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プロローグ
夢の追放宣言
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「ジェノヴィ・ディエゴロード公爵子息!貴様の数々の悪行!見過ごす訳にはいかない!よってここに貴様を爵位剥奪及び、追放の宣言を下す!!」
象牙色の彫刻と、ゴシックな装飾が施された壁に反射して、一本芯の通った声が響き渡る。
タキシードやドレスを纏った貴族令嬢や令息たちは、一人の男の周りに輪を形成して、遠巻きになっている。
カーペットの上で、膝を崩してへたり込む男
名を『ジェノヴィ・ディエゴロード公爵子息』
黒髪に深いサファイア色が、角度によって美しく反射する赤目の美男子だ。
「あり、ッ……もしない噂に躍らされるとは……第一皇子ともあろう御方が、卒業パーティでこのような愚行……いささかお戯れが過ぎるかとッ……」
ジェノヴィは、冷たさのある美しい声を震わせながら話す。話終えると口をきゅっ、と噤んで、壇上に仁王立ちするプラチナブロンドが輝く色男『レイフォード・アルテ・ラクシア第1皇子』を見上げている。
レイフォード皇子は、バッと羊皮紙の礼状を掲げる。そこには細かくズラリと箇条書きにツラツラと何かの記録が書き記されていた。
「ここには、貴様が今日まで行ってきた悪行の数々である!もちろんここに記されている悪行の裏付けも皇国騎士たちが、正義の名の元に調査済みである!悪行に関わった者たちの証言記録もここに全て残っている!もはや噂ではなく事実!!なにか反論でもあれば聞く……だが、その全てに正当に論破してみせようぞ!」
眉を釣り上げ、キッとジェノヴィを見下ろすレイフォード皇子。ジェノヴィは、皇子の言葉をきくとガクリと顔を下に向けてガクガクと震えている。
「そんな……、よ、っ、もや、この、……くっ、フ……うぅ……もは、や……言い逃れも、できっ、ませぬ……」
ジェノヴィは崩していた膝を立て直し、頭を下げる。
「レイフォード皇子……私は……っ、慎んで追放処分を受け入れッ……自身の罪を悔いながら……生きてまいります……それが、私の罪の償いです……」
「よろしい、では行くがよい。」
カツン……カツン……と城の騎士たちに誘導されながら、きらびやかな舞踏会場を後にして行った。
…………
ーガシャンッ
夜の空に響き渡るかのような、重厚な鋼の扉が閉められた音。
ジェノヴィは脇目も降らずに真っ直ぐ走り出す。
そして、城から数十メートル離れたところで、ワナワナと全身を震えさせ、そして
「ッッシャオラアアァーーーーーーッ!!シャーッ!シャーッ!よーし!よおおおぉーーーーーーっっっし!!!成し遂げたぜFooooooooooooo!!!!!!」
グワッ!と天を突くかのように腕と突き上げ、空気椅子のポーズで、庭の整えられた芝を踏みしめる。
先程の暗い顔はどこへやら。もはや貴族令息の面影など吹き飛ばしたかのように、整った顔をゆがませ(といっても相当な美顔なため、あまり崩れたとはいえないが)空に向かって、大口を開けながら叫んでいた。
「この時を……どれっっっっだけ望んだことか!!!ありがとう神よ!!いや違うな俺か!よくやった俺!ようやく追放エンド!!!これから俺は、ゆったり追放スローライフが始まるんダァーー!!!!」
うおおおおお!!!と服が汚れるのもお構い無しにゴロンゴロン転がり出す。はたから見たら完全に不審者であるが、気にせずに口元をにやけさせながら転がり尽くす。
「はあ……チェルシーたんには悪いことをしちゃったかもしれない……けど許して……俺は……もう貴族令息の教育もなにもかも嫌なんだ……そのために法に触れるか触れないかのギリギリの悪事をしてきたんだ……あ、でもチェルシーたんには危害が及ばないようにはしてたよな?よし!なら大丈夫か!!」
ブツブツと独り言を言っているジェノヴィ。
ーいや、この男はジェノヴィであって『本来のジェノヴィ』ではない。
この男の中身は『日本のオタク男子大学生』である。
ジェノヴィの中身である男子大学生は、いつも通り自身の好きなアニメをスマホで寝転がりながら視聴し、そのまま寝落ちた。
そして目が覚めると、なぜか貴族令息として『異世界転生』をしていたのだ、
突然に。
生誕時に既にその記憶があり、またしばらくしてこの世界がある乙女ゲームの世界であり、自分がその世界の『悪役令息』として転生している事が分かった。
乙女ゲームの名は『ロマネクシア』
内容としては平民から貴族に成り上がりをした主人公チェルシーと、貴族の学園にいるイケメンたちとの恋を題材とした、ベタベタのベターな、中世感ファンタジーの乙女ゲームだ。
その乙女ゲームに出てくる悪役令息『ジェノヴィ』が、様々な悪事を働くのだが、主人公チェルシーの選択によって、最後にジェノヴィの処遇が決まる。
単に、普通に卒業するとか、もしくは断罪として処刑されるか、はたまた追放……etc
主人公の選択で、ジェノヴィがする悪事が様々であり、その悪事の多さや重さに比例している。
……というのは、既に幼少期から理解していた男子大学生……もといジェノヴィは、決意した。
ー追放エンドを目指そうと!!!
というのも、幼少期から公爵令息としてのスパルタ教育に明け暮れ、心も体も疲弊していた彼は、平和エンドである卒業エンドでは、公爵令息としてまだまだ教育されかねない……かといって断罪処刑エンドなんてしたくない……と考えていた。
ならば……と考えたのが『追放エンド』
追放されてどこかの諸国に飛ばされるのなら、公爵位を剥奪されて、ただの平民になれるという夢のようなエンドがある!と
とはいっても、公爵令息であるジェノヴィは、主人公チェルシーの選択に直接は関われないので、既に知っていた悪事を実行し、なおかつ平民として暮らすための知識をためながら必死に学園生活を過ごしていた。
そして……今日という日、その夢の追放エンドにこぎつけた……
というのが事の顛末であった。
というわけで、彼……ジェノヴィは達成感に心を躍らせながらゴロンゴロンと雑草と土まみれになりながら喜びを感じていたのである。
「は……!こんなことをしてるんじゃなかった!はやく国から出ないと!執事のルークスを待たせてるんだった!」
ダッ、と走り出すジェノヴィ。
口元をゆるゆるとさせながら、これから始まるスローライフにワクワクと想像を膨らませていた。
ーだが、彼はこのとき知らなかったのだ。
ーこの世界が、乙女ゲームの『本編』ではなかったことを……
象牙色の彫刻と、ゴシックな装飾が施された壁に反射して、一本芯の通った声が響き渡る。
タキシードやドレスを纏った貴族令嬢や令息たちは、一人の男の周りに輪を形成して、遠巻きになっている。
カーペットの上で、膝を崩してへたり込む男
名を『ジェノヴィ・ディエゴロード公爵子息』
黒髪に深いサファイア色が、角度によって美しく反射する赤目の美男子だ。
「あり、ッ……もしない噂に躍らされるとは……第一皇子ともあろう御方が、卒業パーティでこのような愚行……いささかお戯れが過ぎるかとッ……」
ジェノヴィは、冷たさのある美しい声を震わせながら話す。話終えると口をきゅっ、と噤んで、壇上に仁王立ちするプラチナブロンドが輝く色男『レイフォード・アルテ・ラクシア第1皇子』を見上げている。
レイフォード皇子は、バッと羊皮紙の礼状を掲げる。そこには細かくズラリと箇条書きにツラツラと何かの記録が書き記されていた。
「ここには、貴様が今日まで行ってきた悪行の数々である!もちろんここに記されている悪行の裏付けも皇国騎士たちが、正義の名の元に調査済みである!悪行に関わった者たちの証言記録もここに全て残っている!もはや噂ではなく事実!!なにか反論でもあれば聞く……だが、その全てに正当に論破してみせようぞ!」
眉を釣り上げ、キッとジェノヴィを見下ろすレイフォード皇子。ジェノヴィは、皇子の言葉をきくとガクリと顔を下に向けてガクガクと震えている。
「そんな……、よ、っ、もや、この、……くっ、フ……うぅ……もは、や……言い逃れも、できっ、ませぬ……」
ジェノヴィは崩していた膝を立て直し、頭を下げる。
「レイフォード皇子……私は……っ、慎んで追放処分を受け入れッ……自身の罪を悔いながら……生きてまいります……それが、私の罪の償いです……」
「よろしい、では行くがよい。」
カツン……カツン……と城の騎士たちに誘導されながら、きらびやかな舞踏会場を後にして行った。
…………
ーガシャンッ
夜の空に響き渡るかのような、重厚な鋼の扉が閉められた音。
ジェノヴィは脇目も降らずに真っ直ぐ走り出す。
そして、城から数十メートル離れたところで、ワナワナと全身を震えさせ、そして
「ッッシャオラアアァーーーーーーッ!!シャーッ!シャーッ!よーし!よおおおぉーーーーーーっっっし!!!成し遂げたぜFooooooooooooo!!!!!!」
グワッ!と天を突くかのように腕と突き上げ、空気椅子のポーズで、庭の整えられた芝を踏みしめる。
先程の暗い顔はどこへやら。もはや貴族令息の面影など吹き飛ばしたかのように、整った顔をゆがませ(といっても相当な美顔なため、あまり崩れたとはいえないが)空に向かって、大口を開けながら叫んでいた。
「この時を……どれっっっっだけ望んだことか!!!ありがとう神よ!!いや違うな俺か!よくやった俺!ようやく追放エンド!!!これから俺は、ゆったり追放スローライフが始まるんダァーー!!!!」
うおおおおお!!!と服が汚れるのもお構い無しにゴロンゴロン転がり出す。はたから見たら完全に不審者であるが、気にせずに口元をにやけさせながら転がり尽くす。
「はあ……チェルシーたんには悪いことをしちゃったかもしれない……けど許して……俺は……もう貴族令息の教育もなにもかも嫌なんだ……そのために法に触れるか触れないかのギリギリの悪事をしてきたんだ……あ、でもチェルシーたんには危害が及ばないようにはしてたよな?よし!なら大丈夫か!!」
ブツブツと独り言を言っているジェノヴィ。
ーいや、この男はジェノヴィであって『本来のジェノヴィ』ではない。
この男の中身は『日本のオタク男子大学生』である。
ジェノヴィの中身である男子大学生は、いつも通り自身の好きなアニメをスマホで寝転がりながら視聴し、そのまま寝落ちた。
そして目が覚めると、なぜか貴族令息として『異世界転生』をしていたのだ、
突然に。
生誕時に既にその記憶があり、またしばらくしてこの世界がある乙女ゲームの世界であり、自分がその世界の『悪役令息』として転生している事が分かった。
乙女ゲームの名は『ロマネクシア』
内容としては平民から貴族に成り上がりをした主人公チェルシーと、貴族の学園にいるイケメンたちとの恋を題材とした、ベタベタのベターな、中世感ファンタジーの乙女ゲームだ。
その乙女ゲームに出てくる悪役令息『ジェノヴィ』が、様々な悪事を働くのだが、主人公チェルシーの選択によって、最後にジェノヴィの処遇が決まる。
単に、普通に卒業するとか、もしくは断罪として処刑されるか、はたまた追放……etc
主人公の選択で、ジェノヴィがする悪事が様々であり、その悪事の多さや重さに比例している。
……というのは、既に幼少期から理解していた男子大学生……もといジェノヴィは、決意した。
ー追放エンドを目指そうと!!!
というのも、幼少期から公爵令息としてのスパルタ教育に明け暮れ、心も体も疲弊していた彼は、平和エンドである卒業エンドでは、公爵令息としてまだまだ教育されかねない……かといって断罪処刑エンドなんてしたくない……と考えていた。
ならば……と考えたのが『追放エンド』
追放されてどこかの諸国に飛ばされるのなら、公爵位を剥奪されて、ただの平民になれるという夢のようなエンドがある!と
とはいっても、公爵令息であるジェノヴィは、主人公チェルシーの選択に直接は関われないので、既に知っていた悪事を実行し、なおかつ平民として暮らすための知識をためながら必死に学園生活を過ごしていた。
そして……今日という日、その夢の追放エンドにこぎつけた……
というのが事の顛末であった。
というわけで、彼……ジェノヴィは達成感に心を躍らせながらゴロンゴロンと雑草と土まみれになりながら喜びを感じていたのである。
「は……!こんなことをしてるんじゃなかった!はやく国から出ないと!執事のルークスを待たせてるんだった!」
ダッ、と走り出すジェノヴィ。
口元をゆるゆるとさせながら、これから始まるスローライフにワクワクと想像を膨らませていた。
ーだが、彼はこのとき知らなかったのだ。
ーこの世界が、乙女ゲームの『本編』ではなかったことを……
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