上 下
29 / 43

第29話 遠足⑤

しおりを挟む
「みんな聞いてくれ!」

「なんだ?」

「ゴブリンたちの行動に異常が見られるらしい。一度に出てくるゴブリンの数が多くなっているみたいだ。ガイトス先生からは森の奥の偵察と苦戦している学園生徒の救援を頼まれた。僕は上位種が存在しているかもしれないと考えている。それでも皆はついてきてくれるか?」

「俺は行きますよ。ユーリ様。貴方の僕ですから」

「私も行くぜ? どうせ力がいるだろ?」

「エレンが行くなら俺も行く」

「ユーリ君を守りたい」

「ユーリを助けたい」

「すまない。助かる」

 皆して行きたいって言うとは思わなかったな。こんなこと聞くまでもなかったようだ。僕一人では上位種が出てきたらどうにもならないだろうな。皆がいてくれてよかった。

「僕一人じゃ非力かもしれない。でも、皆がいればどんなことがあったって乗り越えられると思うんだ。だから、行こう! 森の奥へ」

 皆が一様に頷いた。



 森に入り、30分ほど歩いた。道中警戒を怠らずに進んだ。途中何グループか苦戦しているところがあったから、救援をして進んだ。概ね順調だった。しかし、このあたりからゴブリンが出てこなくなったような気がする。皆もその違和感を感じているようで警戒している。

「なんかおかしくないか?」

トールがポロっと意見を零した。

「僕もおかしいとは思っている。ここまでゴブリンが出ないのは逆におかしいと思う。気をつけながら先に進もう」

 そして、少し進んだ時、僕の目の前にある情報が映し出された。



都市名:なし
為政者:ゴブリンキング
人 口:5050
兵 数:5000
防衛力:5000
幸福度:30
財 力:0
交易力:0

ゴブリンにより統治されている場所。50人もの女性が性奴隷として存在。



 目を疑った。これまで僕は【都市鑑定】を使ったことはなかった。理由は【人物鑑定】しか必要無かったからだ。しかし、強制的に表示されることは神様からは聞いていない。そのことは今は後だ。

 問題は、街ができているということだ。少なくともゴブリンキングがいることは間違いない。しかも、兵数が5000だ。ゴブリン一体がどの程度の力を持っているのかは分からないが、規模が大きいのは分かる。そして、やはり女性が囚われていたようだ。無事であれば助け出さなければ。

「皆、聞いてくれ! 今僕のスキルで、ゴブリンの勢力規模が見えた」

「はぁ!? 何だそのスキルは?」

「エレン。ごめん、今はそのことをしゃべっている暇はない。兵数は5000、統率者はゴブリンキングだ」

「嘘だろ!? あのゴブリンキングがいるのか?」

「ごめん。ゴブリンキングって何なのかな? 私詳しくなくて」

「知っていなくても無理はないよ。セシリア。ゴブリンキングっていうのは街一つを滅ぼせる可能性を持つ魔物だ」

「そ、それってやばいんじゃ?」

「やばい。だから早く対応を取らなければいけない。恐らく、森の入り口付近にいたゴブリンは斥候だったんだろう。そうであれば、ゴブリンが攻めてくる可能性も考慮しないといけない。ミルト、本部まで矢文を届けてくれ。至急応援が必要だ。僕たちも撤退しながら、呼びかけていこう」

「「「「「分かった」」」」」

 こうして、僕たちの撤退作戦は始まった。ここまで深く来ている人たちは中々いないようで、入り口付近の人は、ガイトス先生の号令によって撤退することができた。途中レオ兄とも合流して、深くにいる先輩たちも一度引き上げることにした。



「ガイトス先生!」

「ユーリ! よく戻ってきてくれた! 今は作戦を立てることが先だ。お前のスキルについては後でじっくり聞くからな」

「分かりました。それで、学園の生徒は?」

「今点呼中だ。Aクラスは全員揃っている」

 良かった。今の所順調そうだ。後はBクラスの生徒だけだな。

「え!? ドルトス君がいない!!!! 皆ドルトス君を知らない!?!?!?!?」

「確かあいつは奥に行くとか言ってました。『よゆーだ。』とか言って」

「その話はほんとう!?」

「確かに俺はそう聞きました。なぁ?」

「「「うん」」」

「そんなぁ。」

「どうした!?」

「ガイトス先生! ドルトス君がいないのです! 一刻も早く助けに行かなくては!」

「ドルトスが!?」

「高貴な身分のお方です! 万が一何かあれば私の出世どころか命が!!!!!」

「こんな時にも自分のことが心配か! まぁいい。貴方はBクラスの生徒の避難と騎士団への連絡をお願いします!」

「は、はい!」

 ドルトスのやつ、最悪なことをしでかしてくれた。自分がどういう立場にあるのか分かっているのか。自分の力量も分からないやつがでしゃばるなよ!!!

「ユーリ、今の話聞いたか?」

「はい。ドルトスのやつですね。ほんとはあんな奴助けなくてもいいと思っていますが、そういう訳にもいかないでしょう」

「そうだ。あいつは腐っても公爵家だ。死なせると今後の学園自体も無事か分からない」

「そうですね。まずいです。助けに行かないと」

「ユーリ!」

「レオ兄! ドルトスの奴が……」

「聞いていた」

「レオ兄から、生徒に呼びかけてもらえませんか? 『ゴブリンの討伐を手伝ってほしい』と。僕のスキルでは、ゴブリンはおよそ5000、少数精鋭では太刀打ちできません!」

「5、5000!? 確かにそれでは俺たちだけではどうにもならなそうだ。万が一ドルトスが接敵していた場合、戦闘は逃れられないだろう。騎士団は早くても1時間って所だ。皆には覚悟をして貰うことになるかもしれない。俺からで良ければ呼びかけよう」

「ありがとうございます! レオ兄」

「なに、弟からの頼みだ。受けないはずがないだろう」

「時間がないぞ。レオルグ、ユーリ。取り掛かろう」

「「はい!」」

 ドルトスのために戦わせなければならないのは癪だ。だが、それじゃなくてもこの規模のゴブリンは放置することはできない。

 その時、僕の頭の中に新たなスキルの能力が浮かんだ。

 ――その名も【領地化】
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

転生領主の領地開拓 -現代の日本の知識は最強でした。-

俺は俺だ
ファンタジー
 今年二十歳を迎えた信楽彩生《しんらくかやせ》は突如死んでしまった。  彼は初めての就職にドキドキし過ぎて、横断歩道が赤なことに気がつかず横断歩道を渡ってしまった。  そんな彼を可哀想に思ったのか、創造神は彩生をアルマタナの世界へと転生させた。  彼は、第二の人生を楽しむと心に決めてアルマタナの世界へと旅だった。  ※横読み推奨 コメントは読ませてもらっていますが、基本返信はしません。(間が空くと、読めないことがあり、返信が遅れてしまうため。)

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

ある化学者転生 記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です

黄舞
ファンタジー
祝書籍化ヾ(●´∇`●)ノ 3月25日発売日です!! 「嫌なら辞めろ。ただし、お前みたいな無能を使ってくれるところなんて他にない」  何回聞いたか分からないその言葉を聞いた俺の心は、ある日ポッキリ折れてしまった。 「分かりました。辞めます」  そう言って文字通り育ててもらった最大手ギルドを辞めた俺に、突然前世の記憶が襲う。  前世の俺は異世界で化学者《ケミスト》と呼ばれていた。 「なるほど。俺の独自の錬成方法は、無意識に前世の記憶を使っていたのか」  通常とは異なる手法で、普通の錬金術師《アルケミスト》では到底及ばぬ技能を身に付けていた俺。  さらに鮮明となった知識を駆使して様々な規格外の良品を作り上げていく。  ついでに『ホワイト』なギルドの経営者となり、これまで虐げられた鬱憤を晴らすことを決めた。  これはある化学者が錬金術師に転生して、前世の知識を使い絶品を作り出し、その高待遇から様々な優秀なメンバーが集うギルドを成り上がらせるお話。 お気に入り5000です!! ありがとうございますヾ(●´∇`●)ノ よろしければお気に入り登録お願いします!! 他のサイトでも掲載しています ※2月末にアルファポリスオンリーになります 2章まで完結済みです 3章からは不定期更新になります。 引き続きよろしくお願いします。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...