上官は秘密の旦那様。〜家族に虐げられた令嬢はこの契約結婚で幸せになる〜

見丘ユタ

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1章

17.若き彼の慟哭

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【ジークフリート視点】





 まさか。

 若き日のジークフリートは、その光景に呆然と佇んだ。

 部屋の中央に転がるそれは、彼の知る彼女とはあまりにかけ離れていた。彼女ではない、そう思いたかった。

『ウソ……だろ……ブリジッタ……!』

 力なく歩み寄り、頬を撫でる。

 上品に笑う口元はだらしなく開かれ、幾筋もの赤い液体が流れている。深い海のような青い瞳は閉じる力さえ失われたのか、暗闇を鈍く映していた。

 柔らかい栗色の髪はおびただしい量の液体にまみれ、胸元には無数のナイフが刺さっている。

 ウソだ。そんなはずが。

 抱き上げようと肩に手を当てたその時、ころりと何かが転がった。

 彼女の、もう握られることのない手のひらから落ちたそれを凝視する。

 ……知っている。覚えている。俺はコレを。だからか。だから彼女を──。

『……ぁ……あ……! ああああああああ!!!』

 ひとつの可能性に行き着いた彼は、押し寄せる悲しみと後悔を吐き出すように叫び続けた。
 指の先が真っ白になるほど握りしめながら。

 ──穏やかな元婚約者は、凄惨な最期を迎えた。
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