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アリス
穴に落ちて
しおりを挟む庭を走り抜けるうさぎを追い掛けて森に入ったアリス。
春の森はそよそよと優しい風が吹き、木々の隙間から差し込む光が薄暗い森を照らしている。
「はぁ…どこに行ったのかしら…」
うさぎの姿を見失い、肩で息ををしながら当たりを見回す
「もっと森の奥に行ってしまったのかしら」
森の中は多少舗装はされているも、木々の奥には獣道があり夜には野生の動物もうろついている。
「お庭に戻ってこなければいいけど…とりあえず戻ろうかしら…」
庭に戻ろうと踵を返すアリスの視界にまたも白い影が映る
「あっ‼︎さっきのうさぎ!」
木々の間を潜り抜ける後ろ姿は間違いなく先ほどのうさぎだ。
またうさぎの跡を追いかけ獣道へと足を踏み入れるアリス。
「まって‼︎」
アリスの声も虚しくうさぎとの距離は埋まらず、どんどん離れていく白い背中を必死に追う。
庭を荒らされない様にと後を追い始めたはずが、必死に走るアリスの頭には新たに違う考えが浮かんでいた。
(あのうさぎは一体どこに行くのかしら…仲間の元?そこにはあのうさぎみたいに服を着た動物たちが居るのかしら…)
一度探究心に満ちてしまったアリスの脳内はもう止まる事を知らなかった。
走り続け痛む肺にも気付かず只ひたすらに追いかける。
ふと、ずっと前を走っていた白い後ろ姿を見失う。
「…あれ、一体どこに…」
辺りを見回してもうさぎの姿は無い。
しかしアリスの足元には古びた本が1冊落ちていた。
「何かしらこの本…随分とボロボロだけど。」
本の表紙は煤けて端の方は綻んできている。革張りの表紙には題名が書いておらず作者の名前も無かった。
「落とし物かしら…」
そう呟き本を開く
「え…何も書いてない、ノートだったのかしら?」
パラパラとページを捲っていっても中は真っ白だった。
「外張りに比べて中は随分と綺麗なのね……え?」
気付くと白紙のページの端の方からジワジワと黒いシミの様なものが広がって来て、あっという間にページが真っ黒になってしまった。
「え…?何なの?何があったの?………きゃっ‼︎」
ページを見つめていたアリスは一瞬のうちに本の中に吸い込まれてしまった。
「…これ、生きてるの?」
「息はしてるんじゃない?」
誰かの声がする…
「このまま起きなかったらどうする?」
「風船にしよう‼︎」
大きな声が頭に響く
体のあちこちが痛む
薄く目を開けると、自分を覗き込む者達がいる
「あっ、起きた」
そこには先ほどアリスが追いかけていたうさぎ、そっくりな顔をした双子、帽子を被った少年がいた。
「…⁉︎誰?っここは何処?」
突然の事に頭が全く追いつかないアリス
うさぎ達は互いに顔を見合わせどうしようかと話している。
(私は可笑しくなってしまったの?それともこれは夢?)
流石のアリスもパニックになってしまっていた。
ここに来る前の記憶が朧げで、本を見つけた子は覚えているがそのあと何が起きたか思い出せないのだ。
「君は…アリスだよね?」
「だよね?」
そっくりな顔の双子の少年がグッと顔を寄せてアリスに問いかける
「えっ…えぇ」
未だ目の前の光景に戸惑いを隠せず頷くことしか出来ない
「アリスなら話が早い。早く女王の所に連れて行こう」
突然ヒョコッと双子の片割れの頭から飛び出してくる小さなネズミ
「そうだね。女王様に会いに行こう」
「会いに行こう」
双子に腕を引かれ立ち上がる
「ま、待って、女王?何の事?早く元いた所に連れて行って」
さっさと行こうとする一行を呼び止め抗議すると、白うさぎがアリスの前まで飛んで来る
「でも君はアリスなのだろう?それとも先ほどの話は嘘なのかい?」
何とも怪訝な顔でこちらを睨みつけてくる
「私はアリスよ。そこに嘘偽りは無いわ。けど私がアリスなら何故貴方達に着いて行かなければいけないの?」
全く現状を理解できずアリスも困り果てていた。
どうやらここに居る者達は皆強引な様だ。
「それは君がアリスだからさ」
またうさぎがアリスの目を見つめそう言う
「私が…アリスだから?」
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