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【第1章】旅男娼の幕開け

不穏な風

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チチチ……チュピピ……

カーテンの隙間から漏れ出る光と、窓の外から聞こえてくる鳥たちの鳴き声でロイズが目を覚ます。

はあっ…と気だるそうにため息混じりにノソリ、とソファから起き上がる。
頭を手で抑えながらグワングワン、と中で鐘が鳴るかのような眩暈に襲われていた。

「ぐ、頭ッ……いっだい……う~…飲みすぎたァ…」

呻くロイズの前に、先に起きていたメルリーブルが白いYシャツ姿でマグカップに入った温かいお茶を手渡した

「ロイ、これ飲む?」

メルリーブルはロイズの隣に座り、自分の肩に寄せる。ぽす、と軽くロイズが頭を寄せながらお茶をこくり、と飲む。ぷは、と唇を離すと先程までよっていた眉間のシワが無くなっている。

「ん……はー、ちょっと和らいだ……」

「よかった。二日酔いは辛いから、少しでも和らげたらいいんだけど」

微笑むメルリーブルの首筋から、ちらりと赤いキスマークの痕が見える。ロイズはマグカップを置くと、メルリーブルをソファに寝かせてちゅっ、ちゅ♡と首筋にキスを繰り返す。

「メルの首筋…俺のつけたキスマークが超可愛い♡ね、もう1回シたいなぁ~、今度はお風呂で一緒にさ…?ねえメルぅ~♡」

「やんっ、もうロイったら…♡」

キャイキャイと2人がソファの上で戯れていたその時、


ーキュリィイッ


鳥の甲高い囀りのような音と一緒に、ロイズとリーブルの人差し指の模様が金色に光っていた。
ー「時間終了」の合図である。

「おやおや、お時間ですね。」

「え~、もうおしまい?延長しちゃおっかな~…」

むすぅ、と唇を結ぶロイズは少し足りなそうな顔つきでリーブルを見つめている。すり、と頬を擦り付けるロイズの頭を、リーブルは優しく撫でる。

「私は構わないですけど…今日ロイズさんはお昼からお仕事ですよね?」

「あー…そーだった。ちぇ~仕方ないや。……でもリーブルが俺ん家を出る前に…ちょっと撫でてくれるのはいいよね?」

「ふふ、じゃあちょっとだけですよ?」


…………


お風呂を借りたリーブルは、借りている大きめのバスタオルを脱いで自分のローブを被る。
リーブルの白く柔らかそうな足を見て、ロイズはぺろりと舌なめずりをしてる。

(ふふ、また次もた~のも♡)

「あ、そういえば」と何かを思い出したロイズが、着替え終わったリーブルに話しかけた。

「ところで……クラン名決めてないよね?初期名で『ノーネーム』にしてるし。」

「そういえば……、全く決めてなかったです。」

じぃ…、と自分の持っているルビー色のギルドカードを見つめる。

ギルドカードの表面には騎士の絵柄の他に、クラン名が刻まれており、リーブルの持っているカードには【ノーネーム】という名前が書かれていた。
クラン名を変えると、カードに刻まれているクラン名は魔法で自動的に変わるシステムとなっている。

「早めに決めといた方がいいよ。クラン名っていうのはお仕事する上で結構重要だから。」

「そうですね…では考えときます。」

「あと…」と唇をむに、と合わせてつつ…と、ロイズの首筋に指をなぞりにこりと微笑むリーブル。ロイズはリーブルのその微笑みを見て、ぞくりと背筋がそそられる。

「是非、初めてのお客様としてレビューもしてくれたら……嬉しいなって……♡」

(ああ、可愛いなあもう…♡)

ロイズはリーブルの腰をぐっ、と寄せ顎先に指を当てる。ロイズのシルバーのピアスが、カーテンから漏れる僅かな光に反射してキラリと輝いた。

「わかったわかった、宣伝しとくから。じゃ、またよろしく♡」

ちゅっ、と触れるだけのキスをロイズがすると、リーブルは悪戯な笑顔でくすりと声を漏らした。

「んっ、ロイズさんったらもう♡」

…………




「では…これより、私たちはルークスベル公国を目指して進む事にします」

「うむ」

「ここもサンドリアス帝国同様、諸外公国の貿易点のひとつでもありますし、副業のお客様が来られるかと思ってますし……」

「そうだな」

「……あの、ブラッド…ちょっといいですか?」

「なんだ。」

「あの、もう恥ずかしいので…下ろして欲しいんですけど」


中央広場で高々と抱き上げられるリーブルを、通行人がジロジロと流し見をしている。
小さな子供は「パパ~!アタシも抱っこして~!」と父親にせがむ姿も見られた。

ー2人は完全に通行人達の注目の的になっていた。


「怒ってるんです?私の副業のことで怒ってるんですね?」

「…別に」

「じゃあ下ろしてください!」

「やだ」

いつになく意固地なブラッドの姿をみて、リーブルはムムー……と唇を尖らせた。

「…下ろしてくれたら、ブラッドがしたいこと何でもしていいですよ?」

ぴくり、とブラッドの少し尖った耳が震える。

シュバッ!とリーブルを抱き上げながら駆け出すと、すぐさま人気のない路地裏に駆け込んでリーブルを抱き上げながら壁に追いやる。
ちゅ、ちゅく……♡と粘液が絡み合う音は2人にしか聞こえないが、午前中の静かな路地裏ではひどく大きく聞こえる気がする。リーブルはブラッドに押し付けるようなキスをされ、少し苦しそうに声を漏らす。

「ちょ、んうっ…ブラッ、ド、んあっ…♡まだ午前ちゅ…んうっ♡」

「リーブ、…リーブ、リーブッ……」

「や、あ、だめっ…ですってばっ、人がきちゃうっんうっ♡」

ゴリ、と太ももをリーブルの股に押し付ける。
グリグリと誘うように揺らすと、リーブルは「こらぁ!」とデコピンをした。

「もう!!もうもうもう!!だ、め、で、す!!堪え性がない子は嫌いになりますよ!!」

ぷん!と顔をそっぽ向けると、シュン…という音がしそうな程に落ち込む顔になるブラッド。
少し困ったような顔で、ブラッドの赤みがかった黒髪をわしゃりと撫でる。

「ここからルークスベル公国までは道のりが長いですからゆっくり歩いていきましょう?……道中で、たくさん、したいことすれば…ね?」

「……ん。」

こくん、と頷くブラッド。図体に似合わないまるで子犬のような姿にきゅん…♡と胸に熱いものを感じたリーブルはわしゃわしゃわしゃー!とブラッドの頭を撫で回した。


(もうもうもうっ!ブラッドったら……!可愛いんですから!)


………………





「……あれが依頼主のターゲット、か。」

路地裏で抱き合うブラッドとリーブルのやり取りを、影から見ていたフードを被った優男はくすりと微笑んだ。

「ま、これが最後の仕事……きっちりやりますか。」

優男は路地裏を引き返す。ちらりと見える濃緑色の髪を翻し、アッシュグレーの瞳が少し光を浴びて透明感のある色に一瞬変わっていた。

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