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幸せの場所
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静かな時間が流れて行く。悠は休みの日は樹也と映画を観に行ったり、光達の部屋を確認しに行ったりしている。
「ええー、来なくて良いよ。ちゃんと綺麗にしてるよぉ~」
抵抗する光を押し切って部屋に入るとチェックする。抵抗するときに限って少し散らかっている。悠の抜き打ちチェックが怖いのか最近では、光も西脇も部屋を綺麗に掃除している様だ。
「真柴君、終わったかい?」
「はい、完了です」
トイレの個室をチェックして、掃除用具をしまうと清掃は終わりだ。トイレの前の清掃中の看板をしまおうとした時に、その青年が現れた。
「もう、入っても良いのかな?」
「は、はい、ど、どうぞ……」
「ありがとう」
青年はニコリと笑うと入って行く。悠は思わずその姿に見惚れてしまった。
悠は青年と会釈して出てきた石田に興奮して話しかけた。
「み、見ましたか、今の人?」
「あ、ああ、見たよ」
「男の人ですよね、ここは男子トイレだから」
「そうだろうな……」
「都会って凄いですね。あんな綺麗な男の人が存在するなんて……信じられません」
興奮状態で悠は石田に話しかける。
「あら、悠君。こんにちは」
「さ、小百合さん。お久しぶりです」
「あなた、島崎樹也君と親しいんですって?」
「はい。たっ君は友達です」
(たっ君・・・か……)
「今度、そのたっ君が描いた絵を展示するから、見に来なさいね」
「えっ? たっ君の絵を?」
「あの子才能あるのよ。コンクールで何度も賞を取ってるし、描きたい素材が見つかったって張り切っていたのよ」
「へぇ~、それは凄いですね。絶対見に来ます」
「じゃあ、仕事頑張ってね」
「はい。失礼します」
悠と石田は小百合に軽く会釈して次の点検場所に向かう。
「お知り合いなんですか?」
「あら、麗央《れお》君」
先程の男とは思えない美貌の男性が小百合に話しかけてきた。
「珍しいですね。小百合さんが清掃員と話をするなんて」
「あら、悠君は特別よ。あの子、弟の奨眞の所の居候なのよ」
「・・・奨眞さんの?」
「なんか気に入ってるみたいなの。それより欲しい絵画決まった」
「もう一度検討します。候補の絵をもう一度見せて頂けますか」
「分かったわ。どうぞ中へ」
麗央と呼ばられた青年は小百合の後に付いて事務所に入る前に振り向いて、悠の背中を見た。
「今日、客が来るから」
「はい・・・?」
休みの日曜日。家でパソコンを見ながら英はボソッと言った。それはお客さんに出すお茶の用意をしろと言う事なのか。邪魔だから外へ出ていろと言う事なのか。そんな事考えているとお客の来訪を伝えるチャイムが鳴った。
「は、はーい」
聞こえるわけはないのだが、思わず返事をしてしまう。
「いらっしゃい……ま…せ……」
「こんにちは」
にこやかに立っていたのは先日見かけた美青年だった。
「奨眞さんは居るかな?」
「は、はい、ど、どうぞ……」
英は美青年が来るとパソコンを畳み、ソファに座りなおした。
「早いな」
「一刻も早く会いたくて」
誰をも魅了してしまうであろう笑みを浮かべて、青年は優雅に英の向かいに腰を下ろした。
その姿に見惚れていた悠は、我に返ると台所に向かった。
(お茶、お茶……)
特別のカップに特別の茶葉を入れる。英はコーヒーより紅茶派なのだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
頭の下げ方も優雅だ。
「あと、俺が焼いたクッキーです」
デザート作りの大好きな野村房子に教えて貰ったクッキーを出した。
「美味いな」
「本当。大人の味だね」
「はい。ブランデーを入れてます」
にこやかに答えた悠の言葉に、英が反応した。
「・・・久しぶりに飲もうと思っていた酒が大分減っていたのはこのせいか?」
(ヤバッ!)
悠は黙って会釈すると静かにその場を去った。
「あ、俺、屋上の様子見て来るんで……」
早々と退散する。
悠が出て行くと、英は溜息を一つ吐いた。
「勝手に使っても怒らないんだね」
「勝手に飲まれたら怒るさ」
「お菓子は良いんだ」
麗央は怨みがましく呟いた。
「相談があるんじゃなかったのか?」
「相談ね……そう言わないと会ってくれないから」
「・・・お前とは終わってる」
この美しい青年とは以前は恋人関係だった。自分の美貌を武器に英に近づいて来た。麗央は英の愛情を得る為にさらに美貌を磨き上げた。その麗央のやる気に『ダンディライオン』と言うホストクラブの店長にした。
「あの子はずっとここに置いておくの?」
「・・・お金が貯まったら出て行くだろう」
「マンション買ってあげれば良いんじゃない」
「・・・お前と価値観が違う。マンションを買って貰う位なら、あいつは路上生活を選ぶだろうよ」
「ふぅ~ん……。そんなに違うのかな?」
「あいつは……一円の重みを知ってる」
「一円? なにそれ?」
英は黙った。
悠は高給取りではない。祖父母のお墓を建てようと貯蓄をしている。その中で食材は自分でやりくりしながら出している。足らない時にと引き出しに常に十万入れてあるが、使った様子はない。高級食材を食べる時は光や西脇がたまに出しているようだが、屋上に野菜の苗を植えたりと節約している。お金が無いなら無いなりに悠は生活を楽しんでいる。一円足りないだけで物は買えない。悠はそれを知っているのだ。
「ま、良いや。それより今度お店に来てよ。ちょっと内装変えて見たんだ」
「そうだな。俺の方針通りにやっているか確認しに行ってみよう」
「厳しいな、奨眞さんは」
蠱惑的笑みを浮かべて、麗央は英に顔を近づけキスしてみる。英は表彰は変えない。
「じゃあ、またね」
部屋を出ると笑みは消え、屋上から野菜を抱えて降りて来た悠と光をきつい眼差しで見た。
「あ、もう、お帰りですか?」
「クッキー美味しかったよ」
営業用の笑みを浮かべて、エレベーターに乗り込んだ。
「今の人・・・」
「あ、英さんのお客さんです。男でもあんなに綺麗な人っているんですね。ビックリです」
「・・・あの人は元恋人だよ」
「は?」
「奨君と付き合ってた麗央君だ。何でここに?」
「・・・用事あったのではないんですか?」
「ふうん。あの子、顔は綺麗だけどなんか計算高くてあまり好きじゃない」
「・・・・」
(英さんは面食いだな・・・)
「野菜沢山取れて良かったですね。麻婆ナスなんでどうですか?」
「ナスの天ぷらも良いな」
二人は取ってきた野菜の調理を相談しながら部屋に入って行く。
「ええー、来なくて良いよ。ちゃんと綺麗にしてるよぉ~」
抵抗する光を押し切って部屋に入るとチェックする。抵抗するときに限って少し散らかっている。悠の抜き打ちチェックが怖いのか最近では、光も西脇も部屋を綺麗に掃除している様だ。
「真柴君、終わったかい?」
「はい、完了です」
トイレの個室をチェックして、掃除用具をしまうと清掃は終わりだ。トイレの前の清掃中の看板をしまおうとした時に、その青年が現れた。
「もう、入っても良いのかな?」
「は、はい、ど、どうぞ……」
「ありがとう」
青年はニコリと笑うと入って行く。悠は思わずその姿に見惚れてしまった。
悠は青年と会釈して出てきた石田に興奮して話しかけた。
「み、見ましたか、今の人?」
「あ、ああ、見たよ」
「男の人ですよね、ここは男子トイレだから」
「そうだろうな……」
「都会って凄いですね。あんな綺麗な男の人が存在するなんて……信じられません」
興奮状態で悠は石田に話しかける。
「あら、悠君。こんにちは」
「さ、小百合さん。お久しぶりです」
「あなた、島崎樹也君と親しいんですって?」
「はい。たっ君は友達です」
(たっ君・・・か……)
「今度、そのたっ君が描いた絵を展示するから、見に来なさいね」
「えっ? たっ君の絵を?」
「あの子才能あるのよ。コンクールで何度も賞を取ってるし、描きたい素材が見つかったって張り切っていたのよ」
「へぇ~、それは凄いですね。絶対見に来ます」
「じゃあ、仕事頑張ってね」
「はい。失礼します」
悠と石田は小百合に軽く会釈して次の点検場所に向かう。
「お知り合いなんですか?」
「あら、麗央《れお》君」
先程の男とは思えない美貌の男性が小百合に話しかけてきた。
「珍しいですね。小百合さんが清掃員と話をするなんて」
「あら、悠君は特別よ。あの子、弟の奨眞の所の居候なのよ」
「・・・奨眞さんの?」
「なんか気に入ってるみたいなの。それより欲しい絵画決まった」
「もう一度検討します。候補の絵をもう一度見せて頂けますか」
「分かったわ。どうぞ中へ」
麗央と呼ばられた青年は小百合の後に付いて事務所に入る前に振り向いて、悠の背中を見た。
「今日、客が来るから」
「はい・・・?」
休みの日曜日。家でパソコンを見ながら英はボソッと言った。それはお客さんに出すお茶の用意をしろと言う事なのか。邪魔だから外へ出ていろと言う事なのか。そんな事考えているとお客の来訪を伝えるチャイムが鳴った。
「は、はーい」
聞こえるわけはないのだが、思わず返事をしてしまう。
「いらっしゃい……ま…せ……」
「こんにちは」
にこやかに立っていたのは先日見かけた美青年だった。
「奨眞さんは居るかな?」
「は、はい、ど、どうぞ……」
英は美青年が来るとパソコンを畳み、ソファに座りなおした。
「早いな」
「一刻も早く会いたくて」
誰をも魅了してしまうであろう笑みを浮かべて、青年は優雅に英の向かいに腰を下ろした。
その姿に見惚れていた悠は、我に返ると台所に向かった。
(お茶、お茶……)
特別のカップに特別の茶葉を入れる。英はコーヒーより紅茶派なのだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
頭の下げ方も優雅だ。
「あと、俺が焼いたクッキーです」
デザート作りの大好きな野村房子に教えて貰ったクッキーを出した。
「美味いな」
「本当。大人の味だね」
「はい。ブランデーを入れてます」
にこやかに答えた悠の言葉に、英が反応した。
「・・・久しぶりに飲もうと思っていた酒が大分減っていたのはこのせいか?」
(ヤバッ!)
悠は黙って会釈すると静かにその場を去った。
「あ、俺、屋上の様子見て来るんで……」
早々と退散する。
悠が出て行くと、英は溜息を一つ吐いた。
「勝手に使っても怒らないんだね」
「勝手に飲まれたら怒るさ」
「お菓子は良いんだ」
麗央は怨みがましく呟いた。
「相談があるんじゃなかったのか?」
「相談ね……そう言わないと会ってくれないから」
「・・・お前とは終わってる」
この美しい青年とは以前は恋人関係だった。自分の美貌を武器に英に近づいて来た。麗央は英の愛情を得る為にさらに美貌を磨き上げた。その麗央のやる気に『ダンディライオン』と言うホストクラブの店長にした。
「あの子はずっとここに置いておくの?」
「・・・お金が貯まったら出て行くだろう」
「マンション買ってあげれば良いんじゃない」
「・・・お前と価値観が違う。マンションを買って貰う位なら、あいつは路上生活を選ぶだろうよ」
「ふぅ~ん……。そんなに違うのかな?」
「あいつは……一円の重みを知ってる」
「一円? なにそれ?」
英は黙った。
悠は高給取りではない。祖父母のお墓を建てようと貯蓄をしている。その中で食材は自分でやりくりしながら出している。足らない時にと引き出しに常に十万入れてあるが、使った様子はない。高級食材を食べる時は光や西脇がたまに出しているようだが、屋上に野菜の苗を植えたりと節約している。お金が無いなら無いなりに悠は生活を楽しんでいる。一円足りないだけで物は買えない。悠はそれを知っているのだ。
「ま、良いや。それより今度お店に来てよ。ちょっと内装変えて見たんだ」
「そうだな。俺の方針通りにやっているか確認しに行ってみよう」
「厳しいな、奨眞さんは」
蠱惑的笑みを浮かべて、麗央は英に顔を近づけキスしてみる。英は表彰は変えない。
「じゃあ、またね」
部屋を出ると笑みは消え、屋上から野菜を抱えて降りて来た悠と光をきつい眼差しで見た。
「あ、もう、お帰りですか?」
「クッキー美味しかったよ」
営業用の笑みを浮かべて、エレベーターに乗り込んだ。
「今の人・・・」
「あ、英さんのお客さんです。男でもあんなに綺麗な人っているんですね。ビックリです」
「・・・あの人は元恋人だよ」
「は?」
「奨君と付き合ってた麗央君だ。何でここに?」
「・・・用事あったのではないんですか?」
「ふうん。あの子、顔は綺麗だけどなんか計算高くてあまり好きじゃない」
「・・・・」
(英さんは面食いだな・・・)
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