死神と天使。

雨音露乃

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第六章

4日目   最後のお願い

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次の日、珍しく僕より先に夢希が起きていた。夢希は昨日とは別人のように元気になっていた。
「おはよう。夢希。」
「死神さんから挨拶なんて珍しいね!」
「夢希こそ、僕より早く起きるなんて珍しいじゃん。」
「今日は私の最後の日だもん。早起きしないともったいない!」
ニシシッと夢希は笑った。
「そういえば前に死ぬ前に教えてあげるって言ってたよね、それ教えてよ。」
夢希は目を泳がせた。
「これはすっごく大切なお話だから、
   夜、私が死ぬギリギリの前に話すよ!」
「わかった。」
どんな話だろうと気になりすぎて話が入ってこない。
「じゃあ何をするの?」
「そうだなぁ……病院の周りでも散歩する?」
「ダメだよ安静にしてないと、」
「歩くくらいならしても大丈夫って先生に言われたから大丈夫!」
最後の日くらいは好きな事をさせてあげたいなと思い、一緒に散歩する事にした。
散歩の途中、夢希は僕に声をかけてきた。
「ねぇねぇ、」
「きつい?大丈夫?」
「大丈夫!なにか話そうよー!」
「外だし周りに変な目で見られるよ。」
「どうせ死ぬんだし気にしなーい!」
縁起でもない言葉を軽々言う夢希。
持明が変わることが分かったからこまめに
夢希の持明をチェックしなければならない。少しの不安を抱きながらも、チェックしてみた。
なんて事だ……あと1時間半で気を失ない、
そのまま目を覚まさずに死亡と書いてある。つまり夢希の持明はあと1時間だ。
僕は急いで夢希を病室に連れて行った。
「ほら急いで!走っちゃダメ!」
「どっちよー!」
一緒に早歩きで病室に戻った。
「どうかしたの?」
僕は深呼吸をした。
「落ち着いて聞いて。君の持明はあと1時間だ。」
夢希はしばらく黙ってすぐに理解した。
「わかった。ゆっくり話したかったんだけど、今から話すね。」
残り時間は45分。
夢希が口を開く。
「死神さんと出会って2日目の時、助けてくれた男の子の話したよね?
その子の名前はね、冬里神也。」
胸がドキッとした。どこかで聞いた事のある名前。誰だったっけ。
「死神さん、貴方の名前は?」
突然過去の記憶が頭の中で広がった。
保育園の卒園式。小学生の入学式。
初めての掛け算。公園に集合して遊んだ日。そして、虐められている子を助けた。
僕はその時、その子の事が好きだった。
ずっと目で追っていた。そのひまわりのような笑顔。どこかで見たような、
頭の中で夢希の顔が浮かんだ。
そうだ。全部思い出した。
「僕の名前は、冬里神也。」
「やっぱり…か…」
そう言って夢希は笑いながら泣いていた。
突然僕の体が青く光った。
「うっ……」
「神也?どうしたの!?」
僕の体は人間だった頃の見た目に戻った。
もちろん触れる事は出来ない。
「神也……」
「なに?夢希。」
「あの時は助けてくれてありがとう…」
夢希は歯を食いしばって泣きながら言った。そして続けた。
「私ね、あの時から神也の事好きだったんだ。」
夢希が笑顔で言った。
「僕はその前から好きだったよ。」
僕の目にも涙が滲んだ。
「私ずっと神也だって気づいてたんだよ?すごいでしょ?」
ふふっと笑いながら夢希が言う。
「ずっと記憶、失っててごめん。」
「仕方ないよ、気にしてない。」
優しくされると余計に涙が出てくる。
「もう時期時間だね。ねぇ神也?私の最後のお願い聞いてくれる?」
「もちろんだよ。」
「一緒に天国に行こう。そして今度生まれ変わったら、私を貴方のお嫁さんにしてください。」
僕は泣きじゃくりながら頷いた。
「眠くなってきちゃった…そろそろこの世にさよならかな…神也、一緒に行こう。」

そう言って僕達は手を繋いで二人で消えていった。
空に登る2人の姿はまるで、死神と天使のようで、美しく、残酷だった。
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みんなの感想(1件)

黒猫
2021.06.08 黒猫

二日目のお話、「…体に以上がない時は」ではなく、「…体に異常がない時は」だと思います!

解除

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