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幸せの場所
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「えええーーー、オーナーを殴った!」
「おまけに蹴飛ばしただと?」
「・・・は……い。グス……」
ここはホストクラブ『ダンディ・ライオン』の店長室だ。麗央と敦の前には薄着の悠が涙で真っ赤に腫らした目と、鼻水でグショグシャの顔で、敦が淹れてくれたホットミルクを飲んでいる。
「お前……良く殺され無かったな」
「・・・へ?」
店長でありながらもナンバーワンホストの麗央の所に若手のドアマンが、変な子供が来ていると知らせて来た。それが悠だった。とりあえず人目の付かない店長室に入れて、事情を聞いていたのだ。
「お、俺、ど、どうしたら……良いのかな? 嫌われちゃったかな?」
「大丈夫ですよ。オーナーは心の広い方ですから」
「来る物拒まず、去る者追わない主義だけどね」
「兄さん!」
「だけどどうしてここなんだよ」
「だ、だ、だって、光さん達やたっ君達はもう寝てるだろうし、な、な、何かあったら、来いって……」
涙で潤んだ目で麗央を見つめた。
(社交辞令だっつうの)
「お、俺、も、もう帰れない……」
「大丈夫。私が朝になったら電話してあげます」
「・・・英さんに?」
「うーん。とりあえず西脇さんにしてみます」
「・・・うん」
西脇に英の様子を聞いてみるのが良いだろうと判断したのだ。
「それまでは……」
「皿洗いしろ」
麗央は命令した。
「へ……?」
「兄さん?」
「店はハロウィンのイベントでお客も多く忙しいんだ。ここでグズグズ泣いているだけなら、少しでも店の手伝いをしてもらおう」
敦はそれが悠への配慮だと思った。ここで悩んでいるとネガティブな事ばかり考えてしまうだろう。それなら、忙しく働かせておく方が気が紛れると思ったのだろう、と。
「この店の食器類は高いからな。割るなよ」
「兄さん」
それでも敦はそれが兄なりの優しさだと感じた。店の洗い場につれて行き、洗い場の担当者に、
「こいつをこき使ってくれ」と、言った時は優しいと感じたのは間違いかと思った。
「よ、よろしくお願いします」
悠は頭を下げて、すぐさまシンクに溜まってるグラスや皿を洗う。
「手際良いね」
「ありがとうございます」
担当者に褒められて落ち込んでいた気持ちが少し楽になる。次から次へと運びこまれて来る食器を洗っていると、さっきまで落ち込んでいた気持ちが消えていた。
東の空がうっすら明るくなった来た頃、ようやく店は閉店となった。最後の食器類を洗い終え、洗い場を掃除してようやく悠の仕事は終わった。
「はぁ、疲れた……」
昨日から寝ていない事や、精神的な疲れと今の目の回る仕事で悠の身体はクタクタだ。
「今、西脇さんに電話を……おやおや」
西脇と連絡できた事を知らせに来た敦だったが、椅子にもたれてぐっすり寝ている悠の姿を見て、店長室のソファに運ぶと毛布を掛けてやる。
「ゆっくり休んで下さい」
一方敦から電話を受けた西脇はすぐさま隣りに駆け込んだ。
「奨眞!」
部屋に入ると英はリビングのソファに座って携帯を握っていた。
「お、起きてたのか……」
(それとも寝てないのか?)
西脇は後者だと感じた。敦から電話を受けた事を言わずに英に尋ねる。
「どうした? 何かあったのか」
「・・・悠が逃げ出した」
「逃げた? って何したんだよ」
英は渋々昨夜の事を話す。
(ああ、なるほどね)
何となく理解する西脇だ。
「連絡は?」
英は持っていた携帯をさしだす。また、持たずに出ていった様だ。
「で、探しには出ないのか」
「悠の行き先が検討付かない」
西脇ははぁ~と息を大きく吐いた。
「お前、仮にも恋人だろう。分からないのか?」
「分からない。恋人と言う者は行き先も把握してしてるものなのか?」
「だいたいわな。好みの食べ物や色、洋服、動物、映画とか諸々」
「・・・そうか」
「お前、反応薄いな! 大体本気で好きならもっと慌てろよ! それとも悠君も今までの相手と同じなのかよ」
「それは違う。悠は特別だ……」
英は好きになられる事が多く、自分から告白した事は無い。相手も次から次へと現れる。セックスも相手は準備万端で来るから悠の様な何も知らない相手は初めてで、そう言う意味では英も初めてなのだ。
「・・・お前、デートした事無いのか」
「デート? 相手の欲しい物は買ってやるし、食事も連れていったし……」
「違う! それはデートとは言わない」
「そうなのか?」
「そうだよ! デートとは二人っきりで出かける事だよ」
「光ちゃん?」
いつのまにか光が勝手に参戦して来た。
「遊園地とか、動物園とか、水族館とか……」
(子供かよ)
そんな所に行きたくないと、英は思った。
「温泉とか、夜景の綺麗な場所とか、ねぇ」
「う、うん」
そんな所に出かけていたのかと英は西脇の顔を見た。
「そうだ。ディズニーランドに行こうよ」
急に光か言い出した。
(何でディズニーランドなんだ)
と、英と西脇は同時に思った。
「奨君はさ、自分からデートなんて計画した事無いでしょう。直ぐに海外の三つ星ホテルとか、高級レストランとか選びそうじゃん。でも、悠君はそんな所は返って萎縮しちゃうと思うんだよね。だって悠君って庶民派じゃない」
「だからディズニーランドなのか」
「きっと喜ぶと思うんだよね」
(お前もな……)
しかしそれも一理あると思う英だった。
「光源氏装って悠の君を育てるなら、無駄だと思う事も必要だぜ」
「なるほど、分かった」
そう言うと英は立ち上がった。
「何処か出かけるのか?」
「悠を探しには行く」
何処に行ったか分からない悠を探そうと英は飛び出そうとしていた。
「あ、奨眞。さっき敦から連絡があって……」
「敦が? なんか揉め事か」
「いや。悠君を迎えに来て欲しいって……」
「悠が『ダンディ・ライオン』に?」
「らしいな」
「分かった」
微かに笑みと安堵の息を吐いて英は足早に出ていった。
「送って行った方が良いんじゃ無いか」
「そうですね……」
店仕舞いしてかれこれ一時間。自分達も早く帰って休みたいのだが、ぐっすり寝込んでいる悠をこのままにはしておかない。
ガチャリとドアの開く音がして誰かが店長室に入って来た。
「ボス!」
「!!」
「悠が世話になった」
(ボス自ら迎えに……)
「い、いえ、とんでも無いです」
英は軽々と悠を抱き上げると二人に礼を述べて出ていった。その姿を見送りながら、麗央は弟に分からない様に唇を噛んだ。
「兄さん。僕達も帰って休みましょう」
「・・・そうだな」
「おまけに蹴飛ばしただと?」
「・・・は……い。グス……」
ここはホストクラブ『ダンディ・ライオン』の店長室だ。麗央と敦の前には薄着の悠が涙で真っ赤に腫らした目と、鼻水でグショグシャの顔で、敦が淹れてくれたホットミルクを飲んでいる。
「お前……良く殺され無かったな」
「・・・へ?」
店長でありながらもナンバーワンホストの麗央の所に若手のドアマンが、変な子供が来ていると知らせて来た。それが悠だった。とりあえず人目の付かない店長室に入れて、事情を聞いていたのだ。
「お、俺、ど、どうしたら……良いのかな? 嫌われちゃったかな?」
「大丈夫ですよ。オーナーは心の広い方ですから」
「来る物拒まず、去る者追わない主義だけどね」
「兄さん!」
「だけどどうしてここなんだよ」
「だ、だ、だって、光さん達やたっ君達はもう寝てるだろうし、な、な、何かあったら、来いって……」
涙で潤んだ目で麗央を見つめた。
(社交辞令だっつうの)
「お、俺、も、もう帰れない……」
「大丈夫。私が朝になったら電話してあげます」
「・・・英さんに?」
「うーん。とりあえず西脇さんにしてみます」
「・・・うん」
西脇に英の様子を聞いてみるのが良いだろうと判断したのだ。
「それまでは……」
「皿洗いしろ」
麗央は命令した。
「へ……?」
「兄さん?」
「店はハロウィンのイベントでお客も多く忙しいんだ。ここでグズグズ泣いているだけなら、少しでも店の手伝いをしてもらおう」
敦はそれが悠への配慮だと思った。ここで悩んでいるとネガティブな事ばかり考えてしまうだろう。それなら、忙しく働かせておく方が気が紛れると思ったのだろう、と。
「この店の食器類は高いからな。割るなよ」
「兄さん」
それでも敦はそれが兄なりの優しさだと感じた。店の洗い場につれて行き、洗い場の担当者に、
「こいつをこき使ってくれ」と、言った時は優しいと感じたのは間違いかと思った。
「よ、よろしくお願いします」
悠は頭を下げて、すぐさまシンクに溜まってるグラスや皿を洗う。
「手際良いね」
「ありがとうございます」
担当者に褒められて落ち込んでいた気持ちが少し楽になる。次から次へと運びこまれて来る食器を洗っていると、さっきまで落ち込んでいた気持ちが消えていた。
東の空がうっすら明るくなった来た頃、ようやく店は閉店となった。最後の食器類を洗い終え、洗い場を掃除してようやく悠の仕事は終わった。
「はぁ、疲れた……」
昨日から寝ていない事や、精神的な疲れと今の目の回る仕事で悠の身体はクタクタだ。
「今、西脇さんに電話を……おやおや」
西脇と連絡できた事を知らせに来た敦だったが、椅子にもたれてぐっすり寝ている悠の姿を見て、店長室のソファに運ぶと毛布を掛けてやる。
「ゆっくり休んで下さい」
一方敦から電話を受けた西脇はすぐさま隣りに駆け込んだ。
「奨眞!」
部屋に入ると英はリビングのソファに座って携帯を握っていた。
「お、起きてたのか……」
(それとも寝てないのか?)
西脇は後者だと感じた。敦から電話を受けた事を言わずに英に尋ねる。
「どうした? 何かあったのか」
「・・・悠が逃げ出した」
「逃げた? って何したんだよ」
英は渋々昨夜の事を話す。
(ああ、なるほどね)
何となく理解する西脇だ。
「連絡は?」
英は持っていた携帯をさしだす。また、持たずに出ていった様だ。
「で、探しには出ないのか」
「悠の行き先が検討付かない」
西脇ははぁ~と息を大きく吐いた。
「お前、仮にも恋人だろう。分からないのか?」
「分からない。恋人と言う者は行き先も把握してしてるものなのか?」
「だいたいわな。好みの食べ物や色、洋服、動物、映画とか諸々」
「・・・そうか」
「お前、反応薄いな! 大体本気で好きならもっと慌てろよ! それとも悠君も今までの相手と同じなのかよ」
「それは違う。悠は特別だ……」
英は好きになられる事が多く、自分から告白した事は無い。相手も次から次へと現れる。セックスも相手は準備万端で来るから悠の様な何も知らない相手は初めてで、そう言う意味では英も初めてなのだ。
「・・・お前、デートした事無いのか」
「デート? 相手の欲しい物は買ってやるし、食事も連れていったし……」
「違う! それはデートとは言わない」
「そうなのか?」
「そうだよ! デートとは二人っきりで出かける事だよ」
「光ちゃん?」
いつのまにか光が勝手に参戦して来た。
「遊園地とか、動物園とか、水族館とか……」
(子供かよ)
そんな所に行きたくないと、英は思った。
「温泉とか、夜景の綺麗な場所とか、ねぇ」
「う、うん」
そんな所に出かけていたのかと英は西脇の顔を見た。
「そうだ。ディズニーランドに行こうよ」
急に光か言い出した。
(何でディズニーランドなんだ)
と、英と西脇は同時に思った。
「奨君はさ、自分からデートなんて計画した事無いでしょう。直ぐに海外の三つ星ホテルとか、高級レストランとか選びそうじゃん。でも、悠君はそんな所は返って萎縮しちゃうと思うんだよね。だって悠君って庶民派じゃない」
「だからディズニーランドなのか」
「きっと喜ぶと思うんだよね」
(お前もな……)
しかしそれも一理あると思う英だった。
「光源氏装って悠の君を育てるなら、無駄だと思う事も必要だぜ」
「なるほど、分かった」
そう言うと英は立ち上がった。
「何処か出かけるのか?」
「悠を探しには行く」
何処に行ったか分からない悠を探そうと英は飛び出そうとしていた。
「あ、奨眞。さっき敦から連絡があって……」
「敦が? なんか揉め事か」
「いや。悠君を迎えに来て欲しいって……」
「悠が『ダンディ・ライオン』に?」
「らしいな」
「分かった」
微かに笑みと安堵の息を吐いて英は足早に出ていった。
「送って行った方が良いんじゃ無いか」
「そうですね……」
店仕舞いしてかれこれ一時間。自分達も早く帰って休みたいのだが、ぐっすり寝込んでいる悠をこのままにはしておかない。
ガチャリとドアの開く音がして誰かが店長室に入って来た。
「ボス!」
「!!」
「悠が世話になった」
(ボス自ら迎えに……)
「い、いえ、とんでも無いです」
英は軽々と悠を抱き上げると二人に礼を述べて出ていった。その姿を見送りながら、麗央は弟に分からない様に唇を噛んだ。
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