上 下
34 / 43

第34話 遠足⑩

しおりを挟む
 僕たちがレオ兄の元を離れて数分経った頃、レオ兄が高々と宣言した。

「ゴブリンキングの首は、レオルグ・アレクシオールは討ち取った! 勝利は我らにあり!」

 他の人なら、レオ兄は嬉しそうな顔をしているように見えるだろう。しかし、僕にはそう見えなかった。どこか寂しそうな表情をしているように見えた。

 ゴブリンキングの顔を見てみると思ったよりはスッキリした笑みを浮かべている。充分に戦えたのだろう。

 そこからというもの僕たちはゴブリンの掃討戦に移った。人間同士の戦いとは異なり、ゴブリンは降伏などしない。戦うか逃げるかだ。できるだけ統率者を殺し、脅威になりそうな芽を摘んだ。

 途中からは騎士団も応援に駆け付け、ゴブリンが逃げ出すまで掃討戦を続けた。一匹残らず殲滅してしまっては、冒険者の仕事がなくなってしまうため、ある程度再起不能な所まで数を減らし、追い打ちはしないこととした。

 その後騎士団は森の奥に入り、ゴブリンの集落を破壊。女性たちを救出した。だが、一つだけ不可解なことがあったのだ。全ての女性が奴隷紋が刻まれた奴隷であるということだ。確かに僕たちの国でも奴隷は存在する。しかし、全て亜人の女性というのは少しおかしな話だ。それにゴブリン達の急成長ぶりも気になるところだ。

 とりあえず今は、疲れた。

「レオ兄、お疲れ様」

「ユーリか。お疲れ。無事に終わったな」

「レオ兄がゴブリンキングを討ってくれたおかげです」

「そうか。それならよかった」

「それにしてもレオ兄、どうかしましたか? ゴブリンキングを討った時の顔がどこかすぐれない様でしたが」

「あ、あぁ。なんでもない。単純に疲れたんだ」

「そうですよね。そりゃ疲れますよね」

 恐らくレオ兄は嘘をついている。でも、僕にも話したくないことなんだから突っ込まない方がいいだろう。そっとしておこう。

 それにしてもレオ兄は一皮むけた様な風格を感じる。一戦を終えたからだろうか。他の生徒も同様に顔つきがどこか変わっている。奇跡的に死者は出なかった。これはひとえにセシリアのおかげだ。負傷者をできるだけ速やかに治し、ゴブリンに隙を突かせなかった。そのことが功を奏したのだろう

「皆、お疲れ!」

「おう! ユーリか。お疲れ」

「お疲れ様! ユーリ」

「お疲れ様です。ユーリ君」

「僕頑張ったよ!」

 各々声をかけてくれる。ミルトだけは頑張ったアピールが凄い。思わず撫でそうだ。

「エレン、トール。助かったよ、ありがとう。セシリアもよく頑張った。君のおかげで誰も死なずに死んだ。ミルト、よく頑張ったな! お前のおかげでゴブリンの勢いを削げた」

 ミルトのキラキラした目にやられて、撫でてしまった。目を細めるその姿は、皆をほっこりさせてくれる。

 エレンとトールはいつも喧嘩しているけど、今日はすごく相性がよく見えた。息もぴったりで戦場が一つの舞台であると錯覚するほどだった。

 ミルトもロード達を的確に狙撃し、仕留めていった。他にもゴブリンリーダーなどのリーダー格を殺し、勢いを削いだ。

 お! ガイトス先生だ。ガイトス先生は騎士団に同行してゴブリンの集落に行っていた。ガイトス先生は戦鬼のような戦い方だった。ゴブリンを殺した数で言うと、ガイトス先生が一番だろう。それでいて全体の戦況を俯瞰して、危ないところを助けに行くその様は見事だった。

「ガイトス先生、お疲れ様でした!」

「おう! お疲れ様。いやー、久しぶりに本気で暴れれたよ。ありがとうな。ユーリ」

「いえいえ、ガイトス先生がいなければどうなっていたことか」

「多分勝ててたんじゃねぇか。ハハハッ。」

「どうでしょうね。そういえば、ゴブリンの集落はどうでしたか?」

「少し不気味だったな。ゴブリンにしては急成長しすぎな気がした。それに女性たちの出どころが不明だ。ここらで誘拐は起きていない。しかも奴隷紋が刻まれていたから、もしかすると人間が関わっているのかもしれない」

「人間が!? そのことが本当だとするとまずいですよ。あまり言いふらさない方がよさそうです。」

「そうだな。限られた人間だけが知っておくのがよさそうだ。この話は大きくなりそうだ。とりあえず、国王様には知らせておいてくれ」

「分かりました。伝えておきます! この後はどうするんですか?」

「もちろん遠足は中止だな。この森も一時的に封鎖される。きな臭いしな。この後は各自家に帰ることになるな」

「分かりました。では皆に伝えてきますね」

「頼んだ。それと、ユーリ、ありがとうな。久しぶりに全盛期の力が出せて嬉しかったよ」

「いえいえ。僕もガイトス先生の力が見れて嬉しかったですよ。それじゃ行ってきます」

 今回ばかりは僕も活躍できたと思うし、スキルも使うことができた。新しい能力が使えるようになったのも今となっては良かったかな。1年間使えなくなると思うと嫌だけど、今回の様なことはそう起きないと思うから大丈夫だろう。

 さぁ、帰ろうか、日常へ。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

転生領主の領地開拓 -現代の日本の知識は最強でした。-

俺は俺だ
ファンタジー
 今年二十歳を迎えた信楽彩生《しんらくかやせ》は突如死んでしまった。  彼は初めての就職にドキドキし過ぎて、横断歩道が赤なことに気がつかず横断歩道を渡ってしまった。  そんな彼を可哀想に思ったのか、創造神は彩生をアルマタナの世界へと転生させた。  彼は、第二の人生を楽しむと心に決めてアルマタナの世界へと旅だった。  ※横読み推奨 コメントは読ませてもらっていますが、基本返信はしません。(間が空くと、読めないことがあり、返信が遅れてしまうため。)

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

ある化学者転生 記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です

黄舞
ファンタジー
祝書籍化ヾ(●´∇`●)ノ 3月25日発売日です!! 「嫌なら辞めろ。ただし、お前みたいな無能を使ってくれるところなんて他にない」  何回聞いたか分からないその言葉を聞いた俺の心は、ある日ポッキリ折れてしまった。 「分かりました。辞めます」  そう言って文字通り育ててもらった最大手ギルドを辞めた俺に、突然前世の記憶が襲う。  前世の俺は異世界で化学者《ケミスト》と呼ばれていた。 「なるほど。俺の独自の錬成方法は、無意識に前世の記憶を使っていたのか」  通常とは異なる手法で、普通の錬金術師《アルケミスト》では到底及ばぬ技能を身に付けていた俺。  さらに鮮明となった知識を駆使して様々な規格外の良品を作り上げていく。  ついでに『ホワイト』なギルドの経営者となり、これまで虐げられた鬱憤を晴らすことを決めた。  これはある化学者が錬金術師に転生して、前世の知識を使い絶品を作り出し、その高待遇から様々な優秀なメンバーが集うギルドを成り上がらせるお話。 お気に入り5000です!! ありがとうございますヾ(●´∇`●)ノ よろしければお気に入り登録お願いします!! 他のサイトでも掲載しています ※2月末にアルファポリスオンリーになります 2章まで完結済みです 3章からは不定期更新になります。 引き続きよろしくお願いします。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...