童話革命

吉田田中

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灼熱のマッチ売り

マッチ売りの少女

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大きな火事に街の中はパニックに陥っていた
逃げ惑う人の波を避けながらアリスとインシェルはマッチ売りの少女を探し回っていた

「マッチ売りはどんな子だったんだい?」

インシェルの問い掛けに先ほど見た少女の風貌を思い浮かべる

「背は私と同じくらいだと思う。髪はフードを被っていてよく見えなかったけど、赤い服だったわ…あと。目が赤かった」

アリスの脳裏には先ほどの少女の赤い瞳が焼き付いていた


「いいかいアリス。マッチ売りを見つけたらまずは僕が彼女の気を引く、君はその間に物語を書き換えるための術を見つけてくれ」


「物語を書き換える術って言われても…いったい何をすれば」

腰にぶら下げた小さなポシェットの中にしまってある羽ペンにそっと手を重ねる

「すまないがそれは僕にも分からない…女王様はペンが導いてくださると仰っていた…その言葉を信じるしかない」


ペンが導いてくれる…
その言葉の真意は分からないが、アリスはただその言葉を信じるしかなかった


「止まって!」


前を走っていたインシェルが急に足を止める

視線の先には真っ赤なフードを被り佇む少女の後ろ姿が見える

そして少女の手には煌々と赤い炎を放つマッチが握られている
そして徐にそのマッチを目の前の家へと投げ捨てた



「あ…」

咄嗟にアリスの口から漏れ出た声はゴォッと家を包み込む炎の音に掻き消された


「そうはさせない‼︎」


立ち止まるアリスをよそに隣にいたインシェルが胸ポケットから懐中時計を取り出す


時の歯車ギア オブ タイム リターン‼︎」


懐中時計の針を過去の時間へと動かす
すると目の前の燃え盛る炎がみるみると消えていく


「え…」


突然の事に驚きを隠せないアリスとマッチ売り


「インシェル…今のって」

「僕の魔法時の歯車ギア オブ タイムさ。時を巻き戻させてもらった」


得意げに時計を見せるインシェル
マッチ売りがこちらを見つめる

「あなた達は誰…どうして邪魔するの?」

小さな声でこちらに問い掛けるマッチ売りの少女
その声は今にも消え入りそうな弱々しい声だった


「こんな事はやめるんだ‼︎君はこの物語の主人公だ、罪の無い人を傷つけるような事をしてはいけない‼︎」

インシェルの声が吹雪の中辺りに響く

その声と同時に先程まで燃え盛っていた家の中から中年の男女が飛び出てきた


「何がどうなってるんだ⁉︎急に家が燃えたと思ったら今度は急に火が消えやがった⁉︎」

取り乱した様子で声を荒げる男

「あんた‼︎あいつ、あいつの仕業じゃ無いのかい‼︎」

喚き散らす男に辺りを見渡していた女は声をかける
そして指を指すその先にはマッチ売りの少女が男女を恨めしそうに見つめていた


「カルシス‼︎…テメェの仕業だったのか…等々うちに火付けて俺たちの事を焼き殺すつもりだったんだなぁ?」

「きっと最近のボヤ騒ぎもコイツの仕業に違いないね‼︎」


男女はギャーギャーと大声で少女にどんどんと罵声を浴びせる
そして男は少女に徐に近寄り頭を鷲掴みにする


「婆さんが死んだ後も散々面倒見てやったってのにこの仕打ちとはなぁ?覚悟はできてるんだろうなぁ?」


そう言い放つと雪の中に少女を突き飛ばした


「なっ⁉︎なんて事を…」


その様子を見てインシェルも思わず声を上げる
アリスはとっくに見ていられなくなり目を背けてしまっていた

まるで、過去の自分を見ているようだった


「婆さんもとんでもない邪魔者を置いて行ってくれたもんだ…」


ぶつぶつと悪態をつきながら突き飛ばした少女の元へと歩み寄る男


「まぁ…婆さんが死んだおかげで遊んで暮らせるほどの金は手に入ったんだけどなぁ」

「あんなババアでも役に立つこともあるってことさ」


ケラケラと汚い笑い声を上げる男女に
少女は冷たい視線を向ける


「おばあちゃんの事を…」

「あ?」



「おばあちゃんの事を…悪く言うなぁぁぁ‼︎‼︎」



少女の叫びと共に男はあっという間に炎に包まれた
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