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幸せの場所
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今日は島崎花梨と顔を合わせる事は無く、午前の仕事を終えた。
「こんにちわ……」
休憩室に恐る恐る入って来たのは花梨の弟だった。
「あっ……」
「あら」
悠と町田さんが振り返って見た。少年は悠の近くまで来た。
「昨日は姉が失礼な事をして申し訳ありませんでした」
「あ、あら、良いのよ。ねぇ……」
昨日は結構憤慨していた町田さんも、改まって謝りに来られると文句は言えない。
「これ良かったら。昨日のお詫びです」
「あらぁー、悪いわね」
紙袋には有名菓子店の名前が・・・。
「ありがとう」
「いえ。母からですので」
「そう。お母さんにありがとうございますって伝えて下さい。出会えばその時もお礼言いたいな」
「俺、島崎樹也“たつや”っていいます」
「俺は真柴悠です。よろしく」
「ましば……良い名前ですね」
「樹也君も格好いい名前だね」
「それ、筍ご飯ですか?」
悠が食べていた筍ご飯のおにぎりを目ざとく見つける。
「うん。田舎から筍大量に送ってきたから……一個食べる? 俺が作ったから味の保証は出来ないけど」
「そうですか。では、遠慮なく」
樹也はおにぎりを一つ取ると、パクリと食べた。
「うん、美味しいですよ。悠君」
「そう? 良かった」
(悠君か。なんかこそばゆい……)
「樹也君はいくつ? 高校生?」
「一年です。悠君はいくつなんですか?」
「俺? 二十一。若く見られるけどね」
「俺と同い年くらいに見えます」
「ハハハ・・・」
二度目とは思えないほど、二人は意気投合した。話が尽きない。
「へぇー、そうなんだ。一度悠君の家に遊びに行きたいな」
「うーん、招待したいけど、居候中だからな……」
「先輩の伊丹さんちゃんととか」
「ううん。英さんのところ」
「・・・英って・・・」
「そう。この服も靴も携帯も英さんに買って貰って……。田舎なら着替えなんて三枚あれば足りたんだけど、都会って大変だね」
樹也は一瞬英の愛人・・・いや、恋人かと思ったが違うようだ。三階の英の姉の画廊で何回か、恋人連れの英を見た事あるが、その恋人達から比べると大分面持ちが違う。年上だが、可愛い。
「あっ、もう時間だ。今日はありがとう」
他のメンバーも仕事に出る前にお礼を言って休憩室を出て行く。その後ろ姿を見送りながら、もっと親しくなりたいなと樹也は思った。
それからは時間が許す限り、樹也は『HAKU・クリーニング』の元に顔を出した。お陰でおばさん軍団からも人気だ。おばさんは若くてイケメンに弱い。
「たっ君は、クラブとかに入ってないの?」
「入ってますよ。美術部。だから、『ゆり画廊』には良く行きます」
「以外。スポーツ系かと思った」
「上下関係に縛られるのすきじゃないんで。妹はスポーツクライミング部に入ってます。握力半端ないですよ」
「へぇー、妹さん居るんだ。可愛いんだろうね」
「まあ、俺んちの家系は美男美女なんで」
「あははは」
楽しそうに悠は笑った。家族がいるっていいなと、思った。
「ふふふんふん」
家で仕事をしていた英はパソコンを睨みながら、時折鼻歌を歌いながら夕食作りをしている悠を見た。
「楽しそうだな」
「友達が出来たみたいだよ」
「友達?」
夕食前だというのに、光はカップケーキを食べている。
「そう。樹也君って言うんだって。あの花梨の弟だって」
「花梨?」
英は記憶を辿る。以前、告白して来て振った女だと分かった。
(そう言えば、クレームとか、ちょっとしたイヤガラセをしてくると言っていたな。執念深い女だ)
「なんかされたのか?」
「えっ?」
(鋭い……)
「唐揚げ上がりました。試食お願いします」
揚がったばかりの唐揚げが、英と光の前に置かれた。
「わあああー、美味しそう!」
光は一つ口に放り込む。
「うん、凄く美味しい!」
「・・・そうだな」
「生姜とニンニクを足してスパイシーにしてみました」
「美味しいよ。悠君天才」
「ハハハ・・・」
おばさん軍団の一人、町田さんに教えてもらったのだが・・・秘密にしておこうと思った。
「職場ばどうだ」
「うん? 楽しいよ。皆んな親切で優しい」
「友達出来たと言ってた」
「えっ? たっ君の事」
(たっ君?)
「たっ君て凄く話しやすいんだ。弟が出来たみたいで嬉しいんだ」
「・・・そうか」
英は複雑な気持ちだった。それがどっちの気持ちなのか分からない。
「おっ、美味そうな匂いだな」
西脇は帰ってくるなり、英に近寄りなんらかの資料を手渡す。そして何事か囁いた。英は小声で「そうか」と、軽く頷いて見せた。
「何々、何の話し?」
「仕事上だ。それより腹減ったな」
「ああー、誤魔化した」
「誤魔化して無い」
言い争っているのか、じゃれているのか分からない。
「はーい、今夜は唐揚げです」
「あー、良いね、俺は大盛りで頼む」
英もパソコンを閉じ、食卓に着いた。
昼食を終え、午後の仕事はトイレ清掃から始める。
「あれぇ……」
ネイルサロンの『HARUKA』の前には派手な服装をした一団が・・・。
「あれ……? 英さん?」
一団は英と『ゴールデン・ローズ』の華やかな女性達だった。
「あら、美味しい焼きそばを作ってくれた子じゃない」
「こ、こんにちは………」
「君が居たら良かったのに。昨夜はあのまずい焼きそば食べる羽目になって……」
「ははは………」
「今日はステキなネイルをしてくれるお店があるからって連れて来てもらったの」
英以外の三人の美女が嬉しそうに笑った。悠にしてみればあんなゴテゴテした爪は邪魔にしか見えない。
「それでは、失礼します」
「ああ」
「頑張ってねー」
美女三人に手を振られ、周りから好奇な目で見られ恥ずかしい。悠の足は自然に早くなる。
「凄いな。あんな美女達に毎日囲まれてたら、自然と付き合う相手の質も高くなるよな」
同じチームの石田さんが羨ましそうに言う。
「分相応が一番だと思いますけど」
「そうだな。爪にお金使われるのも困るしな」
(光さん、まだお店で厨房に入ってるのか)
何の為にバイトしてるのか分からないが、夕食の後西脇に連れて行って貰ってるのか、自分で行っているのか。
(あの運転ではいつか事故るよな)
「よし、次行くぞ」
「はい」
「こんにちわ……」
休憩室に恐る恐る入って来たのは花梨の弟だった。
「あっ……」
「あら」
悠と町田さんが振り返って見た。少年は悠の近くまで来た。
「昨日は姉が失礼な事をして申し訳ありませんでした」
「あ、あら、良いのよ。ねぇ……」
昨日は結構憤慨していた町田さんも、改まって謝りに来られると文句は言えない。
「これ良かったら。昨日のお詫びです」
「あらぁー、悪いわね」
紙袋には有名菓子店の名前が・・・。
「ありがとう」
「いえ。母からですので」
「そう。お母さんにありがとうございますって伝えて下さい。出会えばその時もお礼言いたいな」
「俺、島崎樹也“たつや”っていいます」
「俺は真柴悠です。よろしく」
「ましば……良い名前ですね」
「樹也君も格好いい名前だね」
「それ、筍ご飯ですか?」
悠が食べていた筍ご飯のおにぎりを目ざとく見つける。
「うん。田舎から筍大量に送ってきたから……一個食べる? 俺が作ったから味の保証は出来ないけど」
「そうですか。では、遠慮なく」
樹也はおにぎりを一つ取ると、パクリと食べた。
「うん、美味しいですよ。悠君」
「そう? 良かった」
(悠君か。なんかこそばゆい……)
「樹也君はいくつ? 高校生?」
「一年です。悠君はいくつなんですか?」
「俺? 二十一。若く見られるけどね」
「俺と同い年くらいに見えます」
「ハハハ・・・」
二度目とは思えないほど、二人は意気投合した。話が尽きない。
「へぇー、そうなんだ。一度悠君の家に遊びに行きたいな」
「うーん、招待したいけど、居候中だからな……」
「先輩の伊丹さんちゃんととか」
「ううん。英さんのところ」
「・・・英って・・・」
「そう。この服も靴も携帯も英さんに買って貰って……。田舎なら着替えなんて三枚あれば足りたんだけど、都会って大変だね」
樹也は一瞬英の愛人・・・いや、恋人かと思ったが違うようだ。三階の英の姉の画廊で何回か、恋人連れの英を見た事あるが、その恋人達から比べると大分面持ちが違う。年上だが、可愛い。
「あっ、もう時間だ。今日はありがとう」
他のメンバーも仕事に出る前にお礼を言って休憩室を出て行く。その後ろ姿を見送りながら、もっと親しくなりたいなと樹也は思った。
それからは時間が許す限り、樹也は『HAKU・クリーニング』の元に顔を出した。お陰でおばさん軍団からも人気だ。おばさんは若くてイケメンに弱い。
「たっ君は、クラブとかに入ってないの?」
「入ってますよ。美術部。だから、『ゆり画廊』には良く行きます」
「以外。スポーツ系かと思った」
「上下関係に縛られるのすきじゃないんで。妹はスポーツクライミング部に入ってます。握力半端ないですよ」
「へぇー、妹さん居るんだ。可愛いんだろうね」
「まあ、俺んちの家系は美男美女なんで」
「あははは」
楽しそうに悠は笑った。家族がいるっていいなと、思った。
「ふふふんふん」
家で仕事をしていた英はパソコンを睨みながら、時折鼻歌を歌いながら夕食作りをしている悠を見た。
「楽しそうだな」
「友達が出来たみたいだよ」
「友達?」
夕食前だというのに、光はカップケーキを食べている。
「そう。樹也君って言うんだって。あの花梨の弟だって」
「花梨?」
英は記憶を辿る。以前、告白して来て振った女だと分かった。
(そう言えば、クレームとか、ちょっとしたイヤガラセをしてくると言っていたな。執念深い女だ)
「なんかされたのか?」
「えっ?」
(鋭い……)
「唐揚げ上がりました。試食お願いします」
揚がったばかりの唐揚げが、英と光の前に置かれた。
「わあああー、美味しそう!」
光は一つ口に放り込む。
「うん、凄く美味しい!」
「・・・そうだな」
「生姜とニンニクを足してスパイシーにしてみました」
「美味しいよ。悠君天才」
「ハハハ・・・」
おばさん軍団の一人、町田さんに教えてもらったのだが・・・秘密にしておこうと思った。
「職場ばどうだ」
「うん? 楽しいよ。皆んな親切で優しい」
「友達出来たと言ってた」
「えっ? たっ君の事」
(たっ君?)
「たっ君て凄く話しやすいんだ。弟が出来たみたいで嬉しいんだ」
「・・・そうか」
英は複雑な気持ちだった。それがどっちの気持ちなのか分からない。
「おっ、美味そうな匂いだな」
西脇は帰ってくるなり、英に近寄りなんらかの資料を手渡す。そして何事か囁いた。英は小声で「そうか」と、軽く頷いて見せた。
「何々、何の話し?」
「仕事上だ。それより腹減ったな」
「ああー、誤魔化した」
「誤魔化して無い」
言い争っているのか、じゃれているのか分からない。
「はーい、今夜は唐揚げです」
「あー、良いね、俺は大盛りで頼む」
英もパソコンを閉じ、食卓に着いた。
昼食を終え、午後の仕事はトイレ清掃から始める。
「あれぇ……」
ネイルサロンの『HARUKA』の前には派手な服装をした一団が・・・。
「あれ……? 英さん?」
一団は英と『ゴールデン・ローズ』の華やかな女性達だった。
「あら、美味しい焼きそばを作ってくれた子じゃない」
「こ、こんにちは………」
「君が居たら良かったのに。昨夜はあのまずい焼きそば食べる羽目になって……」
「ははは………」
「今日はステキなネイルをしてくれるお店があるからって連れて来てもらったの」
英以外の三人の美女が嬉しそうに笑った。悠にしてみればあんなゴテゴテした爪は邪魔にしか見えない。
「それでは、失礼します」
「ああ」
「頑張ってねー」
美女三人に手を振られ、周りから好奇な目で見られ恥ずかしい。悠の足は自然に早くなる。
「凄いな。あんな美女達に毎日囲まれてたら、自然と付き合う相手の質も高くなるよな」
同じチームの石田さんが羨ましそうに言う。
「分相応が一番だと思いますけど」
「そうだな。爪にお金使われるのも困るしな」
(光さん、まだお店で厨房に入ってるのか)
何の為にバイトしてるのか分からないが、夕食の後西脇に連れて行って貰ってるのか、自分で行っているのか。
(あの運転ではいつか事故るよな)
「よし、次行くぞ」
「はい」
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