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4章.妹君と辺境伯は揺れ動く
114.お姉様は画策する①
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「それでは、行ってくる」
「留守は任せよ」
ユリウスはエルと挨拶を交わすと馬車に乗った。
ハイベルク家との食事会に出発するためだ。
リデル家の一件があってから、隣国との諍いは大幅に減少したものの、まだ情勢は不安定だ。
食事会に出かけている間、辺境伯がいないというのもまずいため、代理としてエルがその役を買って出てくれた。
とはいえ、領地経営はからっきしな彼女が行うのは軍事的な部分のみになるので、出番があるかは定かではないのだが。
当のエルは屋敷に滞在中は、ザシャの食衝動を抑える呪術具を開発するつもりらしい。
出発直前まで水を得た魚のように彼の身体をいじり倒していた。
(……完成すればザシャにとってもいい話だが、それまでが苦労しそうだな)
内心苦笑しながら窓の外を見ていると、リーゼロッテが言いにくそうに口を開いた。
「あの……行き先は王都の屋敷なのですよね?」
「ああ、そうだ」
「そうですか……」
どこか考え込むような彼女の顔をユリウスは覗き込んだ。
「何か気になることでもあったか?」
問われてリーゼロッテはぎくり、とした。
王都の屋敷には夢で出てきた硝子貼りの温室がある。
父以外、何人たりとも入室禁止にされたそこは、今思えば不穏な場所だった。
それはもう、幼いディートリンデが出てくるには不釣り合いなほどに。
今からそこに入るわけではないのだが、そこに近づく可能性を考えるとぞわり、とした悪寒が走る。
夢の話はまだ彼にはしていない。
なんとなくだが、暗示めいた夢の話など彼を心配させるだけなのではないかと、リーゼロッテは踏ん切りがつかなかった。
「い、いえ……その、領地の方ならもしかしたら少しご案内できるかと思ったのですが……王都はユリウス様もご存知ですよね」
「それなりに、な。しかしここ数年は領地にかかりきりだったからな。最近のことはめっきり分からない」
「そうなのですね」
なんとか誤魔化せた、とほっとしたリーゼロッテは何度も頷いた。
「ああ、時間が空いたら少し王都の様子も見てみたい」
「分かりました。お気をつけて」
まるでお留守番はお任せを、とばかり微笑んだ彼女に、ユリウスは首を傾げた。
「何を言っている。リーゼも来るのだろう?」
当然の如く言い放つ彼に、リーゼロッテは戸惑った。
「よ、よろしいのですか……?」
「ああ。もちろん御父上様の許可は必要だが」
頷く彼に、彼女は顔を綻ばせる。
その嬉しそうな表情に彼は、
(落ち着いたら二人で何処かへ旅行に行くのもいいな……ハイベルク領もいつか一緒に行ってみたいものだ……)
と、この先の未来に思いを馳せた。
「留守は任せよ」
ユリウスはエルと挨拶を交わすと馬車に乗った。
ハイベルク家との食事会に出発するためだ。
リデル家の一件があってから、隣国との諍いは大幅に減少したものの、まだ情勢は不安定だ。
食事会に出かけている間、辺境伯がいないというのもまずいため、代理としてエルがその役を買って出てくれた。
とはいえ、領地経営はからっきしな彼女が行うのは軍事的な部分のみになるので、出番があるかは定かではないのだが。
当のエルは屋敷に滞在中は、ザシャの食衝動を抑える呪術具を開発するつもりらしい。
出発直前まで水を得た魚のように彼の身体をいじり倒していた。
(……完成すればザシャにとってもいい話だが、それまでが苦労しそうだな)
内心苦笑しながら窓の外を見ていると、リーゼロッテが言いにくそうに口を開いた。
「あの……行き先は王都の屋敷なのですよね?」
「ああ、そうだ」
「そうですか……」
どこか考え込むような彼女の顔をユリウスは覗き込んだ。
「何か気になることでもあったか?」
問われてリーゼロッテはぎくり、とした。
王都の屋敷には夢で出てきた硝子貼りの温室がある。
父以外、何人たりとも入室禁止にされたそこは、今思えば不穏な場所だった。
それはもう、幼いディートリンデが出てくるには不釣り合いなほどに。
今からそこに入るわけではないのだが、そこに近づく可能性を考えるとぞわり、とした悪寒が走る。
夢の話はまだ彼にはしていない。
なんとなくだが、暗示めいた夢の話など彼を心配させるだけなのではないかと、リーゼロッテは踏ん切りがつかなかった。
「い、いえ……その、領地の方ならもしかしたら少しご案内できるかと思ったのですが……王都はユリウス様もご存知ですよね」
「それなりに、な。しかしここ数年は領地にかかりきりだったからな。最近のことはめっきり分からない」
「そうなのですね」
なんとか誤魔化せた、とほっとしたリーゼロッテは何度も頷いた。
「ああ、時間が空いたら少し王都の様子も見てみたい」
「分かりました。お気をつけて」
まるでお留守番はお任せを、とばかり微笑んだ彼女に、ユリウスは首を傾げた。
「何を言っている。リーゼも来るのだろう?」
当然の如く言い放つ彼に、リーゼロッテは戸惑った。
「よ、よろしいのですか……?」
「ああ。もちろん御父上様の許可は必要だが」
頷く彼に、彼女は顔を綻ばせる。
その嬉しそうな表情に彼は、
(落ち着いたら二人で何処かへ旅行に行くのもいいな……ハイベルク領もいつか一緒に行ってみたいものだ……)
と、この先の未来に思いを馳せた。
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