幸せの場所

如月はるな

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幸せの場所

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「ヤバイ!」
   慌てて起き上がった途端に、頭にグワンと痛みが走る。
「イタタタ………お酒飲むとこうなるんだよな」
   顔を洗うと少しはスッキリした。
(今日がまだ出勤前の日で良かった)
   出勤は明日からだ。
(今朝は悪いけど軽いものにしよう)
   しばらくして頭を抱えた光がやってきた。
「おはようございます、光さん」
「・・・」
「?   大丈夫ですか?」
「話すと頭に響く………。今朝は何?」
「俺も頭ちょっと痛くて……簡単なフレンチトーストにしました」
「わあー、美味しそう・・・イテテ」
「座って下さい。もうすぐ焼き上がりますから」
「う、うん」
   甘い美味しそうな匂いがキッチンに広がる。
「美味そうな匂いだな」
   西脇も入ってきた。西脇は飲んでないので元気そのものだ。
「悠は二日酔い大丈夫か?  凄く酒には弱い見たいだったけど」
「ハハハ……何とか」
   西脇が皿を並べる。その上に焼いたフレンチトーストを置いて行く。光はその上にホイップクリームを乗せている。
「太るぞ」
「大丈夫だもん」
   二日酔いで頭が痛いのも忘れてぱくついている。
「何だ、起きられたのか」
「あ、おはようございます」
   裸にガウンの何時もの姿で英が部屋から出てきた。
「今朝はパンか」
「フレンチトーストです。英さんは何時ものパンですか、それとも……」
「俺もそれを貰おうか」
「はい!」

   朝食の後、悠と光は屋上にいた。
「うわぁ、緑がいっぱい!」
「奨君は温暖化にも気をつけてるんだよ。だから、屋上は誰でも植物植えて良いんだけど・・・」
「そう言えば光さんは園芸部でしたよね」
「そう。ここに植わってる花はほとんど僕と薫ちゃんで植えたんだ」
(薫ちゃんが、花を・・・)
   似合わない。吹き出しそうになる口元を慌てて手で押さえる。
「野菜とかも良いですかね」
「野菜?」
「茄子とか、きゅうりとか、オクラとか」
「良いね!  やろうやろう!」
   田舎で小さな畑だが食材の足しにと育て易い野菜を作っていた。
「何作る?」
   光はすぐ乗ってきた。苗や種を買いにホームセンターに光の車で行くことになった。
「光さん、車あったんですね」
   西脇の駐車スペースの隣に国産車が停めてあった。国産車とは言え、高級車だ。
「うん。薫ちゃんは嫌がってたけど、いつも薫ちゃんと一緒とはいかないから、渋々だけど買って貰った。さあ、行くよ」
   乗って悠は後悔した。急発進、急ハンドル、おまけに結構スピードも出す。
「あ、危ないですよ」
   ぶつかりそうになって、急ブレーキ。
「ひ、光さんは、免許持ってますよね」
「当たり前じゃん。一発オーケーさ」
(ほ、本当かな?)
   光の隣に乗っていると命が縮む思いをして、ホームセンターに着いた。運転してる光よりも疲れた足取りで悠は車を降りた。
「大丈夫?  悠君」
「は、はい。何とか……」
   いくつかの苗と種、培養土と鉢を買った。帰りは悠が運転すると頼み込んだ。光と違って都会の道路は不慣れなので、超超安全運転で戻る事になったのだが、隣で「遅い」「安全運転すぎる」と、言われ続けた。

「何で赤飯なんだ?」
   夕飯は赤飯を炊いた。
「エヘヘ。明日から働きに行くので、お祝いで赤飯にしました」
「お祝い・・・鯛の煮付け」
「お赤飯なんて久しぶり。美味しい!」
   四人で食事をするのも慣れた。祖父母が死んでからはいつも一人だった。怪しい関係の西脇と光の様子を見ながら、黙々と食べる英を眺めながら食事するのは楽しい。
(早く仕事覚えて、お金貯めて、アパート見つけないと・・・)
   世話になるのも心苦しいが、ここを出て行くことを考えるともっと寂しいと感じてしまう悠がいた。

「ジャーン」
   出勤前に悠は英に買って貰った服を着て、光と西脇に着てみせた。
「わー、似合ってる」
「さすが、奨眞の見立てだ」
「じゃあ、俺出かけるんで、食器はシンクに入れておいて下さい」
「場所わかる」
「大丈夫。検証済みです。では、行ってきます」
「おう。後で会おう」
   最近は悠の朝食を食べに早く起きるので、清掃の為の鍵開けには遅刻してない。
「はい。では……」
   ドアを開けて外へ出ようとして呼び止められる。
「悠」
「は、はい・・・」
   振り返ると、英が近寄って来た。
「英さん。おはようございます」
「うん。これを持っていけ」
   そう言って差し出したのはカードキーと数枚の一万円札だった。
「いえ、お金は………」
「不足の事態が起こらないとも限らない。万が一のために持っておけ。帰って来た時誰かいるとは限らないから鍵も持っていけ」
   無愛想だけど、口数少ないけど、本当は気配りが行き届いた優しい人なんだと、改めて知る。
「はい。ありがとうございます。行ってきます」
「うん」

   悠は新品の自転車にまたがり、新しい職場に向かって走り出す。勤め先までの道順は自転車の乗り心地も確かめる為に何度か行き来した。
(サイコー!)
   田舎と違い、道路も整備されてるから走りはスムーズだ。ちょっと車は多いけど。時間にして二十分弱。
事務所で社員証と制服を貰った。ロッカーで着替えると先日あった橋本リーダーの班に編入される事になった。
「本日からよろしくお願いします」
「本当に来てくれたんだね。よろしく」
  出かける前のミーティングで、おばさま軍団と挨拶し、今日の仕事の打ち合わせをする。
   マイクロバスに乗り込むと、一斉におばさま軍団の質問ぜめに会う。
「あなた、英さんとどういう関係?」
「えっ?   住む所が見つかるまで英さんの部屋に間借りを……」
「やっぱり、新しい恋人?」
「こ、恋人って……俺、男ですよ」
「英さんはどっちもいける口でしょう」
(そ、そ、そうなんだ?)
「私、あ、私は町田真知子。よろしくね」
「は、はい、よろしくお願いします」
「でね、以前英さんと凄い綺麗な男の人がホテルから出てくるのは見た事あるのよ」
「あ、私は、斉藤多江、よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
「私はね、凄い美女と歩っているのを見たわ」
「面食いなのよね」
   と、二人は悠を見た。
「まあ、グルメもたまにはゲテモノを食べたくなる事あるわよね」
(俺・・・ゲテモノ扱い……)
「あっ、ごめん、真柴君もソコソコ可愛いわよ」
「そうそう。所で英さんの家では何してるの?」
   おばさまの興味は底が無い。
「あ・・・部屋の掃除とか、料理とか……」
「掃除、料理?」
「俺、レパートリーあまり無いので、よかったら簡単で美味しい料理教えて下さい」
「あ、ああ、お安い御用よ」
   二人は悠が英の新しい恋人では無いと分かったようだ。
「私は野村房子よ。デザート作るの好きなの。デザートの事なら聞いてね」
「は、はい。よろしくお願いします」
「そろそろ着くぞ」
   リーダーの橋本が目的地が近い事を知らせる。
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