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5.ヒロイン・シルビア
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そうして迎えた終わりの始まり、学園に入学したが、まだテリーとの婚約は解消できていなかった。
それまで思いつく限りの嫌がらせをしまくったのだが、何故か全て良いように取られてしまう。解せぬ。
もうこうなったらシルビアに嫌がらせを一切しない、それどころか存在すら認識させなければ良いんじゃないか、と思っていたのだが──。
「はーい、それでは二人組作ってくださーい」
教師がパン、とひとつ手を叩いた。
異世界にもあったのか、普段ぼっちの子が余り物で先生とペアにされたり、初めて会話するような人と組まされたり、普段仲良し三人組が一人だけハブにされたりする誰も得しないこの強制鬱イベント。
「コーデリア様、私とペアになっていただけませんか?」
「いいえ、私と」
「コーデリア様と身長が同じくらいの私の方が」
「いいえ、家が近い私が」
貴族令嬢たちがわらわらと寄ってきて揉みくちゃにされる。
こう見えて私は友人や知り合いが多い方だ。
中にはテリーと婚約しているから、未来の王妃に少しでも覚えを良くしておこうという令嬢もいるかもしれないが。
……断罪イベントの時に誰も庇ってくれなかったのを見た感じ、十中八九そうなんだろうけど。
令嬢たちを宥めながら、ふとシルビアの方を見ると彼女は一人窓際で俯いていた。
ううう、居たたまれない……。
私も転校したことあるからわかる。既に仲がいい人が決まっているコミュニティに放り込まれた珍獣のような気持ち。
特にシルビアは入学直前まで平民だった人間だ。
マイケルの時同様に、成り上がりに差別意識がある貴族もいなくはない。何を隠そう、本来のコーデリアもそうだし。
私は令嬢たちに詫びると、シルビアの前に立った。
立ってみたは良いものの、どう声をかけようか。
下手に誘って虐められた、となっても困る。追放がちらつく。
「あの……良かったら私と組んでいただけませんか?」
迷った挙句、無難な声掛けにした私に、驚き顔を上げたシルビアは頬を染めて破顔した。
講義が終わり、次の講義の準備をしていると、シルビアが声をかけてきた。
「あの……少しよろしいですか、コーデリア様」
え、なにコレ。体育館裏イベントとかなかったよ?
もしかしてさっきの授業でやらかした? あーやっぱり声かけるべきじゃなかったのよ。
内心後悔しまくりの私が涼しい顔で頷くと、シルビアは可愛らしく上目遣いで「私にお行儀を教えていただけませんか……?」と頼んできたのだった。
私は悩み、返事を渋り……などしなかった。即答でオーケーした。
だってシルビアが可愛かったんですもの。
それに、よくよく考えたらコーデリアが虐めなくても他の令嬢が虐めるかもしれない。
それを「コーデリア様にやれって言われたから」なんて罪を擦りつけてこられたら……などと考えると、このまま一人ぼっちにさせておくのもよろしくないだろう。
り、理由はシルビアが可愛いだけじゃないんだからねっ!
私は放課後の空いた時間に、特訓と称して時に厳しく、時に優しく教えた。
シルビアの頭がいいせいか、それとも私の教え方がいいせいか、一年もするとシルビアはどこに出しても恥ずかしくない、完璧なレディに進化した。
学園の二年生になり、シルビアとクラスが離れてしまってからも特訓は続いたのだが……。
ある日、特訓中にシルビアが怪我をした。
普段より高いヒールを履いて、足を挫いてしまったのだ。
彼女に無理をさせてしまった、と即座に謝ったのだが、それ以来シルビアがなんだかよそよそしい。
それどころか、テリーと急接近しているようで、特訓を断ってくることも増えた。
テリーもなんだかうわの空でいることが増えてきたように思えた。
まずい。着実にフラグが立っている。テリーが恋しちゃってる。
どうするどうする。でも同じクラスならまだしも、彼らは別のクラス。そこで愛を育まれたら終わり。
もう策が……ない。
私は半ば茫然としたまま、卒業パーティーの日を迎えたのだった。
それまで思いつく限りの嫌がらせをしまくったのだが、何故か全て良いように取られてしまう。解せぬ。
もうこうなったらシルビアに嫌がらせを一切しない、それどころか存在すら認識させなければ良いんじゃないか、と思っていたのだが──。
「はーい、それでは二人組作ってくださーい」
教師がパン、とひとつ手を叩いた。
異世界にもあったのか、普段ぼっちの子が余り物で先生とペアにされたり、初めて会話するような人と組まされたり、普段仲良し三人組が一人だけハブにされたりする誰も得しないこの強制鬱イベント。
「コーデリア様、私とペアになっていただけませんか?」
「いいえ、私と」
「コーデリア様と身長が同じくらいの私の方が」
「いいえ、家が近い私が」
貴族令嬢たちがわらわらと寄ってきて揉みくちゃにされる。
こう見えて私は友人や知り合いが多い方だ。
中にはテリーと婚約しているから、未来の王妃に少しでも覚えを良くしておこうという令嬢もいるかもしれないが。
……断罪イベントの時に誰も庇ってくれなかったのを見た感じ、十中八九そうなんだろうけど。
令嬢たちを宥めながら、ふとシルビアの方を見ると彼女は一人窓際で俯いていた。
ううう、居たたまれない……。
私も転校したことあるからわかる。既に仲がいい人が決まっているコミュニティに放り込まれた珍獣のような気持ち。
特にシルビアは入学直前まで平民だった人間だ。
マイケルの時同様に、成り上がりに差別意識がある貴族もいなくはない。何を隠そう、本来のコーデリアもそうだし。
私は令嬢たちに詫びると、シルビアの前に立った。
立ってみたは良いものの、どう声をかけようか。
下手に誘って虐められた、となっても困る。追放がちらつく。
「あの……良かったら私と組んでいただけませんか?」
迷った挙句、無難な声掛けにした私に、驚き顔を上げたシルビアは頬を染めて破顔した。
講義が終わり、次の講義の準備をしていると、シルビアが声をかけてきた。
「あの……少しよろしいですか、コーデリア様」
え、なにコレ。体育館裏イベントとかなかったよ?
もしかしてさっきの授業でやらかした? あーやっぱり声かけるべきじゃなかったのよ。
内心後悔しまくりの私が涼しい顔で頷くと、シルビアは可愛らしく上目遣いで「私にお行儀を教えていただけませんか……?」と頼んできたのだった。
私は悩み、返事を渋り……などしなかった。即答でオーケーした。
だってシルビアが可愛かったんですもの。
それに、よくよく考えたらコーデリアが虐めなくても他の令嬢が虐めるかもしれない。
それを「コーデリア様にやれって言われたから」なんて罪を擦りつけてこられたら……などと考えると、このまま一人ぼっちにさせておくのもよろしくないだろう。
り、理由はシルビアが可愛いだけじゃないんだからねっ!
私は放課後の空いた時間に、特訓と称して時に厳しく、時に優しく教えた。
シルビアの頭がいいせいか、それとも私の教え方がいいせいか、一年もするとシルビアはどこに出しても恥ずかしくない、完璧なレディに進化した。
学園の二年生になり、シルビアとクラスが離れてしまってからも特訓は続いたのだが……。
ある日、特訓中にシルビアが怪我をした。
普段より高いヒールを履いて、足を挫いてしまったのだ。
彼女に無理をさせてしまった、と即座に謝ったのだが、それ以来シルビアがなんだかよそよそしい。
それどころか、テリーと急接近しているようで、特訓を断ってくることも増えた。
テリーもなんだかうわの空でいることが増えてきたように思えた。
まずい。着実にフラグが立っている。テリーが恋しちゃってる。
どうするどうする。でも同じクラスならまだしも、彼らは別のクラス。そこで愛を育まれたら終わり。
もう策が……ない。
私は半ば茫然としたまま、卒業パーティーの日を迎えたのだった。
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