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3章.妹君と少年伯は通じ合う
102.少年伯は事後処理に追われていた②
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「……ボニファーツ・リデルは……」
「どうなると思う?」
食い気味に聞き返したテオはやや挑戦的な視線を向けた。
しかし、考え込むようなそぶりを見せたユリウスはその視線に気付かない。
「おそらく、奴も父親の悪事の一部を加担していた、そしてそれを認めているか父親に証言されているのではなかろうか。さらにリーゼへの暴行や従者への殺人。本当なら国外追放あたりが適当だろうが……」
ユリウスは渋い顔を作る。
何十万、何百万という人間に影響が出た父親の悪事と違い、ボニファーツの場合は凶悪さも桁違いにしょぼくれたものだ。
しかしユリウスの心情は、リーゼロッテに手を出そうとした彼の方がより重罪に思えてならない。
こういうことは私情を挟むべきではないな、と彼はテオを真正面から見据えた。
「取引をしたのだろう?」
「あ、バレた?」
あっさりと認めた彼をユリウスは複雑な思いで見つめる。
「伯爵……もう元伯爵か。居場所を手っ取り早く知るって点ではあの場じゃあれが最善だったからね。グズグズしてたら逃げられてたかもしれないし」
「……取引込みで考えるなら鉱山あたりで強制労働が妥当なところか」
ため息混じりに答えたユリウスに、テオは首を傾けた。
こきり、と骨の鳴る音が聞こえる。
「半分当たり、かな。強制労働は合ってるけど、行き先は海越えた先の極北だよ」
「……それは……」
息を呑むユリウスをテオは静かに見つめた。
極北は年の半分を雪や氷で閉ざされた極寒の孤島だ。
住人は居るものの、その閉鎖的な地理的特徴からか同じ国内であっても余所者には厳しい。
加えて、ほぼ別言語並みに方言がきついため、コミュニケーションが非常に取りづらい。
いくら強制労働といえど、そんな地にあの成金二世を送るなど死ねと言っているようなものだ。
「うん、まあちょっとやりすぎ感は否めないけど『辺境伯が痛くお怒りだ』ということでそういうことになったんだよねぇ……。ま、命あってのものだねだからね。人も住んでる地域なんだからなんとかしようと思えばなんとかなるでしょ」
テオはあまり反省していない様子で肩をすくめた。
「……私の気持ちを推し量るよりリーゼに謝罪してもらいたかったんだがな」
「気持ちはわかるけど、あんな目に遭ってるからね。引き合わせるのも気が引けるよ」
平然と言い放つテオの瞳に、若干の怒りが宿るのをユリウスは見た。
彼の言葉は半分は嘘だろう。
辺境伯がいかにこの国で英雄視されていようが、怒っているというだけで法を曲げられるわけがない。
大方、テオが刑を重くするよう暗躍したというところだろう。
案外、時の聖女たるリーゼロッテに危害を加えた事を、テオは誰よりも憤慨しているのかもしれないとユリウスは思った。
テオは「あ、そうそう」と今思い出したかのように懐から何かを取り出し、指で弾いた。
指弾のように、しかし弧を描いてユリウスの手に収まったそれは、何重にも折りたたんだ小さな紙のようだ。
「僕らが踏み込む前に彼が彼女に書かせた魔法紙らしい。あのなんて言ったかな、ロルフ君のお兄さんの……」
「ザシャか」
「そうそのザシャ君が拾ってたのを預かってたんだよね。なんで僕に預けたのかは知らないけど」
テオは意味ありげにユリウスを見つめる。
小さな苦笑いが漏れた。
「一応、変な魔力とか契約とかないかこっちでも調べてはみたけど、書かれてる以外のことは何も出なかったよ。落ち着いたら彼女に魔力を解除してもらおうかと思ってたんだけど、こんな遅くなっちゃった」
ごめんね、と付け加えた彼に、ユリウスは首を振る。
今回、事が隣国まで及んだ結果、テオは後始末だけでなく口裏合わせやその他諸々に追われていた。
ここまで働いているのにもかかわらず、彼自身の功績とはならず全てユリウスの功績として書き換えられる。
報告書にもテオドールという文字は一個たりとも出てこない。
それもこれも彼の目的のためには必要な事なのだそうだが、肝心の目的をユリウスは聞かされていなかった。
聞いたところではぐらかされることは目に見えている。
それに、今回のことで今まで無関心だった王太子の目が、少しでも辺境に向くのならそれはそれでいいだろう。
利用されているにしても、彼はユリウスが不利になるような利用の仕方はしない。
それが分かっているからこそ、彼は何も聞かなかった。
「君から渡してもらえる?」
「分かった。わざわざすまない」
魔法紙を懐に入れたのを確認したテオは、ソファから身を乗り出した。
思案顔を作ってはいるが、その奥に愉しげな表情が隠されているのをユリウスは知っている。
「しかし、僕にはひとつ分からないことがあるんだ」
テオはそう切り出すとユリウスを見つめた。
「どうなると思う?」
食い気味に聞き返したテオはやや挑戦的な視線を向けた。
しかし、考え込むようなそぶりを見せたユリウスはその視線に気付かない。
「おそらく、奴も父親の悪事の一部を加担していた、そしてそれを認めているか父親に証言されているのではなかろうか。さらにリーゼへの暴行や従者への殺人。本当なら国外追放あたりが適当だろうが……」
ユリウスは渋い顔を作る。
何十万、何百万という人間に影響が出た父親の悪事と違い、ボニファーツの場合は凶悪さも桁違いにしょぼくれたものだ。
しかしユリウスの心情は、リーゼロッテに手を出そうとした彼の方がより重罪に思えてならない。
こういうことは私情を挟むべきではないな、と彼はテオを真正面から見据えた。
「取引をしたのだろう?」
「あ、バレた?」
あっさりと認めた彼をユリウスは複雑な思いで見つめる。
「伯爵……もう元伯爵か。居場所を手っ取り早く知るって点ではあの場じゃあれが最善だったからね。グズグズしてたら逃げられてたかもしれないし」
「……取引込みで考えるなら鉱山あたりで強制労働が妥当なところか」
ため息混じりに答えたユリウスに、テオは首を傾けた。
こきり、と骨の鳴る音が聞こえる。
「半分当たり、かな。強制労働は合ってるけど、行き先は海越えた先の極北だよ」
「……それは……」
息を呑むユリウスをテオは静かに見つめた。
極北は年の半分を雪や氷で閉ざされた極寒の孤島だ。
住人は居るものの、その閉鎖的な地理的特徴からか同じ国内であっても余所者には厳しい。
加えて、ほぼ別言語並みに方言がきついため、コミュニケーションが非常に取りづらい。
いくら強制労働といえど、そんな地にあの成金二世を送るなど死ねと言っているようなものだ。
「うん、まあちょっとやりすぎ感は否めないけど『辺境伯が痛くお怒りだ』ということでそういうことになったんだよねぇ……。ま、命あってのものだねだからね。人も住んでる地域なんだからなんとかしようと思えばなんとかなるでしょ」
テオはあまり反省していない様子で肩をすくめた。
「……私の気持ちを推し量るよりリーゼに謝罪してもらいたかったんだがな」
「気持ちはわかるけど、あんな目に遭ってるからね。引き合わせるのも気が引けるよ」
平然と言い放つテオの瞳に、若干の怒りが宿るのをユリウスは見た。
彼の言葉は半分は嘘だろう。
辺境伯がいかにこの国で英雄視されていようが、怒っているというだけで法を曲げられるわけがない。
大方、テオが刑を重くするよう暗躍したというところだろう。
案外、時の聖女たるリーゼロッテに危害を加えた事を、テオは誰よりも憤慨しているのかもしれないとユリウスは思った。
テオは「あ、そうそう」と今思い出したかのように懐から何かを取り出し、指で弾いた。
指弾のように、しかし弧を描いてユリウスの手に収まったそれは、何重にも折りたたんだ小さな紙のようだ。
「僕らが踏み込む前に彼が彼女に書かせた魔法紙らしい。あのなんて言ったかな、ロルフ君のお兄さんの……」
「ザシャか」
「そうそのザシャ君が拾ってたのを預かってたんだよね。なんで僕に預けたのかは知らないけど」
テオは意味ありげにユリウスを見つめる。
小さな苦笑いが漏れた。
「一応、変な魔力とか契約とかないかこっちでも調べてはみたけど、書かれてる以外のことは何も出なかったよ。落ち着いたら彼女に魔力を解除してもらおうかと思ってたんだけど、こんな遅くなっちゃった」
ごめんね、と付け加えた彼に、ユリウスは首を振る。
今回、事が隣国まで及んだ結果、テオは後始末だけでなく口裏合わせやその他諸々に追われていた。
ここまで働いているのにもかかわらず、彼自身の功績とはならず全てユリウスの功績として書き換えられる。
報告書にもテオドールという文字は一個たりとも出てこない。
それもこれも彼の目的のためには必要な事なのだそうだが、肝心の目的をユリウスは聞かされていなかった。
聞いたところではぐらかされることは目に見えている。
それに、今回のことで今まで無関心だった王太子の目が、少しでも辺境に向くのならそれはそれでいいだろう。
利用されているにしても、彼はユリウスが不利になるような利用の仕方はしない。
それが分かっているからこそ、彼は何も聞かなかった。
「君から渡してもらえる?」
「分かった。わざわざすまない」
魔法紙を懐に入れたのを確認したテオは、ソファから身を乗り出した。
思案顔を作ってはいるが、その奥に愉しげな表情が隠されているのをユリウスは知っている。
「しかし、僕にはひとつ分からないことがあるんだ」
テオはそう切り出すとユリウスを見つめた。
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