童話革命

吉田田中

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アリス

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カーテンの隙間から差し込む朝日の光で目が覚める。
もう一眠りしてやろうと寝返りを打ち布団に身を埋めようとしたところで、と部屋のドアを叩く音がした。

「アリス、起きてるの?」

ドアの外から、優しくこちらを伺う様に声を掛けられる。



「…今起きたわ」

少し間を空けてからドアの向こうへと声を投げる。


ガチャリとドアが開き先ほど声をかけてきた女性が部屋へと入ってきた。


「相変わらずお寝坊さんね、アリス! エマはもう朝食も済ませてるわよ。」


未だベッドから出ず布団から顔を半分だし恨めしそうに見詰める私を見下ろし、ニコニコとまるで太陽の様な笑顔を浮かべている彼女は、
『ミーシャ・ベルドット』
私より10も歳が上で、私の姉と同い年だ。

年は離れているが幼い頃から面倒を見てもらっている為、私にとってはもう1人の姉のようであり唯一の友達の様な存在だ。


「さあ!アリスそろそろベッドから出てきて!今日はとってもいい天気よ‼︎」


シャ‼︎と勢いよくカーテンを開けると、目を瞑りたくなるような眩しい朝日が部屋に差し込んでくる。


「ねっ!いい天気でしょアリス‼︎」


カーテンを開け切りパッと後ろを振り向いたミーシャの目に入るのは、先ほどよりもこんもりと膨れ上がり布団の中に身を埋めたアリスの姿。


「アリス‼︎‼︎」


アリスを包む布団は一瞬にして剥ぎ取られた。

「ダメよミーシャ。この世界は私には眩しすぎる。」


しぶとく布団の端を掴み全身で抗議するアリスの姿はまるで幼い少女の様だ。


「何を言ってるの!今日はとっても大事な日じゃないの‼︎」

「…え?」



「今日はアリスのお誕生日でしょ‼︎」




その後渋々とベッドから降り大人しくミーシャの言う通り支度を始めた。

私が身なりを整えている間ミーシャは後ろで私が荒らしたベッドを直してくれいた。


「あら、アリスまた昨夜は遅くまで本を読んでいたの?」

私のベッドサイドに置かれた本を見つけ尋ねてくる


「新作なのよ。その作家さんが好きでね。今回はファンタジーなお話でね。」

「御伽噺みたいな感じ?」

「そうね、それに近いかも。その作家さんは今まで自分の体験談などを交えたお話が多かったのだけれど今回の完全フィクションのお話でね。普段の作風とはガラリと違ってね、でもそこがまた面白かったわ。」

用意された服に袖を通しながら昨日読んだ本の内容を頭の中で思い返す。

「ふふっ」

後ろでミーシャが小さく笑う

「可笑しかった?」

振り返ると何とも愛おしそうな顔で見詰められる。

「いえ、やっぱりアリスは本当に本が好きなんだなぁと思って。本の話しをしている時のアリスはとても楽しそうですもの。」

「…本は大好きよ。知らないことを教えてくれるし、見たことのない世界にも連れて行ってくれる。そこに込められた作者に気持ちに身を寄せるのも何処か知らない所で同じ思想の仲間が増えたような気持ちにもなるしね。」

そう言いながらそっとミーシャが持つ本に手を伸ばす。

「でも見て。」

本の最後の方のページを開く。

「作者の後書き?」

「そうよ。ここを見て、[今作はフィクションであり決して現実と交わることのない世界である。]」

後書きの初めに書かれている言葉。
作者は今作の後書きで何故完全フィクションの話を書き上げたのかを綴っていた。


ミーシャはじっとそのページを見つめ内容をポソポソと口に出す。

「何だか…私には難しいわね」

顔を上げたミーシャの顔ははてなが浮かんでいた。

「確かに私も初めはよく分からなかったけど、きっと作者は自分の過去の作品もつまるところは自己都合のフィクションであり、真の現実とフィクションが混じり合う世界はこの世には存在しないし、どれほど渇望しても無駄だという事だと思うわ」

後書きページを目で追いながら自分の見解を話す

「ますます分からないわ…」


元から下がっているミーシャの眉はさらに下がっていた。


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