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1章
7.初任務成功?
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どしん、という音が響く。周囲は歓声に沸いた。
服についた砂ほこりを払うジークフリートを、ぼうっと見つめるアルティーティの足に、こつん、と何かがあたる。
盗品かもしれない、と拾い上げてまじまじとそれを見つめた。ネックレスだ。羽を閉じた蝶のモチーフだが、赤黒く毒々しい。
吹っ飛んだ瞬間にひったくりのポケットから落ちたのか。あとでジークフリートに渡そう、と懐にしまった。
(それにしても……)
あたりを見回したアルティーティは呆気に取られていた。
ジークフリートは男性にしては小柄な方で、そこまで筋骨隆々とした体格ではない。
しかし、一部隊の隊長を任命されているのだから、それなりに実力はあるのだろう、とついさっきまで彼女は思っていた。
そんな自分を彼女は恥じた。
それなりに、ではなく確実に、ジークフリートは強い。
大抵の騎士は一つの武器を極める。多くの騎士は剣を極めるが、アルティーティの場合は弓だ。
対するジークフリートはいつも腰に一振りの剣を挿していたため、彼女は彼をよくいる騎士のひとりだと思っていた。
しかし、この短時間で巨漢ふたりを丸腰で打ち倒したとなると、体術にも長けているのだろう。
ようやく追いついた使用人や衛兵に、ひったくりを引き渡し、てきぱきと事後処理をするジークフリートの背を見つめた。自分とそんなに変わらないはずなのに、なぜかその背中が大きく見える。
(さすが隊長……)
感心すると同時にやはり疑問が浮かんできてしまう。
なぜこんな立派な人が自分のような女と契約結婚なんてしようと思ったのだろう、と。
考えても仕方のないことだが気になってしようがない。
歓声の中、アルティーティは首をひねった。
「あ、あのっ!」
頬に手を当て思案していると、女性から声をかけられた。
先程の子供の母親だろう。彼女にぴったりとくっついた子供は、まだ怯えがあるのか隠れながらじっとこちらを見ていた。
「ありがとうございました! あなたがいなかったらどうなっていたことか……」
「あ、そんな。わたしなにもやってませんし……」
(結局やっつけたの、隊長だし……)
彼らを無力化させたのはジークフリートだ。アルティーティができたことといえば、せいぜい足止めをした程度。感謝されるほどの活躍ではない。
戸惑うアルティーティに、母親は首を大きく振った。
「いえ、あなたが靴を投げて気を引いてくれたおかげでこの子は助かりました! ほら、エーミール。あなたもお礼を言いなさい」
「……おねえたん、ありあと」
母親に促された子供は、小さい声で礼を言うと、彼女の背後に完全に隠れてしまった。したったらずのお礼に思わず笑みがこぼれる。
何度も振り返りながら頭を下げ、去っていく彼らを手を振って見送った。
(感謝されるのってはじめて……もしかしてこれって任務成功ってやつ?)
アルティーティは手を振りながらそんなことを思う。ドレスを着た時の高揚感とはまた違った嬉しさだ。達成感というやつだろうか。
「大丈夫か」
親子の背が見えなくなったところで、ジークフリートが声をかけてきた。事後処理が終わったらしい。
彼女の顔を見た彼は、もう一度「……大丈夫か?」と言った。心配してくれている、と思いきや不審者にかけるような声色だ。
「は、はい。怪我はなく……」
「そうじゃなくて。顔だ。なんでそんなニヤニヤしている」
言われてやっと気がついた。どうやらお礼を言われてから今までずっとニヤけていたらしい。
『怪我はないか?』という意味より、『お前、顔どうした?』というニュアンスだったと気づき、アルティーティはムッとしながらも彼の方に向き直った。
服についた砂ほこりを払うジークフリートを、ぼうっと見つめるアルティーティの足に、こつん、と何かがあたる。
盗品かもしれない、と拾い上げてまじまじとそれを見つめた。ネックレスだ。羽を閉じた蝶のモチーフだが、赤黒く毒々しい。
吹っ飛んだ瞬間にひったくりのポケットから落ちたのか。あとでジークフリートに渡そう、と懐にしまった。
(それにしても……)
あたりを見回したアルティーティは呆気に取られていた。
ジークフリートは男性にしては小柄な方で、そこまで筋骨隆々とした体格ではない。
しかし、一部隊の隊長を任命されているのだから、それなりに実力はあるのだろう、とついさっきまで彼女は思っていた。
そんな自分を彼女は恥じた。
それなりに、ではなく確実に、ジークフリートは強い。
大抵の騎士は一つの武器を極める。多くの騎士は剣を極めるが、アルティーティの場合は弓だ。
対するジークフリートはいつも腰に一振りの剣を挿していたため、彼女は彼をよくいる騎士のひとりだと思っていた。
しかし、この短時間で巨漢ふたりを丸腰で打ち倒したとなると、体術にも長けているのだろう。
ようやく追いついた使用人や衛兵に、ひったくりを引き渡し、てきぱきと事後処理をするジークフリートの背を見つめた。自分とそんなに変わらないはずなのに、なぜかその背中が大きく見える。
(さすが隊長……)
感心すると同時にやはり疑問が浮かんできてしまう。
なぜこんな立派な人が自分のような女と契約結婚なんてしようと思ったのだろう、と。
考えても仕方のないことだが気になってしようがない。
歓声の中、アルティーティは首をひねった。
「あ、あのっ!」
頬に手を当て思案していると、女性から声をかけられた。
先程の子供の母親だろう。彼女にぴったりとくっついた子供は、まだ怯えがあるのか隠れながらじっとこちらを見ていた。
「ありがとうございました! あなたがいなかったらどうなっていたことか……」
「あ、そんな。わたしなにもやってませんし……」
(結局やっつけたの、隊長だし……)
彼らを無力化させたのはジークフリートだ。アルティーティができたことといえば、せいぜい足止めをした程度。感謝されるほどの活躍ではない。
戸惑うアルティーティに、母親は首を大きく振った。
「いえ、あなたが靴を投げて気を引いてくれたおかげでこの子は助かりました! ほら、エーミール。あなたもお礼を言いなさい」
「……おねえたん、ありあと」
母親に促された子供は、小さい声で礼を言うと、彼女の背後に完全に隠れてしまった。したったらずのお礼に思わず笑みがこぼれる。
何度も振り返りながら頭を下げ、去っていく彼らを手を振って見送った。
(感謝されるのってはじめて……もしかしてこれって任務成功ってやつ?)
アルティーティは手を振りながらそんなことを思う。ドレスを着た時の高揚感とはまた違った嬉しさだ。達成感というやつだろうか。
「大丈夫か」
親子の背が見えなくなったところで、ジークフリートが声をかけてきた。事後処理が終わったらしい。
彼女の顔を見た彼は、もう一度「……大丈夫か?」と言った。心配してくれている、と思いきや不審者にかけるような声色だ。
「は、はい。怪我はなく……」
「そうじゃなくて。顔だ。なんでそんなニヤニヤしている」
言われてやっと気がついた。どうやらお礼を言われてから今までずっとニヤけていたらしい。
『怪我はないか?』という意味より、『お前、顔どうした?』というニュアンスだったと気づき、アルティーティはムッとしながらも彼の方に向き直った。
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