幸せの場所

如月はるな

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幸せの場所

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「美味しい!」 
  今四人は光が褒めていたケーキを食べている。
「ここのパティシエはコンクールでグランプリを取った人だからね」
   そう、説明したのは麗央だ。
「そうなんですか。もう口の中で幸せが溢れてます」
「ふ。面白い表現だな」
   英と麗央はケーキは食べていない。英はコーヒーを麗央は紅茶を飲んでる。ケーキを頬張って居るのは悠と樹也だ。
「よく食べるな。五つ目だぞ」
「若いですから」 
   皮肉を込めた言葉だったのだが、あっさり返された。
「西園寺さんは体型を気にしてるんですか」
「はあ?」
「年取ると痩せにくくなりますからね。うん、悠君、これも美味しいよ」
(僕だってまだ、二十代だ)
   麗央は樹也を横目で睨みながら、心の中で反論する。それにしても、英の悠を見つめる目が気に入らない。
(優しすぎるんだよ……)
   まるで親が子供を見守るような優しい目なのだ。麗央が今まで見た事の無い表情なのだ。
(気にいらない……)

   光へのお土産のケーキは英に買って貰った。樹也もちゃっかりお土産として貰った。
「英さん。今日は色々とありがとうございました」
   樹也は英に向かって深々と頭を下げた。ケーキもそうだが、憧れの画家木村彰彦に会えた事、サインを貰った事、ついでに写真と撮った。感謝しても仕切れない程だ。
「悠、車に乗れ」
「えっ?  でも自転車で来たので……」
「ケーキを持って自転車か。ケーキが台無しになる」
   確かに自転車ではかなり揺れるからケーキが箱の中でグシャグシャになる可能性は高い。
「はい。お言葉に甘えてそうさせて頂きます」
   悠は素直に聞き入れ、自転車をトランクに入れる。
「麗央。お前は樹也君を送ってやれ」
「えーー? なんで僕が……」
「樹也君の家の方向だろう、送ってやれ」
「・・・」
   渋々麗央は自転車を積み入れる為にトランクを開けた。
「すいません。お世話になります」
   樹也は悪びれる事なく自転車をトランクに入れた。
   悠も英の車に乗ると樹也に手を振った。
「じゃあね。たっ君、またね」
「悠君、バイバイ」
   英の車が走り去るのを確認した、麗央の車に乗る。白い高級車だ。座席の座り心地もゆったりしている。
「自分で買ったんですか?  それとも英さんから」
「喋ってると舌噛むぞ」
「うわぁーー!」
   シートベルトをかける間も無くクルマは発進した。
(ったく、全く、何で俺が……)
   イライラ最高調の麗央に樹也が意地悪く話しかける。
「西園寺麗央って本名ですか?」
「!」
「芸名みたいな名前ですよね。本名かなぁと思って……」
「うるさい!」
   麗央は更に加速した。こんな奴は早く下ろすに限るとばかりにスピードを更に上がた。
   
「わぁーい、本当に買ってきてくれたんだね。ありがとう悠君!」
「あ、いえ、代金払ってくれたのは英さんですから」
「奨君、ありがとう!」
   お礼を言うが早いか、光のは箱を開けて中をのぞいている。
「僕はチョコ。薫ちゃんはレアチーズで良いよね」
「あ、今、お皿用意しますね」
   皆んなの前に皿とフォークを置く。
「いただきます」
   光はすでに食べ始めている。早い。
「う~ん、やっぱり美味しい!」
   この中では一番の年上なのに、子供の様に美味しそうに食べる姿に微笑ましくなる。
   黙って食べてる英に向かって悠は起こった出来事を聞いてみた。
「あの人達は一体何者なんですか?」
「やっぱり襲われたのか、奨眞」
   西脇がわかっていた事の様に言った。
「西脇さんはご存知のなのですか?」
「まあ、仕掛けてくるとは予想ついてたけどな」
「・・・」
   と、言う事は首謀者が誰なのかも知っているのだ。
「一体誰が……」
「一条華奈子だよ」
「!!!」
   一条華奈子と言えば英の先日の見合い相手ではないか。
「あの綺麗な人が?」
「?  知ってるのか」
「あ、いや、知りませんが、多分そうじゃないかと思って……あはは……」
   まさか英の車を見てホテルまで追っかけて行ったなんて言えない。
「姿は純情可憐なお嬢様風を装っていても、影では相当悪どい事をしてた様だ」
「・・・そうなんですか」
「俺が調べた所では、気に入らない相手や、対峙する相手にはチンピラを雇って脅したり、入院するほど痛めつけてたらしい」
   西脇がボソッと語った。
「じゃあ、先日お店に来た人達も……」
   光がケーキを頬張りながら質問してきた。
「ああ。あれも一条華奈子が雇ったチンピラだ」
   人は見掛けによらない。綺麗なバラには棘がある。悠は改めて人間の怖さを思い知る、でも、英の様に優しくて親切な人もいるのだと、英を見つめた。
「それより、悠」
「は、はい」
   急に英が隣の悠に強い視線を向けた。
「武器を持ってる相手に自転車ごと突っ込んでくるのは危ない行為だぞ」
「は、はい……英さんが危ないと思ったら勝手に身体が動いて……気をつけます」
「何々、奨君を襲った相手に自転車で突っ込んだの?」
「奨眞は空手五段、合気道三段の強者だぞ。そうそう負ける様な男じゃない」
「し、知らなかったので……あんなに強いなんて思ってもいませんでした。あっと言う間にやっつけてしまって……格好良かったです」
   睨む英に悠は尊敬と憧れの眼差しで返した。
「ったく……見た目によらず向こうみずな奴だ」
「き、気をつけます」
   シュンとした悠だが、またハタと思いついて英を見た。
「な、何だ……」
「英さんは身辺調査をしょっちゅうするんですか?」
「そうそう。奨眞は身近に置く奴を結構調査するぜ。」
「じゃあ、じゃあ、お、俺の事も調査を?」
   英と西脇はため息を吐いた。
「え?  ええ……な、なんですか?」
   西脇がボソッと話した。
「お前の場合はあまりにも田舎過ぎて調査は出来なかった」
    プププと光が笑った。
「な、な、何ですか、それ?」
「本当だから仕方ない」
   英の返答も素っ気ない。
「良いじゃないか。奨眞がそれでもお前を気に入って側に置いてるんだから。奨眞が気にいるなんて滅多に無いんだからさ」
「そう、そうなんですか?」
「・・・」
  英は答えない。答えないのが答えなのだろう。
「ケーキもう一つ食べても良いですか?」
「その為に買って来たんだ」
「僕も、僕も」
「光さん、もう三つ目ですよ」
「へへへ……」
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