幸せの場所

如月はるな

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幸せの場所

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「真柴君、電球の交換お願いするわ」
「はい、分かりました」
   オフィスビルの明かりは高い所にあり、蛍光灯とは違い埋め込み式になっている。ドライバーでネジを外しカバーを外して交換するのだ。長い脚立を用意して一番上に登る。不安定なので町田さんが抑える。しかし、場所が悪かった。ネイルサロン『Haruka』の正面だった。昼休み休憩中にやってしまおうと思ったのだが、昼食を早く終えたネイリストの人達が戻って来た。その中に福店長の島崎花梨の姿もある。
   おばさん軍団の話によると、島崎花梨は英さんに一目惚れしたらしい。自分は美人だと言う自負もあったのだが、にべもなく断られてしまったらしい。その日から英さんと懇意にしていると『HAKU・クリーニング』の社員を見かけるとクレームを言ったり、イジワルをして来るらしい。案の定、花梨は店の前の脚立を見て眦を“まなじり”を吊り上げ、脚立を思い切り蹴った。
「わあああー」
   脚立が左右に揺れる。年老いた町田さんでは支えきれない。
(お、落ちる!)
   悠は脚立にしがみついた。
「危ない!」
   その時、高校生らしき少年がガシッと脚立を支えてくれた。
「ほぉ~、た、助かった・・・」
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう、大丈夫……」
   カバーのビスを拾って手渡してくれた。悠は受け取ると素早く締める。
「ふん」
   花梨はそれを見届けると何事も無かったかの様に店に入ろうとする。
「おい、待てよ、花梨」
「・・・何よ」
「謝れよ。自分のした事分かってるのか。一歩間違えれば大事故になったんだぞ」
「店の真ん前で脚立なんか立ててるからよ。邪魔なのが分からないの」
「す、すいません。直ぐ片付けますので……」
「違うだろう。こちらの方は仕事で切れた電球を交換していたんだ。店の前が暗かったら嫌だろう」
「だったら暇な時にしてよ」
「そうしてただろう。皆んな昼休み中に」
   二人の言い争いを聞いて店長が出て来た。
「ど、どうしたの、店の前で大声出して……」
「ふん」
   花梨は店長が出てくるとさっさと店内に入ってしまった。
「何?  どうしたの?」
「全く……。お怪我は無いですか」
「ありがとうございます。何とも無いです。それよりご迷惑をかけてしまってすいません」
「あなたは悪く無いです。悪いのは姉の花梨なんだから」
(姉弟だったのか。似てないけど・・・)
「ごめんなさい。なんかこちらが迷惑かけたみたいで……」
「いえ。作業も終わりましたので、失礼します」
   悠はペコリと頭を下げて、脚立をたたんだ。
「大丈夫、真柴君」
「ええ」
   悠と町田さんが話をしながら去って行く。
(ましば………)
   店長はその名前を聞いて、立ち去る悠の後ろ姿を見た。
「どうしたの、母さん」
「えっ、ううん、何でも……」
   それでも気になり、再度悠の後ろ姿を見た。

「本当に酷い女よね」
   町田さんは怒りが収まらないのか、昼休みに皆んなに先ほどの出来事を話している。
「まあまあ、町田さん。何事も無かったのだから」
「でもね、今後あの女とは顔を付き合わせる機会もあるのよ」
「本当、嫌な女よね」
「で、その助けてくれた若者は何者なの?」
「弟さんみたいです」
「まあ、すると腹違いの弟と言うわけね」
「腹違い?」
「そう。あの女の母親は亡くなって、再婚したのよ。その再婚相手がサロンの店長」
「店長は良い人よね。その息子は母親似ね」
   おばさん軍団の話は尽きない。悠は自前の弁当を、話を聞きながら食べる。
(おばさんの情報は凄いな)
   呆れと言うよりは、その情報収集に感心してしまう。
「で、その少年はイケメンなの」
「それが良い男なのよ」
「きゃー、見てみたい」 
(立ち直りも早い)
   改めておばさんパワーの凄さを感じる。

   仕事を終え、マンションに戻ると、警備員に呼び止められた。
「真柴さん。宅配預かってますよ」
「宅配……ですか?」
   誰からだろうと首をひねりながら警備室に行くと、大きなダンボールが二つ。
「えーーっ!」
「重いですよ。一つは私が運びますね」
「す、すいません」
   恐縮しながら部屋の前まで運んでもらう。名前を確認すると田舎の友達からだった。
(そう言えば、携帯買って貰って嬉しくて友達に掛けたんだっけ・・・)
   その時に住所も教えた。箱の開けると、中はほとんど野菜だった。食べるのに困らない様にと送った。と、中に入っていた手紙に書いてあった。
   嬉しい反面、この量をどうしようかと悩む。
「筍に、新玉ねぎ、新ジャガイモ、ごぼう、人参、山菜もある。
「タラの芽だ。天ぷらにしよう」
   そう考えていると背後から声がした。
「わあ~、凄い量の野菜だね」
「えっ、あ、光さん」
「今夜は筍ご飯とか?」
「う~ん、筍好きですか?」
「好き好き。筍ご飯大好き!」
   と、言う訳で二人は筍の皮を剥く。
「わぁー、皮むくと筍小さい」
「ははは……」
   筍は皮の方が多いかも知れない。今夜は筍ご飯に、筍の味噌汁に、筍のおひたし、筍尽くしだ。タラの芽も天ぷらにした。故郷の味はやっぱり美味しい。
「今日は肉が無いな。野菜ばかりだ」
「何?   薫ちゃんは不満なの?」
「すいません、田舎から大量に野菜が届いて来たので……」
   悠は恐縮して謝る。
「俺は好きだ。美味いし」
「そうだよ。作って貰って文句は言わない!」
「文句じゃ無い。俺だって筍ご飯は好きだ」
「タラの芽なんて初めて食べた」
「良かったです。明日は唐揚げの予定です」
「わーい、唐揚げ大好き!」
「肉好きなんじゃないか……」
「なにか言った?」
   会話は弾み、今日も良い一日だったと思う悠だった。
「何か困った事は無かったか?」
   英に問われ、脳裏の片隅に花梨の事が浮かんだが、悠はそれを振り払うと首を振った。
「皆んな親切で、トラブルは無かったです」
   楽しい雰囲気を壊したくない。悠は小さな嘘をついた。
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