺も……」
 夜が深くなるにつれて二人の身体も深く繋がっていった。



                  完



[悠と英のお話は終わりです。いつかは樹也と麗央の事も書きたいな]
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